5、この世界の実情を知る
ちょっとだけ長いです。
レベルが1から3へ上がっていた。
それに気付いたのは、ログに新着情報のマークが出ていたからだ。
泣き止んで、不機嫌そうなレモーネを尻目に、ステータス画面を弄る。
ステータスポイント、スキルポイントが各20ずつ増えていた事から、レベルが1あがる事に各10ポイントが獲得出来るようだ。
うーん、BLOの時は各50ポイントだったのにな、ケチくさい世界だよね。
とは言っても、待望のスキルポイントだ。
「これでレモーネとちゃんとお話しが出来るね!」
とりあえず、スキル欄の学術系タブ内にあるコルベス王国語のレベルを1にあげてアクティブにしてみる。
「レモーネ、あたしの言っている事が分かる?」
そう尋ねると、不機嫌そうな表情が驚きに変わる。
「モカ、ことば、わかる? なった!?」
レモーネの言葉が分かる! でも何でカタコト? あぁ、スキルレベルか! とモカはスキルレベルを2に上げる。
「これならどう? あたしの言葉、ちゃんと理解出来る?」
「は、はい、私、あなた、言葉、わかります、です」
「うーん、まだカタコトだな……」
画面を操作してスキルレベルを4まで上げると、ようやくレモーネの言葉が流暢に聞こえるようになった。
「モカ! あなた、言葉が話せるようになったのね!?」
「あ、うん、思い出した、っていうか……何と言うか……」
へへ、と頬を掻くあたしを見て、レモーネはキャッキャとはしゃぐ。
「良かった! ここら辺じゃ聞いた事が無い言葉だったから不思議だったのよ? どこの国の言葉なの?」
「え? えっと……と、遠い島国! そう東の果てにある島国の言葉なの。あたし、そこの出身で……えと、はい……あ、そうだ。レモーネ、今までちゃんと言葉に出来なかったから、今伝えるね?」
そう言ってきちんとレモーネに向き合い、深く頭を下げる。
「あたしを助けてくれて、本当にありがとう。あなたがいなかったら、あたしはきっとあそこで死んでいた。だから、本当に、ありがとう。このご恩は一生忘れません」
こんなにしっかりと謝るとは思っていなかったのか、レモーネは口ごもり、モジモジとしだす。
「え、えっと……どういたしまして? で良いのかな?」
「もちろん! それよりもさ……あの猪魔獣、どうする?」
チラッと視線を向けると、レモーネもつられてそちらを見る。
「どうしようか……持って帰れないよね? モカの短剣で切り取って持てるだけ持っていく?」
このまま放っておけば、血の匂いで他の魔獣が寄って来るのは明白だ。ともすればレモーネの言い分が1番良いような気がしてくる。
「うーん、ちょっと試してみたい事があるんだけど、良い?」
とは言え、この世界で初めて倒した魔獣をそのまま持ち帰りたいなぁ、と思っているんだよ? トロフィー代わりでは無いけど、それに準じた物がある方が、村に帰ってから色々とやりやすいと思う。
「このサイズの魔獣を仕留められる、って分かってくれれば、武器を持つのも不自然じゃないし、武器も作ってくれそうだしね……」
そんな事を思いながら、ステータスポイントを振ってみる事にする。
振れるポイントは20。
あたしのキャラクタービルド論はとにかく敏捷とスタミナを上げる! 耐久力? 何それ美味しいの? 当たらなければどうってこと無いもんね。ただぁ! 今は目の前の巨体を持って帰ることが最優先だよ。でもポイントを全部筋力に注ぎ込むのは持論に反するから……筋力と敏捷に振るか? ……無理なら無理でレモーネの意見を採用すれば良いだけだしね。
画面を操作してポイントを振り終えたモカは、猪魔獣の側まで行き、一番掴みやすそうな牙に手を掛けて、引っ張った。
「んん〜っ! っは、ダメだ! 動かない!」
流石に10ポイントでどうにかなるはずもないか、とモカは額の汗を拭う。
「じゃあ、やっぱり解体していくしかないね……」
あーあ、これだけのお肉があったら、村の人たち、大喜びなんだけどなぁ、とぼやくレモーネは悔しそうに口元を歪ませているのを見ていると、思い付く。
「あ、そうだ……BLOだとアイテムボックスに肉とか入れられたよね……出来るかな?」
ポツポツと呟き、何となく牙を掴んで、アイテムボックスに収納する要領で猪魔獣の死体をアイテムボックスへとしまってみる。
「「え!?」」
入ってしまった。あの巨大な質量の物体が、最も簡単に。
「あ、あはは、出来ちゃったよ……」
と唖然とするあたしに、レモーネはぴょんぴょんと跳ねるほどに大喜びだ。
「え! すごい、すごいよモカ! 収納魔法を使える人はそれなりにいるって聞くけど、こんな大きな物が入る容量の人なんて初めて見たよ!? すごい、すごいよ! モカはすごいね!?」
テンションが上がりすぎて、レモーネの目がおかしいことになっている。ぐるぐる目、とでも言えば良いのか、とにかく変なテンションでキャッキャと騒いでいるのだが、それが不思議でしょうがない。
「ちょ、ちょっとレモーネ、落ち着いて!」
「落ち着いてられないよ! モカはすごい魔法使いだったんだね!」
え、違うけど? あたしは剣士ですけど? 剣神なんですけど? 世界最強だったんですけど!?
「これなら村の人も喜んでくれるよ! それに、今までルフィデリアを倒せる人なんていなかったから、村に帰ったらお祭り騒ぎになっちゃうよ!」
年相応にわーきゃーと騒ぎ立てるレモーネがすごく微笑ましい。
「レモーネ、落ち着いて、ね? ほ、ほら! まだお仕事の途中だったでしょ! 採ったやつは大丈夫?」
「あ、そうだった! えへへ……」
恥ずかしそうにはにかんで、レモーネは籠の様子を見る。
「うん、籠と果物は大丈夫そうだよ、モカ。量も……今日はこれくらいで良いかも」
「いつももう少し多いの?」
「ううん、今日はモカもいるからいつもより多いよ。だから、あんまり多くても食べきれないと思うから」
そりゃそうだ。いつもの倍も収穫したんだから当たり前だよね。って事は残ったのは売ったり加工したりするのかな? これでジャムとか作ったら美味しそうだよね。
「どうしたの?」
「え? あぁ、これでジャム作ったら美味しそうだなって思って」
「……ジャムってなぁに?」
お、そう来たか……これはアレかな? 異世界でのお約束の一つ、新しい料理を伝授するやつだね!
「甘くてトロトロでとっても美味しくて、幸せな食べ物のこと。帰ったら作ってあげるよ」
「ほんと!? えへ、楽しみだなぁ」
へにゃっと笑うレモーネがあまりにも可愛すぎる。この子、絶対に無意識なんだろうな……こんなの、村の男の子たちが放って置かないやつじゃんね。
「じゃあ、すぐに帰ろうか。いつまでもここにいると血の匂いで他の動物が集まってきちゃうからね」
「そ、そうだね……山には他にも危険な魔獣がいるし……帰ろうか」
レモーネが不安そうな顔で籠を背負うのを見て、同じように籠を背負ったけど、ステータスが上がったおかげで、満杯になった籠を持つのに特に苦労はしなかった。
でも、筋力と敏捷だけを上げただけなので、帰りは行きとあまり大差無い時間が掛かってしまった。
でも、そんな事は些細な事。
何故なら、レモーネと会話が出来るようになったからね。そのおかげでレモーネからこの世界についての話を聞くことが出来たんだから。
森の中をゆっくりと歩きながら、頬を撫でる風の心地良さを思う存分に楽しみながら、あたしたちはこれまで話せなかった時間を埋めるように話をしまくった。
その結果、ステータス画面のメモ欄にはこの世界についての情報がかなり追記することが出来た。
まず地理。
レモーネたちが住む村はコルベス王国の北側に位置する小さな村であること。南に行けば王都へ、さらに北に行けば交易都市がある。
続いて経済と生物。
BLOでは貨幣はゴールドで統一されていたけど、この世界では違うらしい。貨幣は銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、虹金貨が流通していて、金貨以上は平民では手にする機会は少なく、基本的には銀貨以下の硬貨で取引をするみたい。
そして生物。
この世界には先ほどのような魔獣が数多く存在している。もちろん、鹿や牛、馬などの普通の動物もいる。魔獣は基本的には人類の敵として認識されており、騎士や冒険者たちの手で討伐されるようだ。
レモーネの話を聞いていく中で、必要な情報をすぐにメモ欄に記入していると、最後の情報に度肝を抜かれる事になる。
「モカの国ではどうだったか知らないけど、この大陸では魔法使いが一強なの。大昔にいた英雄は違うけど、今の時代で剣士なんて弱い職業になる人なんて1人もいないよ?」
「なん、だと……? 剣士が、弱い、だと……?」
どうやら立場も強さも弱いらしい。
どうしてそうなったのかと言えば、今から150年ほど前に、偉大な魔法使いの手によって、魔力総量増大の法則、無詠唱魔術の学習法確立、魔力回復薬の開発という3大魔法革新によって、世界は魔法使い一強の時代となったらしい。
戦いにおいて、距離というのは最も明確なアドバンテージとなりうる。
拳より剣、剣より槍、槍より弓、現代であれば弓より拳銃、拳銃よりライフル、といった具合に遠距離攻撃の手段が増えていくが、この世界では拳銃やライフルの代わりに魔法が進化していった。
そのため、魔法使いのアドバンテージは鰻登りとなり、この異世界において魔法使いじゃない人間を探す方が大変なのだとか。
そのため、現在では冒険者たちのほとんどが魔法使いで、剣士というのは数えるほどしかいない。
そんな魔法使いは、中・遠距離だけでなく近距離用の拳闘魔法や魔力で剣を作る魔法剣なども扱えるため、オールラウンダーとして活躍する。
さらに、多くの魔法体系が確立されており、魔力と魔法の素質があるものならば、様々な魔法を学ぶことが出来るようになったのも大きい要因の1つなんだろうね。
「じゃ、じゃあ……剣士は……剣士はもういないの!?」
「いないわけじゃ無いよ? ただ……その、あんまり立場は良くない、かな?」
思わずその場に崩れ落ちそうになるのを何とか我慢して、涙ぐんだ瞳をレモーネに向けた。
「そ、そんな顔しないでよ、モカ。あ、そ、そうだ! あのね、すごい昔に、剣だけで神様になった英雄がいたんだよ! その英雄はね、神様になったお祝いで、他の神様から1番強い剣を貰ったんだって!」
その話を聞いたあたしの瞳が輝くのが分かったんだろうね、レモーネの顔がうわぁ、良い顔するなぁ、って言ってるのが分かる。
「今もその剣はこの世界のどこかにあって、相応しい持ち主が現れるのを待っているんだって……すごいよねぇ……」
「そ、その剣はどこに!? どこにあるの!?」
「わ、分からないよぉ……それに、今の時代に剣なんて手に入っても……」
「むぅ、レモーネ嫌い!」
不貞腐れたように頬を膨らませ、プイッとそっぽを向けば、レモーネは慌てて言葉を続けてくれた。
「あ、で、でも、その『天剣』があった、って言うのは本当だから!」
「今、なんて言った!?」
「えぅ? え、なに!? どうしたの!?」
「今、なんて、言った!? 天剣、って言った!?」
ガタガタと肩を揺すられ、ぐわんぐわんする視界でレモーネは何が起きているのか不思議でしょうがない。
「レモーネ、答えて! 今、天剣って言った!?」
「う、うん、言った、言った! 天剣って言いましたーっ!」
何とか言葉を搾り出すと、いきなりモカの手が止まる。
しばらくぐわんぐわんと揺れる感覚の中、モカがものすごく真剣な表情でぶつぶつ言っているのが見えて、レモーネが困惑しているのが伝わってくるが、今はそれどころじゃない。
「魔法使い一強の世界で最強の剣? 大昔の英雄が神の座に……それが剣神? それが手にした得物が天剣……神々の力を撚り合わせて作られた神造武器……似てる……いや、似てるなんてものじゃない。BLOの天剣を探す時に見つけた宝珠のフレーバーテキストと同じだ……どう言うこと? この世界はBLOじゃないけど、設定の1部が受け継がれてる? だからBLOのステータス画面のUIがそのまま流用された? じゃあ……あたしは、もう1度、天剣を手に入れる事が、出来る? そのチャンスが、まだ、ある?」
真剣な顔で、ブツブツと呪文のように呟くあたしの姿に、レモーネは若干の恐怖を覚えたのだろう。
「ねぇ、レモーネ?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「その天剣の情報って、どこで知ったの?」
「え、あ、えっと……村にいる鍛冶屋のおじいちゃん、から……だけど……」
「そう、村に帰ったら案内して」
「え?」
「案内して!」
「は、はい!」
今度こそ……今度こそ、あたしは天剣を手に入れたい。いや、手に入れる。あの時と同じ過ちは、もうしない。そして……そして、剣神として、あたしはーー
様々な感情が蠱毒のように生まれては消え、渦巻き、1つの強い感情へと昇華されていく。
すなわち、天剣を手にし、再び剣神の座に着く。
そして、あたしを叩いた馬鹿どもに思い知らせてやる。
あたしこそが真の剣神なのだ、と。
そのためには力が必要だ。
全盛期の頃と同じかそれ以上の力が。
もう少し、この村で力をつけてから、天剣探しの旅に出よう。
情動渦巻く瞳は、野望に燃える。
その背中を見つめていたレモーネの寂しげな視線にはついぞ気付く事はなかった。
ここからモカの『魔法一強の異世界を剣一本で成り上がる』話が本格的に始まります(多分)




