154、カウンターと拘束
「モカ式空鞘抜刀術!」
グラディウスを振り抜きながら、さらに『天駆』を使って加速し、縦横無尽にキングを斬り付ける。
体毛によって刃が阻まれるのを見越して、狙うのは既に傷をつけている箇所に絞る。
要はチクチクと傷だけを狙う戦法だ。
卑怯だとは思うけど、戦いに卑怯もクソもないんだよ!
抜刀術で斬り付けるのはあたしが切り落とした右腕と足、それから、ワイバーンの炎弾によって焼かれて地肌が見えている箇所だ。
モカ式空鞘抜刀術によって強化された刃がキングの体を斬り付ける度に、キングは腕を払ってあたしを叩き落とそうとしてくる。
だけどあたしの速度を捉えることが出来ずに、空振りばかりを繰り返す。
そんな中でも、ワイバーンたちがあたしの不備を補うように空中から奇襲をかけてきてくれる。
そして、双頭蛇もキングの足を止めるべく攻撃魔法による牽制をしてくれている。
ワイバーンの爪がキングの体毛ごと皮膚を切り裂き、引きちぎり、そこにあたしが追撃の抜刀術を叩きこむ。
「ワイバーンたち! 可能なら背中を攻撃して! 背中のどこかに、このキングを操っている杭が埋まってるの! それを壊せば魔獣たちは大人しくなるはず!」
あたしがそう叫べば、双頭蛇もワイバーンも、攻撃の手を強めた。
この子たちも『支配杭』によって操られていた子だ。その辛さが分かるんだろうね。だから1秒でも早くその苦しみから解放してあげたいんだ。
「あたしも負けられないね!」
そう言って飛び出したあたしは、斬撃を飛ばして、ワイバーンたちが付けてくれた傷を狙う。
残念ながらキングは致命傷になる攻撃だけを避け始めて、飛撃は当たらなかった。斬撃がまだ無事な家屋を切り裂いて倒壊させる。
「早く終わらせよう!」
あたし、ワイバーンたち、双頭蛇。
三者の攻撃によって防戦一方となっているキングは、徐々に後ずさりながら呻き、再び膝を付いた。
これはチャンスだ!
「一気に――」
攻撃を仕掛けるよ! という前に、1体のワイバーンが翼を畳んで急降下を始めていた。
鋭爪が空気を裂きながらキングの首元を狙う。
それに続いて、もう1体のワイバーンも急降下を始めていて、前の子が外した時の保険としての攻撃だろう。
そして、双頭蛇は前後左右のどちらに回避をしても攻撃が出来るように、魔法を発動しようとしている。
それを見ていたあたしも、この子たちの邪魔にならないポジションからグラディウスを引きずるように下段に構えて、跳躍した。
だというのに、キングはそれを防ごうとも、回避しようともしない。
ただ片膝を付いて俯いているだけだ。
何かするつもり? と訝しむも、ワイバーンの急降下は止まれないし、双頭蛇の魔法も発動間近になっている。
そして、ワイバーンの爪がキングに届いた瞬間。
「グリュ!?」
キングは身体を傾けて右肩で爪を受け、そのままギュッと身体を丸めるように縮こまった。
爪は右肩に深くめり込み、収縮した筋肉のせいで抜けなくなったのだ。その瞬間を逃さず、キングは無事な左腕をワイバーンの首に回して引き寄せると、そのまま引きずり倒して、足を絡めて拘束した。
キングのこの寝技のせいで密着されたワイバーンは翼を広げることも出来ずに組み付かれたキングを引き離すことができない。
そして、時間差で急降下していたワイバーンは、その光景に気付いた瞬間には無理やり上体を起こして減速して、ギリギリの位置で止まった。
もう少し判断が遅ければ、その爪はキングではなくワイバーンを襲っていたことだろう。
そのせいで、双頭蛇も魔法の発動を躊躇し、完成していた魔法陣が解けるように消えていった。
だけど、あたしだけは止まらない。
あの子たちが攻撃を躊躇ったのは、そのサイズ故だ。
だけどあたしなら、拘束されたワイバーンを気にせずにキングを攻撃できる。
だからあたしは止まれない。
「飛撃!」
下段に構えたグラディウスを振り抜いて斬撃を飛ばし、キングの注意をこちらへ向けると、そのままトップスピードまで加速して、飛撃を追い越してワイバーンを抑えつけている左腕を切り付けた。
「モカ式空鞘抜刀術!」
縦横無尽に放たれた斬撃を左腕に喰らったキングだったが、捉えているワイバーンを離すことなく、ただダメージに耐える。
そのままキングは躊躇いもなく、ワイバーンの首筋に噛みつき、肉を食い千切った。
「グリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」
ワイバーンの絶叫が王都に響く。
苦痛に歪んだ痛々しい声だ。
駄目だ、これ以上キングにアクションさせちゃいけない!
食い千切った肉を咀嚼することもせずにすぐに吐き出し、またワイバーンに牙を突き立てるキング。
噴水のように吹き出る血で地面が汚れていく中、ワイバーンは激しく抵抗をするも、キングの膂力を上回ることが出来ない。
双頭蛇も、両方の頭が回復魔法を発動し、ワイバーンを助けようとするが、魔法が発動するより、キングが肉を食い千切る方が早い。
食い千切られ、回復され、また食い千切られる。
いかにワイバーンと言えども、そんな拷問には耐えられるはずもない。
「回復しちゃダメ! キングを何とかしないとダメだよッ!」
そんな中、上空を旋回していたワイバーンが、一瞬の隙をついて急降下してきた。
今度は翼を畳み、一気に最高速まで加速する。そして、自身が纏う風をそのまま刃とし、キングの首を刎ねんと迫った。
「ダメッ! 止まってッ!?」
意識の外からいきなり降ってきたワイバーンに反応が遅れ、跳躍しても追い付けない。
荒ぶる嵐の具現とも言うべきワイバーンの捨て身の攻撃は、確かにキングを斬り付けた。ただそれ以上に、キングが拘束していたワイバーンの方がダメージは多い。
キングはワイバーンを盾にしたおかげで、致命傷は避けられたようだけど、ワイバーンは全身がズタズタに引き裂かれて息も絶え絶え、といった状態だ。
「な、なんで!? 何してるの!? どうしてあの子を!」
あたしが怒鳴りつけるも、ワイバーンは鋭い目つきでキングを睨みつけ、口元から轟々と炎を溢している。
「グリャアアウウウンンンンッ!」
短く叫び、ワイバーンはその口を大きく開けた。
「グリュウゥゥ……グルゥ……グラァァンッ!」
最後の力を振り絞って、キングから抜け出せないワイバーンが吼える。
どんなやり取りをしたのか、あたしには分からない。
でも、その声音からは……分かりたくないけれど、覚悟が読み取れた。
自分ごとやれ。
そう言っているような気がした。
だからだろうか。
口に炎を溜めたワイバーンの瞳に悲しみが浮かび、それらがキラキラと零れ落ちている。
そして。
「グルゥウウウウウウウウンンンンッッ!」
ワイバーンの口から、炎が放たれた。
炎弾ではなく、火炎だ。
ブレス攻撃のように広範囲に広がり、ワイバーンと共にキングを焼き殺すつもりなのだ。
「だめ! やめてッ! やめてよッ! まだ助けられる! あたしがキングの腕を落とすから! 今すぐやめて! お願い! あの子を助けなきゃ!」
炎を吐き続けるワイバーンにそう叫ぶけど、聞き届けてくれない。
そうしている間も、キングはワイバーンと共に焼かれている。
「お願い止めて! 止めないと斬るよッ!?」
あたしはグラディウスをわざとらしく振り上げるけど、ワイバーンはそれでも止めない。
だが、視界の端で、キングが大きく動いたのが見えた。
「逃げるつもり!?」
すぐに視線をキングに移すと、その手にはもうワイバーンがいない。ということは、あの火炎放射でたまらずワイバーンを手放したのだ。
周囲が完全に炭化している地面の中央には、同じように焼け焦げたワイバーンが横たわっていて、驚くことに、微かに体が上下している。
「まだ息があるッ! 双頭蛇! あの子を助けてあげてッ!」
双頭蛇に怒鳴りつけてから、炎を吐き終えたワイバーンを睨みつけてグラディウスを突き付けた。
「あんたは一緒にキングをやるわよ! 怒るのは、全部終わってからだからね! 絶対に叱ってやるからねッ! 死んじゃダメよ! 分かった?! 分かったら行くよっ!」
あたしが跳び出して、キングの姿を探すと、キングは逃げたのではなく、ただ距離を離しただけだった。
それも王城側ではなく、自分が出てきた地底湖へ通じる穴の方に、だ。
大きく跳躍して距離を取ったキングは、全身の体毛が焼け焦げて地肌を晒していた。
しかもそのおかげで、背中にあるであろう『支配杭』の位置もその傷口と、不自然に盛り上がった肉のおかげではっきりと分かる。
肌の大部分には火傷が広がり、部分的に炭化している箇所も見受けられる。
「あいつも満身創痍よ! ここで決着をつける!」
あたしの言葉に、ワイバーンが大きく吠えた。
対キング戦の、最後のラウンドの始まりだ。
大きな魔獣との共闘なんて、まぁ書いたことが無いので、想像しにくくてちょっと困っています。
思ったよりも書きにくいし、シーンの絵が浮かんでるのですが、もしかしたら読みにくいかもしれないし、ちゃんと伝わらないかもしれません。
こればかりは自分の腕の問題なので、もっと精進します!




