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157、リザルト1

 死者192名。

 負傷者552名。

 王都を襲った未曽有の大事件――後に『魔獣大侵攻』と呼ばれるようになる――は、コルベス王国王都・ユリディンギルに大きな傷跡を刻み込んだ。

 王都の東地区で行われた大型魔獣と冒険者の戦いの余波は凄まじく、ほとんど更地のような様相を呈している。

 無事な家屋を探す方が難しい有様だったが、応援に駆け付けた冒険者や騎士たちは1人の例外も無く、その異様な光景に唖然としていた。

 彼らの視線の先には、30メートルを超える巨体の魔獣――ワイズマン・エイプキングが縦に真っ二つにされて絶命し、その側に1人の少女が倒れており、その少女を守るように2匹のワイバーンと双頭蛇が辺りを警戒し、威嚇している。

 しかし、この場に集まった冒険者や騎士たちが無闇に魔獣たちに攻撃をしないのにもきちんと理由があった。

 と言うのも、Aランク冒険者の人形師・メルツェナからの報告により、目の前にいる3体の魔獣は、倒れている少女の従魔である、というのが確認されていたからだ。

 冒険者ギルドのギルドマスターから全冒険者に通達され、ギルドマスターが王宮へ報告したことで騎士たちにも通達されていたため、大きな間違いは起きていないのである。

 それに、一部の冒険者や騎士たちは、この3体の魔獣たちが少女と協力してこのワイズマン・エイプキングと戦っている所を目撃している。

 何よりも、この3体が暴れもせずに少女に寄り添って、少女の安全を守っているというのがその証左でもあった。

 故に、誰か事情を知る者、或いは倒れている少女の関係者が到着するまで、彼らは一定の距離を保ったまま、その様子をずっと眺めていることにしたのだ。

 そして、ほどなくして事情を知る者、少女の関係者の2つの項目をクリアした者たちが現れたのである。

 しかも、その顔ぶれは錚々たる面々であった。

 1人目、Aランク冒険者のメルツェナ。

 2人目、鬼人族で王宮に勤めるメイドのミーナ。

 3人目、元Aランク冒険者でギルドマスターのモンド。

 4人目、保守派閥の長にして侯爵位の貴族、エーデルハイド。

 5人目、Aランクオーバー冒険者にして世界最強の魔法使い、ユリシュ・ダヴラ。

 6人目、王国騎士団団長にしてコルベス王の護衛騎士筆頭、メリナ・サンメイル。

 7人目、この6人を従え、現れたコルベス王国の王、アンブリシア・メトンディール=オブラティアン・コルベス。

 あまりにも恐ろしい顔ぶれに、冒険者たちは興味本位に事の成り行きを見守り、騎士たちは王の登場に跪き、頭を垂れる。

 そして、少女を守る魔獣たちは、彼らが現れたことで少しばかり態度が軟化していた。

 そこからの流れは、想像以上に早かったのだが、野次馬と化していた冒険者や騎士たちがあれこれ想像する前に、Aランクオーバーのユリシュ・ダヴラが何かを言い、国王が笑い、メリナが険しい顔をし、モンドとエーデルハイドが引き攣ったような顔になり、メルツェナとミーナが呆れたように肩を竦める。

 どうやら今後の方針が決まったようで、王とメリナ、エーデルハイド侯爵、モンドギルマスが野次馬となっている冒険者と騎士たちに今回の騒動の終息を宣言した。

 同時に、すぐに救助活動と復興活動を始めるように告げると、王はメリナを引き連れて城へと戻っていった。

 後を引き継いだエーデルハイド侯爵とモンドギルマスは、それぞれに指示を出し始める。

 蜂の巣を突いたかのように動き出した冒険者や騎士たちは、それでもその奥、倒れている少女と魔獣たちの動向をチラチラと横目で見ていた。

 すると、メルツェナとミーナがワイズマン・エイプキングの死体へ近づいて何かを始める。

 ユリシュ・ダヴラに至っては、少女の傍に侍る魔獣たちと何かを話し、手を翳す。淡い光が魔獣たちを包むと、その巨体が徐々に小さくなっていき、手のひらに乗るくらいのサイズとなった魔獣たちを自分のローブで包み抱く。

 それから倒れている少女にも手を翳すと、ユリシュたちの姿が一瞬で搔き消えた。

 残されたメルツェナとミーナは、ワイズマン・エイプキングの頭部で何かを探しているようで、ミーナがそれを見つけたようだった。

 ワイズマン・エイプキングの右頭部、潰れた瞳の中から取り出したのは、人の腕と、その腕が掴んで離さない一本の刀だ。

 メルツェナが刀と腕に洗浄魔法を使い、ミーナが大事そうに布に包んだ。

 そして、やることが終わった2人は、そのままワイズマン・エイプキングの死体の検分を始める。

 そこでようやく、本当に事件が終わったのだと、野次馬たちは感じた。



 目を覚ました時、お約束に「知らない天井だ……」と呟かないといけない、と思うのは、あたしが日本人だからだろうか。


「………知らない天井だ」


 だから、ぼんやりとした頭でも自然とその言葉が出てきた。

 目の前の天井は、本当に知らない天井だ。

 身体を起こそうと思って力を入れた瞬間、身体に激痛が走る。


「っ! ……ん!?」


 そして、ようやく気付いた。


「ワイズマン・エイプキングは!?」


 首を動かして辺りを見渡す。

 どうやらあたしは天蓋付きベッドに寝かされているらしい。

 それに部屋が大きい。

 品の良い調度品たちに囲まれた部屋は、超高級な一流ホテルのVIP専用のスイートルームのようにも思える。


「もしかして……あたし、死んだ? ここ、天国?」


 本当にそうなのかも知れない。

 ワイズマン・エイプキングとの戦いで、あたしは負けて、ここに送られたんだ。

 きっとここは死後の世界で、死んだ人が目を覚ます場所なんだ。この後、死神がやってきて閻魔様のところに連れていかれて、天国に行くか地獄に行くかを決めるんだ。


「閻魔様……どんな人かな? 元地蔵で、白黒つける程度の能力を持った美少女だったら嬉しいなぁ」


「おや、モカちゃんの知り合いには面白い人がいるみたいだね」


 ギョッとした。

 驚きすぎて心臓が止まるかと思った。


「び、びっくりしたぁ……」


「あぁ、それは済まないね、モカちゃん」


 音も気配もなく部屋に入ってきたのは、ユリシュさんだった。

 その手には水差しとグラスの乗ったお盆を持ち、両肩に可愛らしいワイバーンの人形を、頭の上にとぐろを巻いた双頭蛇の人形を乗せている。


「もうそろそろ目覚めると思っていたのだけれど、良いタイミングだったね」


 やはり音も立てずにこちらへ来るユリシュさんは、緩やかな笑みを浮かべ、あたしの眠るベッドの脇にあるテーブルにお盆を置くと、水差しからグラスに水を注いで、あたしに差し出してきた。


「喉が渇いているだろう?」


 そう言われれば確かにそうかも。

 喉がカラカラだ。

 あたしはゆっくりと身体が痛くないように起き上がって、ユリシュさんからグラスを受け取り……


「って! 腕が! 右腕がある!」


 ここでようやく、自分の右腕があることに気付いた。

 でもどうして!? ワイズマン・エイプキングと戦った時に、あいつの瞼ギロチンで千切られたはずなのに!


「あぁ、右腕は治療してもらったんだ。メルツェナと君の御付きメイドがワイズマン・エイプキングの死体から持ち帰ってくれてね。私は回復とか治癒の魔法が苦手だから、アメストリリアにお願いしたんだ」


「……誰?」


「おや、知らないかい? 私と同じAランクオーバーの冒険者で、『聖女』の異名を持つ、根暗なシスターさ」


「へぇ………え? Aランクオーバー?」


「そうだとも。まぁ、彼女も忙しいから、君を治してもらったらすぐに送り帰したけどね」


「じゃあ、次に会ったらお礼を言っておいてください」


「あぁ、もちろんだとも。それから――」


 あたしが一息で水を飲み干すと、ユリシュさんはあたしのグラスに水を注いでくれる。


「――君の武器は、メルツェナとミーナが回収してくれている。今はベルムッド翁に預けてあって、必要な処置をしてくれているはずだ」


 それを聞いて安心した。

 あの戦いで【理切】には頑張ってもらったし、グラディウスにも無理をさせちゃったからね。


「ありがとうございます………あの、本当は最初に聞くべきだったんですけど……」


「なんだい?」


「どうなりました?」


 2杯目の水を飲み干し、あたしはジッとユリシュさんを見つめた。

知らない天井だ……って、なんでこんなに有名になったんですかね?

単純にめちゃくちゃ使いやすいからなんですかね?


それはさておき。

ようやく対キング戦も終わり、3章も終わりに向かっております。

もうしばらくお付き合い下さい。

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