70、簡単な作戦会議
王都の西にはそれなりに広い丘陵地帯となっている。
整備された街道が草原を横断しており、遠くに見える鬱蒼とした森林群へと続いていた。
目的地へと向かう道中に話を聞いたら、どうやらあたしがグリザークからこの王都に来る途中で通った森と繋がっているらしい。
あのワイズマン・エイプとかいう猿の魔獣に襲われた森がそうだ。
と言うことは、あれにまた襲われるのか……と憂鬱になってくるのだけど、どうやらあの猿たちは、双頭蛇から逃げるために森の南に移動したのではないかとグレイグさんたちは推測していて、メルツェナさんもある程度の同意をしている。
しばらく歩くと、街道の途中に簡易的な小屋が見えてきた。
どうやら街道はここから封鎖されているようだ。
「申し訳ありません、現在この街道は全面封鎖を――」
簡易小屋の前に立っている監視員と思しき兵士たちが、あたしたちを見つけると駆け寄りながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご苦労様。私はAランク冒険者のメルツェナよ。依頼を受けて平原に居座る魔獣の討伐に来たわ」
「これは申し訳ありません、冒険者の方々でしたか!」
そんな兵士たちに自身のギルドカードを見せ、あたしたちを紹介してくれた。
「あたしはオブザーバーで、依頼を遂行するのはこいつら。Cランクパーティーの……あー、なんだっけ、名前」
「あ、俺たちCランクパーティーの『黒金の雷雨』です」
「んでこっちの小娘がモカ」
「Cランクのモカです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて、兵士たちに挨拶をしたあたしは、チラッと体を傾けて、閉鎖されている平原の奥を観察する。
「この先に鹿がいるんだよね?」
「はい、全部で46頭いるそうですが、森を追われた事で荒ぶっているようで、かなり危険です。本来であれば危険度が低い魔獣なんですが、今回はCランク、状況によってはBランクの脅威度と認定されています」
「ふーん、じゃああたしは観戦に回るから、あんたたちでなんとかしなさい」
メルツェナさんが大きな欠伸を1つ。
その様子にグレイグさんたちがギョッとした顔でメルツェナさんを見た。
「何よ? あたしはオブザーバーで、手も口も出さないわよ?」
「で、ですけど、流石に風角鹿の群れを俺たちだけで、ってなると……」
「何よ、そこの小娘はやる気マンマンみたいだけど?」
え!? と『黒金の雷雨』が一斉にあたしを見つめてきた。
あたしはアイテムボックスから【理切】取り出して腰に装備していたから、少し驚いた。
「? 何です?」
「いやいや! 風角鹿の群れだぞ、モカちゃん!? 俺たちだけじゃあ心許ないというか……」
ラルフさんが珍しくあたふたしているのだが、何をそんなに慌てる必要があるというのだろうか? もしかしたら、あたしが知る鹿系の魔獣と違うのかな?
BLOで鹿の魔獣と言えば、最も有名なのがテン・トーメンツ・カリブーだろう。
10本に枝分かれした角でそれぞれ、毒、盲目、沈黙、狂暴化、睡眠、速度低下、
石化、混乱、呪い、死の魔法が使えるモンスターだ。
HPが高い上に敏捷もそれなりにあって、フィールドを縦横無尽に駆け回りながら、角の魔法をばら撒くから、プレイヤーたちからはめちゃくちゃ嫌われていた。
それに対して風角鹿っていうくらいだから、角で風魔法を使ってくるんでしょ? デバフと確率で即死魔法を放ってくる害悪モンスターに比べたら楽勝だよね。
「え? たかが鹿ですよね? それに、魔法使いなら遠距離から爆撃でもして簡単に終わらせられますよね?」
あたしの発言に、グレイグさんたちはポカンと口を開けて唖然としている。その隣でメルツェナさんは呆れたように頭を抱えていた。
あれ? なんか変なこと言ったかな?
「はぁ……じゃあこうしましょ。小娘、あんた1人でどれくらいいける?」
「……半分」
「本当は?」
「……………………………全部」
「はぁっ!? モカちゃん!? 正気か!? あの数の魔獣を1人で全部倒せるってのか!?」
「ちょっと黙ってなさい」
グレイグさんの発言をピシャリと遮ったメルツェナさんはまた頭を抱えて項垂れる。
「分かったわ。あんたらで半分こしなさい。逃げられないように周囲には私の人形を配置しておく。同じCランクで、人数も多いんだから、半分くらいは余裕でしょ?」
メルツェナさんにそう言われた時のグレイグさんたちの表情は悲壮感が漂う物悲しさがあった。
先輩の言う事だから……と諦めが見て取れるけど、別にそう悲観することもないと思うんだよね。だってただの鹿なんだから。
「大丈夫ですよ、グレイグさん。あんな鹿、さっさと片付けて、素材獲って、帰りましょ?」
「はぁ、簡単に言ってくれる……よし!」
バチン、と自分の頬を叩いて喝を入れたグレイグさんは、メンバーを見渡して力強く頷く。
「俺たちでもやれないわけじゃない。しかもAランクのメルツェナさんがいるんだ、これはいい機会だな!」
「あぁ、そうだな! グレイグの言う通りだ。ザフィーラ、デュラン、俺たちの実力を見てもらおうぜ!」
「いつも通りにやるだけだ、だろ?」
「そうだね、ザフィーラ。今日も頑張ろう」
やる気になった『黒金の雷雨』のみんなはそれぞれに装備を確認をしていく。
パーティーを組んでいるだけあって、自分たちの立ち回りの話を自然と交わしていて、良いコミュニケーションが取れているようだ。
それを眺めていると、グレイグさんにちょいちょいと手招きをされる。
「どうしたんですか?」
「あぁ、いや、一応確認がしておきたくてな。モカちゃんは剣士だろう? どうしても近接戦闘になるだろうから、どう立ち回るか聞いておきたくて……ほら、魔法に巻き込んじゃう可能性が……」
なんだ、そんな事か。
「だったらあたしが初めに行って、群れの半分を片付けちゃいますね! あたしが突っ込んでいって、群れを半分くらい倒したら残ったもう半分の方をお願いします」
「え……あ、あぁ……じゃ、じゃあそれで……」
「? まだ何かあります?」
「……いや、大丈夫だ」
「じゃあ、そろそろ行きますか!」
あたしは意気揚々と【理切】の柄頭に手を置いて、鼻歌混じりで鹿のいる方へ歩いていく。
その様子を見ていた『黒金の雷雨』のメンバーは、全員が同じような事を思っていた。
すなわち――
(……モカちゃんって、本当に何者なんだろうか?)
そんな心の声は知らず、あたしはルンルン気分で鹿の群れに向かっていった。
グレイグさんたちの『黒金の雷雨』はCランクパーティーですが、どちらかといえばBランクに近いCランクです。
実力はBにも劣らないのですが、王都のギルマスであるモンドギルマスに言わせるとまだまだらしい。
「面白い!」 「続きが気になる!」と思って下さった方は、画面下にある【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】を【★★★★★】にして応援していただけると、とても励みになります!
ブックマーク登録や感想もぜひ、宜しくお願いします!




