68、同行者
ブックマーク100件超えました!
ありがとうございます!
ベルムッドさんの鍛冶屋を出て、冒険者ギルドに着いたのは15時を過ぎた頃だった。
途中でお昼ご飯を食べたり、体力回復薬、魔力回復薬、その他諸々の必要な買い出しもついでにしたり、食糧の買い込みをしたりと、それなりに楽しみながらギルドに戻ってきたのだけど。
「……なに? これ」
冒険者ギルドの正面入り口には何故かユリシュさんとメルツェナさん、それからグレイグさんを始めとする『黒金の雷雨』のメンバーが揃っていた。
「おや、モカちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね」
「マスターを待たせるなんて100年早いのよ、小娘」
化け物と痴女の存在はとりあえず置いておくとして、その隣で気まずそうに立ち尽くしているグレイグさんたちに声を掛けた。
「グレイグさん、何でいるんですか?」
自分たちが無視された事に驚いたメルツェナさんが「ちょっと! 無視すんな小娘!」とあたしとグレイグさんの間に割って入ってくる。
だけどあたしはそれも無視して、グレイグさんとの会話を続けた。
「あ、これから仕事ですか? それとも帰ってきたところ?」
「あー……えぇっと……」
言葉を詰まらせるグレイグさんは、チラチラと隣の化け物と痴女の様子を伺っている。
うんうん、隣にこんなのがいたら流石に気になりますよね。分かりますよ、その気持ち。
「おい小娘! 私たちを無視するなんて良い度胸をしてるわね! またボコボコにしてあげても良いのよ?」
「え? ボコボコにされたのはメルツェナさんですよね。自分の糸であたしに1本釣りされた感想はどうでした? 魚の気持ち分かりました? あ、魚じゃないか。生まれたての子鹿みたいに足ブルブルさせてましたもんね。ぷー、くすくす!」
「どうやら本当に死にたいらしいわね……上等だ小娘。今すぐぶちのめーーへぅ!?」
メンチを切ってきたメルツェナさんの頭を叩いたユリシュさんは、わざとらしく溜息を吐く。
「こらメルツェナ、やめなさい」
「はい、マスター」
「それでモカちゃん。君、これから仕事かい?」
なんだろうか……すっごく嫌な予感がする。
それにこの何でもお見通しって感じの視線や声も腹が立つ。流石は化け物だ。
「……だったらどうするんです?」
あたしの喧嘩腰とも取れるような言葉に、どうしてかグレイグさんたちの方が慌てふためく。
「ちょ、おい、モカちゃん!?」
グレイグさんが今にも泣きそうな顔でコソコソと耳打ちをしてきた。
「この人たちの事、知ってるよな? Aランクオーバーのユリシュ=ダヴラさんと、Aランクのメルツェナさんだぞ?」
「知ってますよ? あたしに絡んできた傍迷惑な人たちです」
はっきりと言ってやると『黒金の雷雨』のみんなの顔色が一斉に悪くなる。
「あはは、あの時はごめんね。ちょっと興味が抑えきれなくてね。それで? モカちゃんはこれから仕事かい?」
「……まぁ、はい、そうです。エルダードワーフのベルムッドさんからの指名で依頼を受けます」
「そうか。じゃあ丁度良い。ギルドマスターから、王都の依頼に慣れるまで面倒を見てやれ、と言われてね」
「いえ、いらないです」
「あんた、マスターに逆らうつもりなの?」
再びメンチを切ってきたメルツェナさん。
何なのよ、この太鼓持ちは……ユリシュさんの弟子じゃなくてイエスマンだよね、これは。
「いや、別に私1人でも問題無いですし……」
「へぇ、あの名工と名高いベルムッド翁の依頼がそう簡単だとは思わないけれど……依頼表を見せてもらえるかい?」
有無を言わせない言葉に、あたしは渋々と握りしめていたベルムッドさんからの依頼表を渡した。
受け取ったユリシュさんは内容をしばらく眺めていると、微かに口角を上げて微笑んだ。
「うん、これくらいの依頼なら私が出るまでもないね。丁度いい」
そう言ってユリシュさんはメルツェナさんに向き直って、その肩に手を置く。
「メルツェナ、君がモカちゃんの依頼を手伝ってあげなさい」
その時のメルツェナさんの顔は、形容し難いものだった。心底嫌だと言っているように見えるけど、師の命令だからとひどく葛藤しているようにも見える。
「っぐぅ………そ、それが、マスターの願いであれば……」
「いや、願いじゃない。これは命令だ」
「分かり、ました……」
うわ、本当に嫌なんだろうな……と言うか!
「なんで勝手に決めるんですか! あたしは別にいらないですって! それに! 本当に助けが必要ならグレイグさんたちに頼みますから!」
あたしの言葉に、ユリシュさんは微笑みを絶やさずに全員を見渡す。
「モカちゃん。悪いけれど、Aランクオーバーとしての権限を使わせてもらう。メルツェナをオブザーバーとして任務に同行させなさい。メルツェナ、君はモカちゃんと行動を共にし、例の依頼の調査をしなさい。それからグレイグくん、君たちは急ぎの仕事なんかはあるかい?」
ユリシュさんに問われたグレイグさんたちは無言で首を横に振る。
え? じゃあ、本当にここで何してたの? あたしを待っていた、ってわけでもなさそうだし……まさか、この2人に捕まってたのかな?
「そうか。ならちょうどいい。君たちもモカちゃんの依頼を手伝ってあげなさい」
ただ普通に話しているだけなのに、強制力を含んだ声音に聞こえるのは、きっとユリシュさんの持つ圧倒的なカリスマ性によるものだろう。だから誰もがその言葉に異を唱える事ができず、無言のまま首を縦に振るしか出来なかった。
「うん、よろしい。私は私で、いくつかの指名依頼をこなさないといけないからね。それじゃあ検討を祈っているよ」
そう言うと、ユリシュさんの足元に淡い桜色の魔法陣が出現し、一瞬の後、その姿が掻き消えた。
残されたあたしたちは、気まずい沈黙の中で各々が頭を抱える。
「どうしてこうなった……」
あたしのその言葉を皮切りに、メルツェナさんと『黒金の雷雨』の面々も口というダムが決壊したのか、次々に愚痴が放流されていく。
「それは私のセリフよっ! なんであんたみたいな小娘と一緒にしょうもない依頼を受けなきゃいけないのよ!?」
「頼むモカちゃん! こうなるんなら初めから言っておいてくれ!」
「そうだぜ、モカちゃん! グレイグの言う通りだ! 心臓に悪すぎる! 死ぬかと思っただろ!」
「しかし、流石はAランクオーバーだ。底が見えなかったな……」
「ザフィーラ、あの方は頂点だよ? 僕たちなんかに測れる訳ないよ」
くそぅ、みんな好き勝手に言いやがって……1番文句を言いたいのはあたしだよ。こんな事なら、ベルムッドさんに依頼を受けられるのはあたしだけ、って文言を入れて貰えば良かった。
「ちっ、マスターの命令だから渋々やってやるけど、私の邪魔だけはしないでよね」
「……それはこっちのセリフ」
「はぁ……まぁ良いわ。ほら小娘、依頼を受けにいくわよ。そこの男どもも良いわね。あくまで私はオブザーバー。メインはあんたたちなんだからね」
ほら行くわよ、とメルツェナさんはギルドの扉を開けて、あたしたちを引き連れてAランク専用の受付へと向かう。
こうして、あたしと『黒金の雷雨』、それからメルツェナさんという期間限定の不思議なパーティーが結成された。
はぁ……もう帰りたい。
なんだかんだでみんなで行動することになってしまいました。
次回、依頼で王都の外に出ます。
面白い! 続きが気になる! と思って下さった方は、画面下にある【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】を【★★★★★】にして応援していただけると、とても励みになります!
ブックマーク登録や感想もぜひ、宜しくお願いします!




