97、子爵再び!?
解体場は大混乱に陥っていた。
至る所から興奮と絶叫が入り混じった雄叫びが聞こえる中、一緒に解体場に来てくれたメルツェナさんと『黒金の雷雨』のみんなはそれぞれ頭を抱えている。
その理由は単純で、担当の職員に「解体して欲しい魔獣を全部出してくれ」って言われたあたしが本当に全ての魔獣をアイテムボックスから吐き出させたからだ。
風角鹿以降に倒した魔獣の数は数え切れない。
森での大乱獲から始まり、メルツェナさんの一方的な戦闘による魔獣の群れの退治、そして、あたしの実力不足で倒してしまった3体のワイバーンを帰り道で回収し、その道中でも襲ってきた魔獣を返り討ちにしたりと、もう誰がどれだけ倒したのかが分からないのだ。
まぁ、そのおかげでかなりレベルアップしたから、ポイントを振るのが楽しみだけど。
流石に解体場を埋め尽くすまではいかなかったけど、まぁ……それに準じるくらいの量だ。
小中大とそれぞれのサイズの魔獣がよりどりみどり、必要以上に傷も無く、死後の腐敗も見受けられない。
まるで今しがた狩られたのかと錯覚するほどに鮮度の良い魔獣を前にして、解体場の職員は喜んでいたのも束の間、ドバドバと出てくるその数に恐怖すら感じ始め、挙げ句の果てにはワイバーンまで出て来る始末。
想像を遥かに超える量に興奮する者、阿鼻叫喚の者、残業確定の者、様々な声が地下空間に響いては消えていく。
「こっっっの! バカ小娘!」
ばちこーん! とあたしはメルツェナさんに頭を叩かれた。しかもかなりの力でだ。
「痛っ!? なにするんですか!?」
「それはこっちのセリフよ! どこの世界にこんな大量の魔獣の死体を撒き散らすバカがいるのよ!?」
「だからって叩かなくてもいいじゃん! しかも本気だったでしょ!?」
「うるさい小娘ねぇ。そんなことでピリピリしてたら、小皺が増えるわよ?」
「と言うか! あたし聞きましたよね!? 本当に全部出して良いのか? って! そしたらこの人が良いって言うから!」
あたしは職員をズバッと指差す。
まさか自分に責任転嫁されるとは微塵も思っていなかったのか、あたしに指を指された職員は目を見開いて驚き、すぐに縋るようにメルツェナさんに視線を移した。
「それでも、限度があるでしょうが! 限度が!」
「むぅ! じゃあ片付けますよ! 片付ければ良いんでしょ!?」
なんであたしが怒られなきゃいけないのよ! とぷりぷり怒っていると、待ったの声が掛かる。
「いやいやお待ちください!」
この解体場の責任者であるレーゼル所長だ。
彼は揉み手をしながらそそくさと近寄ってきて、にんまりと笑顔を浮かべた。
「メルツェナ様、モカ様、どうぞこのままで宜しいです。というのもですな? この魔獣たちの鮮度があまりにも良いので、このまま解体してしまいたいんですよ。ほら、西の山の件で色々と私たちも素材をせっつかれておりまして……特に薬師ギルドが血や肝を早く寄越せとうるさいのなんの。ですから、ここが私たち解体職人の踏ん張りどころ、と言う訳ですな」
レーゼル所長のその一言が決め手になったのか、他の職員からは落胆の声があがる。
あたしが持ち込んだとは言え、ちょっと申し訳ない気持ちになってくるなぁ。
「あ、そうだ。お願いするのは良いんですけど、グレートデーモン・エルクの角と、ランドディガー・ワームの牙はこっちに戻して下さい」
「おや、どなたかの依頼ですか?」
「はい、エルダードワーフのベルムッドさんからの依頼です」
「では、素材が取れたらそのまま工房へと運び込んでおきましょうか?」
「え、良いんですか?」
「もちろん、これほどまでの魔獣を納入頂けましたので、それくらいはやらせていただきますよ」
わーい、ラッキーだね!
「それで? 本当にそれ以外は全て売却で宜しいので?」
「はい、大丈夫です。『黒金の雷雨』のみんなとも話し合ったので!」
王都への帰り道できちんと話し合っておいて良かったよ。
どうやら冒険者同士の合同依頼の場合、金額面で揉める事が多いから、予め話し合っておく方が良いというグレイグさんのアドバイスにより、討伐した魔獣の全てを売却し、金額は折半にするという事で落ち着いたのだ。
無論、揉めた。
金額が少ない、ではなく多い、という理由でだ。
グレイグさんたちは折半ではなく9:1を押して来たけど、あたしの依頼をわざわざ手伝ってくれたのだから折半で、と強く押し切って、決着した。
「ではそのように。流石に量が量ですので、精算にはお時間を頂きますが、終わり次第、連絡を致しましょう」
それからいくつかやり取りをして、あたしたちは解体場を後にした。
ロビーに戻ると、まだモンドギルマスは来ていないようで、メルツェナさんの招待でAランク冒険者用のラウンジにお邪魔させてもらった。
このラウンジはAランク専用で、どうやらAランクオーバー用の特別なラウンジもあるみたい。
ラウンジ内は高級感のある内装で、少しグレードの低い空港ラウンジのような感じかな?
それでも、文明も技術も日本に遠く及ばない異世界においては、かなりラグジュアリーだと言えるだろう。
ここには24時間、必ず誰かがいて、食事や休憩が出来るようだ。
メルツェナさんの招待ということで、あたしたちにもお茶が振る舞われ、座り心地の良いソファーに体を沈める。
グレイグさんたちは緊張しっぱなしでぎこちない動きをしていたけど、お茶とふかふかソファーの魔力には勝てなかったのか、ゆっくりとリラックスしているように見えた。
そんなラウンジで時間を潰す事になったんだけど、メルツェナさんや『黒金の雷雨』のみんなとあーだこーだと無駄話に花を咲かせていると、ラウンジの入り口から1人の青年が入ってきて、お世話係として控えていた老人に耳打ちをする。
「そうですか、分かりました。しばし待ちなさい」
どこかの貴族に仕えていたのかも、と思うほどに動きが洗練された老人は、まずメルツェナさんに耳打ちをした。
どんな内容なのかは分からないけど、一瞬驚いてから、すぐにガクッと項垂れた所を見るに、あんまり楽しそうな内容じゃなさそうだね。緊急の呼び出しとかかな?
なんてメルツェナさんと老人を見ていると、それに気付いたメルツェナさんがあたしを手招きする。
「? どうしたんですか?」
「良いからこっち来なさい」
なんだろ? あたしに関係すること?
不思議に思いながら、あたしは離れがたいソファーの誘惑に打ち勝ってメルツェナさんの元へ向かう。
「あんたに会いたいっていう客が来ているみたいなんだけど、ここに通しても良いかしら?」
「あたしに? 誰ですか?」
「貴族だって」
メルツェナさんの言葉に、ようやくリラックスしてのほほんとしていた『黒金の雷雨』の面々に緊張が走る。だらけていた背筋がピンと伸び、ゴクリと息を飲んだ。
「モ、モカちゃん? モカちゃんは貴族に知り合いでもいるのか?」
「うーん、貴族の知り合いねぇ……そんな人、いないと思うんだけど……あ、もしかしてカラオケの人かな?」
「……カラ、オケ?」
「えっと……何だっけ? カラオケ? カラアゲ? いや、カ○オペ?」
あたしが必死に名前を思い出そうとしていると、老人が助け舟を出してくれた。
「キャリオーク子爵様でございます」
「そうそう、それ! キャリオーク子爵だ! あー、すっきりした」
「で? 通して良いの?」
「うーん、あたしは別に良いですけど、皆さんはどうですか?」
あたしが気を使って、みんなにそう尋ねたのと、ラウンジの扉が開くのは同時だった。
キャリーオーバー子爵再び!?
キャリーオクオク子爵の登場よりも、モカに貴族の知り合いがいたことの方がメルツェナさんやグレイグさんには驚きでした。
そんなカリキュレーター子爵がモカを訪ねた理由とは!?
ちなみに、私はDead Beatsの一員です。
みんなMERA MERAを聴いてくれ。
それかGraveyard Shiftでもいい!




