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「魔法が最強? あたしの剣の方が速いんだけど?」 元【剣神】のVRMMOストリーマー、魔法一強の異世界で無自覚無双する  作者: 卯月真琴
冒険者登録編

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8、レベルを上げたいの!

 ジャム作りから数日が経ち、鍛冶屋さんから出来上がった短剣を受け取ったあたしは今、1人で山を歩いている。

 目的はレベル上げだ。


「今のレベルは3。まぁ、ジャム作ってから今日まで村から出なかったからなぁ……」


 思い返せば怒涛の数日だった。

 ジャムの噂が広がって、村中の奥様たちがレシピを教えて欲しいと押し寄せ、突発的に料理教室が始まり、それが村長の耳に届き、知っているレシピがあれば買い取りたいと交渉された。


「まぁ、おかげでお金は手に入ったけど……」


 自然と溜息が漏れる。


「良いのかな、あんなレシピで……」


 この数日で教えたレシピは、うどん、餃子、ピザの3つだけ。


「小麦が有り余っているって言ってたからなぁ……」


 餃子の餡とピザの具は各家庭でアレンジして下さいね、で逃げたが、次の日には新作試食会が始まっており、どの世界でもお母さんというのは逞しいなぁ、って思った。

 おかげでレシピ3つで金貨6枚とかいう破格の報酬を貰えたから良しとしよう。


「でも、レシピ1つに金貨2枚か……村長さんは適正価格だって言ってたけど、貰いすぎだと思うんだよなぁ」


 未だにこの世界の金銭感覚が分からないけど、こんなポンポンと金貨が出せるような世界なんだろうか?

「考えてもしょうがないか……切り替えて、今日の目的をしっかりと果たさないとね」


 今日の目標はレベルを上げること。

 出来るなら5くらいは上げたいね。でも、あのルフィ何とかっていう猪魔獣1体でレベルが2しか上がらなかった事を考えれば、今日1日で上げ切るのは難しいかも知れない。


「魔獣から得られる経験値が少ないのはここだけなのか……それとも全体的に低いのか……先は長そうだ……」


 今日向かうのはレモーネと一緒にリナンを収穫した場所より、さらに奥だ。

 どうやら猪魔獣を倒した事で他の魔獣たちの縄張りが再編されたようで、森の中が騒がしくなっているらしい。そのせいでフォレストウルフ、マーダーエイプ、ハイディングスネークといった中位の魔獣たちが森をうろつき、ゴブリンやスライムといった低位の魔獣が森の入り口で発見されるようになったとか。


「ゴブリンとかスライムなら村の人たちで倒せるけど、中位魔獣には手を焼いているって言ってたし、レベル上げには持ってこいよね」


 昨日のうちに残しておいた17のスキルポイントを6つのスキルに割り振っておいた。


 片手直剣 SLV:4

 攻撃力上昇 SLV:3

 回避 SLV:3

 受け流し SLV:3

 連撃 SLV:2

 斬撃 SLV:2


「まさか、得物の扱いもスキルになってるとは思わなかったけどね」


 武器系スキルという分類を見て不思議に思ったけど、どうやら熟練度のようなものらしい。

 それ以外の4つは、現状で自分に足りていないと感じている部分だ。

 流石にステータスが低いから攻撃力が低いし、敏捷もまだ低いから回避スキルで補わないとまずい。回避出来ない場合には武器での受け流しも必要だし、効率良くダメージを与えるための手数も必要だしね。


「まぁ、早くレベルを上げて、あの時と同じステータスとスキルに戻さないとね」


 次に上げるべきスキルの候補を考えるのは楽しい。どうすれば強くなれるのかを考えるのは好きだ。だから、レベリング作業は別に苦にはならないんだけど……


「早速お出ましだね」


 モカの行手を阻むように5体のゴブリンが棍棒や錆びた短剣を手に、下卑た笑みを浮かべてギャッギャッと喚いている。


「ゲームの方がまだ可愛げがあるね……ま、いいや」


 腰紐から下げたロングソードを抜いて駆け出す。

 剣の重心が剣先側にあるから少しだけ扱い難いけど、何の問題もない。


「はッ!」


 剣を下段に構えたまま接近し、切り上げる。

 これは攻撃目的ではなく、5体のゴブリンを2つのグループに分けるための一手だ。これにより、ゴブリンは棍棒を持つ2体と、短剣と素手の3体のグループに分けられた。


「ギャギャ! ギャ!」


 喚くゴブリンたちに対して、剣を振り上げた勢いを利用して身体を捻って短剣を持つ1体に回し蹴りをお見舞いし蹴り飛ばす。


「ーーッふ!」


 そのままの勢いで右足を踏み下ろしながら剣を振り下ろし、残った短剣持ちを一刀で斬り伏せる。


「破ッ!」


 接敵から1分と経たずに2匹を片付けて、残るは3匹だけ。その3匹も何が起きたのかを理解し難いようで、キョロキョロと互いを見て、ギャーギャー喚いているだけ。

 だからいつものように、寸分の狂いも無く、剣を振るう。

 それだけで、決着する。


「……ふぅ」


 いつもの癖で剣を振って血を払い、納刀する。

 5体のゴブリンを倒したけど、何とも不完全燃焼だ。経験値だって美味しくない。


「こりゃ大変だぁ……」

 5レベルを上げるためにはゴブリンの軍勢を殲滅するくらいやらないとダメっぽいな。あ、いや、ゴブリンじゃなくて、もっと上の魔獣を倒せばいいのか。


「そうと決まれば探すか……目標は狼、猿、蛇かな」


 柄頭に手を置いて、森の奥を目指す。

 そうして道なき道を歩いていると、時々首筋がピリピリと痛む。


「変な気配だな……」


 BLOにある気配察知というスキルが発動しているような感覚だ。だとすれば、スキルじゃなくて、本能的にあたしが何かの気配に曝されているってことだ。どこからその気配を感じるのかまではまだ分からないけど、どうにも嫌な気分。


「リアルの気配察知って、こんなに難しいのね……」


 早いうちにスキルを取っておきたいな、と考えていた瞬間だった。


「うーーっげ!?」


 一瞬だけ膨らんだ気配に抜刀しながら振り返ると、目の前には大口を開けたヘビがいた。

 咄嗟に横薙ぎの一閃を叩き込んだが、ヘビはヒョイっと顔を上げてそれを避ける。その隙に大きく後ろに跳躍して距離を取って見ると、ヘビは木の枝から垂れるようにいて、鎌首をもたげていた。


「っぶなーッ!」


 心臓がバクバクとうるさい。

 そのまま剣を構えてヘビとの間合いを見極めようとすると、ヘビはチロチロと舌を出しながらゆっくりと地面に降りてくる。


「奇襲に失敗したから、正攻法で来るってわけ?」


 口元がニヤける。


「いいね、じゃあこっちも正攻法で……」


 構えを解いて、剣を納め、


「いざ尋常にーー」


 腰を落として柄に手を掛ける。

 この構えはBLOで最も多く使ってきた居合攻撃のモーションだ。今はまだステータスもスキルも武器も、何もかもが足りないけれど、それでもこのヘビくんには持てる全てで相手になろう。


「参るーー」


 抜刀の直前、ヘビがいきなり飛び出してきた。

 長い身体を極限まで縮めて、バネのように突っ込んできたのだ。でもそれは悪手だよ。その巨体を空中に放り出すなんてーーと思ったのが間違いだった。

 刹那で抜刀し、ヘビを頭を切り落とすつもりだったけど、ヘビが空中でその軌道を変えて、あたしのお腹に突撃してきたのだ。


「ーーカハッ!?」


 あたしの喉から声にならない音と空気が全て押し出され、息が詰まる。だけど、ダメージは少ない。何故か? 攻撃の瞬間に咄嗟に重心をずらして直撃を避けたのと、後ろに飛んで少しでもダメージを軽減したからだ。

 どっちも、無意識に出来るくらいには経験値は高い。元剣神の実力舐めんなよ!

 というか、どうして飛び込んできたのに軌道が変わった? どんなカラクリが……と思った時にはそのカラクリが分かった。

 このヘビ、跳んでない。

 尻尾が地面に着いたままだ。

 痛みを感じる間も無く吹き飛ばされ、無様に転がりながら、それに気付く。地面に着いたままだから頭を軌道が変えられたのか……すごいことするじゃん。

 すぐに起き上がって体勢を整えようとすると、目の前にはもう蛇の牙が迫っていた。


「追撃の手も緩めないよね!」


 ガチン、とヘビの顎が出すような音ではない音を聞きながら、間一髪で回避する。回避スキル上げといて良かった! と喜んだのも束の間。

 ヘビの尻尾が再びお腹に直撃した。


「ぐぅっ!」


 今度は無様に転がりはせず、剣を突き立ててすぐに体勢を立て直す。


「レベルもステータスも足りてないんだろうけど、何よりも殺す覚悟が足りてない」


 こっちはただのレベル上げ。

 向こうは生きるため。

 食うか食われるかの生死を賭けた死闘なんだ。

 レベルを上げるなんていう、覚悟のかの字も無いようなあたしが、このヘビくんに勝つには、覚悟を持つべきだ。

 命を奪うという覚悟を!


「はは……あはは! ゲームじゃ絶対に味わえない緊張感! すごい、すごいよヘビくん!」


 裂けるほどの笑みを浮かべ、吠える。


「これが! 命の! やり取り!」


 そんなあたしに、ヘビくんはピタリと動きを止めて、初めて威嚇した。

 ヘビ特有の威嚇音に心は決まった。


「あはっ! あたしを獲物じゃなくて、敵として認めてくれたってこと?」


 再び剣を納め、先と同じ構えを取る。

 森の中の音が消えたような錯覚の中、世界にはあたしとヘビくんだけしかいなかった。

 深く息を吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸ってーー止める。

 その瞬間、ヘビくんが牙を剥き出しにして跳んだ。


「破ッ!」


 それと同時に、鋭く短く力強く、吐き出した息に覚悟を乗せて剣を振り抜く。

 全盛期には遠く及ばない抜刀術。だけど、今出せる全てを出し切ったと胸を張って言えるほど渾身の攻撃だ。

 だって、ヘビくんの頭の軌道を完璧に目で追って、首を刎ねたんだから。

 ボトリと首が落ち、続いてドサリと胴体が崩れる。


「………ふぅ」


 ビクビクと痙攣する胴体を見下ろし、体から余計な緊張感を抜いていく。流石に脱力するようなバカな真似はしないけど、それでも少しだけホッとした。


「ありがとう、ヘビくん」


 血を払って納刀し、あたしは初めての強敵に頭を下げる。


「あなたのおかげで、また1つ強くなれました」


 レベルが1上がっていた。

 ヘビくん(種族名:ハイディングスネーク)はこの森の中では猪魔獣さんよりも強いとされています。

 力がどうのじゃなくて相性的な問題ですね。

 5メートルを超える巨体で隠密行動が可能です。毒は無いですが、巻きつかれれば最後、圧殺されます。

 ただし、どうしてかモカと戦ったヘビくんは巻きつくより噛みつく方が好きみたいです。

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