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劉邦、転生したら劉備だった件  作者: レイン
第一章 黄巾の乱

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第十一話 黄色い布

第十一話 黄色い布


 昼過ぎ。


「痛っ」


 頭に手をやると、指先に赤いものがついた。


 街道脇では、壊れた荷車を義勇兵たちが起こしている。


 今日は戦ではなく、黄巾に荒らされた街道の修繕だった。


「兄者、動くな」


 関羽が額を見る。


「少し切れている」


「さっき、荷台から外した板が滑り落ちてきたんじゃ」


「見てたぜ」


 張飛が横から言った。


「見とったなら言え!」


「まさかアニキが真下に入るとは思わねぇだろ」


「ワシも落ちてくるとは思わんかったわ」


 血は大した量ではない。


 だが、そのままというわけにもいかず、荷物を漁った。


「布、布……」


「あったぞ」


 義勇兵の一人が布を差し出してくる。


「これしかないけど」


「何でもええ」


 受け取り、額へ巻く。


 少しきつい。


 結び目を直していると、周囲が妙に静かになった。


「なんじゃ」


 誰も答えない。


 張飛が口元を押さえている。


「……何じゃ、その顔」


「アニキ」


「うむ」


「それ、黄色いぞ」


「…………」


 額の布を摘まむ。


 確かに黄色い。


 関羽もこちらを見ていた。


「兄者」


「分かっとる」


「変えた方がよいかと」


「今外す」


 布へ手をかけた、その時だった。


「そこの者たち、止まれ!」


 街道の向こうから声が飛んだ。


 十人ほどの官兵が足を止め、こちらを警戒している。


 先頭の兵の視線が額へ向いた。


「その黄色い布は何だ」


「怪我したから巻いただけじゃ」


「武器から手を離せ」


 腰の剣から手を離す。


 関羽も青龍偃月刀を地面へ置き、張飛も蛇矛を下ろした。


「ワシらは鄒靖殿のところの義勇兵じゃ」


「確認する。その場を動くな」


「うむ」


 額から黄色い布を外した。


     ◇


 官兵たちは荷車と義勇兵たちを順番に確認していった。


 一人が旗の前で足を止める。


「この旗は?」


「ワシらのじゃ」


 しばらく眺め、


「黄巾のものではないな」


「だから言ったじゃろ」


 別の兵が近づいてくる。


「名前は?」


「劉備玄徳」


 僅かに眉が動いた。


「劉備……聞いた名だな」


 隣の兵が顔を上げる。


「洛陽の件じゃないか」


「……そっちは覚えとるんか」


「鄒靖殿の預かりになっている男だろう」


「そこまで知っとるなら話が早い」


「確認は取れた。問題ない」


 官兵が手にした黄色い布を見る。


「ただ、今の時期にそれは紛らわしい」


「身に染みたわ」


 布を義勇兵へ返す。


「次から白いのを頼む」


「すまん」


「いや、お主は悪くない」


 一度考える。


「多分」


     ◇


「鄒靖殿のところへ戻るなら、伝えてほしいことがある」


 官兵の一人が街道の先を見た。


「なんじゃ」


「東の村々で黄巾の動きが増えている」


 関羽が顔を上げる。


「数は?」


「分からん。ただ、小さな集団がいくつも同じ方向へ向かっている」


「集まり始めとるのか」


「その可能性がある」


 地図が広げられる。


 指されたのは北東。


「昨日から何度も目撃されている。こちらも確認へ向かうところだ」


「なるほど」


 額を撫でる。


「それで黄色い布を見て止めたんじゃな」


「ああ」


「……なら仕方ないか」


 張飛がこちらを見る。


「アニキが素直だ」


「何じゃ」


「いや、別に」


「翼徳」


「何も言ってねぇって」


 関羽が地図から目を上げた。


「兄者。戻って報告しよう」


「うむ」


     ◇


 夕方。


 鄒靖は報告を最後まで聞くと、しばらく黙っていた。


「……道を直しに行っただけだったな?」


「そのはずじゃった」


「なぜ黄巾と疑われて帰ってくる」


「怪我したところへ黄色い布を渡されたんじゃ」


「そして巻いた」


「血が出とったからのう」


 鄒靖は額を押さえた。


「次から紛らわしい真似はするな」


「善処する」


「…………」


「……まあ、いい。それより」


 地図が広げられる。


「北東へ黄巾が集まっているという話だな」


「そうじゃ」


「こちらにも似た報告が来ている」


 指先が街道をなぞる。


「一つ二つではない。いくつかの集団が同じ方角へ向かっている」


「何かあるか」


「まだ分からん」


 地図を見下ろしたまま、


「だが、偶然ではないだろう」


「じゃろうな」


「今日は休め」


「珍しいのう」


「明日は忙しくなるかもしれん」


「分かった」


 踵を返す。


「劉備」


「なんじゃ」


「明日は黄色い布を巻くな」


 足を止める。


「……もう持たん」


     ◇


 外へ出る。


 関羽と張飛が続いた。


「兄者」


「なんじゃ」


「白い布なら、私が持っておこう」


「最初からそうしてくれ」


 三人で夕暮れの街道を戻っていった。







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