46、サプライズ
それから出発までの4日間は特に何事も無く、旅立つワクワク感と別れる寂しさとに挟まれながらドギマギとした心持ちで過ごした。
旅支度を整えた翌日は商業ギルドへ赴き、VIP用のすごい豪華な応接室に通されて、ギルマスから受け取った羊皮紙を渡して、お宝の分配金を受け取る。
金額としてはかなりの額となっており、金貨より上の白金貨での受け取りだった。
金貨の上には大金貨、白金貨、虹金貨があるのだが、順番に100万円、1000万、1億円くらいの価値なのだと考えていたが、実際にその額がたった2枚の白金貨になっている事が信じられない。
「今、この手に2000万円が、ある……す、すごい……」
白金貨は500円玉より2回りほど大きく、重い。だが、その重さは金額だけの重さではないのだ。
ジッと手のひらの白金貨を見つめ、アイテムボックスから2枚の白金貨が入るくらいの小さな袋を取り出して、そこに大事に入れると、首から下げて服の中へとしまう。
「これは戒めだ。ギルマスが言ってた通り、あたしはこれを忘れない」
亡くなった冒険者たちをあたしは良く知らなかった。
ダンジョンアタック前に1言2言話したくらいだし、ダンジョン内の休憩中にも1言くらい言葉を交わしたくらい。
その時は別に相手に興味は無かったから、知ろうともしなかった。
それに、この世界に来て人の死を見たのは初めてでも無い。
レモーネの村にいた時も狩人の村人が魔獣に殺されたし、最初のダンジョンアタックの時にも2人が死んでいる。
その人たちとの関わりなんてもちろん無かったし、『灰銀猟団』や『不死鳥』の面々とも面識なんて無かった。
だと言うのに、どうして『灰銀猟団』と『不死鳥』の4人が亡くなった事が心の棘になっているのか。
「多分……自分が慢心していた、ってはっきりと自覚したからなんだろうな……」
冷えた頭の自己分析の結果に、あたしは肩を竦めて深い溜息を吐いた。
「でも、もう自重しないって決めたしね……2度と同じ事はしないように、強くならなきゃね!」
改めて決意を胸に抱き、商業ギルドを後にしたあたしは、その足でオルゲンさんの店に向かって外套を受け取りに行く。
直した裾や袖には金色のステッチが施されていて、よりスマートで洗練されたような印象だ。
「わ、わぁ! すごい! めちゃくちゃオシャレ!」
「でしょう? 目立ちはしないけど、チラッと目に入ると煌びやかに見えるからね。これならモカちゃんも舐められないで済むね!」
「ありがとうございます、おばさん! 大事に使いますね!」
受け取った外套を羽織り、サイズ感を確認したが完璧にフィットしているし、裾も丈もダサく無いけど、だらし無くもないという絶妙さだ。
「おぉ、かっこいい……」
奥さんが用意してくれた姿見を見て感嘆の声を漏らしながら、クルクルと回る。ふわりと外套が膨らんでストン、と落ちる。
シルエットも絞ってあるようで、この外套を羽織ったままでも簡単な戦闘くらいならこなせそうだ。
「でも、こうなると違う剣が欲しくなってくるぁ……」
見た目やシルエット的に、腰から日本刀を下げていても問題は無いだろうし、カッコ悪いとも思えないのだが、やはりこの見た目的には西洋剣の方が馴染みは良いだろう。
「予備武器で1本くらい持ってた方が良いかも……」
腰に細めの剣を帯剣しても良いし、身の丈くらいの大剣を背負ってみてもいい。あたしのスタイル的には大剣は除外されるから、やはりここはお馴染みの片手直剣が良いだろう。
という事をオルゲンさんに相談すると、店の奥から1本の剣を持ってきた。
「これは……グラディウス?」
全長80センチほどのショートソードで鍔が小さく、片手持ちを想定してグリップは短めの造りとなっている。
基本的には盾を使う事を前提としている剣であるため、斬るよりも突く方が扱いやすいんだよね。
まだ初心者だった頃によくお世話になっていた武器の1つだ。
「そうだ。お前さんが使っていた片手直剣を潰し、いくつかの魔獣の素材を繋ぎに鍛え直した。流石にあの剣があのままお前とお別れ、ってのもなんか違う気がしてな。手持ち無沙汰ってのもあって、何と無く打っちまった。良かったらこいつも連れて行ってやってくれ」
良く見れば、確かにあの片手直剣の意匠がグリップに見て取れる。
「良いんですか? 嬉しいですけど……」
「あぁ、構わん。いくら出来の良い剣を打ったところで、この街じゃあお前さんしか使い手がいねぇ。だったら、こんな所で埃を被るより旅に連れて行ってもらった方が幸せってもんだ」
思わぬサプライズに、あたしはぱちくりと瞬きをしながら、改めてグラディウスを見た。
この世界の最初の相棒は新しい形で、また一緒に旅をしてくれるらしい。
「ありがとうございます!」
グラディウスを手に取り、鞘から抜いて振ってみると、その重さも重心も1番しっくりくる状態になっている。
オルゲンさん、あたしの癖とか振りやすさとか、もうちゃんと頭に入っているんだ……照れるね、へへ。
そのままグラディウスを日本刀とは逆の腰に装備させれば、合計で3本の剣を下げている事になる。
左に日本刀、右にグラディウス、背面に短剣という布陣だ。
基本的には日本刀での戦闘になると思うが、場合によってはグラディウスと短剣の二刀流という事もあり得るだろう。
「代金は幾らですか?」
「いらん! 元々あれはお前の剣だ、素材だってお前から貰った幾つかの素材を使っただけだしな!」
「……分かりました、ありがたく頂きます! じゃ、試し切り、行ってきます!」
新しい外套をはためかせ、嬉しいサプライズに笑顔を煌めかせ、あたしは上機嫌でオルゲンの店を出て、鼻歌を歌いながら野営の練習がてら、北の森へと向かった。
ついでにグラディウスの試し切りもしてみよーっと。
モカがこの世界に来てから使っていた片手直剣を、どうしてもこのまま廃棄させるのは勿体無いと思っていたので、こんな展開になって良かったです。
これでモカは三刀流になりましたね。
流石に口に咥えたりはしません。
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