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148、モカ式空鞘抜刀術の反転

 あたしが侯爵さんと別れてから向かったのは、地底湖でキングが放ったビームによって生じた大穴のある場所。


「王都の東側の城壁に近い場所って聞いたけど、これはひどい……」


 被害のあった場所は、ちょうど商業ギルドと住民たちの居住区の境目辺りなんだけど、すごいことになっていた。

 地下から地上に向かって放たれたビームは地面を融解させ、地面の一部をガラス化させている。大穴の直径はキングが何とか通り抜けられるくらいだろうか?

 かなりの家が跡形もなく消えていて、その周囲の家も半壊している。

 だが、それだけではない。

 大穴の周囲には消火の跡が見て取れるので、ビームの熱量で発火したのだろう。大穴の周囲が広範囲に渡って焼け焦げて瓦礫の山と化している。


「流石に人はいないか」


 きっとここら辺に住んでいた人たちはどこかに避難をしたのだろう。


「避難と言えば……侯爵さん、王様を説得できたのかな? キング、でかいから被害がすごいことになるよね? でも、絶対にやるって言ってたし……」


 となれば、あたしのやるべきことは1つしかない。

 絶対にあのキングを止めて、被害を最小限に抑えるだけだ。


「あいつが登ってくる前に、何かできることないかな?」


 大穴に近づいて中を覗き込む。

 地底湖がはっきりと見えるが、キングの姿はない。

 諦めてくれたのかな? と思ったがどうやらそうではなさそう。


「うわ……雄叫びだけは一丁前に聞こえてくるね」


 どうやら壁を登れなくてイラついているようだ。

 それもそうか。

 巨大な球体状の地底湖の天井に穴を開けたんだから、登るのは不可能に近いよね。

 でも、そうなるとキングは地上に出てこられないよね? ってことは、このままこの大穴を塞いじゃえば時間は稼げるかな?


「あぁ、いや……前にストレイドギルマスが、ダンジョンスタンピードの時に言ってたな。なんだっけ? 入口から魔法で溶岩を流し込んじゃえばいいとかなんとか……でもあたし、そんな魔法使えないな。風と雷の魔法で代用でき――」


 その時だった。


「ッ!?」


 身体中の産毛が一斉に逆立ち、悪寒が全身を駆け抜ける。

 あたしは本能の命令するがままに、大きく地面を蹴って後方へと跳躍した。

 その瞬間、あたしがいた場所に再び極太のビームが地面を食い破って空に伸びて消えていく。


「――っぶな! ってかあいつ! あたしの場所をピンポイントで狙ってきやがった!? どうなってんのよ!」


 悪態を吐いてみるが、嫌な予感はまだ収まらない。

 妙な胸騒ぎがするし、変なプレッシャーを感じる。

 これはマズイかも?

 大穴が2つに増えてしまったけど、だからと言ってキングが地上へ登れる可能性が増えたわけではない。

 だというのに、どうしてこうも胸がざわつくんだろうか?

 再び、地下から咆哮が聞こえてくる。

 地底湖に反響する雄叫びが消えるよりも前に、再び極太ビームの放射音が聞こえてきたが、今度は違った意味で度肝を抜かれた。


「…………は?」


 あたしの目がおかしくなっていない限り、めちゃくちゃ馬鹿げた光景が目の前で起きている。


「あ、あ、あり得ない!? マジ!?」


 地上の地底湖を繋ぐ大穴から、キングが飛び出てきたのだ。

 それも、後ろ向きで。

 その口から極太ビームを放ちながら。


「……噓でしょ?」


 つまり。

 ワイズマン・エイプキングは、自身が放った極太ビームを推進力にして、地底湖から地上へと登ってきたのだ。

 そんなことはあり得ない、と言いたいところだけど、目の前でそれを見てしまったから、もう何も言えない。

 30メートルを超える巨体が羽のように舞いながら、地上へと着地した。

 ガギンッ! という音と共に、踏み砕かれる地面と、それに伴う激しい揺れが周囲の半壊した家たちにとどめを刺した。

 腹立たしいことにスーパーヒーロー着地だ。

 そのままゆっくりと顔を上げたキングは、邪悪に笑う。


「うげッ……」


 生理的嫌悪感を抱かせるような笑みに、あたしは顔を引きつらせて後ずさった。

 すると、それを見たキングは更に笑みを強めて、雄叫びと共にドラミングを始める。

 耳をつんざくような咆哮と、腹に響くような重低音のドラミングは遮る物が無い今、圧倒的な威圧感として王都に降り注ぎ、その空気感を変えた。


「もうちょっと猶予があると思ってたのに!」


 あたしは腰の【理切】に手をかけて、深く腰を落としながらキングへ向けて全力で跳躍する。


「モカ式空鞘抜刀術!」


 初撃にて全力。

 これで全てを終わらせる覚悟で【理切】を振り抜く。

 機動スキルによって空間を縦横無尽に動き回りながら、キングを切り付ける。

 だが。


「っくそ! 圧倒的に火力不足だ!」


 攻撃力がネズミ算式に増えていくモカ式空鞘抜刀術であっても、キングの剛毛を抜いてダメージを与えられない。

 いや、与えてはいるが連撃の最後の方だけ。

 しかもキングは重心や態勢を変えることでダメージを軽減しているのだ。


「悪知恵の働く奴、ね!」


 言いながらも攻撃の手は緩めない。攻撃の間に一息を入れてタイミングをずらすと共に、微量ながらもスタミナを回復させる。

 強敵相手にこの調整は絶対に必要だ。これが勝敗を分けると言っても過言じゃない。

 既に身体強化魔法は使っているが、それでもキングへの攻撃に手応えは感じない。やはり火力が足りていないな……どうするかな?


「……? なんか……なに?」


 キングへの攻撃を続けてはいるが、妙な雰囲気を感じる。


「反撃してこない?」


 地底湖で戦った時は反撃があったが、今は違う。ただあたしの攻撃に対して防御の姿勢を貫いている。いや、違うな。これは……

 それに気付いた瞬間、あたしの心が激しく燃え上がる。


「あたしを! 戦うに値しないって決めつけたなッ!」


 ムカつく! ムカつく! ムカつく!

 こんな屈辱を受けたのは本当に久しぶりだッ!


「っざけんなッ!」


 あたしは燃えた心の赴くままに剣を振り、途中に魔法の詠唱を入れる。


「吼え立て雷神! 其の手に生じる雷撃の槍を以て、我らに仇なす敵を打て! 『白き雷槍(サンダー・ランス)』」


 白い雷を左手に束ね、そのまま投擲。

 キングの胸に直撃するが、分厚い胸板には効果はなく、雷の槍はすぐに弾かれ霧散する。


「っち! この程度じゃ足止めにもならないってわけね!」


 だがあたし自身には効果があった。

 いけないいけない。

 常に冷静であれ、と心に言い聞かせていたはずなのに、ちょっとしたことでそれがぶれてしまう。

 駄目だね、まだまだ。

 でも、これで冷静になったよ。


「だったら、あたしを脅威に思ってもらわないといけないな……」


 とは言え、これ以上の手数は現状では難しい。であれば、1発の威力を高める必要がある。

 1度、攻撃の手を止めて、キングから大きく距離を取ったあたしは、【理切】を納刀し、深く腰を落としてから、真上に向かって大きく跳ぶ。


「BLOで対大型魔獣用に開発した技だけど……地底湖じゃ使えなかったから、この世界ではこれが初お披露目だ!」


 そして、空中で【理切】を逆手で抜刀し、槍投げのように構える。


「モカ式空鞘抜刀術……反転!」


 地底湖で使えなかったのは、これが武器の投擲技だからだ。

 しかも、広範囲を削り取るような純粋な破壊技だから。下手をすれば地底湖が崩落する危険があった。


「空鞘は転じて風刃となる!」


 通常のモカ式空鞘抜刀術は、抜き身の刀身に風で出来た空の鞘を纏わせることで納刀状態にするという技術なんだけど、あたしはその空鞘を、刀身に纏わせる新たな刀身にすることを思いついた。

 つまり、その空鞘自体を超巨大な風の刀身に変形させるのだ。

 しかも、風魔法で作れるのだから、その大きさも形状も――魔力量に依存はするけど、自在に変化させることができる。

 故に、大型魔獣を倒すために刀身を超巨大化させることも可能なのだ。


「モカ式風纏術!」


 大きく振り被った【理切】は、収束した暴風が凝縮されたような巨大な大剣と化している。いや、大剣という言葉すら生温い、戦艦すら一刀で叩き割るほど巨大な風の剣だ。


「斬艦剣!」


投げ抜かれた極大の刃が、空を裂いてキングの巨躯へと叩きつけられた。

ちょっと描写が下手かも……

ようするに、風魔法で作った鞘を鞘型の巨大な剣にしたってことですね。

大型の魔獣に対して、一撃の重さを重視した結果、このような技を思いついたってわけ。

あと、普通に城堕としとかでも使えます。

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