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【第1章完結! 一気読み推奨】「魔法が最強? あたしの剣の方が速いんだけど?」 元【剣神】のVRMMOストリーマー、魔法一強の異世界で無自覚無双する  作者: 卯月真琴
第2章:冒険者邂逅編

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63、ジャムとスコーンとミルクティー

 ギルドの医務室で一夜を過ごした結果、色んなものがさっぱりとした気分だ。

 身体はまだ若干重いけど、気分は良い。

 だけど、ここにいるとまた厄介ごとに巻き込まれる可能性が高い。と言うか絶対に巻き込まれる。

 なにせ昨日の今日だ。何を理由に絡まられるのか分からない。

 1番最悪なのは、ユリシュさんとの件で他の高ランク冒険者が触発されて、じゃあ俺が私が、って言ってくるパターンだ。

 だからそうなる前にさっさとここから逃げ出した方がいい。

 そもそもギルドに来たのはストレイドギルマスに顔を出せって言われたからであって、別に来たくて来たわけじゃない。

 と言うか、そもそもあたしが王都に来た理由は別にある。

 あたしもすっかりーーいや、ちょっとだけしか忘れていないけど、王都に来たのはここで店を構えるエルダードワーフに、未だ正体が分かっていない相棒について色々と聞くためだ。


「よし、行くか」


 医務室の個室から出ると、医務室の先生がいた。


「おや、体調はもういいのかね?」


「はい、おかげさまで!」


「そうか、なら良かったよ。ではもう仕事に?」


「いえ、今日は行くところがあるので!」


「では気をつけて行って来なさい。本調子だと思っていも、まだ不調が隠れているかもしれないからね」


「ありがとうございます、それじゃ行ってきます」


 穏やかで朗らかな雰囲気の初老の先生に頭を下げて医務室から出る。

 別に悪い事なんてしていないのにフードを目深に被り、そそくさと廊下を早足で駆け抜けていく。

 思っていたよりも注目はされなかったようで、拍子抜けするほど簡単にギルドから出る事が出来た。

 そして気付く。


「……ギルドでエルダードワーフの居場所を聞いておけば良かった」


 そう呟いて見たものの、むしろ探す楽しみが増えたと考えたい。


「お腹も空いてるし、食べ歩きしながらさーがそ、っと」


 そうと決まれれば、この広大な王都を探索するとしよう。

 あたしの歩くギルドの前の大通りは、数多くの人々が活気と熱気を伴って忙しなく動いている。

 ギルドで買った王都の地図と、観光者向けのパンフレットを見ながら、どこから回ろうかと悩む。


「朝だから、何か軽い物が良いかなぁ」


 ここから1番近いのは『朝日の香り』と言うカフェだ。

 どうやらつい最近オープンしたばかりのお店らしいが、店主がグリザークの出身で、グリザークで流行している新しい甘味と紅茶を出しているらしい。

 知っている名前や地名が出てくると妙に親近感を覚えてしまうのは仕方ない。あの街にはお世話になったし、売上に貢献してあげるのも良いかもね。


「よし、行ってみよ」


 ルンルン気分で雑踏に足を踏み入れて、あたしは目当てのカフェを目指す。

 冒険者ギルドから歩いて5分も掛からない場所にあるカフェは朝だと言うのに長蛇の列が出来ていた。

 そのほとんどは女性で年齢層も幅広い。中には何人かと男性も見て取れるけど、誰もがバツの悪そうな表情で縮こまっている。

 奥さんとか恋人に買ってきて、って頼まれのかもね。

 あたしが最後尾に並ぶと、すぐにあたしの後ろにも列が出来ていく。

 だけど回転率は良いようで、スルスルと列が前に進んでいった。その理由の1つは、ほとんどのお客さんがテイクアウトをしている点だ。

 テイクアウトの方が店内飲食より若干安いのもそうだが、どうやらここのカフェは名物のジャムを瓶売りしているらしく、大瓶を抱えて笑顔で帰っていく女性が多い。

 なるほどね。自分の好きな時に好きなだけ食べれるから、別に店内で食べていこうとはならないのか。

 逆に軽めの朝食を食べたい人たちは店内でゆっくりと食べられるってわけね。

 ジャムは店内でも買えるらしいから、とりあえず店内で食べる方向でいこうかな。


「ここのジャム、本当に美味しいわよね〜」


「あんな美味しい甘味があったなんて驚きよね」


「何でもグリザーク近辺の村が発祥地らしいわよ?」


「あぁ、北の方がリナンが甘いって言われているものね、納得だわ」


 後ろで話し始めたおばちゃんたちの声が嫌でも届いてくるが、聞き捨てならない内容だったぞ?

 え? グリザーク近辺の村? リナン? あれ、これって……もしかして、あたしがレモーネに教えたジャム?


「どうして今まで無かったのかしらね、ジャムって。こんなに美味しいのに」


「聞いてみれば作り方も簡単だって言うじゃない?」


「この前、試しに作ってみたけど、思ったようにいかなかったわ。火の加減なのか、材料のせいなのか……」


 おばちゃんたちの話は止まらない。

 そして、あたしはその会話を聞きながら、分かりきった答え合わせをしていく。

 その結果、このジャムはあたしがレモーネに教えたリナンのジャムで間違い無く、どうやらグリザークの商人が村の独占契約を結んでグリザークで売り出して大流行。その噂はすぐに王都まで届き、王族に献上した結果、大好評で御用達にまでなったらしい。

 待ってよ。あたしがレモーネにジャム作りを教えたのはつい最近……じゃないな。もう3ヶ月くらいは経つのか。でもその間にジャムの話題なんて1つも聞かなかったよ!? と言うかあたしのレシピなのにあたしに1円も入って来てなくない!? しかもグリザークの商人って誰!? もしかしてユルゲンさんじゃないよね!?

 これでグリザークに戻る理由がもう1つ出来てしまった。

 ストレイドギルマスを殴りに行って、ユルゲンさんに文句を言って、レモーネには……王族御用達になってすごいね! っていっぱい褒めてあげようか。

 

「お次のお客様〜」


 なんて色々と考えていると、早くもあたしの番が回ってきた。


「テイクアウトですか?」


「中で食べていきたいんですけど」


「かしこまりました。ではお好きな席にどうぞ。別の店員がご注文を伺いに参りますので」


 そう言われて店内へ入る。

 店内の雰囲気は明るめの木材で統一されていて朗らかでゆったりとした、落ち着きのあるものだ。

 席数はカウンターが6席、テーブルが10席。都内のこじんまりとしたカフェみたいな印象を受ける。

 テーブル席には若いお姉さんの2人組、カップルが2組、家族連れが1組がそれぞれ座って楽しそうに話しながら軽食を楽しんでいる。

 カウンターには白髪を綺麗に撫で付けたカイゼル髭が立派なおじさまが幸せそうな顔で紅茶とケーキを食べていた。

 そんなおじさまから1番遠いカウンターに座ってすぐに、店員さんが注文を取りに来てくれた。


「いらっしゃいませ、朝日の香りへようこそ。こちらがメニューとなります。本日のオススメはトリスティアンティーとナッツのスコーンでございます」


 メニューを受け取り、中を見ると、思ったより品数は少ない。

 紅茶が3種類、果実水が2種類、サンドイッチやスコーンと言った軽食が5種類。

 まだ開店したばっかりで充実していないのか、そもそもテイクアウトがメインで店内飲食の方がおまけだったのか。

 でも、注文で迷うような事は無さそうで良かった。


「じゃあ、そのオススメをお願いします」


「紅茶のお好みはございますか?」


 そんな事を聞かれたのは初めてで、戸惑ってしまう。

 好み? ……好みってなんだ? 茶葉マシマシ、渋め、熱め、みたいな?

 そんなあたしを見兼ねてか、店員さんが優しくメニューの下の方を指差してくれた。


「ストレート、レモン、ミルクから始まり、ワインやブランデー、ウイスキーなどを数滴落としたもの、水出しのものなどがございます」


 おぉ、なるほど。

 紅茶なんてペットボトルか紙パックのやつしか飲んだ事ないから、好みって言われても分からないなぁ……ミルクティーで良いかな。


「じゃあミルクティーで」


「かしこまりました。普通のミルクティーかロイヤルミルクティーかが選べますが」


「……ど、どう違うんですか?」


 なんか自分の無知が恥ずかしくなってくるなぁ。


「はい、通常のミルクティーは紅茶にミルクを入れただけのものになりますが、ロイヤルミルクティーはミルクで茶葉を煮出しますので、通常のものより濃厚でコクのある味わいとなります」


「じゃ、じゃあロイヤルミルクティーの方で……」


「かしこまりました。使うミルクはこちらでお選びしておきますね」


 どうやら店員さんはあたしに気を遣ってくれたらしい。

 使うミルクまでいちいち選ばなきゃいけないなんて、本格的な所は大変だね。

 そう考えると手軽に飲めて尚且ついつでも買える日本って異常だったんだなぁ。

 王都の地図を見ながら待っていると、あたしの注文したオススメが運ばれてきた。


「お待たせしました、本日のオススメでございます。スコーンにはこちらのジャムをつけてお召し上がりください」


「おぉ、可愛い! あ、そうだ! すみません、このジャムって……」


「おや、ジャムは初めてですか? つい最近、グリザークの街で流行しております、新しい甘味です。ユルゲン商会というグリザークの商会が売り出し始め、すごい勢いで広がっています」


 やっぱりユルゲンさんの所だったか……やっぱり殴り込みに行ってこようかな。それにしてもユルゲンさんが売り出したってことは、レモーネの村に行ったのかな? それか、レモーネの村の誰かがグリザークに売りに行ったのかな?

 まぁ、他言無用で、とは言ってないし、別に世界に美味しいものが溢れるのは嬉しい事よね。


「それでは、ごゆっくりお楽しみください」


 店員さんが優雅に頭を下げて奥に下がっていく。


「わぁ……良い匂いだ……」


 焼き立てのスコーンとリナンのジャムの香りが鼻腔を刺激して、唾液が溢れ始める。


「それじゃあ……いただきまーす」


 外はサクサク、中はしっとりとしたスコーン。

 そこに、あの甘酸っぱくて濃厚なリナンのジャムを贅沢に乗せて頬張る。

 そして最後に、ミルクの濃厚さとコクをしっかりと感じ、しかし茶葉の持つの香りは一切損なわない、完璧なロイヤルミルクティーを楽しむ。

 これらが織りなすマリアージュは、ちゃんと心を幸せにしてくれた。

リプトンのデカい紙パックのミルクティーは青春の味。

次回もちょっと箸休め回。


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