95、飼い主大好きなペット? それとも甘えん坊な子供?
「でも、どうして君たちがここにいるの?」
ワイバーンたちを撫でながらそう尋ねると、ワイバーンたちはキュルキュルと鳴いて、あたしの外套の裾を咥えて引っ張る。
「あ、ちょっと! 何? どこかに連れて行こうとしてるの?」
そう聞くとワイバーンたちは「そうだよ!」、「こっち!」と言わんばかりに頷いて、あたしを引っ張って行く。
「分かったからちょっと待って!」
ペチペチとワイバーンの顎を撫でてあげると、そっと口を離してくれる。その隙に腰を抜かして尻もちをついているみんなの元へ向かう。
「大丈夫ですか、グレイグさん」
手を差し出してみんなを起こしてあげると、全員が心からの安堵を溜息に乗せて吐き出した。
「死ぬかと思った」
「右に同じ」
「心臓に悪いな」
「僕、生きてる?」
青い顔をしながら、4人はあたしをジッと睨みつける。
いやいや、あたしは何も悪くないよ!?
「何ですか!? あたしのせいだとでも!?」
「あ、いや、そうじゃないんだが……って! いやいや! こうなったのはモカちゃんのせいだろ! モカちゃんがこの状況を作ったと言っても過言じゃないんだから、モカちゃんのせいだろ!」
うぐ、確かにそうだけど……そうだけどさぁ! 納得は出来ないよっ! あたし悪くないもん!
「まぁまぁ、そこら辺にしとけよグレイグ。モカちゃんのペットが怖い顔してるぞ……」
ラルフさんが口元をヒクヒクさせながら、グレイグさんにアイコンタクトをしているのを見て、ワイバーンたちと双頭蛇に目を向けると、険しい表情で『黒金の雷雨』を睨んでいた。
「うっ……そ、そうだな……」
「ちょっとラルフさん! 別にペットなんかじゃないですよ!」
「そうか……そうか? ペットじゃないなら……甘えん坊な子供か?」
早く早く、と魔獣たちはあたしの外套の裾を咥えて引っ張る。
「……はぁ」
もうどっちでも良いや。と言うか、この子たちはあたしをどこに連れて行きたがっているんだろ?
「まさか……まだあの黒いモヤに苦しんでいる子たちがいるの?」
あたしの言葉に『黒金の雷雨』のみんなの顔が引き締まった。
「まさか……でもそこの双頭蛇の頭にあったのはもう壊したんだろ?」
「これ以外にも、他の黒い鍵があったのかも」
「だとしたらマズイな。山が静かなのは、まだ脅威があるからか?」
だからこの子たちはあたしを呼びに来たのかな? 少しばかりの不安が顔に出ていたのか、ワイバーンたちは不思議そうにあたしの顔を覗き込んでくる。
「ねぇ、もしかして、君たちと同じ状況の子がまだ他にもいるの?」
そう聞いてみれば、ワイバーンたちは互いに顔を見合わせて、首を横に振った。
あれ? 違った? じゃあ何で?
「……行ったら分かる?」
ワイバーンたちが揃って頷く。
じゃあ連れて行ってもらった方が早いかな。
「じゃあ、案内してくれる?」
ワイバーンも双頭蛇もゆっくりと頷いて、体の向きを変えて動き出した。
夜の山の中を灯りも無しに歩くのは流石に危険なので、あたしは松明を、グレイグさんたちは光の球を魔法で出して灯りとしている。
一体どこまで行くんだろ? もう結構歩いていると思うけど……と思っていると、少しだけ開けた場所に出た。
そこにいたのは……いや、あったのはーー
「う、うわぁ……」
ダンプカー並の巨体の鹿が2体と、縄文杉サイズの巨大なミミズが1匹。
どちらもあたしが探していた魔獣、グレートデーモン・エルクと、ランドディガー・ワームだ。
その周囲には、地面に横たわる獲物を何とか奪えないかと遠巻きに様子を伺っている魔獣の気配がするけど近付いてはこない。
「す、すごいね……どうしたの、これ?」
思わずそう聞けば、ワイバーンがあたしを鼻先で鹿とミミズの方へと押し出す。
「え、え? 何? あっ……もしかしてくれるの?」
どうやら正解らしい。
ワイバーンと双頭蛇は嬉しそうに鳴いて、我先にと鼻先をあたしに押し付けてくる。
「うわ、分かった分かった! ちゃんと褒めてあげるから!」
某動物大好きおじさんのように「よーしよし!」と力一杯褒めて撫でてをしながらも、疑問を抱く。
あれ? そういえば……あたしこれが欲しいってこの子たちに言ったっけ?
首を傾げようとして、あぁ、と思い出す。
そうだ、言ってるわ。
この子たちと別れる時に、鹿とミミズを探すけど君たちはどうする? って聞いたよ。
あー、それかぁ……あたしが欲しがっているから、わざわざ探して持ってきてくれたのか……うーん?
「嬉しいんだけど、本当に貰っていいの?」
そう聞けば、この子たちは首を縦に振る。
うーん、これは何だろうか? 懐かれた、って事で良いのかな? 分からないなぁ……と言うか魔獣って懐くもんなの? でも、テイマーがどうとか言ってたからあり得るんだろうけど……あたし、テイマー系のスキルもジョブも取ってないんだよ。
分からない事は人に聞けば良い。なので、呆れたようにあたしと魔獣たちを見つめている『黒金の雷雨』のみんなに意見を貰う事にした。
「ねぇ、グレイグさん?」
「……なんだ? 俺たちはこの状況を飲み込めていないから、碌なアドバイスなんて出来ないぞ」
「あぁ、いや、そうじゃなくて……あたし、なんでこんなに懐かれてるんでしょう?」
「……そんなの、平凡なただのCランクの俺らが知る訳ないだろ」
「まぁ、モカちゃんだしな。流石は、って言うべきか?」
「そうだな。だがこんな展開は想像していなかった」
「懐くと言うより、もうお母さんだと思っているんじゃないかな?」
ダメだ、この人たち。思考を放棄してやがる!
「もう! あたしだって本気で戸惑っているんですよ!?」
「あぁ、悪い悪い。でもなぁ……本当に俺たちには分からないぞ? なぁ?」
グレイグさんにそう振られれば、みんながしみじみと首を縦に振るのだが、その中でデュランさんだけ動きが止まった。
おや? これは何か知ってるのかな?
「そう言えば……何年か前にテイマーのおばあちゃんと一緒に仕事した事あったよね?」
「ん? テイマーの? ………あぁ、ミンネ婆さんか。それがどうした?」
「あの時、テイマーじゃないのに魔獣が懐いてくる人がいるって言ってたの、グレイグは覚えてない?」
「悪い、全然覚えてない」
「えぇ? ラルフは?」
「俺も覚えてないな」
「すまないが、俺も覚えてない」
ザフィーラさんまでそう言うなら、そんなに記憶に残らないような地味な会話だったのか、地味な人だったのか。
「デュランさん、その人はなんて?」
「ええっと……確か……魔獣をテイムするにはテイム魔法を使って相手を屈服させる必要があるんだけど、そんな魔法を使わなくても強い思いやりと愛があれば魔獣は心を開いてくれる、って」
なるほど……心当たりがあると言えばあるけど、この子たちを助けようとしたのが懐く条件だったのかな?
確かに魔獣は倒すもの、という共通の認識があるから、強い思いやりや愛を持って接しようとは思わないよね。だからあたしがあの黒い鎖のモヤを何とかしようとしたから、魔獣たちは心を開いてくれたってこと?
「でも、こうも言っていたんだ。心を開いてくれたからといって、テイム出来るわけでもない。そんなことが出来るテイマーは見たことがないし、そんな事が出来るならテイマーという職業は生まれなかったって」
うーむ……つまり、この状況はどういうこと? あたしがこの子たちをテイムしている訳ではない、ってことだよね? でも懐いてくれているのは、心を開いてくれているから、と。
と言うことは?
「この子たちは、ただ単にあたしの事が大好き、ってこと?」
「まぁ、現時点ではそうなるね。きっと、あの黒い鍵の影響から助けてくれた優しい人くらいには思っているんじゃないかな?」
そっかぁ……この子たち、あたしの事が大好きなのかぁ。
そう言われると、途端に嬉しくなってくるね。
「えへへ、君たち、あたしの事が大好きなの?」
そう聞けば、この子たちはゆっくりと嬉しそうに頷いてくれた。
そっかそっか!
「あたしもだよ!」
ワイバーンと双頭蛇が静かに顔を寄せてきて、目を閉じる。
その鼻先をゆっくりと、確かめるように撫でてあげた。
これが、この子たちとの出会いだった。
これにて山でのあれこれは一件落着となります。
ワイバーンと双頭蛇たちがこの後どうなるのかは……もう分かっていると思いますけど、もう少し引き伸ばします!




