15、護衛の仕事、引き受けます!
タイトル変えました!
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「自己紹介がまだだったね。僕はユルゲンと言うんだ。グリザークの街で商人をしているよ」
「あたしはモカです。旅をしてます」
どじょう髭おじさんは、グリザークの街で商会を営むユルゲンさんと言うらしい。
そして、そのユルゲンさんと一緒にいる2頭の馬は、焦茶の方がディディー、黒の方がボンズというらしい。
2頭とも賢いのか、あたしが命の恩人だと分かっているみたい。ブルルと鼻を鳴らして、あたしの体に頭を擦り付けてきたり、鼻を押し付けてきたりと、懐いてくれる。
「あはは、くすぐったいよぉ……うへ、こら! ベロベロ舐めないの!」
「2人が懐くなんて珍しいね。君のこと、恩人だって分かってるんだね」
くすぐったい感触を楽しみながら、2頭を順番に撫でてあげる。
うわぁ、暖かい……ぬくぬくだぁ……気持ちいい……いつまででも撫でていられるな、これ。
思う存分に2頭の毛並みを堪能してから、後回しにしていた後片付けを始める。
「ユルゲンさん、このカマキリって売れたりします?」
「ん? そりゃあもちろん。虫の魔獣の素材は軽いし耐久性が高いから色んな所で重宝されているよ。それにこのサイズだから、結構な稼ぎになると思う」
なんてユルゲンさんは言うけど、こんな気持ち悪い虫で作った防具や道具を使いたいとは微塵も思わないね……どうしよう、燃やしちゃおうかな?
「……これ、いります?」
「いやいや、これは君が倒したんだから、君のものだよ!?」
「まぁ、そうなんだろうけど……あたし虫嫌いなんですよ。こんなのアイテムボックス……じゃない、収納魔法でしまいたくないです」
「えぇ!? そんな理由で?」
「じゃあ、ユルゲンさんが買ってくださいよ」
「ギルドに卸さなくて良いの?」
「あたしまだギルドに所属して無いので」
そう言うと、ユルゲンさんは眉間に皺を寄せて唸り始めた。どれくらいの金額を提示してくるんだろ? ちょっと楽しみだな。
「よし、分かった。じゃあ、金貨3枚と銀貨20枚でどうだい?」
「それでいいですよ」
相場なんて分からないからとりあえず即答しちゃったけど、こんな魔獣に金貨3枚も払うものなのかな?
「え、良いのかい? 値上げ交渉とかは……」
あたしの即答に、ユルゲンさんがオロオロとしだすと、馬たちは「またか……」って言うみたいに呆れた顔でこっちを見てきた。
きっと、この2頭も苦労しているんだろうな。
「適正価格を知らないので」
「知らないの!? それじゃあ騙されちゃうよ?」
「ユルゲンさん、あたしを騙すつもりなの?」
「命の恩人を騙さないよ〜。でも、世の中には悪い人がいてね?」
そんな事は分かってるけど、ユルゲンさんは違うって確信出来るんだよね。悪鬼蟷螂に追われるのに馬を見捨てなかったくらいに優しい人だもん。
「大丈夫ですよ。そういうのを見極めるのは得意なんで。あ、ユルゲンさんは大丈夫な人ですよ?」
そう言うわけでユルゲンさんとの話はまとまって、悪鬼蟷螂は簡単に解体して荷馬車に乗せる事になった。
ちなみに金貨3枚と銀貨20枚は即金でユルゲンさんの財布から支払われたよ。
カマキリの解体は本当に簡易的なもので、胴体から足や首を関節毎に切り分けただけ。
それらを荷馬車に乗せるのはユルゲンさんの仕事だ。
これ以上、絶対に、あたしは虫には触らない!
時間にして1時間くらいで全ての作業が終わった。
重労働を終えたユルゲンさんは肩で息をしながら、休憩ポイントに置かれた丸太に座って水をガブガブと飲んでいる。
あたしはせっせとカマキリの死体を荷馬車に乗せるユルゲンさんを見ながら、焼けすぎてコゲだらけの肉をトリミングしながら、遅めの昼食を楽しんでたよ。
まぁ、食べる所はかなり減っちゃったけどね。
「それにしても、僕は運が良かったな」
「……なんでカマキリに襲われてたんですか?」
「あぁ、実はね……」
ユルゲンさんの話はかなり衝撃的な内容だった。
なんでも護衛として雇っていた冒険者パーティーと王都から帰って来る途中で、魔獣に襲われたらしい。
ただの魔獣であれば冒険者たちが対処するのだけど、襲ってきたのは木の魔獣だった。
この魔獣は、普段は山の木に擬態し、美味しそうな果実の擬似餌で獲物を引き寄せて狩りをする魔獣のようで、擬似餌は人間や動物が普段食べている果実にそっくりだから見分けるのがとても難しいらしい。
「果実がよく実っていてね、冒険者たちがそれを収穫しようとした瞬間に……」
いきなり木がブルブルと震えたと思ったら、鋭い枝が5人の冒険者を同時に貫き、一撃で絶命させてしまった。
その時ユルゲンさんは馬たちの世話をしていてその場にはおらず、帰りが遅いから様子を見に行ってみれば、地面に横たわる5人の死体と、その死体に根を突き刺して栄養を吸っている木の魔獣と、その木の魔獣から餌を横取りしようとする悪鬼蟷螂がいたらしい。
「すぐに逃げようと思って後ずさろうとしたら……」
ベタな事に、枯れ枝を踏んで音を出してしまった、と。なるほど、ユルゲンさんはホラー映画で最初に死ぬ人属性なのかな?
「フォレスト・インポスターは冒険者の死体を守りたいから動かなかったのが唯一の救いだったよ。でも、餌に飢えてたオーガ・マンティスは僕の事を追いかけてきてね……」
しかもそれが数時間前の話だというから、何とも恐ろしい。
あたしも油断してたらあそこで死んでたのかも。
「全力で逃げていたら君がいたってわけだね。それにしても君、すごい強かったねぇ! しかもこのご時世に剣を使って戦うなんて……その……」
「珍しい?」
「そうだね、僕は初めて見たよ。冒険者のほとんどは魔法使いだからね」
やっぱりレモーネの言う通り、魔法使いが一強の世界なんだね。となるとかなりマズイ事になる。
と言うのも、この世界で物理的な武器が衰退している可能性があるんだよね。
現状でも考えつく理由は2つもある。
1つ目はコスパだ。
購入費用、お手入れ、重量、破損リスク……上げればキリがないけど、物理的な剣を所持するコストよりも、魔法で剣を出す方が圧倒的にコスパが良い。
2つ目は、そうなった場合に需要が無くなって、武器屋が少なくなること。
武器屋は売れなくなった商品から、魔法使い用装備やアイテムに鞍替えしていくと思うんだよね。
そうなれば、物理的な武器は衰退の一途を辿るはず。
そして、武器が廃れれば、それに関する情報も語られなくなり、消えていく。
昔の言い伝えや一子相伝の鍛治技術の断絶は当然だけど、剣術や剣技、それに付随した技術も廃れていく。
何より、名剣や名刀のような至高の一振りが店や部屋の片隅で埃を被って忘れ去られている事の方が腹立たしい。
これらの事情により、あたしの目標である天剣についての情報が極端に少なくなっている可能性が高いし、下手するとこの世界の住人たちは何も知らない可能性だってある。
うーん、ちょっと考えただけでこの状況……幸先は悪いなぁ。
「どうかしたのかい?」
「ううん、こっちの問題。それよりユルゲンさんはこれからどうするんですか? すぐに出発しますか?」
「いや、今日はもう疲れたからここで休んでいくよ。もし君が護衛を引き受けてくれるなら嬉しいけれど……」
「良いですよ。護衛の仕事、引き受けます」
「本当かい!? いやぁ、嬉しいね。旅って言うのは話し相手がいないと寂しいからね! 本当に助かるよ!」
うんうん、その気持ち、痛いほど良く分かるよユルゲンさん。あたしもさっきまでは1人で配信ごっこをするくらいには寂しかったからね。
「それじゃあ護衛料だけどーー」
こうして、グリザークまでの期間限定ではあるものの、ユルゲンさんという話し相手を見つけたあたしは、これまでの寂しさを埋めるようにずっと雑談をした。
気を抜けば、1言も発さないで1日が終わる事ってありますよね。
え、無い? またまた〜
……え、無いの!?
声の出し方が分からなくなって、喋ろうと思ったら掠れた声(と言うよりも奇妙な音)しか出ない経験した事ないの!?
次回、目的地に着きます!




