34、我慢出来ない
魔力を流してみろ、と言われた所でどうやってやるのか知らない。
「? どうやって?」
BLOにある魔法剣は特定のワードを言えば魔力が減って自動的に発動していたから、魔力を流すという感覚が分からない。
するとアレク爺さんが助け舟を出してくれた。
「身体中に流れる魔力を、刀身に向けるんじゃ。人間は自然と魔力を纏っておるから、自分の得物を体の一部と認識するのがコツじゃな」
言われてみてもイマイチピンとこない。
自分の中にある魔力を……感じる?
目を閉じて意識を内に向ける。
魔力の流れなんて言う摩訶不思議な物なんて……と思っていると自分の中に意図しない不思議な流れがある事に気付いた。
全然気にした事なかったけど……これが魔力、なのかな? これを……刀身に、纏わせる?
刀が自分の一部であり、手の延長線だと思い、まるで血液を巡らせるようなイメージをするが、どうしても上手くいかない。
「……難しいかも」
目を開けて、短い溜息を1つ。するとログ一覧に新着マークが見える。
なんかスキルでも手に入ったのかな?
確認すると『魔力制御』と『魔力操作』の2つのスキルを獲得したと表示されていた。躊躇わずに残っているポイントを使ってアクティブにすると、少しずつレベルを上げていく。
お、前より分かりやすいかも。
両方とも3で止めて、もう1度挑戦すると、さっきよりもスムーズに魔力の流れが分かるし、魔力の操作も簡単だ。
これが魔力を流す、って感覚ね。
もう一度、刀身に魔力を流してみると、今度はスムーズに魔力が流れていく。
「うっ、わぁ……綺麗……」
優美な刀身に青い光が薄らと現れ、剣を振る度にその後を追うように青光が尾を引く。
「ほぉ……飲み込みが早いのぉ」
「あぁ、初めての剣に魔力を通すのは時間が掛かるんだが……まぁ、嬢ちゃんがすごいのか、この剣がすごいのか……両方なんだろうなぁ」
改めて剣を振るう。
あたしの手に合わせて握り部分も少し小さくなっていて、重心もあたしに合わせてある。
刀を構えれば、まるで自分の一部になったかのような、懐かしい感じがした。
「ねぇ、オルゲンさん? やっぱりこの剣、軽くなってるよ?」
魔力を通わせたあたしは確信する。
「この刀、重さが変えられるんだと思う。魔力を注ぐと軽くなる……ううん、多分、注いだ魔力の中で自由に重さを変化出来るんだと思う」
刀身に流す魔力を増やしていき、4つの回路に1個ずつ魔力を通していくと、3つ目の回路に流した途端、その重さがグンと重くなる。
あまりの重さに耐えきれず、慌てて魔力を抜くと元の重さに戻った。
「うん、やっぱりそうだ……100の魔力を注いだら、0から100の間で自由に重さを変えられるっぽい」
そう言うと2人は何故か難しそうな顔になっている。どうしてそんな表情になるんだろうか? って首を傾げていたあたしは、アレク爺さんの言葉で納得する事になる。
「4つも回路があるのに、さらに扱いの難しそうな回路があるんじゃ……戦っている最中にそこまで気を回すのは大変じゃろ? 聖刃の維持、魔力の吸収、そして重さの変更など……一瞬の隙が勝負を決める戦いにおいて、そこまで考えを巡らせるのは不可能じゃ」
「あぁ、だろうな……雑魚相手ならまだしも、嬢ちゃんの言ってたオーガキングみたいな敵なら、命取りに成りかねん」
と、2人は言うけど、あたしは別にそんな事は思わないんだよね。
別に……戦略の中に組み込めるなら、十分に強いと思うんだけどな……戦いの中で重量が変えられるのって、かなりのアドバンテージだと思う。
思い付くだけで7通りの使い道が浮かぶけど、こればかりは実戦で使ってみて使い勝手を学んでいく方が良いよね。
そうと決まれば、早くこの新しい相棒と共に戦いの場へと飛び出したい衝動に駆られる。
「ね、ねぇ、オルゲンさん? も、もう、もう良いかな? あたし、早くこの子と一緒に戦いたいんだけど!」
「ん? あぁ、調整は出来たし、嬢ちゃんが振ってみて違和感が無いんなら、そのまま持っていってくれ!」
「わ、わぁっ! ありがとうございます! じゃ、行ってきます!」
鼻息荒くそう宣言して、店を後にしようとしたけど、すぐに止められる。
「おいちょっと待て嬢ちゃん! 防具はどうすんだ!? 流石に防具無しはマズイだろ!?」
「え? 防具なんてもういらないですよ! この子と一緒に戦うなら、むしろ防具は邪魔です! 必要になればそのうち買いにきますんで!」
じゃ! と右手を挙げて軽く挨拶をして、はやる気持ちのまま駆け出した。
「……行っちまったなぁ」
「若いっつーのは、凄いのぉ」
そして残された2人は、ポカンとした表情でモカの出て行った入り口を眺めていた。それからしばらくして、店には2人の喧嘩する声が聞こえてきて、すぐに奥さんの怒号が響く。
今日も店は賑やかだった。
新しい相棒を手にしたあたしは、初陣の相手を探すべくギルドを訪れたが、受付嬢に捕まり、そのままギルマスの執務室へと連行されることになった。
そこで第2次ダンジョンアタックの概要を聞く事になったあたしは、2つ返事で参加を決めた。
「今回は少数精鋭で挑むって事で良いんですよね?」
「あぁ、そのつもりだ。この街のAランクパーティー『灰銀猟団』の6人と『不死鳥』の5人、そこに俺とお前が加わった、13人で行く」
「分かりました……って、なんですか、その顔」
頷いて返事をすると、ギルマスは驚いた様な顔をしている。どこにそんな驚く要素があったのか、と眉を顰めた。
「い、いや、やけに物分かりが良いと思ってな……てっきり、1人で良い、足手纏いはいらない、くらい言うかと」
確かに今言った事を考えてはいたよ? でも今回は内容が内容だ。まだ充分なレベルやステータスでは無いし、何よりも物量で押される可能性がある。
数が多いだけならば有象無象と大差ないけれど、行き止まりの通路に追い詰められたり、回避が難しい狭い場所での戦闘は中々に気を使う。
「あたしだって協調性くらいはありますよ」
ふん、とそっぽを向きながら答えると、ギルマスはやれやれと肩を竦める。まるで言うことを聞かない頃の自分の娘を相手にしているようだ、と口には出さずに思うだけに留め、ダンジョンアタックの日程を告げた。
「最短で出発は明日の正午になるが大丈夫か?」
「はい、問題無いです。集合は?」
「ダンジョン前だ。準備は怠るなよ?」
「了解です。じゃ、先に行って待ってます」
「はぁ!? 今から行くのか!?」
「え? はい。ちょっと相棒の慣らしをしておきたいので……」
きょとんとした顔でそう言えば、ギルマスは頭を抱えて唸り始める。どうやら言葉が出てこないようで、苦虫を噛み潰したような表情であたしを睨みつけた。
「……アタック前だ、無茶はしてくれるなよ!」
「分かってますって。じゃ、行ってきまーす」
まるで友達の家に遊びに行くかのような気軽さでギルマスの執務室を後にする。
「はぁ、調子が狂うぜ、全く。どうして年頃の娘ってのはあぁなんだ……」
自分の娘が子供の時はもう少しまともだったぞ、とボヤきながら、ストレイドは他のパーティーに出発時間を知らせるために手紙を書き始めた。
ようやく刀を受け取ったモカ。
いよいよダンジョンアタックのリベンジです。
すみません、ちょっと遅刻です!




