40、旅立ちの予感
ダンジョンスタンピードの終結から早5日。
冒険者ギルドはいつもの様子に戻り、冒険者たちも落ち着きを取り戻しているようだった。
あたしがギルドに訪れれば、ギルド内にざわめきが生まれる。ただ、初めてこのギルドに来た時とは違い、冒険者特有の仲間意識によるものだ。
「おぅ、モカちゃん! 今日は何を倒してきたんだ?」
「なぁモカちゃん! 俺たちのパーティーに入ってくれよぉ!」
「おい、お前! 抜け駆け禁止だってみんなで決めただろっ! モカちゃん、今日の晩御飯奢ってあげるから食べにいかないか?」
馴れ馴れしいという訳では無く、適度な距離感を保ったからかいは、うざい以上めんどくさい以下という何とも言えない感じなのだ。
だからこそあたしは前みたいに無視したり、辛辣に当たったりはせずに、いたずらに笑って、中指を立てる。
「今日の獲物はフォレストタイガーボアで、あんたみたいな雑魚と一緒にパーティーを組むなんてこっちから願い下げで、晩御飯はアレクお爺さんと一緒に食べるから遠慮しとく」
受付カウンターに向かって、見慣れた受付嬢に挨拶をして、依頼達成の報告をする。
「あの、モカさん? 依頼受けたの、ついさっきですよね? もう討伐してきたんですか?」
引き攣った笑みの受付嬢に、にっこりと笑ってアイテムボックスから討伐対象であった巨大な猪の頭を見せつけてやった。
「あ、あはは……流石モカさんですね……じゃあ、依頼達成と言うことで」
受付嬢は乾いた笑みのまま、達成報酬をあたしに手渡し、魔獣の買取は解体小屋の方にお願いしますね、と解体小屋の方に視線を向ける。
「うん、ありがと」
この数日で、と言うよりあのダンジョンスタンピードの後から、ギルド内ではあたしの人気が鰻登りに上がっていた。
ま、当然だよね。
可愛くて、破天荒だけど無邪気で、何よりもめちゃくちゃ強い。
恐らくAランク冒険者でも歯が立たないか、良くて引き分けに持ち込めるかどうか。
何よりも『鉄拳』のストレイドが手出し厳禁、触るな危険と布告を出している。
ギルド受付カウンターの壁にはギルドの理念の横に『モカに手を出して返り討ちにあっても、当ギルドは責任を一切負いません。自己責任です』と張り出されていることから、今では新人冒険者たちによる度胸試しが定番になってしまっているくらいだ。
そんな大人気で注目の新人であるあたしはギルドを後にして、併設されている解体小屋へと向かう。
「解体お願いしまーす」
あたしの手によって連日持ち込まれる魔獣のおかげで解体職人たちはフル稼働だ。残業も増えたが給料には色がつき、ギルド始まって以来の稼ぎ時を迎えている。
「おう嬢ちゃん! 今日は何だ?」
「今日はフォレストタイガーボアです!」
ずるり、とアイテムボックスから討伐した魔獣を取り出した。
その巨体はスクールバスほどで、首筋がすっぱりと切り裂かれている。それ以外の傷は無く、素材としての状態は最高だ。
「また偉くデカイのを狩ってきたなぁ……このサイズのタイガーボアを見たのは久しぶりだぞ」
「なんかこの街の貴族……なんだっけ? カラオケ、みたいな名前の人」
「カラ、オケ? あぁ、キャリオーク子爵様か」
「そうそう! その人がこいつの毛皮を欲しいんだって」
「なるほどなぁ……まぁ、このタイガーボアは素材としては優秀だ。正直助かるぜ。肉も美味いし、骨は良い武具の素材になる。内臓は薬にも使えるからな」
この世界では、魔獣の素材が使われる製品がやけに多い。
武器や防具はもちろんだが、屋台で売られている肉串などは魔獣のものだし、魔獣の内臓で作られた魔法薬も多い。
回復薬ではなく、毛生え薬や色んなところが元気になる薬などだ。
「嬢ちゃんのおかげで、薬師ギルドからの突き上げも増えちまってな。早く材料を寄越せってうるせぇんだ」
「あー、なんか、ごめんなさい」
「いや、嬢ちゃんのおかげで今は稼ぎ時なんだ。文句言う奴なんていねぇよ」
ガハハ、と豪快に笑う解体職人のおっちゃんは、思い出したようにカウンターの隅に置いたった袋に手を伸ばす。
「昨日の嬢ちゃんの解体分の料金だ」
中身を確認せずに、あたしは袋を受け取ってアイテムボックスへと収納する。所持金がまた増えてしまった。
「明日も何か狩ってくるのか?」
「あー、明日はお休みの予定です。ちょっと用事があるんで」
「そうか、ま、休息も必要だな。じゃ、ちゃんと休めよ!」
「はい、ありがとうございます! それじゃ」
「おう、今日のタイガーボアの料金は明日以降に頼むぜ」
日課になりつつあるおっちゃんとのやりとりを終えると、再びギルドの受付カウンターに戻ってギルマスへの面会を頼む。
しばらくギルドの広間で待っていると、受付嬢に呼ばれて、ギルマスの執務室へと通された。
「おう、今日はどうした? キャリオーク子爵の依頼の件か?」
「あ、いえ、別件です」
「そうか、ちょっと待て」
ギルマスは執務机に向かって書類仕事をしている。サインし、書き込み、顔を顰めたり、溜息を吐いたりと忙しそうだ。
「また後で来ましょうか?」
「いや、ちょうど終わった」
ふぅ、と疲れ切った顔で眉間をマッサージしながら立ち上がると、来客用ソファーに座るあたしの対面にどかっと腰を下ろした。
「それで? 要件はなんだ?」
包むように持っていた果実水のコップを机に置いて、あたしは姿勢を正す。
「ギルマス、あたし、あと数日したらこの街を離れます」
ぽかん、とした顔のギルマスを見る限り、どうやらあたしの言葉の意味をすぐに理解する事が出来なかったみたいだ。
「あー、すまん。もう歳かも知れん。耳が遠くなったか? もう1度、言ってくれ」
「あたし、この街を出て、旅に出ます!」
今度こそ、あたしの言葉を理解出来たのか、今日1番の絶叫が冒険者ギルドに響き渡った。
すみません、今回はちょっと短いです。
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