17、テンプレの絡まれ方
衛兵の人に聞いた冒険者ギルドを目指す。
とりあえず冒険者に登録して身分証を発行してもらわないとね。
それが終われば宿を確保しなくちゃいけないんだけど、まだこの世界における適正価格をイマイチ理解していないんだよ。
手持ちのお金で足りるかな?
「ま、お金なんて魔獣を倒して稼げばいいよね。最悪、あの猪とか熊の素材もあるし、売り払ってお金にしたっていい」
街の大通りを歩きながら、街の雰囲気を観察してみる。
通りは活気に満ちていて、住人たちは良く働いていた。
それなりに大きな街だから厄介事や面倒事も多そうだなぁ、と呑気に考えながら中央広場を目指す。
門番のおっさんから聞いた通り、グリザークの街の中央広場には立派な噴水があった。
その周囲には何軒も屋台が出ていて、より一層の活気を感じる。
「この噴水広場から見える赤いレンガの建物が冒険者ギルドだって言ってたけど……あれかな?」
どれどれ? と周囲を見渡すと、西側に赤レンガの建物が見える。
人混みの中を縫うように歩いてギルド前に着く。
重厚な作りで歴史を感じる佇まいだ。
扉を押し開けるようにして中に入ると、からんからん、と鐘の音が響く。
ギルド内はおおよそ想像していた通りだった。
受付カウンターと依頼票が貼り付けられているボード、テーブルと椅子、そしてたむろする冒険者たち。
「レモーネやユルゲンさんに聞いてた通り、剣士の人はいないな」
見渡す限り、冒険者たちの装備は剣士のように鎧や防具ではなく、軽くて動きやすいローブやプロテクターで、剣や槍などの物理的な武器はもちろんない。
その代わり、身の丈ほどの杖だったり、短杖だったり、と魔法使い然としている。
そんな中に、腰に帯剣している超絶美少女が入ってきたら、否応なしに注目されるのは当然のことだよね。
冒険者としては珍しい女性で、しかも可愛い。いや、とても可愛い。
だけど、すぐに声を掛ける訳にはいかない。
何故なら、馴染みの顔では無いし、冒険者であるかどうかもはっきりとしていないからだ。
ジロジロ見られてるなぁ……そんなに美少女剣士が珍しいのかな?
ストリーマー時代は色んなイベントに出演していたこともあって、不躾な視線を受ける事には慣れているから特に気にせず、受付カウンターに直行して、受付嬢に話しかけた。
「冒険者の登録をしたいんだけど……」
可愛らしいウエイトレスのような制服を着た女性の受付嬢は、少しばかりびっくりしたような表情のまま、あたしをジロジロと観察してくる。
「あの……登録を……」
「あ、ご、ごめんなさい。冒険者への登録ですね? 初めてですか? 再登録ですか?」
我に返った受付嬢さんは、にこやかな笑みを浮かべて、2枚の紙を取り出して掲げて見せてくれる。
「初めてだけど、大丈夫?」
「えぇ、構いませんよ。初めての登録でしたら、こちらの用紙に記入をお願いします。文字の読み書きは出来ますか?」
取り出した用紙の片方をしまい、受付嬢は残った用紙を差し出してくる。
「大丈夫。あと、登録料はいくら?」
「初めての登録ならお金はかかりません。初めての登録ですと、全員が一律で最低ランクのFからのスタートとなりますが、宜しいですか?」
「分かった、それで大丈夫」
用紙に必要事項を記入し、さっき貰った羊皮紙と一緒に提出する。
「はい、確かに………え? け、剣士!? え? ほ、本気ですか?」
用紙を確認していた受付嬢が驚いたように尋ねてくる。
いや、本気も何もこの出立ちからしてそれ以外の何に見えるってのよ。
不機嫌なあたしのジト目に、受付嬢は慌てたように笑みを浮かべた。
「あ、す、すみません、あ、いや、その……このご時世に剣士を職業にする人は、その……いないもので……本当に良いんですか?」
「何か問題あったりするの?」
「い、いえ、大丈夫です……では、これでギルドカードの発行を行います。発行には少しお時間を頂きますので、お待ちください」
受付嬢はそう言って、用紙を手に奥に消えていった。
待ってろ、って言ってもなぁ……何か、依頼でも見てるかな。
依頼ボードまで近付いて、貼ってある依頼表を眺めていると、1人の冒険者の男が声を掛けてきた。
「おい、嬢ちゃん。これから冒険者になるんだって?」
ニヤニヤとゴブリンのような下品な笑みを浮かべ、木のジョッキを片手に酒臭い息を撒き散らしている、
所謂ろくでなしだ。
「そうだけど?」
面倒くさそうに振り返り、不機嫌な顔を隠そうともせずにそう答えると、冒険者の男は周囲の仲間と一緒に良い暇つぶしが出来たと喜んで手を叩き合う。
「しかも剣士なんつー時代遅れになるんだろ? おい、お前ら、聞いたよな? この時代に剣士だってよ! ぎゃはは!」
良い時間だというのに、依頼も受けずにこんな所で酒を飲んで新人に絡む男がまともなはずがない。
そう思ったからこそ、この男に対する対応はそれなりのものになるのもしょうがない。
「そんなの、個人の勝手じゃないの?」
「いやいや、馬鹿言うなって! 嬢ちゃんみたいな女の子が剣士なんて無理に決まってらぁ!」
そんな声のデカい男に同調するように品のない男たちが次々に話しかけてくる。
こいつらもろくでなしだね。
はぁ……と、うんざりしたように肩を落とす。
「おいおい、嬢ちゃん。剣士ってのはな、魔法も碌に使えない雑魚がなるもんだぜ? 嬢ちゃんはまだ若いんだから、まずは魔法のお勉強をした方がいいぜぇ? なんなら俺のパーティーに入れてやるよ。んで、手取り足取り、俺が魔法を教えてやってもいいぜぇ?」
「ははは、違ぇね! 剣士が剣を構えて突っ込んで来るまでの間に、俺たちは剣士を3回も殺せる魔法が撃てるんだぜ? 近づくまでにドカン! よ!」
「そうそう! それに、肉体強化が使えても、魔法の補助で早く動けても、近づかないと敵を倒せないようじゃあ冒険者として無能だぜ!」
広間に馬鹿笑いが湧き起こる。
恐らく、ここにいる全員が同じような事を思っているんだろうなぁ。
魔法使い一強と言われている世界で、近接戦闘しか出来ない剣士はお荷物なのだろうが……どうにも納得が出来ない。
「でも、あんたら、あたしより弱いでしょ」
だからあたしがそんな言葉をポロッと溢したのも仕方ないと思うんだよね。
その一言で馬鹿笑いがピタリと止む。
「おいおい嬢ちゃん。馬鹿を言っちゃイケねぇよ。魔法使いが剣士より弱いだぁ? それこそありえねぇ! お前たち剣士が逆立ちしたって俺らには勝てねぇよ!」
「あー、はいはい、雑魚ほど良く吠えるってやつね」
「なんだと? 良いか、俺たちは嬢ちゃんのためを思ってーー」
「ねぇ、あんた、ランクはいくつ?」
腕を組み、トントンと苛立ちのままに指を叩く。
「あぁ? 俺はDランクだ。ここら辺で『鋼の鏑矢』のパーティーを知らねぇ奴はいないぜ?」
「悪いけど知らないわね。それに、あんたみたいな奴がDランクっていうなら、ここの程度も知れてるよ。こんな雑魚がDランクなら、あたしはすぐにでも最高ランクになれるね」
売り言葉に買い言葉だ。
「なんだと!? てめぇ、俺らが親切で言ってやってるのに舐めてんのか!」
「舐めてるに決まってるじゃん。見た目だけじゃなくて頭の中もゴブリンなの?」
あたしの一言に冒険者の男は遂にキレた。持っているジョッキを叩きつけるようにテーブルに置き、あたしに掴み掛かろうとしてきた。
「面倒ね。ねぇ、ここ、戦える場所ある?」
そんな男をスルリと回避して、その手を捻って無力化させながら他の冒険者にそう尋ねる。
「ギ、ギルドの裏手に模擬戦用の広場があるが……」
「んじゃ、やりましょ? 何人掛かってきてもいいよ。その代わり、あたしに負けたら全員土下座して剣士は強いですごめんなさい、って謝ってもらうから」
「……嬢ちゃんが負けたらどうすんだ?」
「負けたら? 負けるはずないよ。だってあたし……最強だもん♪」
えへ、と無邪気に可愛らしく笑ってみせる。
その場にいた何人かの冒険者たちが、それだけで恋に落ちるくらいには破壊力のある笑顔だったのは言うまでも無い。
お約束の絡まれ回。
次回もお約束の回。
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