18、テンプレの分からせ
BLOの対人戦は大きく分けて2種類のルールがある。
戦闘における魔法の使用の有無だ。
もちろん、純粋な剣技のみで戦いたいというプレイヤーもいるし、ゲームの中でしか使えない魔法を戦術に組み込みたいというプレイヤーもいる。
あたしは基本的に魔法有りのルールを採用しているけど、その際に重要なのは、どうやって敵の魔法に対処するべきか、なんだよね。
対処法は幾つもあるけど、簡単なのは武器や防具に魔法破壊や無効化を付与する方法がメジャーだった。
だけど、武器や防具の付与スロットをそれだけのために1つ潰すのは勿体無い。だからあたしは……と言うよりほとんどプレイヤーは、対魔法用の剣技スキルを手に入れる方を選んでた。
攻撃魔法を破壊・無効化する『破魔剣』と防御魔法を破壊・無効化する『退魔剣』は、武器に魔法破壊と無効化の能力を付与するスキルで、魔法を発動前なら破壊、発動後なら切り伏せることで無効化する事が出来る。ついでに言えば、非実体系の敵への攻撃手段としても有効だ。
この世界にBLOのスキルが残っていてくれたおかげで助かったな。
対魔法有り戦の場合、これが有るのと無いのとじゃ、戦術の構成がガラッと変わるんだよね。
「ここだ」
案内されたのは、ギルドの裏手にある広場。
学校の体育館くらいの広さで、4つのコートに分かれている。普通の地面のコート、岩や砂のコート、倒木や生い茂った草のコート、水が撒かれて泥濘んだコート、その内の一つ、入り口に一番近い場所にある普通の地面のコートが今回の舞台らしい。
「色んな状況を想定した練習が出来るんだね」
色々と考えられてるんだなぁ、なんて思いながらストレッチをする。
腕を伸ばし、腰を回し、屈伸したり腱を伸ばし、最後に肩を回す。
どうやら他の冒険者たちも話を聞いたのか、野次馬根性剥き出しで見物に来たようで、観客は多い。あたしの反対側では10人ほどの冒険者がニヤニヤと笑いながら、ストレッチを眺めている。
「おい、嬢ちゃん。謝るなら今のうちだぜ? 俺たちも弱い者イジメをするつもりはねぇからな!」
「悪いけど、あたしも弱い者イジメをするつもりは無いから。あ、あまりにも弱すぎて勝負にならないか……」
挑発するように笑うモカに、冒険者の男たちは怒りに顔を歪める。
「女だからって親切にしてやってんのに、舐めた口効きやがって……まぁ、ちょうどいい。先輩として、後輩の指導はしてやらねぇとな!」
男の後ろにいる奴らもニタニタと笑って、楽しんでいるようだ。
「じゃ、始めましょ」
モカは使い慣れ始めた鋼の片手直剣を抜き、鞘を放り投げる。
「あぁ、掛かってこいよ、雑魚剣士!」
男はローブをはためかせ、取り回しのしやすい棍棒ほどの長さの短杖を構えた。
「それじゃーー」
開始の合図などは無い。
相対する2人が構えたのがそれを代わりだ。
「範囲拡大・小石の散弾!」
男の無詠唱魔法によって20を超える石の礫が出現し、放たれる。
礫の大きさはバラバラ、射出タイミングもバラバラ、何よりも、あたしの動きを阻害するように広範囲にばら撒かれたせいで回避も困難だ。
と、普通なら思うんだろうけど……
「生憎と、あたしは普通じゃないんだよね」
それが普通の剣士や魔法使いであれば、その通りだった。
それだけで勝負は付いたはずだけど、男が相対しているのは普通の剣士ではない。
かつてBLOで無敗を誇り、数多のプレイヤーを斬り伏せ、無数のモンスターを狩り、時には死闘を繰り広げてきた最強のプレイヤー。
常に戦いに身を置き、無限とも言える実戦経験を積み上げてきた事で得た技術は、剣の神には及ばなかったものの、神域まで届いていると言っても過言ではない。
歩法、先読み、フェイント、重心の移動など、その類稀なるプレイヤースキルはまさに神業と呼べるもので、BLOサービス開始から7年に渡って無敗……ではなく、16892勝1敗。
あらゆる得物を使いこなし、神速と名高い反応速度、天性の直感力によって世界最強の剣士として名を馳せた1人の剣士である。
「ゲームではね、怪我しても疲れても、魔法やアイテムですぐに治っちゃうんだ。そのおかげで無茶な連戦だって出来るし、24時間戦えちゃうんだよね。それを7年も続けた結果が今のあたしなんだ」
剣を振り、自分に当たる礫だけを正確に切り落とす。その剣速と必要最低限の動きだけで魔法を処理すると、これ見よがしに大きな溜息を1つ。
「はぁ、大したこと無いわね」
「多重化・火炎弾! 速射化・風の矢! 連射化・岩砲弾!」
無詠唱の属性も種類も違う魔法が3つ。
まず初めに放たれた風の矢へと突っ込むように跳躍し、切り伏せて風を霧散させる。
そのままスキル『天躯』の効果で空中を蹴ってさらに速度を上げ、ガトリング砲のように連射される石の礫を全て斬り落とし、発動して射出寸前の4つの炎の塊を横一閃にてその構成を断ち切って無効化した。
音もなく着地したあたしに「あり得ない!」と言いたそうな顔で驚愕する事に忙しくて動けない男の杖を根本から切り落とし、そのまま腹へ蹴撃をお見舞いしてやる。
ドゴっと、鈍い音がして男は吹っ飛び、壁に叩きつけられて動かなくなった。
僅か1分にも満たない圧倒的な蹂躙を目の当たりにした冒険者たちは、あまりの出来事に声も出せず、ただひたすら理解が追いつかずに、口をあんぐりと開けた馬鹿面であたしを見つめている。
「……で? 次は誰がやる?」
見学している冒険者にそう問い掛けたが、誰も答えない。
それどころか、目を逸らして、知らないフリをするばかり。どいつもこいつも根性無いね。
男たちを睥睨して、もうこれ以上は必要ないと判断する。
放り投げた鞘を取りにこうと冒険者たちに背を向けた時だった。
バァン、と勢いよくギルドへと続く扉が開かれ、力士とプロレスラーを足して2で割ったような大男が怒り心頭といった感じでやってきた。
「てめぇら、一体何をやってやがる!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、ギルマス〜」
その後ろから別の受付嬢さんが遅れてやってくる。
「おいモイラ! お前の言ってた少女ってのはどいつ……いや、お前か!」
見物の冒険者たちを力だけで押し退け、筋骨隆々の男はドスドスと近づいてきて、先ほどぶっ飛ばして壁にぶつけた男を指差す。
「アレをやったのはお前か!?」
「……そうだけど?」
「ギルド内での私闘は処罰対象だと知っててやったのか!?」
興奮しすぎてこめかみに青筋が浮いて、顔も真っ赤になっているギルドマスターのストレイド・ボルゲードは唾が飛ぶのも構わずに怒鳴り散らす。
「それって、冒険者同士の戦いってこと?」
「そうだ! 分かっててやったなら降格か資格剥奪だ!」
いや、そう言われても、喧嘩を吹っ掛けられたのはあたの方なんだけど……と思ったけど、そう言えばと気付く。
「じゃあ、あそこで転がってる男をお願いします。降格でも剥奪でも、好きにやっちゃってください」
「お前もだよ! さっさとギルドカードを出せッ!」
もちろん、そう言うと思ってたよと、ニヤッと口角を上げる。
「え〜、だってあたし初登録したばっかりで、まだギルドカードなんて持っていない、一般人ですよ? この街のギルドでは一般人相手に喧嘩を吹っかけてくる冒険者がいるんですか?」
その言葉で、その場にいた全員が固まる。
「そ、そういや……ギルドカードが出来るまで待ってろ、って言われてたよな」
「ってことは、まだ冒険者じゃないって事、だよな……」
見物客の誰かがそう言ったことで、ざわつき始めた冒険者たち。遅れて、ストレイドがワナワナと震え出し、どう言うことだ、と受付嬢さんに向き直る。
「おいモイラ! お前言ったよな! 新人冒険者が絡まれて私闘が始まったって!」
「ひぃ、ギ、ギルマスが最後まで話を聞かないで飛び出すからですよぉ〜」
「っち! まぁいい! おいお前ら! これ以上問題を起こすつもりなら、てめぇらまとめて降格させるぞ! さっさと仕事しろ!」
怒鳴り散らして、その場を解散させたストレイドは、ふぅふぅと鼻息荒く、あたしを睨みつける。
「お前は俺と来い!」
これは……逆らわない方が良さそうだよね。
渋々ながら頷いて、鞘を拾って納刀してから、ズンズンと歩き始めたギルマスの後に着いていく事にした。
諸事情で明日と明後日の投稿が予約投稿になります。
初めて使うので、上手くいくか分かりませんが、よろしくお願いします。
なお、月曜日からは通常通り手動で投稿していきます。
時間も変わらず19時投稿です。




