14、VS悪鬼蟷螂
タイトル変えました!
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荷馬車が巨大なカマキリの魔獣に追われている。
「あのカマキリ……悪鬼蟷螂かな?」
BLO内では第3の街の草原に出現するフィールドボスで、全長6〜7メートルほど。本来は鮮やかなエメラルドグリーンの体色をしているのだが、怒り状態に移行すると体色は真紅へと変わる……だったかな? あんまし覚えてないや。
「にしても、何したらあんなに怒るわけ? こっちからちょっかい出さなきゃ無害だったはずだけど……」
悪鬼蟷螂の特徴は、フィールドボスで初めて魔法を使うボスだという点だ。BLOに魔法が実装された際に、ボスも魔法を使うようになったんだけど、こいつの場合、風と土の複合魔法を使ってくるんだよね。
「ってか、こっち来るじゃん!?」
砂埃と荷馬車がこっちに向かって来ているけど、どうしたものか……荷馬車と同じ方向に逃げるのは避けたい。けど、荷馬車がやられたら絶対にあたしの方に来るよね?
「倒しちゃってもいいかな?」
荷馬車が近づいて来ると、御者台には恰幅の良いどじょう髭のおじさんがいて、恐怖で顔をぐしゃぐしゃに歪めながら、涙と鼻水を撒き散らしながら、絶叫とも叫喚ともとれるような大声を上げているのが見える。
「にげてぇええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
荷馬車が100メートルほどまで接近してくると、おじさんがそう言っているのが分かったけど、よくよく見れば馬たちの方が限界みたい。
死にたくないから頑張って走っているけど、荷車と小太りのおじさんを引いているんだから、そりゃあ疲れるに決まっている。
「早く逃げてぇ! 逃げ、逃げなーーああっ!? ディディー、ボンズ!? 走らないとあの魔獣にやられちゃうよ!」
馬たちの速度が急激に落ちていき、あたしのいる休憩ポイントの手前で止まってしまう。停止するだけならまだ良かったけど、馬たちはどしゃっと崩れ落ちてしまった。
「あぁ! ダ、ダメだよ、2人とも! お、起きて! 逃げないと食べられちゃうよ!」
恰幅のいいおじさんは御者台から飛び降りると、2頭の馬具を外してあげるのだが、馬の方はもう限界のようでビクビクと痙攣しながら泡を吹いている。
おじさんは鞄から赤い液体の入った丸底フラスコを取り出して、コルクの蓋を外して一本ずつ馬に飲ませていく。
「ねぇ、起きてよ、お前たちだけでも逃げてくれよぉ!」
おじさんが半狂乱で馬たちに赤い液体を飲ませている中、あたしは剣を抜いておじさんに駆け寄り、迫ってくる悪鬼蟷螂を指差す。
「ねぇ! アレ、倒しちゃっても良い!?」
そう問いかけると、おじさんはあたしがいた事を思い出したのか、「早く逃げてぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!!」と叫んできた。
至近距離で大声を出されて、耳がキーンとする。
「うるさっ!」
「何してるの!? 早く逃げるんだよ!」
「うるさいって! それより! アレ、あたしが倒しちゃっても良いんだよね!? ってか、倒しちゃうから!」
なんてやり取りをしていると、悪鬼蟷螂があたしたちの元へと追い付いてしまった。
鎌を振り上げて、シャーと言う音で威嚇してくる。
真っ赤な体はこれ以上赤くならないけど、ギチギチと鋭い顎が軋む音は、この悪鬼蟷螂のボルテージが最高潮に達しているのだと分かってしまう。
「どうして虫ってこんな気持ち悪い造形なのよ!」
剣を中段に構え、腰を落として一気に前へ駆け出す。
悪鬼蟷螂は振り上げた鎌を振り下ろしてきたけど、それは簡単に回避出来る。気を付けなきゃいけないのは風魔法のエアカッターと土魔法のアースランスくらいだしね。
「よっ、と!」
右の鎌を避けながら、その関節に横薙ぎの一閃を見舞う。だけど、ガキンと鈍い音がして弾かれる。
「っち! 【天羽々斬】なら斬れたのに! おっと!」
左の鎌の振り下ろしも避けて、再び関節を斬りつける。だけど、こちらも剣が弾かれてしまう。
おかしいな、こんなに硬かったっけ?
レベルやステータス差とかいう話じゃない。剣技やスキルの有無でも無い。
関節に食い込むでも傷を付けるでもなく、弾かれたんだ。
「まさか、防御魔法?」
ありえる。
でもBLOのカマキリはそんな事しなかったよね? 魔法で攻撃してくるけど、紙装甲だったはず。
「BLOのモンスターだけど、BLOのモンスターじゃない、ってわけね? 良いじゃん、そっちの方が楽しいし、燃えるッ!」
こういう場合、BLOでの対処方法は大きく分けて2つ。
1つは武器性能やレベル差によるゴリ押し。いわゆるレベルを上げて物理で殴るってやつね。
もう1つはスキルや魔法による攻略。例えば魔法を斬るスキルや、弱点属性による攻撃、或いは剣に魔法を付与する魔法とかだね。
で、あたしの場合は後者だ。
BLOで使っていたスキルには攻撃魔法を破壊する『破魔剣』と防御魔法を破壊する『退魔剣』というものがある。
ゲーム序盤から中盤にかけては必須級のスキルだったけど、武器や防具、アクセサリーに魔法破壊効果があるものが出始めてからは使わなくなっちゃった。
しかもスキルを切り替える必要もあって地味に使いにくかったんだよね、これ。
「でも、悪いね、悪鬼蟷螂。レモーネから、この世界が魔法使い一強だって聞いた時に必ず必要になると思って、両方とも取得済みなんだよ!」
ふふん、とドヤ顔をしながらスキルを発動。鎌の振り下ろし攻撃を避けて、関節を撫で斬る。
分厚い膜のようなものを斬る感触と、それに遅れて虫の関節を斬る感触が手に届き、剣を振り抜く。
パキリと左の鎌が地面に落ち、続けて左側の2本の足も関節を的確に切り捨てていく。
「っと!? あっーーぶな!」
途中、地面から数十本の土の槍が剣山のように突き出てきたけど、寸前の所で後方へ大きく跳躍することで避けることには成功したけど、距離を取ってしまった。そのせいで悪鬼蟷螂は残っている右の鎌で魔法を発動する。
風魔法の初歩、エアカッターだ。
「あたしに当てたいならもっと早くなきゃーーねッ!」
向かってくる風の刃に向かって跳び、スキル『破魔剣』で切り伏せながら、残った鎌を叩き切る。
そのまま剣をクルリと回して正面に構え、体勢を崩して地面に倒れた悪鬼蟷螂の首を刎ねた。
ぐらりと崩れていく悪鬼蟷螂を背に、あたしはおじさんの様子を伺う。
どうやらあの赤い液体のおかげで2頭の馬は元気になったらしく、その馬の影に隠れるようにしてこっちの様子をオドオドと見ていた。
「お、お、終わったの? 倒しちゃったんだよね?」
「え、あ、はい」
「す、すす、すごい! すごいなぁ! 魔法も使わずにあんな大きな魔獣を倒しちゃうなんて!」
恰幅が良く、どじょう髭がトレードマークのおじさんは、年齢に合わないような無邪気な笑顔で駆け寄ってきて、あたしの手を取り、ブンブンと感謝を押し売りをしてきた。
うわ、フレンドリー過ぎてちょっと苦手かも。
「君、冒険者かい!? グリザークに向かうのかな? それとも王都方面に行くのかな?」
「え、えっと、グリザーク? ってのは交易都市の事?」
「そうだよ? ん? グリザークを知らない?」
「交易都市って聞いただけですけど」
「そうなんだ! 君はグリザークへ向かうのかい?」
「まぁ……そうですね」
「そうか! じゃあちょっとお願いしてもいいかな?」
なんだろう、この……絶対に、一緒に行きましょう(護衛してね)、っていうお誘い以外の選択肢が無い感じ。
「はぁ……何でしょう?」
「僕と一緒に行かないかい? それで、出来ればグリザークに着くまで護衛をしてくれると助かるんだけど……」
ほらね、そうだと思ったよ。
悪鬼蟷螂はBLOでの名称で、こちらの世界ではオーガ・マンティスと言います。
カマキリを大きくしただけなのですが、BLOの製作陣に虫系モンスターに熱い想いを込める人がいて、そのグラフィックがリアルすぎてクレームが殺到したとかしないとか。
あと、人間サイズのGの群れが街を襲うとかいう地獄のような突発レイドのせいで参加したプレイヤー全員にトラウマを植え付け、それ以降の虫系モンスターのグラフィックには大幅な制限が掛けられたとかなんとか……




