79、人形師の合流
メルツェナさんが合流したのは、大乱獲を終えた翌日の事だった。
森の中で野営をしていたあたしたちは、日が昇る少し前に目覚め、朝食を済ませ、それぞれが野営の撤収をしている最中だと言うのに、呑気な顔をして現れたのである。
「あら? 朝食に間に合わなかった?」
その第一声がこれだ。
普通なら「遅れてごめんなさい」とか言うと思うんだけど、メルツェナさんは違う。自分のご飯の心配だけだ。
厚かましいにも程があるよ! 腹立つなぁ! とぷりぷり怒っていたら、メルツェナさんはオーバーに肩を竦める。
「これだから小娘は……いい? あたしはあんたらの想像もつかないハードワークを徹夜で片付けて飛んで来てあげたのよ? 昨日のお昼から何も食べてないんだから、少しは甘やかしなさい! と言うかもっと先輩を敬えないのかしら、この小娘は……」
よくよく見れば、メルツェナさんの目の下には隈があるし、肌も少しガサガサに見える。どうやら本当に激務だったみたいだね。
「はぁ……もう撤収しちゃったんで、少し時間掛かりますよ?」
やれやれ、とあたしは溜息混じりにそう言うと、メルツェナさんはニンマリと笑う。
「小娘のお手並み拝見ね」
「昨日の残り物しか無いですからね?」
「やーん、朝はバランス良く食べたいわ」
「はいはい、それはまた今度ね」
「意地悪なママね」
「大きな赤ちゃんに言われたくない」
そんなやりとりを経て、あたしがメルツェナさんの朝食の準備をしていると、メルツェナさんはグレイグさんたちに昨日の出来事を色々と聞いたらしく、呆れたような声があがる。
「あんたらも苦労したのね……にしても小娘! あんたって本当にバカなの? 山で異変が起きてるってタイミングで、山からどれくらいの魔獣が降りて来てるのかも分からないのに、魔獣を集めるなんて……ただの自殺願望か破滅願望の持ち主くらいよ? 無事だったから良いものの、下手すりゃ全滅してたかもしれないし、溢れた魔獣が王都に雪崩れ込んできていたかも知れないのよ?」
昨日の残り物の黒パンを半分に切って焼き、同じく残り物のハンバーグとベーコンを温め、目玉焼きを作りながら、あたしは大いに反論する。
「そんなの初めから分かってましたよ! その上で、あたしと『黒金の雷雨』なら問題なく対応出来ると思ったんです。昨日の戦いぶりを見ていれば分かりますからね」
「あのねぇ……万が一ってのもあるでしょうが……」
「いやいや、万が一なんてありませんよ? だってあたしがいるんですもん」
「……あんたのその自信は一体どこからやってくるわけ?」
「どこってそれは……」
あたしが世界最強の剣士だったから。
最も強く、最も早く……だから剣神として在れた。
誰にも負けないという自信もあった。
だというのに負けたわけだけど……でもそれは必要な物だったとさえ思う。多分あそこで負けていなければ、あたしはそれ以上を目指す事を諦めていた。
だからこそ、数多くのモンスターや敵を撃ち倒してきたあたしの技は、まだまだ成長出来るのだと理解出来る。
むしろ、それがあたしの自信だ。
あたしは最強。
でも、さらに上を目指せる。
成長出来ると言うことは、それだけのポテンシャルがあると言うことだ。
さらに強く、さらに速く。
剣の頂に限界はないかも知れないけれど、昨日のあたしよりも、今日のあたしの方が強い。
きっと、心がそれを望んでいるんだ。
そうして、あたしは強くあり続ける。
だから自信しかないんだよね。
「自然と出てくるものじゃないですか、自信って?」
あたしがそう答えると、メルツェナさんは今度こそ本当に呆れたように大きな溜息を吐いた。
「前言を撤回するわ。小娘、あんたは底抜けのバカだったのね……」
「そんなことを言うなら、ご飯無しにしますよ!?」
「良いからさっさと寄越しな。こんなやり取りするのも億劫なくらい腹減ってんの!」
あたしは焼いたパンにハンバーグとベーコン、目玉焼きを乗せて、リナンで作った甘塩っぱいソースを掛けてパンで挟む。
「はいどうぞ、モカ特製のハンバーガーです」
グレイグさんたちが沸かしてくれたお湯で紅茶も淹れてあげると、メルツェナさんは待ってましたと言わんばかりにハンバーガーに齧り付くと、僅か3口で食べ終わり、おかわりを要求してくる。
「めちゃくちゃ美味いわね、これ! 小娘、おかわり!」
「あー、はいはい、ちょっと待ってくださいね」
結局、ハンバーガーを4つも食べたメルツェナさんは、満足そうに紅茶を飲んで元気いっぱいになると、こう宣言した。
「昨日の件でストレスも溜まってるし、あんたたちも少しは楽がしたいでしょ? だから今日はあたしが手を出すことにするわ!」
メルツェナさんが指を鳴らすと、マントからゾロゾロと木彫りの人形が登場し、後片付けを全てやってくれる。
調理器具を洗い、拭いて、椅子やテーブルも片付けてくれたのを、あたしはただアイテムボックスに収納するだけだ。
だからすぐに後片付けは終わり、いよいよ森の奥へ進む事になる。
「よし、それじゃあ行くわよ。ちゃんと着いてきなさいよね!」
メルツェナさんの号令によって出発したあたしたちのとりあえずの目標は、お昼前に山の手前に到着して、お昼休憩をしてから山へと入るというものだ。
そんな中で山に向かって歩いていると強く感じるのは、昨日の大乱獲によってある程度の静けさは保たれていると言うことだ。
とは言え、動く人数が多いという事もあって、少なからず魔獣からの襲撃もある。
しかし、そこは流石のAランク冒険者だ。
鎧袖一触とは良く言ったもので、メルツェナさんがメイスのような杖を一振りするだけで、木の人形たちがまるで本当に生きているかのように動いて一瞬で魔獣を倒していく。
木の人形が持っている武器は多種多様だ。
剣、槍、弓、杖、盾、短剣、エトセトラ。
「すごいですね………」
「あぁ、すごいよな、メルツェナさん。俺たちとは次元が違うのは分かっているけど……流石に凹むな」
しかも驚くべき事にそれらの武器は魔法によって作られたもののようで、戦闘が終わるとすぐに光となって胸元の宝石に吸い込まれていく。
「あれ、魔法の武器ですか?」
グレイグさんに聞いたら、どうやら純度の高い魔石のようで、用意するだけでかなりの金額が必要になるらしい。
「そうだ。しかもあの魔石に込められた魔力量は多いぞ。魔力総量増大の法則、無詠唱魔術の学習法確立、魔力回復薬の開発。この3大魔法革新の恩恵がそのまま力に繋がっているんだ。俺たちも精進しないといけないな」
3大魔法革新……どこかで聞いた気がするな。どこだったっけ? えーっと確か……あ、そうだ。
「レモーネから聞いたんだ」
猪魔獣のルフィデリアを倒した後、コルベス王国語のスキルを取った事でレモーネと色々とお話しが出来た時だ。
そうか……そのおかげでメルツェナさんみたいな高ランクの冒険者が生まれたのか。そりゃかなりの技術革新だったんだろうな。
へぇ、と感心しながら、涼しい顔で先頭を歩き続けるメルツェナさんを眺める。
「ほら、さっさと行くわよ。お昼ご飯もあんたの担当なんだから遅れるんじゃないわよ、小娘」
そんなあたしの視線に気付いたメルツェナさんはふんと鼻を鳴らして顎をしゃくって歩くよう促してくる。
「はいはい、分かりましたよ……」
「お昼は朝のやつとは別のメニューが良いわ」
「我儘言わないで下さい!」
「いやーん、ママ怖ーい」
こんなやり取りをしているメルツェナさんだが『人形師』という二つ名を持つに相応しいAランク冒険者なのだと、この後すぐに思い知らされる事になった。
メルツェナさん、合流です!
次回はメルツェナさん無双回!
メルツェナさん、可愛いね。




