158、リザルト2
「どうなりました?」
あたしの質問に、ユリシュさんが答えようとした瞬間だった。
「キュイ~」
「キュ~!」
「リュイ~」
ユリシュさんの両肩と頭の上に乗っていたワイバーンと双頭蛇の人形がいきなり動いて、あたしの胸に飛び込んできた。
「うわぁ!? え!? え!? な、なに!? 何これぇ!」
あたしの胸に飛び込んできた小さな子たちは、あたしをアスレチックだと思っているのか、身体をよじ登ったり、滑り降りたりと自由に遊び始める。
「あぁ、言うのを忘れていたね。君がワイズマン・エイプキングを倒した後、私たちが来るまでの間、ずっと君を守っていたんだ。愛されているね、モカちゃん」
ってことは何? この小さなぬいぐるみみたいなワイバーンと双頭蛇は、西の山であたしが助けた子たち、ってこと? そういうこと!?
「えーっ!? 小っちゃくなったねぇ! 可愛いねぇ!」
あたしの身体で遊びまくっている子たちを抱きしめてちゅっちゅっ、とキスの嵐をお見舞いしてやる。
「それは私の力さ。正式にモカちゃんの従魔となったからには、身体のサイズを変えられた方が色んな街に入るときに楽だろう?」
「ありがとうござ――待って? 今、なんて言いました?」
あたしの聞き違いかな? 今……
「正式にあたしの従魔になった、って言いました?」
「うん? そう言ったけど……あぁ、気にしなくていい。ギルドマスターとの調整は終わっているよ。ギルドカードを出してごらん」
ユリシュさんに言われるがままにアイテムボックスからギルドカードを取り出してみると、あたしの名前の後ろに星のマークが3つ。
なんだろ、これ……とギルドカードを見ていると、ユリシュさんが後ろを見ろ、とジェスチャーをしてきた。
「後ろ? ……え、なに、これ?」
後ろには、登録従魔の欄が増えていて『ワイバーン・ロード』、『ヴァンキッシュ・ワイバーン』、それから『ガーディアン・アンフィスバエナ』の文字がある。
「この子たちはすごいね。あのワイズマン・エイプキングとの戦いで勝てず、守れず、足手まといになったと感じたんだね。君がワイズマン・エイプキングを倒した時にこの子らがレベルアップした際に、迷わずに進化の道を選んだんだ」
あたしはギルドカードの名前をなぞる。
足手まといなんかじゃなかったよ……君たちがいなかったら、あたしも負けてたし、きっと死んでた。
「……ありがとうね、みんな」
腕の中にいる子たちに、そう声を掛ける。
「君たちのおかげで、あたしは勝てたんだよ」
ワイバーンと双頭蛇たちは嬉しそうに鳴いて、あたしに身体を擦り付けてきた。
あぁ、もう! ほんとに可愛いなぁ!
「にしても、君たち、進化したんだね! かっこいいね!」
ワイバーン・ロードに進化した子は、普通のブラックワイバーンとあんまり変わらないけど、角が立派になったのと、身体に紅いラインが入っている。
それを褒めてあげると、上機嫌に鳴いてくれた。
ヴァンキッシュ・ワイバーンに進化した子は、爪や牙がより鋭く、硬くなっていて、ブラックワイバーンと比べると、身体が少し大きくなって、翼がもう一対増えている。
褒められるのを待っているかのように首を伸ばして、ちらちらとあたしを見ていたから、きちんと褒めてあげると、この子も上機嫌に鳴いた。
最後に、ガーディアン・アンフィスバエナに進化した子は、元々の深くて濃い緑色の体表が白くなっていて、鱗の淵が金色に輝き、深い紫色の瞳になっている。
この子はどこか澄まし顔であたしを見つめていて、目が合うとふいっと顔をそむけてしまった。恥ずかしがり屋さんなのかな? と思って首を傾げると、慌てたようにあたしにすり寄ってきてくれた。
ツンデレさんかな?
「みんな、かっこよくなったね! いや、可愛いかな? それともかっこかわいい?」
あたしの腕の中でわちゃわちゃとはしゃいでいる子たちを更にギュッと抱きしめてあげると、それを見ていたユリシュさんは、あたしのギルドカードの登録従魔の欄を指さした。
「あとで、この子たちに名付けをしてあげるといい。付けた名前をギルドに届ければこの欄に名前が追加されるからね」
おぉ、なるほど。
名前か。それもそうだね。いつまでもワイバーンとか、双頭蛇なんて呼んでちゃ可哀想だもんね。
「ねぇ、みんな? 本当にあたしでいいの? あたし……」
そう言いかけると、3匹は怒ったように鳴いた。まるで抗議しているみたいだ。
「あはは! モカちゃん、君よりこの子たちの方がよほど利口だね!」
ユリシュさんが口を開けて笑うところ、初めて見たかも……それくらい衝撃的な光景だ。下手したらメルツェナさんも見たことないんじゃないかな?
「あ、あの……言葉、分かるんですか?」
「あぁ、分かるよ? 私を誰だと思っているんだい? 『偉大な魔法使い』だよ? 魔獣の言葉を翻訳するくらい……あぁ、いや、これは内緒にしておいてほしいな」
「へ? あー、分かりました」
何かマズイことでもあるんだろうか? まぁいいや。
それより、ユリシュさんが笑ったってことは、この子たちが変なことを言ったんだろう。
「今回はサービスで教えてあげるよ。この子たちはね、君から愛を貰ったから、それに報いたいんだ。だから、愛をくれた人が自分に愛を向けないのはダメだ、って言っているのさ」
何それ……そんなのって……あたし……
「あたし、きっと君たちが想像するような人間じゃないよ? 君たちの同族を殺すことになるかもだし、君たちを危険に晒すかも知れない。もしかしたら辛く当たっちゃうこともあるかもだし、助けてあげられない時が来るかも。それでも君たちは良いの? こんなあたしで、本当にいいの?」
そう聞けば、またご立腹の声を上げる。
「モカちゃん〝が〟良いんだって。すごいね。テイマー冥利に尽きるじゃないか。まぁ、君はテイマーじゃなくて剣士なんだけど」
ツッコミありがとうございます。
それにしても……
「うふふ!」
そっかそっか……あたしの事、そんなに大好きなんだ。嬉しいなぁ。
「これからよろしくね、みんな!」
こうして、新しい旅の仲間が増えたんだけど……そういえば、ユリシュさんに肝心なことを聞いていない。
「あの、ユリシュさん?」
「どうしたんだい?」
「この子たちの事は分かったんですけど、肝心の……あの後どうなったのかは……」
「心配しなくてもきちんと話すよ。君には伝えなくちゃいけないことが山ほどあるからね。でもまずは――」
とは言いつつも、ユリシュさんはあたしの持っているグラスを取り上げて、そのまま人差し指で額をトン、と押して、あたしをベッドに倒した。
「――きちんと休みなさい。夜ご飯の頃にまた起こしてあげるから」
「………はぁい」
確かに、身体はまだ痛いし、熱っぽい。
「あれほどの戦いに興じたんだ。5日で目を覚ます方がおかしいんだけれど……やっぱり若いと回復が早いんだね」
「ユリシュさんだって……あれ、ちょっと待って? 5日? あたし、5日も寝てたの!?」
「おや、言ってなかったかな? それは済まないね。君がワイズマン・エイプキングを倒して王都を救ってから、今日でちょうど5日目だ」
そんなに寝ていたとは……でも、確かにめちゃくちゃ疲れたしなぁ。最後の方はちょっと記憶がふわふわしてるけど、それでも激闘だったのは覚えてる。
「そうですか……あの、みんなは?」
カティナちゃんや他の子供たちは? メルツェナさんやミーナさん、侯爵さんは? 『黒鉄の雷雨』のみんなや、あの露店のおばあちゃんは? みんな無事だろうか?
「詳しい話は後できちんとしてあげるとして、とりあえずは全員無事だよ。それに、あの規模の魔獣に攻められ、王都内で大型魔獣が暴れたというのに、死傷者の数はずっと低い。もし君がワイズマン・エイプキングを止められず、そこの従魔たちが間に合わなかったら、もっと死んでいた。いや、王都が滅んでいた可能性だってあった。だが、君はやった。そのおかげで、本来なら10倍以上の死傷者が出ていたところを、その10分の1の数に抑えることが出来たんだ。誇りなさい、モカちゃん。悲しみ、自分を責めるのではなく、自分の成した成果に喜びなさい」
犠牲になった人がいる……のは、すごく悲しいし、残念だよ。
でも、ユリシュさんの言う通り、あたしが頑張らなかったら、もっと多くの人が怪我をして、泣いて、死んでいくはずだったんだよね。
別に自慢しようとか、褒めてもらおうとか、そういう気持ちはないけれど……少しでもそれで救われた人がいたなら、それはとっても嬉しい。
「ありがとう……ございます」
「ゆっくりとお休み。ほら、君たちもおいで。ご主人様は眠る時間だ」
ユリシュさんがそう言って手招きをしたけど、この子たちは示し合わせたように首を横に振った。
「そうか、ご主人様と離れたくないか。でもいいかい? 休む邪魔をしちゃいけないよ?」
コクコクと頷いた3匹は、横になったあたしの首元や胸の上に陣取って、丸まる。
「それじゃあ、お休み、モカちゃん」
ユリシュさんが、人差し指をふいっと動かすと、白い光がキラキラと舞ってあたしに降りかかる。
「……ふぁい……おやしゅみ……なはい……」
一瞬で、抗えないほどの睡魔に襲われたあたしは、そのまま目を閉じて、夢の世界に旅立った。
これにて、モカが助けた3匹の魔獣は正式にモカの従魔となり、この後の旅に同行することが決まりました!
名前はまだ決めあぐねているので、次回か次々回あたりまでに決定しておきます!




