42、喉から手が出るほど
冒険者ギルドを後にしたあたしは、顔を真っ赤にしてオルゲンさんの店を目指して足早に歩いていた。
ああああああああああああ!
恥ずかしい!
死にたい!
泣いてはいないけど、なんで……
なんであんな……
ああああああああああああああ!
ギルマスに言われた言葉や態度に、どうしてか悲しい気持ちをぶつけても良いんだ、と思ったあたしはギルマスに頭を撫でられて昂った心が落ち着いたのが、あまりにも恥ずかしくて、仕方がなかった。
くそぅ! 体は15でも、中身は25のお姉さんなんだよ!
良い歳こいた大人が、あんな、あんな! あああああああああ!
死にたい! 時間を巻き戻してあの時のあたしをぶん殴ってやりたい!
あまりの羞恥心で頭を抱えながら、百面相のように次々と表情を変えるあたしを不思議そうに道ゆく人々は眺めていた。
あぁ、ダメだ! 気持ちを切り替えよう! オルゲンさんの所で武器の調整してもらって、それからアレクお爺さんのとこ行って旅に出る話をしようっ!
そんな事を考えていると、いつの間にかオルゲンさんの店に着いていて、少し乱暴に扉を開けて、店に入る。
「オルゲンさーん!」
と呼び掛けると、オルゲンは既にカウンターにいて、アレク爺さんと談笑をしていた。
「あ、アレクお爺さんも! こんにちわ!」
「おぉ、お前さんか」
「おぅ、どうした。剣の調整は一昨日したばっかだろ?」
「そうなんですけど、ちょっと報告があるんで来ました!」
カウンターの端にある椅子を持ってきて座ると、2人に話し始める。
「あたし、旅に出ます!」
2人がギルマスのように大慌てで取り乱すのだと思っていたが、全然そんな事は無かった。
「そうか……じゃあ、後でワシの家に来い」
「なら、最後の調整はしっかりとやらせて貰うぜ!」
……あっれぇ? お、おかしいな? もっと、ギルマスみたいにあわあわすると思ってたんだけどなぁ
「え、えーっと……もっと驚いてくれても、良いんじゃないですか?」
「なんじゃ、お前さんは、ワシらに泣いて引き止めて欲しかったのかのぉ?」
「だはは、冒険者なんてそんなもんだ! 特に嬢ちゃんには天剣っつー夢があるんだろ?」
意地悪そうに笑うアレク爺さんとオルゲンさんに、あたしは膨れっ面になる。
「むぅー、つまんない!」
思っていた反応では無かったので、あたしはいじけたようにそっぽを向く。
「そう不貞腐れるな。お前さんがこんな辺境の街でジッとしてられるような性格じゃない事くらいは短い付き合いじゃが、分かっておるわい」
「あぁ、確かにな! アレク爺の言うとおりだぜ!」
1ヶ月も経っていないのに長い付き合いのような気軽さに、知らず知らずの内に救われていたんだなぁ、としみじみ思う。
別にこの異世界で居場所を感じていなかったとか、1人ぼっちは寂しいとか、そんな事はあまり思わなか……いや、嘘だ。めちゃくちゃ寂しかった。
だから、2人との会話ややり取りは、あたしの心をとても幸せにしてくれて、救ってくれた。
「にしても、お前さん。よくこの短期間であの武器を使いこなすようになったのぉ……」
「え、そうですか?」
「作りが違うからのぉ……ワシでさえ満足に扱えんかったくらいじゃ」
「アレク爺の場合は嫉妬の剣のせいだろうが」
「モテん男のやっかみは面倒じゃな……」
「んだと!? 一生独身のジジイに言われたくねぇな!」
このままだとまた日課の喧嘩が始まるぞ!? と慌てて話題を振った。
「そだ、アレクお爺さんは、どこでこの子を見つけたんですか? 確か、遠い島があーだこーだって言ってましたけど……」
予ねてより聞きたかった、新しい相棒についての情報を尋ねる。
「ん? おぉ、そうじゃな……ワシがその剣を手に入れたのは、Bランクに昇格してすぐに挑んだ小国郡のダンジョンの最下層じゃ。確か、イスティルダール王国をずっと西に行った所にあったかの?」
どうやら、アレク爺さんはその小国郡のダンジョンに当時組んでいたパーティーで挑戦したのだとか。
最下層のダンジョンマスターであるベヒーモスを討伐した時にドロップしたのが、この日本刀と魔法の品々だったらしい。
「武器には誰も目もくれずに、他の品を取り合っておったからのぉ。ワシがこれをもらった、という訳じゃ」
「その時に鑑定とかしなかったんですか?」
「あぁ、しとらん。別に使わんし、金に困ったら売れば良いか、くらいにしか思っておらんかったからのぉ」
呵呵大笑したアレク爺さんを呆れたように見つめるオルゲンさんは深々と溜息を吐いた。
「そのせいで今、嬢ちゃんが困ってるわけだがな……」
「あ、いや、別に困ってはいないですよ? ただ名前も知らないのは……何て言うか、寂しいなぁ、って……」
「まぁ、そうだろうな……そういや、お前さん、旅に出るって言ってたが、行き先は決めてんのんか?」
オルゲンさんにそう言われて、初めてあたしは旅に出た後の事に考えが飛んだ。何せ、旅に出るという事だけを決めただけで、どこを目指すのかなんて考えていなかったのだ。
「……決めてない、です」
「そうか。なら丁度良い。俺たちドワーフの中には天剣の言い伝えってのはあるんだが、アレク爺と同じように、あんまり詳しい事は知らん。だが、エルダードワーフなら何か知ってるかも知れん。だから、まずはエルダードワーフを探せ。王都に1人、エルダードワーフが店を構えていたはずだ。そこなら鑑定の道具も揃っているだろうし、もっと踏み込んだ調整もしてもらえるだろう」
おぉ、これは良い情報だね。
「紹介状とか書いてくれるんですか?」
ワクワクといった雰囲気でそう聞いてみたが、オルゲンさんは苦笑して首を振った。
「馬鹿言え。俺たちドワーフからすりゃあ、エルダードワーフなんて雲の上の存在だ。俺たちがいくら魂を込めて最高の一振りを打った所で、あの方たちの足元にも及ばないんだ。恐れ多くて紹介状なんざ書けん。お前さんの力で何とかしろ」
「えぇ、そんなぁ……でも、分かりました! なんとかします!」
とりあえず、当面の目的は決定した。
王都を目指し、エルダードワーフにあって、相棒を鑑定してもらうこと。それから天剣についての情報を得ること。
その後は……まぁ、未来のあたしに任せるか。
これから始まる旅の詳細が輪郭を帯びてきた事が楽しくて、思わず笑みを溢したあたしに、アレク爺さんがコホン、と咳払いをして、虚空に手を伸ばす。
「では、ワシからも耳寄りな情報を教えてやろう」
収納魔法から取り出したのは使い古されたボロボロの手帳だった。
「これは?」
「ワシの集めた天剣の情報じゃ」
あたしは思わず目を見開いて、その手帳を見つめる。
正直、それが今1番欲しい情報だ。
喉から手が出るほどに、或いは持ち金を全て叩いても、欲しい。
「そ、それ……くれるんですか?」
アレク爺さん、やっぱり隠し球を持ってました。




