38、モカ式空鞘抜刀術
戦闘描写ってなんでこんなに難しいんでしょうか・・・
「お前みたいなやつがあたしを量るな、雑魚が」
「ほざくなよ、下等種族が!」
ゴ・ギドの鋭い視線は、あたしが刀の柄を握り直した瞬間を見逃さない。
わざと大振りに戦斧を振り上げて隙を晒し、迫る。
対してあたしも一気に踏み込み、最小動作で相棒を振り上げる。
視線が交錯し、武器がぶつかり合う鈍い音が3度。
あたしの速度に馴染み始めたゴ・ギドの戦斧は徐々にあたしの剣撃を捉え始めているが、それでもワンテンポほどの遅れが生じている。
だけど、それはゴ・ギドも理解しているようで、戦斧の攻撃を囮に、凄まじい威力の蹴りを放ったり、裏拳を交えるようになってきた。
「っわ!?」
迫り来る汚い足の裏を間一髪で回避し、左手だけでバク転をしながら跳躍し、距離を取る。が、それでも連撃は止まらない。
「おらおら、どうしたぁ!?」
派手な動きであたしを攻め立て、急所に迫る刀身を戦斧で弾き返しながら、ゴ・ギドはあたしの動きを妨げるように拳を振るう。
でも身軽なあたしはいつも通りに最低限の回避行動によって猛攻を捌き切る。
「逃げてるだけで勝てると思っているのか!?」
横凪の戦斧を体を捻りながら空中を寝転がるように跳躍して回避。まるで舞踏のように身を翻し、回避に専念していると、ゴ・ギドは笑う。
「そろそろ疲れてきたのか!? いつまでも回避できると思うなよ!」
無尽蔵にも思えるスタミナを持つオーガではあるが、上位種にでもなればそれが顕著に現れる。
本当にムカつくな、こいつ。
自分がこの世界で1番強いとか思ってそうでマジでイラつく。
「……分かった、じゃあそろそろ終わらせるね」
「何だと?」
ゴ・ギドの顔が怪訝に歪む。
「あたし、これでも最速最強だったの」
その言葉が聞こえた瞬間には、ゴ・ギドの前からあたしの姿が消えていた。
その動体視力をもってしてもあたしの姿を捉える事は能わず、驚愕に支配された視線が辺りを彷徨い、すぐに頭上へと向く。
「なんッ!?」
その瞬間、目の前に迫り来る淡い青光が見え、ゴ・ギドは咄嗟に身体を捻って回避したけど、次の瞬間には目の前であたしが剣を振り下ろすモーションをしていた。
「ぬおッ!」
ゴ・ギドは自身ですら驚くほどに神速の反応で刀を戦斧で受け止めたが、その重量は受け止めるべきでは無かった。
すぐにあたしの刀を受け流すように戦斧を動かし、あたしの身体を吹き飛ばすほどの膂力を持って拳を振るう。
「おっと!」
でも、あたしが呆気なく身体を引いて拳を避けると、羽のように軽い刀を振るい、ゴ・ギドの手首を斬りつける。
「ぐッ! なんの!?」
手の健を斬られたが、それもすぐに修復してしまう。しかし、その一瞬に気を取られたゴ・ギドが治った傷口から視線を上げた時には目の前に迫る刀があるのだ。
「ぬんッ!」
戦斧を引き上げるように持ち上げて首を刎ねようと迫る刃を受け止める。
転瞬、ゴ・ギドですら目で追えない速度で3度、斬りつけられた。
ただ、急所だけは狙われないように注意していたので首を刎ねられる、という事は無い。
ここに来て、ゴ・ギドはこの少女への評価を改めることとなる。
下等生物という枠組みから、驚異的な強さを持つ難敵であると認めざるを得ない。
さらに速度を上げ、まさに雷光と言うに相応しいほどの速度にて、ゴ・ギドは翻弄される。
流水のような連撃は劫火のように激しく、受けるだけで精一杯だ。
決定的な反撃の糸口を掴めないゴ・ギドの心には生まれて初めての焦りが生まれる。
(くそッ!? なんだ、なんだこれは!? なんだこいつは! どうして、俺よりも弱い人間が! この俺を! ここまで追い詰める!?)
渾身の一振りが少女の体を捉えたが、その斬撃を少女は汗1つ流さずに1歩身を引くだけで回避するのだ。
攻撃が当たらない、という話ではない。
目の前の少女は、最小限の体重、重心の移動だけで暴風のような攻撃を回避する。それがどれほどまでに異様な事なのか、分からないはずがない。
「なんなんだ、貴様は!」
到底受け入れられるものではない。オーガの王として生まれ、同族を殺してきた悪魔のような人間どもに復讐するために育てられ、そしてここまで力をつけてきた。
人間如きに負けるはずがないと、そう思っていたのに。
目の前の人間の存在を受け入れられない。
だから憎悪と憤怒を瞳に燃やし、吼えた。
咆哮のような言葉には、怒りや憎しみが見て取れる。
そんなものは、もう何度もぶつけられてきたから、良くわかる。
そしてそれが、勝負の場では最も唾棄すべき感情であることもまた、あたしは良く知っている。
昂って張り切れた感情ほど制御が効かず、冷静な判断も難しくなる。
だからこそ、あたしは平静を保っていられるんだ。
「いいよ、名乗ってあげる」
ゆらり、と刀が揺れる。
「あたしの名前はモカ。かつて世界最強の剣士として無敗を誇り、剣の頂きたる【剣神】の称号に座し……そして、ただ一度の敗北によって全てを失った、ただのモカよ!」
その口上たるや意気軒昂。
その立ち居振る舞いたるや威風堂々。
それ故に、モカが【剣神】と成った。
「ま、今は【剣神】を倒すために1から鍛え直してる最中だから、まだ世界最強ではないけど……あんた如きの雑魚に負ける事なんてあり得ないのよ」
ふふん、と胸を張り、自身に満ちた顔は凛々しくも可愛らしい。誰も、こんな少女が世界最強だとは思うまい。
「世界最強だと!? 大きく出たな小娘が!」
吼えるゴ・ギドに、あたしは薄く微笑む。
「いいよ。そんなに疑うなら見せてあげる」
手にする刀を優雅な動作で納刀する。
「【剣神】の称号がただの飾りじゃないって所をね」
そのまま、刀を腰だめに構えた。
「この世界での初お披露目だよ、しっかりと目に焼き付けて……死んでね?」
それは、かつてあたしを【剣神】たらしめた最強最悪の我流抜刀居合術。
「――――モカ式空鞘抜刀術!」
BLO内であたしが産み出した我流の技術であるモカ式空鞘抜刀術は、スキル『抜刀術』と『居合術』の効果である『抜刀した初撃に攻撃力上昇の大幅な補正が入る』という効果を悪用したものだ。
BLO内で、このスキルを常時発動出来るように試行錯誤を重ね、遂に風魔法で見えない空気の鞘を作り、初撃後に刀身がある場所に風魔法の鞘――空鞘を生み出す事で、2撃目にも『抜刀術』と『居合術』の効果を受けられるようにしたのである。
つまり、理論上は常に両スキルが発動している状態となり、重複発動によってその補正値は1.8倍×1.8倍。
さらに両スキルは攻撃モーション終了後の技後硬直が発生するのだけれど、スキル『連撃』でそれをキャンセルし、『連撃』の技後硬直もスキル『斬撃』でキャンセルする。
そのため、居合抜刀→連撃→斬撃→連撃→斬撃→連撃→斬撃→連撃→斬撃の最大9連撃を最大補正値で放つことが出来る。
残念だけど、現状のレベルのスタミナ値ではここまでが限界だ。
全盛期はこの倍以上の連撃を神速――人が瞬きをする間――に行う事が出来たのだから、まだまだだよね。
さらに面白い事に、『抜刀術』と『居合術』の上昇補正が終わる前に刀が空鞘に納められる事で、その数値は何故か維持されたままなのだ。
故に、2撃目からはその威力補正はねずみ算式に増えていく。
「この技はあたしのオリジナルでね? この世界でも使えるのかどうか、検証しまくった結果、問題無く使える事が判明したの」
ゴ・ギドの視界からあたしの姿が掻き消えた瞬間、全方向から斬りつけられ、両腕が切り飛ばされ、それが地面に落ちる前に両足が切断され、最後に崩れる視界の中で首が飛び、クルクルと世界が回り、ボトリ、と地面に落ちた。
それまでの戦いがまるで児戯だと思える程に圧倒的で、たった一瞬で決着が着いた事が信じられない。
何故なら、ゴ・ギドは自分の首が刎ねられたという事実にまだ気付いておらず、横になった自分の視界に、自身の巨躯が倒れ込むのが見えてようやく、自分が負けた事に気付いたのだ。
言葉はない。
だが、その顔には驚愕と恐怖が浮かんでいる。
見下ろす者と見上げる者。
瞬きをしたのは、見下ろす者たるあたしであった。
「ふぅ……」
深く息を吐き、静かに納刀する。
聖刃のおかげで血を払わなくていいのだが、つい癖で血を払ってしまったのはそれがあたしの中に染み付いている証拠だ。
カチン、と小気味の良い納刀音が静寂に響き、ようやく戦いの音が全て消えた。
これにて対ゴ・ギド戦は終了です。
今回でてきた『モカ式空鞘抜刀術』は、バグやグリッチではなくちゃんとした仕様です。
この他にも『モカ式』の名前を冠した必殺技や技術が幾つかありますので、お楽しみに。
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