7、ジャムを作ろう
次の日の朝になると、レモーネの元気な声で目が覚める。
「モカー、おはよーっ!」
「おはよ、レモーネ……早いね……」
ベッドから起き上がって大きく伸びをするとポキポキと体が鳴る。あぁ、柔らかマットレスとふわふわ枕が恋しいよ。
「モカのおかげで今日は山に行かなくても良いからね! たくさん遊べるね!」
雰囲気のせいでお姉ちゃん感が強いけど、レモーネはあたしよりも年下だ。そりゃあ遊びたい盛りだろうけど、この歳になって子供たちに混じって遊ぶのもなぁ……あ、そうだ、ちょうど良い。
「ねぇ、昨日言ってたジャムを作ってみない?」
「ジャム? ジャムってなんだっけ? 確か……甘くて、トロトロで、とっても美味しくて、幸せな食べ物?」
「そう、それ。作り方は簡単だからレモーネでも作れると思うし……ここの主食ってパンでしょ? あの黒パンも素材の味がして美味しいけど、もっと美味しい方が良いでしょ?」
基本的にこの村は小麦の栽培もしているらしくて、大量に在庫があるらしい。だから日持ちのする堅焼きのパンを大量に焼いている。
村で貨幣はあまり使われていないから、物々交換が村内ルールとして定着している。だからお金は外部から物を買うときに使うって感じなんだろうな。
もしジャム作りが上手くいけばこの村の新しい名物になるかも知れないし、これが上手くいけば、あたしが料理をしてても変に思われないと思うんだよね。
「そうだね! いつも同じ味だから、ちょっとでも美味しくなるなら大歓迎だよ!」
「じゃあどうしようか……調理場とか借りても平気?」
「うん。お母さん、今日は針子の仕事でいないから、帰ってくるまでは大丈夫だよ」
「じゃあ、いっぱい作ってお母さんをビックリさせようか」
そう言うとレモーネはイタズラな笑みを浮かべて元気よく頷いた。
見た目とのギャップでとても可愛い。あたしが男の子だったら絶対に好きになっちゃうよ。
「あ、そうだ。調味料とかってあるの?」
「調味料? 塩ならあるけど……何か必要?」
「あるなら砂糖が欲しい」
「え!? 砂糖!? 無理だよ! 小瓶1つで金貨が何枚も必要なんだよ?」
「じゃあ、塩の他に何があるの?」
「家には塩と薬草くらいしかないよ?」
「塩っていっぱいあるの?」
「うん。村長さんの息子さんが塩を産み出す魔法が使えるんだ」
そんな魔法があるのか……って事は他の香辛料を産み出す魔法もあるんだろうな……便利そうだ。それに薬草って事は、ハーブ的な物かな? ミントとかあると嬉しいんだけど。
「とりあえず、何があるか見せて貰っていい?」
「うん、じゃあ行こ?」
レモーネに連れられて、昨日収穫した果物を10個ほど持って調理場に向かう。
「必要なのはこの果物……そう言えば、この果物ってなんて名前なの?」
「これはリナンだよ。モカ、知らないの?」
「あー、あたしのいた所には無かったからね」
「そうなんだ。このリナンって森に入れば必ず見つかるって言うくらいにはいっぱい生えてるよ?」
「そうなんだ。じゃあ、いっぱい作れるね」
調理場は簡素な造りで、2つの竈門とその横の調理台と水場。まるで江戸時代の台所のような感じだ。
「じゃ、早速始めようか」
「うん! まず何から始めるの?」
ジャム作りは簡単だ。
ちゃんとした作り方ではないけど、砂糖が無いなら果物だけを煮詰める方法でやってみよう。
「まずはリナンの皮を剥きます」
見た目がりんごだから皮を剥くのは簡単だ。ショリショリと皮を剥き始めると、隣でレモーネも皮を剥き始める。
お母さんの手伝いをしているのが分かるくらいには上手な包丁さばきだ。
「皮が剥けたら、半分はざく切り、半分は擦り下ろすよ。すり鉢とかある?」
「あるよー、ちょっと待ってて」
レモーネが石鉢のようなものを持って戻ってくる。
「じゃあ、レモーネはリナンを擦りおろしておいて。出来れば細かくしてね」
「はーい」
それぞれの工程が終わると、次は煮詰めていくだけだ。
「じゃあ次は鍋に擦りおろしたリナンとちょっとだけ塩を入れるよ。あとは……ねぇレモーネ、薬草ってどんなのがあるか見せてもらってもいい?」
「良いけど……もしかして入れるつもり?」
「使えるのがあればね」
訝しげなレモーネは渋々といった具合に調理場の隣の部屋に向かい、すぐに小さな籠を3つ持ってきてくれた。
「これが熱を下げるやつ。こっちはお腹が痛いときに飲むやつ。最後の傷に塗るやつ。今あるのはこれだけだよ?」
うーん、見事に薬草だ。ハーブを期待してたんだけどなぁ……まぁしょうがない。ミントとかなら探せば自生してそうだし、時間が出来たら探してみるか。
「今回は使わない方がいいね」
「だから言ったでしょー」
「あはは、ごめんごめん、じゃあ続けようか」
薬草たちを戻しに行ったレモーネが帰ってくれば、作業再開だ。
「初めは弱火で、擦りおろしたリナンだけを焦げないようにひたすら混ぜ続ける!」
本当ならここにレモン果汁を入れるんだけど、無い物ねだりをしてもしょうがない。
「どれくらい混ぜるの?」
「沸いてきて、アクが出てくるまでかな? アクが出たらきちんと取り除いてね? じゃないと出来上がったジャムに変な雑味とか出ちゃうから」
「分かった!」
そうしてしばらく混ぜ続けていると沸々とリナンが沸いてきて、泡が大量に出てくる。丁寧にアクを取ったら、そこにざく切りにしたリナンを入れて、30分ほど煮詰めていくだけ。
「食感を楽しみたいなら、ざく切りにしたリナンを少しだけ残しておいて、最後に加えてあげるといいよ。今日は初めてだからシンプルなやつにするからね」
「うわぁ……良い匂い……楽しみだね!」
「そうだね。リナンは水分多いし、すごい甘いから砂糖なくても大丈夫そうだ」
そうして煮詰めること30分。
「ねぇ、出来た!? 出来た!?」
目をキラキラと輝かせているレモーネは煮詰まってトロトロになったリナンのジャムに釘付けだ。
「これを容器に入れて冷やせば完成だよ」
「ちぇ〜、じゃあまだ食べられないんだ」
「……食べてみる?」
「良いの!?」
「出来立て熱々のジャムも美味しいよ。それに、味見はお菓子作りの特権だしね」
そう言うとレモーネは全速力で木のスプーンを2つ持ってくると、まだ湯気の立つ鍋から1口分のジャムを掬うと、あたしに渡してくれた。
「はい、一緒に食べよ!」
「ありがと、レモーネ。じゃあ、いただきます」
あむ、っと1口。
「!?」
おぉ、これはすごい。味がみかんっぽいからマーマレードみたいになるかと思ってたけど、りんごっぽい風味と酸味が感じられる。煮詰まったせいか、リナンの甘さが凝縮されているけど、おかげでさっぱりと食べられるな。
「モカ、これすっごいね!」
レモーネの表情がすごいことになっている。例えるなら、美食マンガのセンチュリーなスープを飲んだあの人みたいだ。
顔ってあんなに蕩けるんだ。
「熱々だからね。冷めるともうちょっと落ち着いた味になると思うけど」
「でも、10個もリナンを使ったのに、こんなに少なくなるんだね」
「まぁね。でもこれならいっぱい食べられるでしょ?」
「そうだね! お母さんが帰ってきたら驚くだろうなぁ……早く帰ってこないかなぁ……」
「楽しみだね」
「うん!」
その夜、作ったリナンジャムは一瞬で無くなった。
レモーネのお母さんにレシピを教えてくれと懇願され、夜遅くまで残っていたリナン全てをジャムにするのを手伝わされたのは流石に疲れたよ。
レモーネ 人生のフルコースメニュー
オードブル(前菜) お隣さんがお裾分けしてくれた蒸かし芋
スープ お母さん特製の豆スープ
魚料理 お父さんが釣ってきた川魚の姿焼き
肉料理 モカが倒した猪魔獣のステーキ(NEW!)
主菜 村のパン屋さんが焼いた焼き立ての黒パン
サラダ 家の畑で採れた野菜
デザート モカが作ってくれたリナンのジャム(NEW!)
ドリンク 森で採れた薬草を煎じたお茶
レモーネの食生活に激震走る!




