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魔法一強の異世界を剣一本で成り上がる  作者: 卯月真琴
冒険者登録編

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3、ここはどこ、あなたは誰?

 目が覚めたのは、ぴちょぴちょと水が落ちる音と、額にひんやりと気持ちいい感触を感じたからだ。


「………ぅうん、あれ? どこ……ここ」


 ゆっくりと目を開けると、もう頭は痛くない。体の方はまだちょっと痛いけど。


「……あれ?」


 光に目が慣れると、ようやく目の前の光景がはっきりと見えて、自分の状況が理解できた。

 まず温かみのある木の天井が見えて、どうやら自分は寝心地最悪のベッドの上に寝かされていて、悪臭とまではいかないが変な匂いのする布を被せられているらしい。そして視線を横に動かすと、知らない少女と目が合った。


「メルデュモーサ? モーサ?」


「え、何語? 英語、じゃないよね……」


 目の前の少女はあたしの言葉に首を傾げると、よく実った小麦のみたいな爽やかな黄金色の髪がふわりと揺れた。見た目は海外の垢抜けた中学生みたいだが、声は少し大人びているようにも聞こえる。


「セ? モルディーサランゲルジジア、べドスランゲルジジア?」


「あ、いや、ごめん、何言ってるか分からないよ……」


 矢継ぎ早に話しかけれても、苦笑しか出来ない。どうにか伝えられないかなと思ってジェスチャーを駆使してみる。


「あたしはモカ」


 自分を指差して名乗ると、次は少女を指差して答えを待つ。


「……モカ?」


 少女はあたしを指差して、確かにそう言った。それだけの事があまりにも嬉しい。


「そうそう! あたしは、モカ」


「モカ……」


「そう、モカ! あなたは?」


 そう言って少女を指差すと、少女はようやくその意味に気付き、自分を指差して言う。


「レモーネ」


「レモーネ? レモーネって名前なのね?」


 少女はコクコクと頷き、自分を指差してレモーネ、レモーネと笑う。


「レモーネ、モカ」


 少女を指差し、自分を指差す。そんなジェスチャーが通じたことで、嬉しくなってさらに踏み込んだ要求をしてみる。


「モカ、喉乾いた。水が欲しい。あと、お腹すいた。何か食べる物が欲しい」


 喉を指差した後、コップで水を飲む仕草。お腹を抑えてから何かを食べる仕草。やはりジェスチャーは偉大だ。たったそれだけの動作で、レモーネはあたしが何を求めているのかをつぶさに感じ取って、笑顔で何か言って部屋から出ていった。


「にしても……助けてくれた、って事で良いんだよね?」


 覚えているのはいつのまにか森の中にいて、瀕死の状態で、何とか道っぽい所を歩いて、大きな道に出たところまで。


「そして今、知らない場所で知らない少女に看病されている……」


 起き上がって部屋を見渡すと、どうやら木造の家の一室のようだ。

 家具や調度品は粗末で生活感に溢れてはいるが、きちんと整理されて清掃も行き届いているようで清潔感はある。


「大丈夫かな……伝わったよね?」


 飾りっ気の無い質素な服を着た少女はニコニコしながら出ていったが、もしかしたら「へへ、ボス、女が目を覚ましましたぜ」とか言って、むさいおっさんを連れてきたりしないよね……とちょっとだけ不安になったけど、結果から言えば大丈夫だった。

 数分後、レモーネは水の入った木のコップとおかゆのようなものが入った木のお椀を乗っけたお盆を持って帰ってきてくれたからだ。


「モカ、トトルクミア、レクア、ティースガ、エアトティアベル?」


 レモーネが何かを言ってたけど、恥ずかしいことに、あたしはお礼を言うことも忘れて、水の入ったコップを放ったくるようにつかんで、中身を一息に飲み干していた。

 カラカラになった喉を潤しながら、胃に落ちていく水の感触に生を実感する。

 一杯の水がここまで美味しいと感じた事なんて、今までで一度もない。

 空腹は最高のスパイスとはよく言うが、水にも似たような事が言えるんだなぁ、なんて思っているとびっくりしたレモーネと目が合う。


「あ……あり、あり、がと、ござ、す……」


 カァっと顔が熱くなって、あまりの恥ずかしさに思わず顔を伏せたけど、それでも自然とお礼の言葉が溢れ出た。

 言葉が通じないのは分かっているけど、どうやらレモーネにはお礼の言葉だと言うのは伝わったらしい。

 レモーネはニコニコしながらあたしの手からコップを取ると、今度はお盆を差し出してくる。


「これは……おかゆ?」


 お盆を受け取ってお椀の中を覗き込むと、ミルクの優しい香りがふわっと香る。

うーん、素朴ないい香りだぁ。パン粥の中に幾つかの野草が入っているのかな?

 空きっ腹に対してあまりにも暴力的な香りに、自然と喉が鳴り、涎が溢れてくる。おいおい焦らさないでくれよと胃が鳴り、いつの間にか手にしていた木のスプーンで粥を掬い、頬張る。


「まぁ……うん、味が薄いのは許せるけど……この草、苦いなぁ……」


 苦いけど食べられないほどじゃないし、久しぶりのちゃんとした食事だ。マズイ訳がない。何よりも、すぐに持ってきてくれた、って事は、いつ起きても良いように用意をしてくれていたってことだよね。その優しさと心遣いに涙が溢れそうになるね。

 無言で粥をかっこみ、体も心も満たされると、満足すると耐え難い眠気に襲われ、瞼は次第に重くなっていった。

 そんなあたしからレモーネはお盆を受け取り、横になるように促してくる。


「ごめん、ちょっと寝るね……」


 横になって目を閉じると、ぽん…ぽん…と、リズムよく腕にくすぐったい感触が届く。

 安心して眠れるって、こんなに気持ちいいものなんだね……と思っていると、すぐに意識が遠のいていった。



 翌朝。

 目を覚ましたあたしは見慣れない天井を見つめたまま、少しばかりの思考停止に陥っていた。


「……確か、知らない少女に助けてもらったんだよね?」


 死ぬ前に見ている走馬灯や妄想ではない事を思い、ゆっくりと起き上がる。

 もう体の痛みは無いし、快調そのものだ。

 体を動かしていると、その気配が他の部屋に伝わったのか、ゆっくりと扉が開き、レモーネが顔を覗かせた。


「あ、おはよう、レモーネ」


 やはり言葉は通じないが、表情や仕草でのコミュニケーションは行えるようで、レモーネは動けるようになったあたしを連れて家の中を案内してくれた。

 どうやらレモーネが住む家は山小屋と形容しても差し支えないような建物だった。両親とレモーネの三人が住む家にしては狭いような気もするけど、この世界ではこれが一般的なのだろう。驚いたのは風呂場や洗濯場がなく、トイレが地面に置かれた大きめな壺だけ、と言う事だ。


「……生活様式は現代よりももっと前? 中世、よりも前かな?」


 家の中に両親の姿はなく、仕事に出ているのだと分かるんだけど、早い内に挨拶をしておきたいよね。

 きっと3人で暮らす事が前提なのに、あたしのような異分子がポッと出てきた事でそれなりに迷惑を掛けているはずだ。

 部屋に戻って、何度も何度も、根気よくレモーネから情報を手に入れる。とんでもなく時間が掛かったけど、それなりに伝わるものだ、と自分のコミュ力に感心する他ない。

 そのおかげで何とか分かった事がいくつかある。もちろん間違いや勘違いもあるかも知れないけど、おおよそは合っているはず!

 手に入れた情報はこうだ。

 レモーネは両親と3人で暮らしている。住んでいるこの村は狩猟と農作で生計を立てていて、規模はあまり大きくはない。

 薪や山菜を取りに来ていたレモーネが道で倒れていたあたしを見つけて、連れて帰ってきてくれた。

 そのままあたしの看病を担当してくれて、血を拭ったり体を拭いたり、とまさに命の恩人だ。

 いつ目が覚めるかは分からないから、家の中でも出来る仕事をしながら看病してくれたらしい。いや、本当にありがたいね。

 とりあえず、レモーネとの交流で得られた情報はこの程度だ。後は彼女の両親が帰ってきてから色々と話を聞こうと思う。

 そう言うわけで、まだ休んでいるとレモーネに伝えると、彼女は自分の仕事をしてくるとジェスチャーをする。それに対し、うんうん、行っておいで、と頷くと、レモーネは不安そうな笑みを浮かべ、名残惜しそうな表情で部屋を出ていった。


「行ったよね?」


 レモーネの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、あたしは気になっていたものーー視界の端に浮かぶ「!」に目を向ける。


「なんかログ一覧に新着マークが付いてる……なにこれ?」


 不思議に思ってステータス画面を開いて、ログ一覧の確認する。


「あれ? 何、これ……?」


 そこには「スキル:コルベス王国語を獲得しました」と表示されていた。


「言語のスキルを獲得した……? レモーネが話してるのはコルベス王国語ってやつなの?」


 不思議に思ってスキル欄を見てみると、未だ一つもアクティブになっていない灰色のスキル欄に、見知らぬスキルが一つ追加されていた。


「学術系スキル……コルベス王国語?」


 だけど、まだスキルポイントが無いから、言語の習得が出来ないよね? どうすればレベルが上がるのかな? BLOと同じならモンスターを倒してレベルが上がればポイントが貰えるはずだけど……この世界でも同じなのかな?

 うーん、どうしたもんかなぁ……レベルもステータスも貧弱。スキルも無い。となればまずはレベルを上げて、少しでも戦える状態にする事が急務だよね? 武器だって必要だし? あの短剣だけでは出来る事が少なすぎる。せめて普通の剣が必要だよ。


「この村にあるかな……贅沢は言わないから、普通のロングソードくらいあれば良いけど……」


 それからはアクティブになっていないかつてのスキル群を見つめながら、どのスキルを優先して取るべきかを悩み、ステータスのビルド案も考える。

 そんな事をしていると、時間は想像以上の速さで進んでいたようで、レモーネが帰ってきた。

 それから間も無く両親も帰ってきたようで、レモーネに紹介されて、朴訥そうな両親との顔合わせを終えた。

 何とか身振り手振りで、ここでお世話になったのだから何かお手伝いがしたいと伝えると、レモーネたちは渋々ながらも承諾してくれたらしく、明日から何か手伝いを、という話になった……と思う。

 夜、ベッドで横になり、メモ欄に今日得た情報を書き込んで整理していると、部屋の前で止まった気配にいつでも動けるように体を捩らせて体勢を整える。ギィ、と扉が開くとレモーネが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


「……なんだ、レモーネか。どしたの? 何か用?」


 言葉は伝わらないが、つい聞いてしまう。

 しかしレモーネは、モカの言葉を理解しているのか首を横に振り、ジェスチャーで「モカが寂しいかと思って、一緒に寝てあげる」と伝えてきた。

 間違ってないと思うけど、添い寝が必要な歳でもないから断ろうと思ったら、レモーネはそれを許さずに、素早い動きであたしのベッドに入り込んできた。

 ちょっと汗臭いけど、落ち着くような暖かい香りがする。

 心地よい温もりを感じながら、あたしは目を閉じた。

年下のお姉ちゃんはいいぞおじさん「年下のお姉ちゃんはいいぞ」


レモーネちゃんの初登場です。

1人っ子なのにお姉ちゃんスキルは高いです。村の子供たちの中では1番年上(12歳)で良く他の子の面倒を見ているからね。


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