159、リザルト3
寝る前にユリシュさんが言っていた通り、あたしが起こされたのは少し遅い夕食の時間だった。
あれからさらに眠ったことで、身体の痛みはある程度まで収まったけど、それでもまだ全力で動くのは難しいかも。
あたしを起こしにきたユリシュさんの手を借りて、ベッドから起き上がって、そのまま食堂へと連れて行ってもらう。
「うわぁ……」
あたしが寝ていた部屋もすごかったけど、廊下に出てみたら廊下もすごかった。
綺麗でふかふかの絨毯がずっと続いているし、等間隔に配置されたランタンはおしゃれで高そうだし、壁に掛けられた絵画や魔獣の剥製の数々はあたしが見たことないものばかりだ。
「ここ、ユリシュさんの家ですか?」
「あぁ。昔、友人との賭けに勝ってね。そのまま譲り受けたんだ。ほら、外を見てごらん」
ユリシュさんが指さした方を見れば、文字通りの絶景が広がっている。
実際に見たことはないけど、ネットの画像やテレビの映像で見たことのあるマチュピチュのような景色が広がっているのだ。
眼下には綿菓子のような雲海に包まれた、石造りの町と草原が広がり、その奥には広大な山々が連なっている。
月明かりの中でもここまで鮮明に見えるってことは、月が近いってことかな? だとすれば、ここは……山の上とか?
思わず息を飲んで、その光景に圧倒されていると腕を引かれた。
「探索はもっと元気になってからにしなさい」
「はぁい……」
そのままユリシュさんに連れられて、食堂へとたどり着く。
大ホールと呼んでも差し支えないほど大きな食堂には、長いテーブルが中央に置かれている。
何より驚いたのは、食堂には50人ほどのメイドや執事がいて、全員があたしたちの到着を待っていたことだ。
「さぁ、座って」
促されるままに椅子に座ろうとすると、ススっとメイドさんが近づいてきて椅子を引いてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
お礼を言っても一言も喋らず、ただ無言で軽い会釈だけされた。
「では、少し遅いが夕食にしよう」
ユリシュさんの一声で、なんとも静かなディナーが始まる。
当然ながらあたしとユリシュさんに出される食事は違う。ユリシュさんに出されるのは豪華な一流の料理なんだけど、あたしに出されるのは病院食のように食べやすく、消化の良いものばかりだ。
うーむ、確かに5日も寝ていて、何も食べていないから、いきなり食べるのはダメなのは分かるけど、目の前でステーキやら何やらを食べられると余計にお腹がすいてくるよ。
「そんな顔をしても、まだあげられないからね」
「新手の拷問ですか、これ」
「いや、君の体調を慮ってのことだ。それよりも、君が聞きたがっていた事件の顛末を語ろう」
ステーキの付け合わせのジャガイモを頬張ったユリシュさんはホクホク顔で頷きながら、事の顛末を語ってくれた。
死者、負傷者は事件の規模からは考えられないほど少なく、文字通りあたしが命を賭けて頑張ったおかげだと褒めてくれる。
「コルベス王が城に民を受け入れる判断を下したのも驚きだったが、その速度も驚きだったね。ワイズマン・エイプキングが地下から出てくる間に、王都の住民の三分の一は避難が完了していたし、出てきてからも避難は続いていた。君がワイズマン・エイプキングを足止めしていたおかげで、主戦場となった王都東側に住む人々も何とか逃げおおせたしね」
王様と侯爵さんが頑張ったおかげだけど、その奥にはあたしに対する信頼があったのが大きい、とユリシュさんは語る。
信じてくれたのは嬉しいし、ありがたい。だけど、もっと他にやり方があったようにも思う。
「ほぅ? 私にはあれ以上の良案は思いつかないが……いや、やはりあれが最善だったと思うよ。モカちゃん。全ては最早過去だ。変えようがない。いくら後悔したとて、既に確定しているのだから、そこにあれこれ言うのは時間の無駄だ」
「でも……あたしがもっと早くあいつを止められていれば……」
「いいや。君は良くやった。それはこの私が保証しよう。もしこの件で君を貶めようとする人物や、貶そうとする人物がいれば、この私がそれを正そう」
ステーキを頬張り、もきゅもきゅと口を動かすユリシュさんは、注がれたワインに手を伸ばす。
「さて、それじゃあ君が知りたい、君が倒れた後の話をしよう」
ワインで唇を潤したユリシュさんは、あたしが一番知りたかった内容を話し始める。
「君がワイズマン・エイプキングを倒し、気を失った後の事だ」
いよいよ本題だ。
あの後、あたしが目覚めるまでの5日間に、何があったんだろうか。
「時系列順に話していこう。まずは君が倒れた直後だけど……まぁ、私も見ていたわけではないが……君の従魔たちが君を守っていたそうだよ。アンフィスバエナの回復魔法で何とか回復したワイバーンたちが君に近づこうとする冒険者や騎士たちを威嚇し、アンフィスバエナはなけなしの魔力を使って君を回復しようとしていたらしい」
言葉が出てこない。
あの戦いで、あの子たちもかなり消耗していただろうに、あたしのことを心配してくれていたんだ……すごい……すごく、嬉しいね。
そんなあの子たちは今、長いテーブルの上でメイドさんが持ってきてくれたでっかい肉の塊と格闘している最中だ。
あたしの視線に気づいたのか、3匹は食べるのを止めてこっちを見て、不思議そうに首を傾げた。
「そこに私を含めたお偉方が集結してね」
話を聞いた限り、かなりの面々だった。
「その場で決まったことを話そう。まず、君の治療と保護を私が買って出た。これでもAランクオーバーだからね。例の『聖女』にも貸しがあったから、みんなすぐに了承してくれたよ。それから、王と侯爵はその場で救助と復興を宣言した。財源の確保が課題だが、王都全域が被害に遭ったわけでもないからね。それに、これを機に貴族どもの引き締めをするらしい。まぁ、私たちはあまり関係がないね」
何だか大変そうだな……復興するにも先立つものは必要だ。お金だったり物資だったり。でも、被害が東側だけだから、他の地区から集めるつもりなんだろう。
「それから冒険者ギルドは、今回の事件に対する功労者として君の名前を全面に押し出すつもりだ」
「はぇ!? あたし!? なんで!?」
「考えてもごらん? 冒険者たちが束になって、長い時間をかけて討伐するような大型の魔獣を、君はソロで……まぁ、あの子たちの助けがあったのだが、打倒したわけだ。それも魔法使いではなく、剣士が、だ」
なんか、こうやって持ち上げられるのが今まであんまり無かったから、ちょっと新鮮だし、気恥ずかしいな。
「それに、ギルド内でも、剣士に対する風当たりを何とかしたいと思っていたようでね。魔法使いの立場が大きくなりすぎたせいで、魔法の才能がない者たちの肩身が狭くてね。それに、魔法の才が無くとも戦える者も多い。有能な人物を遊ばせるくらいならば、冒険者になってもらいたい、というのが正直なところなのだろう」
「そのための旗印になれ、と?」
「話が早いね。その通りだとも。それに、君は厄介ごとばかり引き起こすからね。そうでもしないとギルドも君を守れないのさ」
なるほど……うーん? どうなんだろう? 別に旗印になるのは良いけど、ギルドに縛られるのは嫌なんだよな。
あたしは【剣神】を倒したい。そのために天剣を探して、強くなりたい。
だから、その夢に枷が掛かるような真似はしたくない。
「まぁ、きちんとギルドマスターと話し合ってみるといい」
「分かりました」
「あぁ、それに付随するんだが……メルツェナとミーナが君の武器を回収して、ベルムッド翁に渡した、と伝えたが、あれにも続きがあってね。ベルムッド翁は今回の戦いと君の惨状を聞き、君専用の防具を作ると言い出して、工房に籠っているらしい。壊れてしまった剣についても、何とかしてくれるようだよ」
「あたし専用の……防具?」
専用。
なんて甘美な響きなんだろうか。
ベルムッドさんに会うのが楽しみになってきたね!
あと少しだけリザルトが続きます。
もっとスムーズに書ければよかったんですが、ここまで駆け抜けてきたので、ちょっとだけ箸休めさせてください。




