26、早朝の呼び出し
ギルマスと別れたあたしは、何でもかんでもあたしのせいにするギルマスに対するイライラとした気分を隠さずにドワーフのオルゲンさんの店へ急ぐ。
「オルゲンさーん、防具出来てますかー」
店に入るや否や、大声で店の奥にいるオルゲンに呼びかける。すると、上機嫌のオルゲンが武器と防具を抱えて姿を見せた。
「おう、嬢ちゃん! 待ってたぜ!」
言いながら、剣と防具をカウンターに置く。
「剣の方は軽く研ぎ直して、血や油で滑ったり錆びたりしないようにコーティングしておいた。何度か戦えば剥がれちまうから、そこだけ気をつけろ。それから防具の方だが……お前さんの体に合うように調整したが、胸当てと籠手は鍛え直したからちょっとだけ重くなっちまった。ま、慣れてくれ」
「ありがとうございます!」
「ほれ、着けてみろ。変なところがあれば今手直ししてやるからよ」
「だったらついでに服も買っていいですか? 流石にこんな平民丸出しの服だと……ほら、冒険者っぽくない、ですよね?」
「んん? ま、そうだな。剣士用なら、動きやすい革の上着とパンツだろうな」
言われるがままに販売スペースの一角にある服を手に取る。どんな素材が使われているかは分からないが、とりあえず直感とセンスで選ぶ。
上下の白のインナー、赤のラインがワンポイントの黒革の上着とパンツ、それからモカの髪色と同じニーハイブーツを選ぶ。
それらを着込み、その上からあたし用に調整された防具を装着していく。
胸当ては剣が振りやすい様に調整されていて、どんなに動いても邪魔にはならない。
籠手も同じで手首を動かしても嫌な感じはしないし、このくらいの重さなら気にもならない。
ベルトは背面に短剣が装着出来るし、帯剣用の取り付け部が左右に付いている。
脛当てはブーツに取り付けるタイプで、軽くて動きの邪魔にはならない。
「ん、大丈夫そうです。何回か慣らしてみて、変なとこがあったらまた来ます」
「おう! そんじゃあ、全部で銀貨38枚だ!」
お金を渡すとオルゲンさんは満足そうな顔でお金を受け取って、あたしの剣や防具を眺める。
「嬢ちゃん、何かあったらまた来いよ! 少しは融通してやるからよ!」
「はい、ありがとうございます!」
今まで不機嫌だった事を忘れ、あたしは笑顔で頷いた。
宿に帰ってから、新しい防具をベッドに並べてニコニコと眺めたのは言うまでもない。
あたしが防具一式をオルゲンさんから受け取ってから5日ほどが経った日の明け方未明。
泊まっている宿の女将さんに優しく起こされたあたしは、ギルマスからの言伝を聞いて、寝ぼけ眼のまま着替えてギルドへ向かった。
この5日間は防具の慣らし目的でギルドの常設依頼である薬草採取やゴブリン討伐などの簡単な依頼を受けたり、アレク爺さんの所へ遊びに行っては天剣や神剣についての話を聞く、といった生活を送っていた。
しょぼしょぼする目を擦りながらギルドに到着すると、建物がギチギチになるくらいの冒険者が集まっていて、どうやらここにいる全員は、ギルマスによって集められたようだ。
「おし、集まったみてぇだな!」
受付カウンターに登って大声を上げたストレイドは、冒険者たちを見下ろして、腕を組む。
「今ここにいない奴らにもちゃんと話しておけ! いいな!? それじゃ、本題だ! オーガの脅威種が発見され、調査に行った『鉄の牙』の連中が、北のダンジョンにスタンピードの発生を確認した! これにより、現時刻をもって、お前たちに緊急クエストを発令する!」
冒険者たちの反応はまちまちだ。
喜び勇む者、面倒くさそうにしている者、初めての大型討伐戦に緊張している者、様々だ。
「調査に行った『鉄の牙』からの調査報告によると、ダンジョン内のオーガたちは瀕死の状態でも逃げずに向かってきたそうだ……恐らくダンジョン内には上位種かキングがいるものと思われる! それを討伐出来た者には特別報酬とランクアップを約束してやる!」
おおおおおおっ!、と雄叫びじみた歓声が上がり、あたしはそのうるささに顔を顰める。
「既にギルドはポーション類を確保してある! 各自しっかりと準備をして、明日のこの時間に北門に集合だ! 分かったら解散だ!」
ストレイドのその宣言により、集まった冒険者たちはそれぞれに散っていく。
そのままギルド内に残る者、武具屋に向かう者、薬品店に向かう者、そんな中、あたしは大きな欠伸をしながら宿に戻って2度寝を決め込んだ。
明日の朝イチに出発なら、こんな時間に起こさないで欲しかったよ。
翌日の早朝、やはり大きな欠伸をしながらあたしは集合場所に向かっていた。
この世界でダンジョンに潜るのは初めてだけど……こんな大人数で挑めるものなの?
北門を抜けると、そこには総勢150名を超える冒険者が集結している。
にしても……なんか、大した事ない奴らばっかり……でも無さそうね。
冒険者たちの集団を眺めていると、何人かはそのオーラを隠さない実力者らしき人物がいた。
そんな中、装備も杖も新品同然のザ・駆け出し冒険者らしき少年が、あたしを指差して騒ぎ始める。
「おい! なんでこんな子供が参加してるんだ!」
はぁ? あんたも子供でしょうが。しかも駆け出し感丸出しのガキンチョだし。
「しかも剣なんか下げて、足手まといだろ!」
どうやらこの少年はあたしが鮮烈デビューした場に立ち会っていなかったらしい。どこの世界にも周りの話に耳を貸さない馬鹿がいるんだなぁ、なんて思いながら、また欠伸を1つ。
その緊張感の無さが余計にムカついたのか、少年は猿みたいに喚き始めるが、すぐに他の冒険者に怒鳴られて静かになった。
「おーし、集まったな! これからダンジョンに向かう!」
集団の先頭に立ったストレイドは完全武装だ。中国の拳法着のような服装に、いかつい銀の装飾のローブを羽織っている。
「ランクが低い奴らは上のランクの奴らと一緒に行動するようにしろ! 脅威種や上位種との戦闘には参加するな! そう言うのは先輩連中に任せて、他の魔獣の掃討に専念するんだ!」
って事はあたしもどこかの高ランク冒険者に一緒に行動しなくちゃいけないのかな? と不満げな表情を作ると、ストレイドと目が合った。
「お前は別だ。俺と来い!」
その言葉に、周りの冒険者たちの視線があたしに集まる。
「え……あたし、1人の方が良いんですけど?」
「うるせぇ! お前を1人なんかにしたらさらに変な厄介事を引き起こすに決まってる! これはギルドマスター命令だ!」
有無を言わせない言葉に、あたしは口を尖らせて不機嫌な目でストレイドを睨みつけた。
「よし、班分けが終わったら、すぐに出発だ!」
何だか、小学生の遠足の引率の先生みたいだ、なんて場違いな感想を抱いて、あたしはこれからの動きを確認するためにストレイドの元へ向かった。
次回、ダンジョンアタック!
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