6、村のヒーローになる
レモーネと一緒に村に戻って、村の広場に猪魔獣の死体を出すと、村は大騒ぎになった。
「お、おぉ、なんと言うことだ……」
初めて会った村長さんは初老の男性で、目の前の光景が信じられないのか、腰を抜かしてルフィデリアを見上げている。
「村長さん! モカがね、ルフィデリアを倒してくれたの!」
レモーネがまるで自分の事のように自慢するのがなんだか可笑しくて、クスクスと笑っていると、不思議そうにレモーネが首を傾げた。
「? なんで笑ってるの?」
「いや、レモーネがすごい自信満々に言うからさ」
「だってすごい事なんだよ!? ルフィデリアはあの山の主の次に強い魔獣なんだから!」
ふーん、この猪よりも強い奴がいるんのか……楽しみだね。レベルが低くてもやりようによっては倒せるんだから、つくづくゲームとは違うね。
「それで、旅のお方。これは村に納めてくれるのかな?」
「あ、はい。レモーネにもお世話になっていますし、助けていただいた恩もありますので、少しでもお役に立てれば……」
「それはありがたい。ではすぐに男たちを呼んで解体してもらいましょう」
そして村長さんによって狩りを生業とする家の男たちが全員集められ、手分けして解体作業が始まった。
その巨体故に取れる肉の量も多く、流石に全てを1日で消費出来るはずもない。だから全家庭との物々交換によって肉を配り、残りは燻製や塩漬けなどで保存食にする事が決まった。
その他の毛皮や牙などの素材の一部を村に寄付したら、村長さんに泣いて喜ばれてしまった。
そのせいで、あたしが言葉をちゃんと話せる事が村中に伝わり、英雄が如き歓待を受ける羽目になってしまった。
そして、レモーネの両親に改めて挨拶をして、しばらくはこの村に居させてほしい、と頼み込んだ。その代わり、今日みたいに山へ行って魔獣を狩ってきて、肉や素材を村に渡す、という約束を交わして、いよいよ本題である村の鍛冶屋へと向かう。
「ごめんくださーい」
鍛冶屋は村の外れにある。中に入るとモワッと熱気が襲ってきたが、嫌な気分ではない。
奥から出てきた老人は、歳の割に筋肉質で……何と言うか、生気に漲っていた。
「なんじゃ、お前さん……あぁ、アルストのとこが助けた行き倒れの女の子か?」
「え、あ、はい。多分そうだと思います……あの、それで、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「なんだ?」
「天剣、って知ってます?」
恐る恐る聞けば、老人は怪訝な表情であたしを睨みつけてくる。
あれ? なんか変なこと言ったかな?
「このご時世に剣について聞きたいのか?」
「え? まぁ……はい。あたし、天剣を見つけたいので……」
「ほぅ……ってことは、お前は剣士なわけだ。なるほどなぁ……」
老人は片眉をあげてふむふむと唸り、何度か口を開きかけては閉じる。
「天剣についての情報は、お伽話くらいしか知らないがいいか?」
そう言われては断る事も出来ない。それに、今は何でも良いから少しでも多くの情報が欲しい。
「はい! 何にも知らないんで、助かります!」
そして、老人の口から語られたのは、本当に簡単なお伽話だった。
1人の剣士が神を斬ろうと人生の全てを捧げ、遂には神を殺すに至る剣技に辿り着いたと言う。
その結果、神たちは人の限界を超えた証として剣士を神の座へ招き入れ、この世界で最も強い剣を与えた。
話は、本当にそれだけだった。
このお伽話のポイントは、努力を怠らなければ必ず誰かに評価されるという点にあり、この世界の人たちは、諦めない大切さを教えるためにこの話をするらしい。
何というか……ちょっと期待外れだったね。しょうがないと言えばしょうがないけど……うーん? これは流石に必要な情報じゃないかもなぁ。
あたしが困ったように唸っていると、老人は「だから言ったろ」と言って、手を差し出してきた。
「……?」
あたしが首を傾げると、老人は呆れたように溜息を吐きながら急かすように言う。
「剣士なら剣があるんだろ? 見てやるから出せ」
あぁ、なるほど、そう言うことか。
納得はしたけど、申し訳ないことに短剣しか持っていないがら、出すのが恥ずかしいな。
「ちょっと色々あって武器はこれしか無いんですけど……」
そう言いながら、アイテムボックスからボロボロの短剣を取り出す。
「これ、治してもらう事、出来ます?」
老人は短剣を受け取ると、じっくりと観察を行う。
「んー、出来なくも無いが……ただ研ぐだけじゃあこの刃こぼれはどうにも出来んな……薄くなっちまうが、叩き直した方がいいかも知れんぞ?」
「じゃあお願い出来ますか?」
「おぅ、ちょうど仕事が終わって暇になった所だ、すぐ取り掛かってやる」
「あとついでに、あたしでも使える剣ってありますか? 普通ので良いです」
「あん? 剣を? まぁ、無くはないが……おい、まさか、この短剣以外の武器を持ってなかったのか!?」
「まぁ、色々ありまして……」
「詳しくは聞かないが……うちにあると言えば……」
老人はそう言って、入り口の脇に飾られた剣に目をやる。
それを追うように視線を動かすと、いわゆる普通の鉄のロングソードがあった。入ってきた時は目に付かなかったが、長さもちょうど良さそうだ。
「それは?」
「いや何、行商人から買ったんだが、この村じゃあ狩りには罠か魔法を使うからな……引き取り手もいないからそこに飾ってあんのさ。一応、何かあった時のために使えるようにはしてあるんだが……そんなでいいのか?」
「はい、問題無いです。物々交換でも良いですか?」
言いながら、アイテムボックスから先ほど手に入れた猪魔獣の素材を取り出す。
「出せるは毛皮と牙くらいしか無いですけど……」
「なんじゃそれは……まさか、ルフィデリアの素材か!?」
ずいっと詰め寄ってきた老人の変わり様に少しだけ驚いて、牙を落としてしまう。
「おいおい、こんな立派な牙がありゃあ、結構いい物が作れるぞ!」
牙を拾った老人は年甲斐も無くはしゃいでいる。
こんなもの、どう使うんだろう? と不思議に思って聞いてみると、どうやら牙を砕いて粉末状にして金属に練り込むらしい。そうすることで耐久度や切れ味が上がったりするらしい。あとは削り出して槍の穂先や鏃にしたりするそうだ。
「じゃあ、この牙1本で足りますか?」
「短剣の修理と、その剣の代金か? 充分だ! いや、貰いすぎか? ふむ、じゃあこうしよう。お前の剣と短剣の整備はタダでやってやる。それでいいか?」
その提案は願ったり叶ったりだ。ノーとは言うまい。
「それでお願いします。あと、しばらくはこの村に滞在しますけど、いずれ出ていくつもりなので、よろしくお願いします」
「おぅ、出発する時は前もって教えてくれ、両方とも最高の状態で送り出してやるからよ! それと……短剣の方だが、しっかりと修復するから、5日くらい掛かるぞ?」
「分かりました、じゃあそれくらいにもう1回来ますね」
メモ欄に五日後に短剣の受け取り、と記入し終えると、入り口に飾られた剣を手に取り、軽く振ってみる。
「……まぁ、こんなもんか」
上段に構え、振り下ろす。ピッと静寂を打ち破る破邪のような音が遅れて耳に残る。手にした剣は重心も重さも手には馴染まない。だが、短剣よりはマシだし、何よりも使い勝手は格段に上だ。
でも、どうしてもかつての相棒である【天羽々斬】と比べちゃうな。
あの子なら空気ごと切り裂けたのにな……重心もバランスもダメダメだけど、今は贅沢を言ってはいられないね。
「じゃあ、貰っていきます」
ペコっと頭を下げて、ご機嫌に鼻歌を奏でながら、鍛冶屋を後にした。
そして、その夜は少し豪華な夕食をご馳走になり、部屋に戻ってベッドに横になりながら、未だ振り分けていないスキルポイントの使い道に悩む。
「コルベス王国語に3ポイント振って、残りは17……どういう構成でスキルを取ろうかな……」
BLOでかつて使っていたスキルのほとんどが残っていたのは嬉しい誤算だが、それだけにポイントの振り方には大いに悩まざるをえない。
「戦闘系に振るか、始めの内は補助系にも振るか……迷うな……まぁ、レベル上げをするってなるなら……やっぱり戦闘系に……ふわぁ……あぁ、ダメだ、思った以上に疲れてるみたい……」
重くなってきた瞼に逆らわず、目を閉じると、いつ間にか穏やかな寝息をたてていた。
現時点でのモカのステータス
名前:モカ
レベル:3
称号:無し
職業:平民
状態:普通
体力:10/10
魔力:10/10
持久力:10
筋力:20
耐久力:10
敏捷:20
幸運:10
所持金:0
ステータスポイント:0/20
スキルポイント:17/20
所持スキル:コルベス王国語(LV:3)
武器:ボロボロの短剣/鉄のロングソード(メイン)
防具
頭:無し
胸:平民の服
腕:無し
腰:平民の服
足:無し
アクセサリー:無し




