27、第1次ダンジョンアタック
ダンジョンの入り口はあたしの想像していた通り、いわゆる普通の洞窟だった。
しかし、その洞窟の目の前には通常のオーガの死体が10体ほど散乱している。
「通常個体の死体が表にあるってことは、ダンジョン内はかなりマズイ事になってるな……」
その光景を見たストレイドがそう呟くけど、不思議に思う。
「なんで外にあるとマズイの?」
「そりゃ、ダンジョン内にあいつら通常種の居場所が無くなりつつあるって訳だからな……下手すりゃダンジョン内は上位種や脅威種しかいない、ってこともあり得る。参ったな……近隣ギルドに応援の要請をした方が良いかも知れん。おい誰かーー」
とストレイドが声を上げた瞬間である。
「ぐおぉおおおおおおッ!」
ダンジョンからオーガの通常種の死体を背負ったオーガ脅威種が50体ほど出てきて、冒険者たちとかち合ってしまった。
両者とも数秒の間、何が起きているのかが理解できずに硬直している中、真っ先に動けたのはあたしだけだった。
「ッーー破ッ!」
スキル『瞬動』により一瞬でトップスピードまで加速しながら跳躍し、抜剣。
そのまま『居合術』と『抜刀術』の恩恵を受けた斬撃をお見舞いする。
その一瞬の判断で先頭にいた脅威種の首を刎ね、そのままの流れで『連撃』のスキルを使い、2体目、3体目の首筋を斬りつけた。噴水のような鮮血が雨のように降る中、あたしは叫ぶ。
「各自応戦! 1匹も逃すな! 敵に知られればダンジョン内に防壁を築かれるわよッ!」
その言葉で冒険者たちがすぐに我に帰り、それぞれに武器を抜き、戦闘が始まった。
大量の脅威種たちはバラバラに動かずに徒党を組んで冒険者たちに向かう。しかし、それは冒険者たちとってはあまり良くない展開だ。
単純計算でオーガ1体に冒険者3人が相手になる。それが高ランクのパーティーであれば問題は無いが、低ランクの面子もいるので、そう上手くはいかない。
「となれば、出来るだけ早く、確実に1体ずつ葬っていく!」
4体目の脅威種を斬り伏せたモカは状況把握に努める。
僅か数分で、ダンジョン入り口前は乱戦の様相を呈していた。
そのため、広範囲の殲滅魔法が使えなくなり、魔術師たちは近距離用の魔法か、魔法武器による近接戦闘を余儀なくされている。
こうなると魔法使いよりも剣士の方が楽だと思うんだけどなぁ。
しかしながら、今しがた切り伏せた4体の脅威種は、先日倒した脅威種とは違って、あまり強くないように思えた。
死体運びをさせられるくらいに弱いって事かな?
この程度ならば苦労せずに倒せるし、アレを使う必要もない。
そう判断して、援護の必要そうな戦闘へと介入する事を選ぶ。戦っている最中のパーティーの獲物に手を出すのはマナー違反だが、今はそんな事を言っている暇はない。
「破ッ!」
あたしが『瞬動』で肉薄し、余裕がある所は脅威種の足の腱を切り、腕の腱を切り、余裕が無さそうな所は首筋を切り、武器を持つ手首を切り落としていく。
ついでにフリーになっている脅威種も同時に処理していけば、敵の数は自ずと減っていき、しばらく経てば、50体いた脅威種はその全てが討伐されていた。
戦いが終わり、気を緩めていくのは低ランクの冒険者たちだけで、他はまだ気を抜かずに周辺警戒を行いながら、ダンジョンの入り口に気を配っている。
「良くやってくれた。お前さんの素早い判断のおかげだ」
返り血を拭いていると、ストレイドが声を掛けてきた。
「何とか死人は出なかったが……」
と他の連中を見渡したストレイドは、冒険者たちの視線がモカに集まっている事に気付いた。その視線は大きく2つに分かれている。
(低ランクの奴らは今の戦いの恐怖と、こいつに対する畏敬。高ランクの奴らは逆にこいつの剣技の凄まじさに圧倒されてやがるな?)
想像していた展開では無くなったので、次の行動を悩んでいたストレイドは、良い機会だと言わんばかりに冒険者たちに告げる。
「ダンジョンに入るのはDランク以上にするぞ! それ以下のランクはここで待て! 周辺の掃除をして、俺たちが戻るのを待て! 分かったな!」
どうやら低ランクの冒険者たちは、今の戦いでそのキツさを身を持って感じたため、誰からも反対意見は出なかった。
ストレイドの言葉により、参加者150名を超える集団の内、ダンジョンへ入る人数は100名ほどとなる。
「もちろんお前は特例だ。一緒に来てもらうぞ」
「別に良いけど、殿にしてくれると嬉しい」
気弱な事を……とストレイドは思ったが、すぐにモカの言いたい事を理解した。
「あぁ、そう言うことか。分かった、お前は最後に来い。最前線で戦われれば、後衛の奴らの範囲魔法が使えなくなるかな」
思っていた事がちゃんと伝わって良かった。
返り血の処理や武器の確認などは僅か数分で終わらせ、体と心を休めた冒険者たちは遂にダンジョンアタックを開始した。
構成は至ってシンプルで、防御魔法を担当するパーティーを先頭にし、その後ろに範囲攻撃を担当するパーティーを配置、それを一組とし、敵と遭遇したら即範囲攻撃。分かれ道が出てきたら、違う組がそちらを担当する、という形だ。
同時に、ダンジョンの形状が変化しているかを測量するパーティーを別途に設け、マッピングも並行して行う。
「よし、行くぞッ! ここからは慎重に、冷静に、何よりも安全重視で行け! 勝てないと思ったら即撤退だ! 分かったな!」
ストレイドの号令に、冒険者たちは「応っ!」と返答した冒険者たちが、ダンジョンへと潜っていく。
全員が入っていくのを見送り、最後のパーティーがダンジョンへ入ると、ストレイドとモカもその後に続いた。
ダンジョン内では、火を使う魔法の使用は厳禁だ。
火を使えば酸素が無くなるし、一酸化炭素中毒にもなる。そのため、ダンジョン内では基本的に氷魔法か雷魔法を使うのが一般的で、広範囲への攻撃を行える氷魔法を好んで使う者が多い。
今回のパーティーもほとんどが氷魔法を使い、敵を氷漬けにしたり、氷の槍で貫いたりしている。
たまに雷魔法なのか、黒焦げになった死体も見受けられる。しかもその数は想像以上に多い。
後続が通りやすいように死体は壁の側まで寄せられているが、それでも山積みになっている。
「むぅ、思っている以上に数が多いな……それに……」
ストレイドを先頭とする7人のパーティーは、前方を警戒しながらもその死体の多さに驚きを隠せずにいた。
「えぇ、ダンジョン内部もオーガたちによって手を加えられていて、マップが意味を成していない」
身の丈ほどの魔法の盾を発動している男がストレイドの言葉に頷く。
「しかも、分かれ道が多い。ギルマス、どれを進みます?」
これまで1本道だったが、目の前には4つの分かれ道。どの道にも冒険者が進んでいるだろうから、どの道を行ったって良い。
「そうだな、右を行こう。ハズレなら戻ってくれば良いだろう」
「分かりました。右は……ちょっとだけ通路が広くなってますね……慎重に行きましょう」
ここまで、あたしはただ無言でダンジョン内をつぶさに観察していた。
抜剣はしていないけど、すぐに剣を抜けるようにはしている。何よりも、ダンジョンに入ってから妙な違和感がどうしても消えない。
入り口付近から死体があるなんて……そんなに増えていたの? でも、その割にダンジョンの外に溢れてはいなかったよね。それに……こいつら、何の武器も持ってない。
あたしが森の中で倒した脅威種は、ボロボロながらもきちんとした大剣を持っていた。だと言うのに、そこら中に転がる死体は、獲物を手にしていない。
上位種や脅威種の中でも強い奴らが武器を独占しているって事なら、奥に進めば進むほど敵が強くなるのは当然だよね?
進めば進むほど消耗は大きくなる。
体力も魔力も削られるのに、敵は強くなっていくのだ。そんな中、少し開けた場所にでも誘い込まれれば、囲まれて一網打尽だ。
うーん? 考えすぎかな? オーガにそこまでの知能があるなら危ないけど……まだ情報が足りないな。
ダンジョン内を進むモカ探検隊。
一体、ダンジョンの奥には何があるのか……
ちなみに、通常種→上位種→脅威種→キング、と強くなっていきます。




