24、ドワーフの武器屋
ルンルン気分のまま、あたしは街の中央に店を構える武具屋に向かっている。
無意識に鼻歌まで歌ってしまうくらいに、今のあたしは気分がいい。
だってさ、新しい装備だよ!? まぁ、新品じゃなくてお下がりだけど。でも、いつだって装備を手に入れたらテンション上がるもんでしょ!
「それに、この世界で初めての装備だよ! 嬉しいよね!」
昨日、ギルドを探してた時にチラッと見えてたけど、行くの忘れてたんだよね。今朝も寄っていこうと思ってたけど、それも忘れてた。今度からメモ欄にちゃんと書いておかないとね。
「おっと、ここだ。ごめんくださーい!」
外観はザ・ファンタジー世界の武器屋って感じだ。もちろん店の中もね。
店内は明るい基調で武器屋というよりアパレルショップみたいな雰囲気だった。
「おう、いらっしゃい」
声を掛けてくれたのは短髪で目付きの悪いヤンキーのような男性だった。多分、30代前半かな?
「すいません、防具の手直しってやってますか?」
ヤンキーのいるカウンターに駆け寄ってそう尋ねると、ヤンキーは投げやりな態度で答えた。
「あぁ、やってるぞ。サイズか? 修復か?」
「サイズの再調整です。あと、ついでに剣の調整もして欲しくて……」
アイテムボックスからアレク爺さんに貰った防具を取り出してカウンターに置くついでに、腰の剣も一緒にカウンターに置いたら、途端にヤンキーの機嫌が悪くなった。
「はぁ? このご時世に剣? あんた、魔法使えないの? と言うか、剣なんて下げてるのダサいぜ?」
人を小馬鹿にしたような半笑いでヤンキーが言う。
「うちに剣士用の武具なんざねぇし、取り扱ってねぇんだわ。悪いけどとっとと帰ってくれる? うちは魔法使い専門なの」
人間、あまりにも早い速度で怒りのボルテージが上がると、何も考えられなくなるらしい。だって、今のあたしはポカンとした顔で目をぱちくりさせるのに精一杯で、何も考えられないからだ。
「ほら、さっさと帰れ、雑魚が」
よく我慢したと思う。自分を褒めてあげたいね。もしあたしじゃなかったら、とっくの昔に頭と胴体が永遠に別れてただろうに。
「………っち」
舌打ちをして、あたしはすぐに店から出た。
「すぅ……はぁ……」
何度か深呼吸を繰り返す。
異世界に来てまでアンガーマネジメントをするなんて思いもしなかったな。事務所の研修で受けておいて良かったかも。
6秒以上の深呼吸と、マインドリセットによる効果で怒りは消え……るはずがない。当たり前だ。
あの野郎、1番言っちゃいけない事を言ったんだ。
絶対に許さない。絶対にだ!
「おっといけない、深呼吸深呼吸……」
沸々と湧いてくる怒りを何とか沈めて、平常心を取り戻す。だけど、悪態くらいは吐いても許されるでしょ。
「感じ悪い店……2度と来ないもんね!」
怒り心頭のまま、あたしは街の屋台で買い食いをしながらどこか他の武具屋を探すことにする。
だけど、どこも似たような対応しかせず、この異世界における剣士の地位の低さを再認識させられる結果となった。
「はぁ……世知辛い世の中だよ……」
途方に暮れていると、一方的にあたしの事を知っている冒険者に話しかけられ、街の外れにあるドワーフの店に行ってみると良い、と情報を教えてもらった。
話しかけてきた冒険者の男は良かったら案内するよとしつこく付いてきて、用事が済んだら食事でも……と言ってきた辺りで殺気マシマシの視線を送って撃退してやった。
そんな感じだったから、半信半疑のまま教えてもらったドワーフの店に向かってみると、本当に街の外れに店があった。
位置的には街の西側だ。
西側には商店や飲食店などが集まっていて、北側の平民居住区、南側の貴族や富裕層の居住区、東側の歓楽区と分かれている中の、丁度北側居住区との境目辺りに追いやられたように思える。
「ごめんくださーい」
寂れた店の佇まいを見れば、やはり不安になるのだが、それでも一縷の望みを胸に店の中へと入っていく。
店の中はなるほど、鍛冶屋然としており、広めの武具の販売スペースの奥にカウンターがあり、その奥にチラッと鍛治場が見える。
「………客か? 何のようだ」
ぶっきらぼうな声がした方を見れば、カウンターの隅でぼけー、と座っている小柄で毛むくじゃらのおっさんがいた。
「あ、えっと……防具の再調整をお願いしたいんですけど……」
「その割に手ぶらじゃねぇか」
アイテムボックスから防具一式を取り出して、カウンターに並べて行く。
「収納魔法持ちか。ふん、なるほど……それで? これをお前さん用に再調整すりゃいいのか?」
「はい、お願い出来ますか? ついでに剣の調整もお願いしたいんですけど……」
そう言うと、ドワーフのおっさん――オルゲン・ブルゲンは勢い良く立ち上がり、カウンター越しにあたしに詰め寄ってくる。
「剣だと!? お前さん、剣士なのか!?」
あまりのテンションの上がり具合とその剣幕に一歩後ずさったあたしは首をブンブンと縦に振った。
「ほぉ、この時代にもまだ剣士を志す者がいるとはなぁ!」
ガハハ、と豪快に笑うオルゲンは一瞬で機嫌が良くなり、聞いてもいないのに色々と身の上を語り始める。
「今の魔法使いが一強になった時代になってから、俺たちのは碌に剣も打てなくなってなぁ! 剣や防具なんかも必要無くなってから、作るもんと言やぁ、包丁か護身用の短剣か、後は鍋の修理とかぐらいのもんよ!」
「は、はぁ……」
「稼ぎも無くて、母ちゃんに毎日どやされて、こんなんじゃあ酒が不味くてよぉ……俺たちドワーフはほとんどが厳しい状況なんだ。それでももう少しまともな仕事がしたいんだが、このご時世、剣士になろうなんて酔狂な奴もいなくてな……お前さんのような客が来るのを首を長ーくして待っておったんだ!」
入った時のぶっきらぼうな声と表情から一転した、上機嫌なオルゲンは、ニマニマと笑いながら、人差し指をクイクイと動かす。
「? 何です?」
「剣を出せ! 帯剣しとらんって事は、収納魔法でしまってるんだろ!?」
「あ、はい……どうぞ」
使い慣れてきた鋼の片手直剣を取り出して、カウンターに置いた。
「ほぅ……普通の剣だな。特に能力が付与されてる訳でもねぇな。うん? お前さん、結構な腕だな? 刃こぼれも無いし、凹みや傷がねぇ。何より、変な癖がついてねぇ」
面と向かってそう言われると恥ずかしいが、誇らしくもある。ゲームの中でも、レモーネの村でも、そんな事を言われた事が無いからだ。
あたしが剣神になるためにしてきた努力が褒められてるみたい……なんか、嬉しいな。
自然と笑みが溢れてくる。
「剣の方は軽く研ぐくらいで良いだろう。重心はどうだ?」
「今のままで良いです。その位の長さの得物はそれくらいが扱いやすいので」
「ほぉーん、って事は他の武器も扱えるのか?」
「えぇ、まぁ……一通りは」
「そりゃ面白れぇ。研ぎ終わるまでの予備武器はあるか? 無きゃあ貸しやるが……」
「本当ですか、助かります。まだ予備武器は持ってなくて」
「んじゃ、その樽に入ってるので気に入ったのがあれば、持ってけ」
オルゲンが指差したのは販売スペースの隅で投げ売られている格安の武器たち。
「それから、この防具だが……どんな風に調整すりゃいい? このままの形を保った方がいいのか? それとも別のに鍛え直した方がいいのか?」
「出来ればそのままの方が良いです。貰い物なので」
「分かった。じゃあちょいと採寸をさせてくれ」
オルゲンが大声で店の奥にいる奥さんを呼ぶと、あたしは奥さんにされるがままに採寸された。
「じゃあ、3日後にまた来てくれ。久しぶりに本気になれる仕事だ、全力でお前さん用に仕上げておいてやる。金はそん時でいい」
「ちなみに、どれくらいになりそうですか?」
「ん? んー、そうだな……剣の研ぎ、防具の再調整、大体銀貨30から40枚ってとこか」
「え!?」
驚いたのは、想像以上に安かったからだ。
この異世界で過ごしておおよその通貨の価値は把握出来たのだが、銅貨は大体百円くらい。
銀貨1枚が1000円くらいで、金貨1枚が10万円かな? だから、銀貨30枚とは日本円換算で30万円ほど。防具1式の調整と剣の研ぎという専門的な仕事であれば、もっとするものだと思ってたけど、こんなもんかな?
「なんだ、こんなもんだろ? 値引きには応じないからな!」
「あ、いえ、それで大丈夫です」
チラッとステータス画面の所持金額を確認する。
ギルドで受けたアレク爺さんの依頼、村で狩った魔獣の素材やオークの素材の売却金額などを合わせると、あたしの所持金はまだちょっとは余裕がある。
宿の宿泊代や食事代を踏まえても充分に払える額だよね。
「んじゃ、早速取り掛かってやる。楽しみにしとけ」
「はい、よろしくお願いします」
頭を下げ、鍛冶場に引っ込んでいくオルゲンを見送ると、予備武器の選定を始める。
樽に乱雑に入れられた剣を1本1本吟味していたら、いつの間にか日が暮れていた。
ドワーフのオルゲンさん、登場!
この世界のドワーフたちは、生涯を掛けて至高の1振りを作りあげることを目標としています。
最高の1振りが出来たと思ったら鍛治神を祀る神殿に奉納するのですが、その際に消える物と消えない物があります。
奉納したものが消えるのは、神の宝物庫へと納められたからだ、と言われていて、最も名誉なことであるとされています。
ちなみに、奉納出来るのは人生で1度だけです。
なので、今の時代のドワーフたちは結構大変です。
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