23、天剣≠神剣
「ほぅ……剣の神に勝つと? こりゃまた大きく出たのぉ。出来ると思っておるのか?」
「出来るか出来ないかじゃない……断じて、やる! ただそれだけ。だからあたしは強くなりたい。天剣を手に入れるなんて、ただのおまけなの。あたしは、あたしはもう二度と、あんな目で見られたくないッ!」
「神と戦うなぞ……ワシはかつて1度だけ神の降臨を目撃した事があるが、あれは恐ろしいもんじゃったぞ? あれは……確か、パラベリウム諸王国が魔法実験で滅んだ時じゃったかの……今から60年ほど前の事じゃ」
アレク爺さんの昔話が始まった。
今から60年前、地図の端っこにある小さな大陸が消滅した。理由は簡単で、神が介入したからだ。
原因は、魔力を分解して魔法を無効化するという新しい魔法の研究中に、魔法が暴走したことによる魔法災害だと言われている。
「魔力を分解するだけの魔法が物質をも分解してしまう魔法へと変貌し、世界を飲み込もうと広がったんじゃ」
その時、アレク爺さんは仲間たちと一緒にその大陸にいて、全力で逃げていたらしい。
「それを食い止めたのが魔法の神、魔神様じゃ」
魔神って、悪い事を企てたり、世界を破滅に導くような存在じゃないんだ。世界が違えば神様も変わるってやつだね。
「魔神様がただ息を吹きかけただけで、魔法ごと大陸が消滅したんじゃ。ワシらパーティーは船に乗って遠くからその様子を見ておったが、あんなに離れておっても尚感じるあの存在感。畏怖、畏敬……心の底から湧き出す恐怖には、誰も逆らえん。今思い出しただけでも、恐ろしい」
アレク爺さんはブルっと体を震わせた。心なしか顔色も良くない。それほどまでに圧倒的な存在なんだろう、神様ってのは。
「あまりにも違うんじゃ。挑もうとさえ思えん……じゃが、お前さんはやるのじゃろ?」
「もちろん。だからあたしは天剣を見つけたい。天剣がどこかに封印されるなら手に入れて剣神に挑む。もし剣神が天剣を持っているなら、剣神を倒して天剣を手に入れる。だからアレク爺さん、天剣について何か知っているなら教えてください。お願いします」
頭を下げる。
テーブルに額が付くほど深く、心から願う。
だって、今頼れるのは目の前にいるアレク爺さんだけなのだから。
「お前さんの心は分かった。これでも剣士の端くれじゃ。剣の道の頂を目指したいという気持ちは充分に理解しておる。だから、同じ剣士として、少しくらいなら話してやる」
「少しだけ?」
「当たり前じゃろ。ワシが生涯を掛けて集めた情報じゃ。そう簡単に全てを話すと思うなよ?」
はい、仰る通りです。
確かに今のは自分でも図々しいと思うよ。反省しなくては……ごめんなさい。
「うん、分かった。あたしもこれから色んな情報を探してみる」
「そういうのも冒険の醍醐味じゃからな。よし、まずは何から話すか……」
そう言って、アレク爺さんは顎髭を撫で付け始めて考える。
「そうじゃな。お前さん、世界には天剣と神剣があるのは知っとるな?」
「……知らないです」
「そうか、ならそこから話すか。世界には天剣とは別に神剣というのが存在しとる。歴史を紐解けば、天剣より神剣のほうが登場する頻度は多い」
アレク爺さんは、歴史上に度々現れる神剣の存在に疑問を抱き、長い歴史の中で天剣が神剣と呼ばれるようになったのではないかと考え、神剣の持ち主を探していたらしい。
「その時に分かった事なんじゃが、昔は天剣と神剣に区別は無かったようなんじゃ。と言うより、神剣も天剣も、とてもすごい剣、というカテゴリーに一括りにされていたようなんじゃ」
「じゃあ、神剣は天剣なの?」
「違う。それは確実に言える。天剣と神剣は全くの別もんじゃ」
どうして分かるのか? その理由もアレク爺さんは教えてくれた。
「エルフが持つ古い文献には『天剣は剣の神が持つ一振り』で、『神剣は神の権能を再現しようとして作られた一振りである』と書いてあった」
「つまり、天剣は神が作ったもので、神剣は人が作ったもの、ってこと?」
「その解釈で間違いないじゃろうが、正確には人ではなく、妖精やドワーフの鍛治師、それと龍たちと協力して、じゃな。それに天剣は一振りしか存在しないが、神剣はワシが知る限り、三振り存在しとる」
大地の霊脈溜まりから生み出され、妖精の女王から人族の勇者に貸与されたという妖精剣『ルフラム』。
太古の時代、最も強く、最も偉大だと畏れられていた古龍レストニアを素材として作られたという神龍剣『レストニア』。
流れる星の尾を芯にして、産まれたばかりの星を幾星霜にも折り返し、人と龍が共に作り上げたという星震剣『アヴィクト』。
この三振りは歴史上に何度か登場し、その度に世界の危機や巨大な悪を退けてきた。
「それで? その神剣は今どこにあるの? 持ち主を知ってる?」
「いや、1番新しい神剣の記述は今から150年前のものじゃ。そこを境に、神剣は表舞台から姿を消しておる。じゃが、運よくワシは、その時の所有者の子孫に話が聞けたんじゃ」
その家系には神剣の映し絵が代々受け継がれていて、それを複写させてもらったらしく、アレク爺さんはその写しを見せてくれた。
「この写しがそうじゃ」
「これが、神剣?」
「そうじゃ。これは星震剣『アヴィクト』らしいんじゃが……」
描かれているのは何の意匠も無く、神々しい訳でも煌びやかな訳でもない、ただの錆びれたショートソードだ。
鍔は無く、グリップには布が巻かれただけの質素な物で、博物館とかに飾られている遺物って感じ。
「なんか……イメージと違う……」
「やっぱ、そう思うよなぁ……ワシもこれ見せられて、同じ事を思ったぞい。だから聞いたんじゃが、どうやらこれは真の姿では無いらしい」
「どゆこと?」
「なんでも、所有者が生きておった頃は真の姿だったらしいんじゃが、所有者が亡くなった時にこの姿となり、触れるようになったと言っておった」
「それまでは誰も触れなかったの?」
「そのようじゃ。しかも絵に描こうとすると、ペンや紙がいきなり燃え始めるらしいぞ」
「ふーん……どれくらい強かったの?」
「その子孫の人から聞いた話では、光を纏い、それを束ねて斬撃として放ち、山を崩し、海を割り、一振りで100万の軍勢を壊滅させた、らしい。しかも驚くことに、それでもまだ半分以下の力だったらしいぞ?」
う、嘘くさぁ。どこのとんでも兵器よ、それ。アーサー王のエクスカリバーでもそこまでぶっ飛んだ性能はしてな……あれ? 13の拘束を解除したあっちのエクスカリバーはもっとすごいんだっけ?
なんて考えていると、それが顔に出ていたのか、アレク爺さんがふん、と鼻を鳴らす。
「嘘くせぇじゃろ? じゃが、長命種たちの話を聞くと、どうやら本当なんじゃよ。エルフ然りドワーフ然り……しかも、そんなのがあと2つもあって、さらにその上に天剣がある、って言うんじゃから、天剣の力はワシら人間の尺度では測れんってことじゃな……」
「……今、どこにあるか分かってるの?」
「いや、分からん。持ち主が死んだ時に、いつの間にか消えておったらしい。恐らく、次の持ち主が現れた時に表舞台に出てくるんじゃろ」
投げやりなアレク爺さんの言葉で、この話題は一度打ち切りとなる。
「あ、そうじゃ。若いの。お前さんに渡したいもんがあったんじゃ」
そう言って、自身の収納魔法から色々と取り出してくるアレク爺さん。取り出したのは使い込まれた防具一式であった。
「これは?」
「ワシにはもう必要ないもんじゃからな、お前さんにやる。売っぱらってもいいし、自分で使っても良い。まぁ、使うならお前さん用に調整し直さないといけんがな」
テーブルの上に乱雑に置かれた胸当て、籠手、ベルト、脛当ては使い込まれ、歴戦の雰囲気が感じられる。
「良いの?」
「このまま死蔵するより、誰かに使ってもらえる方が本望じゃろうて」
「じゃあ、ありがたく貰います」
礼を言って、その防具たちを自分のアイテムボックスへとしまうと、どうやら今日はここまでのようだ。
アレク爺さんはゴホゴホと咳き込みながら花の株を持って部屋の奥へと戻っていった。
「また、遊びにきますね!」
「今度来るときは酒とツマミでも持ってこい」
そんな言葉を聞きながら、あたしは「はーい」って返事をして、なんだが嬉しくなって笑顔のまま、アレク爺さんの家を後にした。
ようやく天剣についての情報が出始めました。
天剣>>>>>>>>>>>神剣>>>>>>聖剣・魔剣>>>>>普通の剣
くらいには強いです。
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