33、回路
すみません、今回ちょっと短いです。
そう言えばレベルが2も上がっていた。
現在のレベルは15。
あのハイオーク集団を倒した時に上がっていたらしい。レベルが1上がるごとに10ポイントが手に入るから、20ポイントが手元にある状態。
タイミングがめちゃくちゃいい。
これで武器スキルの『刀』を最大の10ポイントまで振り、新しい相棒を十全に振るうためのスキル割りを行った。
その結果、俊敏とスタミナ、それから幸運にもポイントを割り振り、スキルは『刀』と『刺突』、それから運動系スキルのスキルレベルを少しずつあげた。
「まぁ……全盛期には遠く及ばないけど、似たような戦い方が出来るようにはなったかな? 先は長いなぁ……」
今いるのは宿の自室。
寝たのは深夜3時くらいで、起きたのはついさっき。今は……朝の10時過ぎ。
今日は特にやる事も無いから部屋でゴロゴロしてようかなぁ、って思っていたら、ステータス画面に新着マークとレベルアップの告知があったのを見つけた。
なので、ベッドの上でゴロゴロして、うんうん唸りながらのキャラビルドをしているってわけ。
ゲームの醍醐味は、自分でありながら自分の分身たるアバターを、どのような剣士に育てていくのか……それに悩み、試行錯誤し、自分の理想に近づけていくことだよね。
でも、あたしは既にその最終形を知っている。
BLO内最強の称号を欲しいままにしたあたしは、その頂きを知っている。
だからこその歯痒さがあるんだけど、それはそれ。
これからあの相棒と共に目指していけば良い。
そう考えただけで思わずだらしない笑みが浮かんでしまう。
「でへへ……日本刀、この世界でも振えるんだ……へへ……」
思い出すのは、昨日の刀の事。
あの素晴らしい一振りは、あの瞬間からあたしの心を掴んで離さない。
全く罪な刀だ、あの子は。
数度しか振らなかったけど、そのポテンシャルには驚いた。
かつての相棒【天羽々斬】にも似た雰囲気がある。
きちんとした鑑定が出来ない以上、勝手な事は言えないが、それでもかなりの業物だと言うのは握った手から感じた。
「もうお迎えに行っても大丈夫かな?」
時間を確認したけど、約束の時間にはまだまだ遠い。
でも、翌日の遠足が楽しみな小学生のようにソワソワして落ち着かない心が早く行こうと急かしている。
うーん、だけど早く行ってもオルゲンさんに嫌な顔をされないかな?
なんて思うほどには分別はまだ残っているつもりだ。
だから時間まで瞑想をしながら、あの刀を振るう自分のイメージを高めていく。
大切なのは常に最強の自分をイメージすること。あの刀と一緒に最強の自分をイメージしていくのだ。
その後、部屋の掃除に訪れた奉公少女が、ベッドの上で目を瞑ってだらしない笑みを浮かべるあたしを見つけて「ヒィイイ!?」と悲鳴にも似た声を出したのは、それから2時間ほど後のことだった。
オルゲンさんの店の奥にある鍛冶場は基本的には立ち入り禁止となっているらしいが、店に入るや否や、奥さんに案内されて連れてこられたあたしとアレク爺さんは、そこで不思議な光景を目撃した。
あの日本刀がオルゲンさんの前で宙に浮いていて、青色の光の中で緩やかに回っている。
どんな状況? と首を傾げていると、目を瞑って苦悶の表情を浮かべていたオルゲンさんが深い溜息を吐いて目を開ける。
「ふぅ……お、少し早めに来たのか」
顔中に玉のような汗を滲ませ、かなりの疲労感を思わせる。
「今の、何してたの? 魔法?」
「ん? あぁ、回路の調整だ……こいつ、聖刃回路の他に3つの回路が組み込まれていてな……こんな細くて薄い刀身の中に4つも回路を入れるなんて、こいつを作った奴はとんでもねぇ天才だ。恐らくはエルダードワーフの名工中の名工が鍛えた一振りなんだろうよ……凄すぎて俺にはどうこう出来ん。だから嬢ちゃんが使いやすいように調整しか出来ねぇ。すまん」
不甲斐なさそうに頭を下げたオルゲンさんに慌てて首を振った。
「そ、そんな事ないですよ! 今ここで頼れるのはオルゲンさんしかいないんです! それに、オルゲンさんの剣は、きちんと使い手の事を考えてくれた良い剣でしたよ! それにアフターサービスも手厚いなんて、剣士からしたら最高ですよ」
あたしの本音にオルゲンさんは照れたように鼻を鳴らし、目の前の日本刀を取り、鞘へと納めると、差し出す。
「申し訳ないが、聖刃回路以外の3つはどんな回路か分からんかった。アレク爺のリオレティアのように魔法が込められた、って感じでも無さそうだから、他の効果があるだろうが……恐らくは切れ味を上げたり、刀身の破壊耐性を上げたり、そんな感じだと思う」
大きな深呼吸をして心を落ち着かせたあたしは、恭しく刀を受け取ると、その時点でバランスの良さに驚く。
昨日より重心が少しばかり手前にあって、軽く感じて持ちやすい。
「聖刃以外の回路の1つは、恐らく魔力に関するもんじゃな……その剣は魔法を斬れば魔力が少し回復するんじゃ」
アレク爺さんがそう言えば、オルゲンさんが納得したように頷いた。
「あぁ、だからか。魔力を流しながら作業してたら、魔力が吸われるような感じがしたんだ。まぁ、その内、鑑定をしてもらった方がいいだろうな」
そんな2人のやり取りを聞きながら刀を抜く。
やっぱり、すごい綺麗な刀身だ……でも、何だろ? なんか、昨日より軽い?
「これ、重心の調整以外に何かやりました?」
「ん? いや、何にも手を加えてねぇが……何か変か?」
「いや、昨日より軽いな、って思って……」
「そうか? 別に作業してた時はそんな事は思わなかったが……ちょっと刀身に魔力を流してみろ」
いきなりそんな事を言われても、出来るわけないよ。
次回、刀を受け取ってからギルドに向かいます。




