28、嫌な予感がする
ダンジョンと言うより、洞窟と言った方がまだ正しい。
進んでいる道が、手が入ったようなものではなく、自然のままの状態だから、足元も悪いし、天井の高さもまちまちだ。
そんな中を歩いて進むのは、思っていたよりもしんどい。
足から広がってくる疲労が太ももや腰に届くようになると、本当にしんどい。ステータスやスキルや魔法がある世界だと言っても、こればかりはどうにもならないみたいだ。
だからあたしは無闇に喋らず、このダンジョン内をしっかりと把握しようと思って鋭い視線をあちこちに向けている。
分かれ道を進んでいくと死体の数も少しずつ増えていくけど、それと一緒に冒険者たちの使用済みアイテムのポイ捨ても増えていた。
ポーションの空き瓶や牽制用の投げナイフや短剣などだ。
だけど、まだ善戦しているのか、肉片や死体などは無いし、逃げてくる奴らもいない。
いや、逃げられる状態じゃないのかも知れないけど。
「っち、また分かれ道だ」
「面倒だ、分かれ道は全て右を選ぶぞ」
「了解だ、ギルマス。あと、どうやらここはまだ誰も通ってないみたいだ」
男が地面を指差すと、どこにも足跡が付いていない。
「よし、気を――」
抜くな、とストレイドが言うのと同時に、ダンジョン内に複数の悲鳴が木霊した。
ううん、悲鳴だけじゃない。断末魔も一緒に聞こえてきた。その割にオーガの悲鳴や断末魔は聞こえてこない。
「っち、ウカウカしてられん。長引けば長引くほど、仲間が危ない。行くぞ」
ストレイドは苛立ちを隠さずに舌打ちして、先へ行くように促す。
「了解だ、ギルマス。盾班は盾魔法の強度に気をつけろ、攻撃班もすぐに撃てるように準備はしておけ」
そんな中、あたしは背後に気を配りながら、パーティーの後に続く。
どこかのパーティーが全滅したのなら、ここからは挟撃があり得る。でも、オーガたちはこの迷路みたいな道、どうやって覚えてるんだろ?
まさか全部を覚えているなんてことあるのかな? 魔獣……っていうかオーガってそこまで頭良いのかな?
そんな事を考えながらしばらく進むと、ようやくあたしたちも敵と遭遇する。
しかし、盾班がオーガたちを足止めし、その後ろから氷魔法が撃ち込まれて、一瞬で片付いてしまうから、あたしの出番なんて1つもない。
そんな戦闘が3回続き、またしても分かれ道。
ここも右の道を進むと、行き止まりだった。
今度は逆にあたしを先頭に来た道を戻ると、今度はその隣の道を進む。すると、今度は広めの空間に出たが、ここも行き止まりのようだ。
「っち、ここもか……」
ストレイドの苛立ちがそろそろ振り切れそうだ、と誰もが思っていると、来た道からオーガの声が届く。
「袋小路ではあるが……戦いやすい空間なだけマシか?」
ストレイドたちはすぐさま臨戦態勢を取り、やってくるオーガたちを待ち受けるようだ。でも、あたしは臨戦態勢なんて取らずに、キョロキョロとこの広めの空間を観察する。
うーん、なんだろ? なんか違和感が……行き止まりは単に掘り進めるのを諦めた様な形だったけど、ここは違う気がするんだよね。広めの空間……しかも、壁とか天井も整えられてる? ただの行き止まりにそこまでする理由は? 食糧庫とか物資の保管庫? だったら何かしらの痕跡が無いとおかしいよね?
「来るぞ!」
ストレイドの鋭い声に、あたしは思考を1度止めて、抜剣する。
やってきたのは脅威種8体と上位種5体の混合部隊。
上位種は全員が丸太を削り出した棍棒を持っており、脅威種は魔法の杖を持ったハイオーガメイジ2体、大盾を持ったハイオーガタンク2体、そして丸太のような太さの槍を持つハイオークジェネラルが1体。
脅威種は全員が武装をしていた。
ん? めちゃくちゃバランスが良い編成だけど……でも、脅威種の装備が何か変な感じだよね。
いつでも跳躍出来るように足を溜めるあたしは、脅威種が身に付ける鎧や大盾を眺め、真新しい鍛造跡があるのに気付く。
ついさっき出来上がったばっかりの武器のお試し、って感じかな? でも素材はどうやって……はっ!? まさか! いや、あり得るの、そんな事って!
「ギルマス! あいつらの装備、もしかしたら殺した冒険者たちの装備を再利用してるのかも!?」
あたしの言葉に、全員が身構える。
「だとすりゃ、尚更こいつらを生かしておく訳にはいかねぇ! お前ら、いつも通りに戦うぞ。盾班は――」
ドゴッ! と鈍い音がした。
同時に、ストレイドの右隣にいた盾班の男の上半身が無くなっていた。
「なん――何が!?」
驚愕に目を見開くストレイドが見たのは、ハイオーガタンクが持っていた大盾を投擲した後のモーションと、生理的嫌悪感しかない汚い笑み。
ハイオーガタンクはその膂力を活かして、自身の得物である大盾を投げたのだ。
その結果、魔法盾を展開していたにも関わらず、その盾ごと抉り取るようにして大盾が冒険者の上半身を消し飛ばしたのである。
その光景を見た隣の冒険者が青い顔で「ん、っぐ!」とえずき、吐瀉する者もいた。
どちゃ、っとバランスを失った下半身が崩れ落ちるよりも先に、あたしは鋭く踏み込んでいた。
狙いは唯一の得物を失ったハイオーガタンク。
神速、とまではいかないけど、それに準じた速度で寸分の狂いもなく、頸動脈を断ち切らんと振るった剣は、そこに届く直前に止められた。
「今のに反応出来るの? すごいね!」
あたしの攻撃を止めたのはハイオークジェネラルの太槍だ。ブンッ、と凄まじい風切音と共に槍が振るわれる。
この質量、今の剣じゃ受けられない!
一瞬で判断したあたしは回避を選択し、体を捻りながら宙を舞い、槍撃を躱して地面スレスレの態勢で着地し、ストレイドたちの方へと跳躍する。
そのタイミングで攻撃班の広範囲魔法が放たれる。
広範囲に氷結と冷気によるダメージを与える氷魔法『氷結冷域』と、氷の刃を含んだ吹雪を放射状に放つ『氷刃嵐』、それからダメ押しの『絶対零度』。
その3種類の魔法であれば、ほとんどの生物は生きていられないだろう。なんて事を、あたし以外のみんなは考えていたんだろう。
「ダメ、レジストされてる!」
だから雪煙が晴れて、巨大な土壁が出来ていたことにみんなは驚いていたし、さらにその向こう側に炎の障壁が展開されていて、ダメージは皆無だと一目で分かった時は、驚愕の表情を浮かべていた。
「おいおいマジか!? オーガにしちゃあ頭が良すぎじゃねぇか!?」
「って事は、やはりキングが産まれてやがるな!」
「キングが産まれるとヤバイの?」
どうして王が産まれるとヤバイんだろ? 繋がりが分からなくて、あたしは反射的にストレイドに尋ねた。
「普通の魔獣はバカなんだ! だが、稀に群れの王が生まれると、その群れは王を守るために連携を覚える。その段階で王を倒せれば良いが、王が育つと、率いている群れが知能を持つ。知能を持てば連携や作戦を立て始めるんだ! そうなると通常の討伐が難しくなる!」
「なるほど、理解した。って事は、このダンジョンにはオーガキングがいる、ってことね!」
「恐らくだがそうだ!」
「一旦引いた方が良いんじゃない?」
「そうしたいが……奴さんがそうさせてくれないと思うぞ?」
戦闘態勢を維持したまま、ストレイドが顎で敵を指す。ほぼ無傷のままのオーガたちは下卑た笑みを浮かべている。
「じゃあ、雑魚は任せる。あたしはあのジェネラルを殺る。まずはメイジを片付けた方がいいよ」
「な、おい、倒せるのか? あんな奴を?」
「倒せるよ。まぁ、ちょっと時間掛かるかもだけど!」
何の根拠も無いのに、どうしてここまで自信満々に言い切れるのか、ストレイドを含めた他の冒険者たちは不思議でしょうがない。
「あ、それから、最悪の展開について聞きたい?」
「……言ってみろ」
「この部屋、もしかしたら行き止まりなんじゃなくて、ここからさらに他の通路に繋げるための部屋なんじゃ無いかな、って……」
嫌な予感ってのは、どうしてあんなによく当たるんでしょうかね……(遠い目)




