153、第2ラウンド
右腕が無い。
相棒たる【理切】も無い。
でも、敗北は無い。
「あのクソ猿を倒すには、ちょうど良いハンデね!」
双頭蛇の背に乗って、ワイズマン・エイプキングを睨みつける。
あたしと同じで右腕が無い。
ついでに片目も潰れている。
傷口からは血が滴っていると思っていたけど、どうやらワイバーンの放った炎弾を受けて傷口を焼き塞いだようだ。
やっぱり頭が良いね。
でも、片腕片目が使えない状態なら、戦闘には大きな制限が掛かるだろう。
それにしても……
「すごい被害だね……」
戦場は、あたしとキングが戦っていた場所から王城へ向かって100メートルほど進んでいた。
その周囲はワイバーンたちの攻撃と、それを避けるキングのせいでほとんど更地に近い惨状と化している。
しかも、まだ避難が完了していなかったから、周辺には逃げ惑う人たちがかなりの数いた。そんな人たちを頑張って誘導している人たちが……って、あれ侯爵さんじゃん!
「ワイバーンたち! ちょっとだけキングの相手をお願い!」
少しの間、キングの相手はワイバーンたちにお願いすると、ワイバーンたちは大きく頷いて急降下を始め、キングに接近して、鋭い鉤爪で攻撃を始めた。
そして、双頭蛇にお願いして、侯爵さんのところへ行ってもらう。
「侯爵さん!」
双頭蛇に乗ったまま近づいて声をかけたが、侯爵さんたちが乗っている馬たちが恐慌状態になってしまった。
うわぁ! ごめんなさい!
と思っていると、侯爵さんの部下らしき人が魔法を使ってくれた。
「鎮まれ! 『獅子勇心』!」
黄色の光が周辺に降り注ぎ、パニックだった馬たちが落ち着く。
「すまない、シュタンツ隊長! モカ! 無事だったか!」
あたしは双頭蛇の背中から飛び降りて、侯爵さんの前に降り立つ。
すると、侯爵さんはギョッとした顔であたしの右腕を見た。
「その腕はどうした!?」
「キングの目玉と引き換えです。それより、避難の状況はどうですか?」
「い、痛みは無いのか!? いや、魔法で回復したのか?」
「この子がやってくれました! それよりも避難の状況はどうなってますか!? この周辺で戦っても問題ないですか?」
あたしの無い腕を見て戸惑っている侯爵さんだけど、そんなことよりも、避難状況が知りたい。
このままこの子たちがここで戦ってもいいのかどうか。
駄目なら戦場を変えないといけないもんね。
「あ、あぁ、避難は……上手くいっていない。すまない! あの魔獣のせいで住民たちがパニックになってしまって……死亡者と負傷者がかなり出てしまった。そのせいで避難が思うように進まないのだ」
「じゃあここで戦わない方がいいんだね?」
「それは大丈夫だ。全ての住民が王城へ避難出来たら、王の守護で守られる。それまで持ちこたえてほしいんだ」
「分かりました。でも、倒せるなら倒しちゃいますよ?」
「あぁ、それは構わない。だが1つ約束してほしい。絶対に危ないことはしないでくれ。カティナともっと遊んでやってほしいからな」
「あは、分かりました! じゃあ、さっさとあのクソ猿をぶっ倒して、へとへとになるまで遊び尽くしますよ!」
「頼んだぞ!」
「はい! じゃあ、行ってきます!」
あたしは待ってくれていた双頭蛇の背中に飛び乗って、グラディウスを抜く。
「よし、それじゃあ……あいつをぶっ飛ばそう!」
双頭蛇は大きく頭を上げて、キングの元へ進む。
キングはヒット&アウェイで攻撃をするワイバーンに苦戦しているようで、少しずつ後ずさりながら、左腕をブンブンと振っている。
「君はあそこに加わって戦える? それとも遠距離から牽制やサポートの方が良い?」
双頭蛇に尋ねると、2つの頭は互いに見つめ合って舌をチロチロと出し合っている。コミュニケーション取ってるのかな?
ものの数秒の相談だったけど、2つの頭が同時にこっちを見つめてきた。
「一緒に戦う?」
そう聞くと、双頭蛇は首を縦に振る。
「よし、それじゃあ行こう!」
ワイバーンたちの猛攻を防いでいたキングは、近づいてくるあたしたちに気付き、挟撃を恐れて大きく後ろに跳んで、ワイバーンともあたしたちとも距離を取った。
「グォオオオオオオオオオオォォォォォォォォンンンッッッ!」
キングが大きく吠え立ち、無き腕ごと両手を広げて歯を剥き出す。
それに対して、双頭蛇の背に立つあたしの両隣に、ワイバーンたちが降り立ち、翼を広げて同じように吠え返す。
「グリュゥゥゥウウウウウウウウウウウウッッッッ!」
そして、キングは両足を地面に叩きつけて掴み、大きく息を吸い込んで仰け反る。
「っげ、やば! ビームが来る! 避けて!」
あたしの言葉に、ワイバーンたちと双頭蛇は答えずに、威嚇をし続けている。
「ちょ、ちょっと! 避けないと!」
そしてキングが魔力を溢しながら、その口から光線を吐く。
「うきゃぁあッ!? な、なにこれ!?」
極太の閃光が迫りくる中、双頭蛇の眼前に2つの巨大な魔法陣が出現し、ビームを受け止めた。
だが、キングの光線の威力は凄まじいもので、双頭蛇が生み出した魔法陣にはすぐにヒビが入り、ピシピシと軋む音が聞こえてくる。
「受け止めちゃダメ! 上空に逸らして!」
あたしの言葉に、双頭蛇はすぐに魔法陣を傾けて、受け止めていた光線を上空へと逸らした。それと同時に魔法陣が粉々に砕ける。
その瞬間、あたしは砕け散った魔法陣の破片をすり抜けるように跳躍し、キングへと肉薄する。
それを援護するようにワイバーンたちは炎弾を放ち、牽制してくれた。
ワイバーンの炎弾よりも先にあたしがキングに接近し、グラディウスを振り抜く。
左手だけで振るうのは安定感に欠けるし、速度も遅い。威力もそう高くない。でも、その刀身には風の鞘が纏わりついている。
「モカ式空鞘抜刀術・空鞘破り!」
狙うはキングの足だ。まずはその機動力を削ぎたい。うまいこと足の健や筋肉を傷つけられれば嬉しいけど……
「ちッ! そう上手くいかないか!」
あたしの攻撃はキングの太ももを掠った。狙いはもう少し下だったけど、やっぱり腕が無くてバランスが取りにくい。
そして、ワイバーンの放った炎弾の1つがキングに直撃する。
その余波はあたしまで焼いてくるけど、すぐに回避しようと跳ぶ。
「なッ!?」
が、いつものように上手く回避行動が取れずに、回避コースが少しだけ逸れる。もちろん、キングがそれを見逃すはずもない。
あたしと同じように腕がなく、さらに片目も潰れているというのに、遠近感もバランス感覚も失っていないような的確な動作で左腕をあたしに伸ばしてきた。
だけど、あたしの位置取りはキングの右半身。
手を伸ばしたとしても距離は遠く、その分あたしの反応時間は長くなる。だから簡単に回避できると思っていたが、そう簡単な話じゃなかった。
「うげっ!?」
その瞬間、凄まじい反応速度でキングが反対側にクルリと回転をしながら裏拳を放ってくる。
そのフェイントのせいで、あたしの回避コースを薙ぎ払うように裏拳が迫ってきた。
やばい!? このままじゃ直撃する! 『天駆』による方向転換も間に合わない!?
咄嗟にグラディウスを構えて防御姿勢を取ったけど、衝撃は来なかった。
何故ならば、裏拳を放つキングに向かって、双頭蛇が体当たりをしたからだ。
双頭蛇はその巨体をバネのように縮めて飛び掛かり、キングは大きく態勢を崩して双頭蛇と共に建物に倒れ込んだ。
そのままキングに絡みついて拘束を始めたんだけど、キングも死に物狂いでその拘束から逃れようと暴れまわる。
そしてキングは双頭蛇の尻尾を掴んで捻りながら転がり、双頭蛇の拘束から逃れた。
「グガァァアァァァアアアアアアアアアアアアアア!」
大きく吠えながら、掴んだ尻尾を手繰り寄せて、双頭蛇の胴体に噛みつく。
「リュイィィィィィッ!?」
双頭蛇が苦痛に叫ぶ中、あたしとワイバーンたちは打ち合わせたわけじゃないのに、示し合わせたように動いていた。
あたしが攻撃するより前に、ワイバーンたちは大きな炎弾と、風の刃を放っていた。
それがキングの左腕に着弾する瞬間、キングは掴んでいる双頭蛇を掲げて盾として防いで見せたが、そっちに気を取られちゃダメだよッ!
「モカ式空鞘抜刀術・空鞘破り!」
ワイバーンたちの攻撃のおかげでがら空きとなった足に狙いを定める。
片腕から放たれる突きは精度も威力も足りていないけれど、空鞘抜刀術によって強化された攻撃はキングの左の太ももに突き刺さる。
こうなれば、あとはさっきの攻撃と同じ!
「飛撃!」
斬撃を放つ攻撃によって、キングの左太ももが鮮血を撒き散らしながら内側から小さく弾ける。
そのおかげでキングは痛みに吠え、噛みついていた双頭蛇を放し、ドスン! と膝を付いた。
双頭蛇もすぐにキングから離れて、自身に回復魔法を使う。
「どんだけタフなのよ……」
膝を付いたキングは、それでもまだ立ち上がって左手を広げ、血走った瞳をあたしに定めて強く吠える。
「でもこれで機動力は落ちた! このまま畳みかける!」
あたしはグラディウスを納刀し、深く腰を落とす。
「みんな、あたしの援護をお願い!」
そして、力強く地面を蹴って、キングに向かって跳躍した。
キングとの戦いも終盤です。
あと数話で決着すると思います。
ワイバーンたちも、双頭蛇も、これほどの魔獣を相手にすることは稀なので、苦戦はしています。




