44、旅支度
すみません、今回はちょっと短いです。
アレク爺さんとオルゲンさんと別れたあたしは、旅支度のためにとある商店を訪れていた。
この街に訪れる際に出会い、護衛の依頼を引き受けた商人のユルゲンさんが営む商会である。
お店はグリザークの街でもかなり良い立地にあって、人通りの多いメインストリートに面していた。
店の外にはユルゲンさんのオススメと題した商品が並べられており、字が読めないでも分かりやすいようにイラストで使い方が書かれているのを見れば、なるほど確かに親しみやすい印象を受けるだろう。
「ごめんくださーい、ユルゲンさん、いらっしゃいますか?」
そんなお店に入って近くにいた少年の店員に話しかけると、男の子はきっちりとしたお辞儀をして、優雅な所作で店の奥に向かう。
5分も経たずに店の奥から、少年と一緒にユルゲンさんが現れた。
「おぉ! 来てくれたんだね、モカちゃん。ようこそ我がユルゲン商会へ」
ユルゲンさんは柔和な笑みを浮かべて快く出迎えてくれる。そのまま奥に通されて応接室へと通されてしまった。
「モカちゃんの噂は色々と聞いているよ。ダンジョンスタンピードを1人で食い止めたんだって!? すっごいねぇ!」
ギルマスの執務室と同じくらいふかふかのソファーに腰掛け、出された果実水をちびちび飲みながら、どんな噂が流れてるんだろ? と首を傾げた。
「あはは、あたし1人だけじゃないですけどね……」
「いやいや、それに準じた事は成し遂げたんでしょう? じゃなかったらこんな噂は流れないよ。それで、今日はどうして来てくれたの?」
流れるような接客術にあたしは感心しながら、今日ここを訪れた用件を話す。
「5日後に旅に出るつもりなので、旅支度を……と思って。そしたら前にユルゲンさんに何かあったらお店に来てくれ、って言っていたのを思い出して」
「えぇ、本当かい!? せっかくこの街での知名度も上がってきたんだから、まだここにいればいいのに」
「あたしもそうしたいけど、やりたい事の途中で寄っただけなんで」
「そうなんだ。やりたい事ってどんな事なの? あ、僕が聞いても大丈夫なやつ?」
「良いですけど、聞いても面白くないですよ?」
この世界で天剣を探す、剣神を倒す、なんて夢を語るのはやめておいた方が良いとアレクお爺さんに言われた事がある。
まぁ、魔法一強の世界では絶対に馬鹿にされる、なんて分かってはいるけど、夢なんて抱いたもの勝ちだと思うんだよね。
叶うとか叶わないとか、大きいとか小さいとか、そういうのはさておいて、生きるための原動力として夢を持つのは良いと思う。
「あたし、世界を旅して天剣を手に入れたいんです。天剣を見つけて、剣神に挑みたいんですよ」
あまりにも壮大な夢に、ユルゲンさんは大きく目を見開いてパチクリと瞬きをした。驚きすぎて口がパクパクと動いているけど、言葉は出てこないみたい。
「そ、それは……またすごい夢だねぇ」
「笑わないんですか?」
「人の夢を笑うほど、僕は酷い人間じゃないよ! それにしても旅、か……どこへ行くつもりなの?」
「とりあえず王都を目指すつもりです。ちょっと用事を済ませたらそのまま南に向かって龍鳴山って所に行く予定です」
「龍鳴山って……すごい所まで行くねぇ。あそこって、魔境に認定されている危ない所だよ?」
おや、初めて聞く情報が出てきたぞ? 魔境ってなんだろ? 立ち入り禁止区域みたいなところかな?
あれか? 冒険者ランクが高くないと入れないとかかな? って事は王都で依頼を受けてランクを上げなきゃいけないか。
「そう言うのも旅の醍醐味だし、あたし強いから大丈夫ですよ」
「モカちゃんなら大丈夫だとは思うけど、あんまり危ない所に行ったり、したりするのはダメだよ? 親御さんだって心配になるんだからね」
親、ねぇ……。
「そこら辺は心配しなくて良いですよ。もういないんで」
そう言ったら、ユルゲンさんは申し訳なさそうに俯いてしまった。
あれ、やばい。別に場を重くしようと思ったわけじゃないのに!
「あ、別に大丈夫なんで、気にしないで下さい! その、あたしの親って、毒親だったんで! 縁が切れて良かったって思ってるくらいなんで!」
「どくおや、ってなんだい? いや、それよりも、自分の両親を悪く言っちゃダメだよ! 縁が切れて良かったなんて、嘘でも言っちゃダメだよ!」
あー、毒親って通じないか。
「……えっと、自分の子供を殺そうとした母親でも、悪く言っちゃダメですか?」
あたしの言葉に、ユルゲンさんは絶句してしまった。
「モカちゃん……君は……」
「あはは、すみません、こんな……別に、変な事を言うつもりじゃなかったんですけど……」
同情して欲しいとか、慰めてほしいとか、そう言うのはもう面倒だ。
それで何が変わる訳でもない。
だったらいつも通りに接して欲しいんだよ。
「もうこの話は終わりです! 早く本題に入りましょ! あたしがここに来たのは人生相談でも、懺悔でもないんですよ! 旅支度がしたくて来たんです!」
あたしの無理矢理にも近い方向転換に、ユルゲンさんも意図を汲み取ってくれたのか、1度息を整えて空気をリセットしてくれた。
「そうだったね。よし、それじゃあ、ちゃんと本題に入ろうか。旅の支度だったね。次の行き先は王都だって言っていたけど……基本的には王都までの旅支度で良いと思うけど……」
「いや、そのまま世界を見て回るつもりなので、ちゃんとした旅支度をしたいんです。野営とかもしたいので、テントとか寝袋とか、調理道具とか、そういうの1式があれば良いなぁ、と」
両親の話は、モカにとっては地雷です。
子供にとって両親は1番の味方のはずが、痛ましい事件は無くならないですね。




