30、次の武器は
「こりゃ無理だ」
カウンターに剣を置いたオルゲンさんは、静かにそう言った。
あたしは今、オルゲンさんの店に来ている。
あの後、ダンジョンから抜け出したあたしたちは、悲痛な面持ちのままギルドまで戻り、誰も何も言わずにそれぞれが三々五々に解散していった。
もちろんあたしもその1人で、流石に疲れたのもあるけど、メンテナンスをしてもらったばかりの剣と防具が既に危ない状態になっていたから、相談しようと思って、そのままの足でオルゲンさんの店に来たってわけ。
そこでオルゲンさんに剣を見てもらったら、そうやって言われたんだけど、まさか無理って言われるとは思ってなかったな。
しかし、オルゲンさんから見れば、表情も雰囲気も暗く、刺々しさも纏っていたモカが取り出し、直して欲しいと言ってきた剣は、折れてはいないが刃が欠け、凹み、傷だらけで曲がり、歪んでいる。
防具にしてもそうだ。凹みや傷が多く、補修しようにも元々が古い品を再利用しているため、耐久力が元から少ないのだ。
「剣は直しようがない。ここまでひでぇ状態じゃ、潰すしかねぇだろうよ……」
諦観が滲み出るオルゲンさんの言葉に、あたしは短い溜息を吐く。
「折れてないのが奇跡なくらいだ……それに、遅かれ早かれ、この剣はこうなる運命だったと思うぜ?」
「? なんで? そこまで品質の低い剣じゃないと思うけど?」
これまで自分と共にあった相棒を貶すような発言にムッと表情を歪める。でも、そんなあたしの顔に気付いたのか、オルゲンさんは慌てたように首を振った。
「あぁ、違う違う。すまん、言い方が悪かったみてぇだな。この剣は、特別な素材や回路が使われているもんじゃない。いわゆる大量製造品だ。だから、お前さんの技量にはついていけなかったんだ。いくらお前さんがこいつを大事に使っていようと、こいつの方がお前についていけなかった、って事だな」
やれやれ、と溜息を吐いたオルゲンさんは、カウンターに置いた剣を見つめる。
「何の効果もないただの片手直剣にここまでやらせるのは酷ってもんだぜ、嬢ちゃん。ここらでゆっくり休ませてやるのが……優しさってもんさ」
そんな事を言われてしまえば言葉を返せないよね。
それに、オルゲンさんの言葉には納得が出来る。確かにレベルが上がって、ステータスやスキルが増えたことで出来ることも増えてきたことは素直に嬉しい。
そして、戦闘している時や、検証をしていた時、少しだけオルゲンさんの言っていた事を考える事もあった。
「確かに、この剣じゃあこの先は辛いかも、とは思っていたけど……早いよ……」
この剣には色々と助けてもらったのに、こうも早く別れのタイミングが来てしまうとは思ってもみなかった。
「……うん、そう、そうだね。今まであたしを助けてくれた最初の相棒、よくここまで頑張ったよ、ありがとう。あたしは先に行くけど、このあたしを作ってくれたのは君なんだ、誇ってくれていいよ」
あたしは優しい目で剣を見つめ、柔らかい声で労い、愛おしそうに刀身を撫でてあげた。
「じゃあ、こいつは俺の方で預かるけど、いいか?」
「……はい、お願いします」
オルゲンさんが剣を手に取り、店の奥へと消えていった。その後ろ姿を追わずに、あたしは店の方を向いて、寂しげな視線を店内に向ける。
あの剣には愛着がある。
この世界で初めて手にした、ちゃんとした武器だもん。こんなことを言うと短剣に怒られちゃいそうだけどね。
でも、あの子のおかげで今のあたしがあるし、あの子もそれに応えようとしてくれたのも分かっているつもりだ。
BLOを始めた頃は、武器なんてただの消耗品。それか、ただの道具にしか思っていなかった。
だけど、ゲームを進めていけば、あるいは剣士として成長していけば、その考えは間違っていたと認めざるを得ない。
いつの間にか得物は相棒に変わっていて、愛情も友情も、人に対して持ちうる感情を向けられる1個の存在へとなっていたんだから。
だから、いつだって別れは辛い。
「……はぁ」
共に戦ってきた戦友の離脱は、それだけで悲しいものね。
それでも、あたしには次の相棒が必要なのは変わらない。
壁に掛けられている様々な剣を眺めながら、次の相棒をどうしようかと考えているあたしは薄情なのかな?
そんなことを考えていると、奥からオルゲンさんがその手に幾つかの剣を持って戻ってきた。
「嬢ちゃんの次の剣だがな……耐久力と重量のバランスが前のと同じくらいのとなると、ここら辺が良いと思うんだが、どうだ?」
カウンターに乱雑に置かれた片手直剣の数々。
ショートソードから始まり、曲刀、フランベルジュ、マチェーテなど多岐に渡るのだが、どれもしっくりとこない。
そりゃそうだ……あたしの得意な得物は日本刀なんだもん。
しかし、この世界に来てから、日本刀やそれに準ずる武器はまだ見ていない。
「………強いて言うなら、これかな?」
あたしが手に取ったのはファルシオン。
刃幅が広く、重心が剣の先にあるため、斬撃力が高い。グリップが少し大きくて握りにくいが、取り回しはしやすい。
「この剣なら二刀流でいっても良いかもな……」
ポツリと呟き、剣を振ってみる。ヒュンヒュン、と風切り音が店内に響くが、オルゲンさんが首を傾げる。
「嬢ちゃん、あんまりしっくり来てねぇな?」
「そりゃあ、まぁ……使えないわけじゃないけど、得意って訳でもないからね」
手首を返して、クルクルと剣を回し、剣を扱ってみせるけど、やっぱりオルゲンさんと同じ事を感じていた。
「ここにあるのじゃ力不足だな。後は……そこの壁に飾ってある剣ぐらいだが……耐久力があるのは、アレだな」
オルゲンさんが指差したのは、さっきあたしが眺めていた内の一振り。分厚い刀身だが切先が無い、いわゆる処刑人の剣だ。
「悪いけど、アレは想像以上に使い勝手が良くないの。切先が無いのもマイナスポイントね」
「ま、だろうな。それに嬢ちゃんになら、とびきりすげぇ剣が必要だ……」
うーん、と唸り始めたオルゲンさんをそのままに、カウンターに置かれた他の剣の使用感も確認していく。
この中でどれが良いな? やっぱりファルシオン一択だろうなぁ。でも、これであのオーガたちと戦える? うーん、どうだろう?
どうしたもんかなぁ、とオルゲンと一緒に悩み始めると、オルゲンさんはポンと手を打って何かを思い出したような顔になった。
「お前さん、この街にいる引退した剣士がいるのは知ってるか?」
オルゲンさんの言葉に、頭の中には白髪の仙人のような老人の姿が浮かんできたけど、もしかして他にも引退した剣士の人がいるのかな? でもギルマスに紹介されたのはアレクお爺さんだけなんだよなぁ。
「……アレクお爺さんの事?」
「お? アレク爺を知ってんのか? なら話が早ぇ。あの爺さんを呼んでこい」
ん? なんでアレクお爺さん? 何か持ってるのかな? まぁ、呼んでこいって言ってるし、行くだけ行ってみますかね。
モカは見た目やテンションから、出会いや別れに関してはドライだと受け取られがちですが、実は結構引きずったりします。
なので、レモーネの村を出発した時は、それなりにどんよりしていました。
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