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【第1章完結! 一気読み推奨】「魔法が最強? あたしの剣の方が速いんだけど?」 元【剣神】のVRMMOストリーマー、魔法一強の異世界で無自覚無双する  作者: 卯月真琴
第2章:冒険者邂逅編

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52、王都への旅路4

 あたしは自分に向かって振り下ろされる魔力で出来た剣の軌道を難なく回避して、グラディウスを一閃ーーしなかった。

 何故なら。


「ひゃっはぁ! 観念しな嬢ちゃん!」


 先頭の男が身体強化魔法で無理矢理パンプアップした筋肉を躍動させて、魔力で編まれた半透明の青い剣を振り下ろすのを見る。

 あたしは半歩だけ身体をずらせば簡単に避けられるなぁ……なんて思って、その通りに動こうとした。

 そして男が踏み込み、切り掛かってきた瞬間。


「ーーっ!? くっっさぁっっっ!?」


 鼻に突き抜けたのは、牛乳を拭いて1ヶ月間も放置した雑巾と腐った油と卵、そしてドブに溜まっているヘドロを、同じ鍋に入れて煮詰めて凝縮したような、それだけで人が殺せるくらいの悪臭だった。

 それは最早、戦闘における回避行動なんていう高尚なものじゃない。

 言うなれば反射的な行動だ。

 生理的嫌悪による拒絶反応があたしの体を突き動かしていた。


「おぇっ!? 近寄んな、バカっ!」 


「ぶげぇっ!?」


 今持てる全ての力で、あたしは男の鳩尾を思い切り蹴り飛ばしていた。

 人が出しちゃいけないような鈍い音と共に、男が吹っ飛んで変な格好のまま地面に転がる。

 あたしは蹴りの反動を利用してバク転をしながら大きく、それはもう大きく距離を取った。

 くそ、油断してた。


「臭いがしなかったのは、今の今まであたしが風上にいたからか! なのに! 戦いになった途端に風の流れが変わるなんて最悪ッ!」


 あたしはアイテムボックスからタオルを取り出して、鼻と口の両方をしっかりと覆う。

 

「適当にボコって逃げるつもりだったけど、もう許さない!」


 グラディウスを突きつけて、あたしは吼える。

 涙目だよ、涙目。臭すぎて涙が出てくるなんてことあるんだね! 山で襲ってきた猿たちの方がまだマシだったなんて、誰も思わないよ!


「おいっ! 何を遊んでやがる! 小娘1人だ、一斉にかかれ!」


 親分の声に、残っている野党たちは言われた通りに襲いかかってくる。

 短杖を構え、無詠唱で放たれる石礫や水の球、火の矢、或いは再び身体強化をして突っ込んでくる奴ら。

 でも、それくらいだったら対処するのは簡単だ。

 魔法を切り捨てながら、肉薄する奴らに順番に蹴りをお見舞いしてやればいい。

 ーーと、その時。


「へへ、食らいな! 強化・鉄球の縛鎖ブースト・ヘヴィチェイン


 親分が取り出した一際豪華な短杖があたしに向けられた。

 その途端、あたしの足首にドロリとした魔力が絡みつき、体が急激に重くなる。まるで地面に縫い付けられたような感覚だ。

 移動と回避の阻害か。

 そして、間髪入れずに親分は下品な笑顔を崩さないまま、次々に短杖を振る。


強化・痺れ這う蛇ブースト・スタンスネイク! 強化・濁った視界(ブースト・ブラインド)!」


 黄色の光が蛇のようにうねりながらあたしを狙い、紺色の煙が視界の端から黒い濁りを広げていく。

 行動阻害に麻痺と盲目。

 ゲームならよく見るデバフのオンパレードだ。


「ははっ! さっきまでの威勢はどうしたよ! 動けねぇだろ! 視えねぇだろ! 並の魔法使いでも、俺様の強化魔法の前じゃ形無しよッ!」


 数の暴力と行動阻害で動きを封じてから、確実に麻痺と盲目を当てる。なるほどなるほど。バカはバカなりに考えているってわけね。

 だけどね。


「あたしが、何の対策もしていないと、本気で思ってる?」


 これでもあたしは元剣神。最強の称号を欲しいままにした世界トップランカーだよ? でもまさか、こんな所で使う事になるなんて思わなかったよ。


「モカ式自在拳闘術・魔法破壊掌!」


 徐々に黒い煙に侵食されていく視界や麻痺で少ししか動かない体だけど、やる事は単純だ。

 モカ式の名を冠するこの拳闘術は簡単に言えば、自分の体を武器に見立てる事で、武器に効果を付与する『破魔剣』や『退魔剣』などのスキルを自身の体に付与するのだ。

 この技術はBLOでの相棒である【天羽々斬】を手にした時に必要に駆られて生み出したんだよね。

 だってさぁ! 【天羽々斬】ってば、強いけど結構ピーキーな性能してて、その内の一つに「自身に対する付与効果のあるスキル、魔法、アイテムなどの効果を全て受け付けない」ってのがあったんだよ!

 これのせいで破魔剣や退魔剣といったスキルが使えなくなって、仕方ないからしばらくは二刀流で頑張ってたんだよね。

 そして、偶然にも自分のチョップに破魔剣のスキルが乗ったのを見て、これは使える! と思って試行錯誤をして今のモカ式自在拳闘術が生まれたってわけ。

 格ゲーの企画で八極拳を習う事になった時はマジか!? って思ったけど、やって良かったね!


「これくらい出来ないと、マジで危なかったんだから……」


 自身を武器とする事で、自身にデバフを破壊する『断魔剣』のスキルを発現させる。たったそれだけのことで、あたしの内側から放たれたスキルの力が、あたしを蝕んでいたデバフの魔法を綺麗に消し去った。


「これでよし、っと!」


「な、なん!? なんだとっ!? 馬鹿なッ!?」


「悪いけど、こんな悪臭の中で戦いたく無いから、秒で終わらせるわ!」


 地面を蹴る。

 こんな臭い空間にいつまでもいられるか! という切実な願いは、あたしの動きを凄まじいほどに加速させてくれた。

 前後左右から放たれた攻撃魔法は危ないものだけ『破魔剣』スキルで切り捨て、他は回避する。


「あっ……」


 と言う間に、魔法を切り捨てた隙間を縫って杖を構えた男に肉薄し、その頭をグラディウスの峰で思いっきり叩けば、男の意識は刈り取られる。

 それからは一方的な蹂躙劇だ。

 あたしが跳躍する度に、野党たちがお手玉のように宙に舞っては地面に沈んでいく。

 そして、最後の1人はデバフ魔法を解除され、目の前で手下たちが一方的にやられたのを目の当たりして、腰を抜かしてブルブルと震えている親分だ。


「はい、おしまい」


 グラディウスを突きつけられ、親分は必死に後ずさる。


「ひぃい!? く、来るな! こっちに来るなぁあああ!」


「誰が好き好んで悪臭を振り撒くゴミに近づくのよ……はぁ、これに懲りたら、盗賊なんてやめて真っ当に働きな」


 まぁ、それが無理だったから野盗なんぞに身をやつしているんだろうけど。でも、あんなデバフ魔法が使えるなら冒険者のチームじゃ引っ張りだこだと思うんだけどな。


「それから、あたし疲れたから、今すぐにあの大木をどかして」


 唖然としている親分を睨みつける。


「ど、か、し、て!」


「へ、へいっ! や、やります! やらせていただきますぅぅ!」


 親分の一言で、死に物狂いの作業が始まった。

 泣き叫びながら、折れた腕や足を庇いながら、野盗たちは必死に街道を塞ぐ大木に飛びついていき、やがて大木は街道の脇に押しやられる。

 街道を塞いでいた大木が無くなると、野盗たちは我先にとあたしに背中を見せて逃げていった。


「もう悪いことしちゃダメだからねーっ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ去る背中を見ながら、あたしは深呼吸がしたくて、鼻と口を覆っていたタオルを取ろうとして止める。


「……もうちょっと進んでからにしよう」


 残り香があるかも知れないしね。

 早いとこ出発しよう。これ以上ここにいたら体や服にあの悪臭が付いちゃうかも知れないし。

 そうして歩き出したあたしは、しばらくしてからタオルを外し、新鮮な空気を胸いっぱいに堪能した。

 王都まで、あと少し。

 2つ目のモカ式が出ました。


 このモカ式自在拳闘術は数あるモカ式の中でも、他のプレイヤーに情報が開示されている技術で、レベルやランクの高低を問わず、多くのBLOプレイヤーが頑張ってこの自在拳闘術を習得しました。

 原理としては作中に書いた通りですが、モカが情報を発見・開示するまで、誰も気付かなったようです。

 現にBLOの運営もモカが開示した情報を見て、マジで? と頭を抱えました。

 と言うのも、BLOにある付与効果のあるスキルや魔法、アイテムなどには「○○の効果を刀身に付与する」と書かれていますが、『破魔剣』、『退魔剣』、『断魔剣』など一部のスキルや魔法には「○○の効果を『武器』に付与する」と書かれています。

 そのせいで、「自身に対する付与効果のあるスキル、魔法、アイテムなどの効果を全て受け付けない」という【天羽々斬】の装備中に該当のスキルを使用すると、【天羽々斬】には無効だけど、それを持つ『手』は武器扱いになるという処理が行われてしまったのです。

 これには流石の運営もびっくりでした。

 ちなみに、「自身に対する付与効果のあるスキル、魔法、アイテムなどの効果を全て受け付けない」という能力は【天羽々斬】しか確認されていないので、偶然だけど、見つけるべくして見つかった、という感じです。

 これによって、プレイヤーたちは、装備している剣などの武器には『破魔剣』を、その武器を持つ利き手とは逆の手に『退魔剣』を、それぞれ発動させることが出来るようになった、というわけですね。


 さすモカ。

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