67、【理切】
目の前のウインドウに表示されているのは、アレクお爺さんから譲り受け、これまであたしと共にあった相棒の鑑定結果だ。
「【理切】」
それがあたしの相棒の名前。
理を切る? 理って……なんだ?
法則とか原理とか、そういうやつ?
それを……切る?
「にしても、やはり凄まじい内容だな……」
呟くベルムッドさんは、身を屈めてウインドウを覗き込んでいる。
「そんなにすごいですか?」
あたしは尋ねながら、じっくりとウインドウを見つめる。
名称:【理切】
種類:刀
レアリティ:A
攻撃力:0〜
防御力:0〜
会心率:0〜
スロット:0
属性:無
状態異常:無
ボーナス:破壊成長、魔力伝導率220%
ステータス補正:無
内包回路:4
・聖刃ーー装備者の魔力を刀身に纏わせることで切れ味低下、錆や刃こぼれなどを防止する効果を付与する。
・重量可変ーー装備者が回路に流した魔力量に応じて武器自体の重量を自在に変化させる事が出来る。
・魔力奪取ーー魔法や魔力、魔力の込められた物を切る事が出来るようになる。その際に装備者は切った魔力の10%を回復する。
・因果断ちーー必要条件を満たした時にのみ起動する。装備者の想いに応じて、因果を斬り伏せる事ができる。
確かに凄いステータスだと思う。思うけど……
「攻撃力、防御力、会心率……全部0じゃん」
「馬鹿もん、よく見ろ。0〜になっているだろ。これはつまり……」
「つまり?」
「……分からん」
いや、分からないのかい! でも、0からってことは、強化する術があるって事かな? それとも……
「……あたしの技量次第で決まるって事かな?」
あたしがそう呟くと、ベルムッドさんは感心したように頷いた。
「ははぁ、なるほどな。その可能性はあるぞ。ここを見てみろ」
ベルムッドさんが指したのは、ウインドウの下部にある説明欄……つまるところ、フレーバーテキストだ。
そこにはこう書かれている。
神の座に至る者。
剣の頂に至る者。
それに憧れ、焦がれ、魅入られ、惹かれたのは剣の道に生きる者ではなく、それを支えんとする、1人の刀匠だった。
鍛冶の神を相槌に据え、自身の持つ魔力、生命力、運命力、全てを捧げて鍛え上げた神通無比なる一振り。
その執念は一刀として振るわれ、頂に至る道を切り開く。
只人には不可能であった、世界を縛る理すら断ち斬る極意をも内包したこの一振りこそ、剣の頂に至る者が持つに相応しい。
しかし、その資格無き者が手にすれば、この一振りはただの鈍と成り果てる。
汝、剣の頂に至る者。
汝、我が一刀を振るう者。
その命が事切れるまで、ただ1度の敗北も許さず、ただ無心で斬り伏せよ。
あまりにも意味深すぎるフレーバーテキストだよね、これ。
というか、これはあれかな? アレクお爺さんが使いこなせなかったって言ってたのはこれが理由かな?
ウインドウにそっと触れ、その一文をなぞる。
「資格無き者が手にすれば……」
「おぉ、そこだ。つまり、こいつの能力は資格の有無って事になる。だから0から、なんていう鑑定結果になったんだろうな」
言いながら、ベルムッドさんは首を傾げた。
「……ちょいと待て? その資格ってのは……つまり……お、おい! この剣を握って鈍じゃねぇって事は、お前! まさか!?」
ベルムッドさんの口調が慌ただしくなる。驚いているのか、怯えているのか、どっちかは分からないけど、きっとどっちもだ。
「どう……思います?」
「その資格があるってんなら……いや、そうじゃねぇ! 剣の頂って事は、剣神様を負かすって事だぞ!? そんなこと、ただの人間にーー」
「出来るはずがない?」
あたしがベルムッドさんのセリフを奪うと、ベルムッドさんはウッと言葉に詰まる。
「良いですか? 出来る出来ないの話じゃないんです」
前にアレクお爺さんとも話したけど、これは極めてシンプルだ。
「これは、ただ1つだけ……断じてやる、という答えしかないんです」
あたしの言葉に何かを感じ取ったのか、ベルムッドさんは大きく息を吸って、上を向いて何かを思案する。
しばらく上を向いていたベルムッドさんは溜息と共に項垂れた。
「お前さんの覚悟は分かった。分かったが……ワシはお前に何をしてやれる?」
「【理切】の調整をして欲しいです」
「調整ねぇ……正直に言うが、そいつに何か手を加えるのはやめた方が良い。研ぎやコーティングも必要ねぇ。そいつはそのままで完成されとるからな」
それに、とベルムッドさんは腕を組んで気まずそうに唸る。
「ワシらですら、ここまでの物は作れん。作り方も見当がつかん。だから同じ物を作れるかどうか分からん」
何が言いたいのかイマイチよく分からない。
「……つまり?」
「つまり! もしこいつが何かの拍子に破壊されても、修復してやれん! 構造を理解しておらんのだからいじる事も出来ん!」
あぁ、なるほど。それは確かにそうだ。
言い方は悪いけど、子供にスマホを渡すようなものだ。
使い方は分かるけど、だからと言って修理までは出来ない。
そこに鍛冶師としてのプライドやら何やらが加わって、雁字搦めにでもなっているのだろう。
「作り方ならあたしが教えられますよ?」
「何!? 知っているのか、この剣の作り方を!?」
「あー、まぁ、はい。1から作ったってわけじゃないですけど、作り方なら分かります」
「よし、教えろ」
「それは構わないですけど、条件があります」
「なんだ? 言ってみろ」
ズイッと顔を寄せてきたベルムッドさんに、あたしは努めて可愛らしく微笑んだ。
「天剣について知っている情報を全部、教えてください!」
大抵の人はこれで落ちると思っていたけど、ベルムッドさんは例外だったみたい。
はん、と鼻で笑って、ベルムッドさんは呆れたように笑う。
「なんじゃ、何かと思えば天剣だと? それに情報全部とは大きく出たのぉ! 悪いが、それじゃあ釣り合わん。ワシの知っている天剣の情報には、それなりの価値があるからのぉ!」
うーむ、どうやらお願いベースで交渉するのはこれ以上は無理かな? それに、今の感じだと、結構重要そうな事を知っていそうな雰囲気だもんね。
「じゃあ、どうすれば教えてくれますか?」
仕方なくそう尋ねれば、ベルムッドさんはニヤリと笑う。
「ワシの依頼をこなしてくれ。達成した依頼の数に応じて教えてやる」
くそぅ、ここに来てお使いクエストの発生なんて……面倒だけど、ベルムッドさんとは仲良くしておきたい! でも絶対にめんどくさいやつだよね……でも仕方ない!
「わ、分かりました……その依頼、受けます」
あたしはぐぬぬと唸りながら、ベルムッドさんからの依頼を受けることにした。
「おぉ、助かる助かる! いやなぁ! ここの所、魔獣の素材が思ったよりも出回っておらんくてなぁ! どうやら相当強い魔獣が森に現れたとかで、依頼が滞っているようなんだ」
あぁ、確か、グレイグさんたちからも聞いたな。なんだっけ? 確か……
「アンフィスバエナ……双頭の大蛇、だったかな?」
「それじゃ。おかげで鉱石以外の在庫がもう無くてな。貴族の1人に国王の誕生祭で剣を打ってくれと依頼があったんだが、素材がなくて断っておったんだ」
「そうなんだ……じゃあ、ベルムッドさんが欲しい素材を集めてくればいいの?」
「あぁ、今すぐにでも新しい依頼書を書いてやる。一応、お前への指名依頼という事にしておくから、それを持ってギルドで受付をしてこい」
そう言うとベルムッドさんはガサゴソと辺りを物色し始め、見つけた用紙に必要な事を書き始めた。
それを見ながらあたしは、もう一度、【理切】の鑑定結果に目を通す。
一言一句逃さず、間違えず、何度も何度も目を通し、その内容を頭に刻み付けていく。
ベルムッドさんが新しい依頼書を書き終わるのと、あたしが【理切】の鑑定結果を丸暗記し終えたのは、同時だった。
前話に続き、モカの相棒たる【理切】にフォーカスした回です。
色々と判明してきましたが、【理切】を鍛えた人物は紛れもない人間です。ドワーフなどの亜人種ではなく、完全な人間です。もちろんこの世界の、です。
その人がどうして全てを捧げてまでして【理切】を打ったのかは、そのうち書きたいと思っています。




