144、再会と動き方
ついに地上へと帰還したあたしたちは、地下水路の管理棟を出て、そのまま侯爵さんのいる指揮所へと向かった。
そこで感動の再会……とは行かなかった。
誘拐されて捉えられていた3人と、気を失っているミーナさんは治癒魔法術師たちに囲まれて回復魔法の連打を受け、3人はそのまま洗脳を受けていないか、変装や変化の魔法による入れ替わりが起きていないか、思考の方向性に狂いがないか、体内に何か埋め込まれていないか、など……とにかく多岐に渡る身体調査を受けて、ようやく侯爵との面会が叶った。
「カティナ!」
「お父様!」
感動の再会は、本当に涙なしには見られないほどに心にグッときた。
侯爵さんは力一杯にカティナちゃんを抱きしめて滂沱の涙を流しながら何度もその名前を呼び続けた。
元はと言えばあたしの不注意でこんなことになったのに、侯爵さんはそれを咎めずに、カティナちゃんを救い出したことに感謝の言葉を投げかけてくる。
「本当にありがとう、モカ嬢。この恩は絶対に忘れないし、俺の持てる全てを持って礼をする! だがその前に! 今この状況を何とかしなくてはならない!」
そう言えば、あたしたちが地底湖に向かう時、王都に向けて魔獣たちが進軍しているって言ってたよね。
「魔獣たちは全方位から王都を目指している。構成はワイズマン・エイプが多いが、それ以外にも多くの魔獣が確認されているんだが、妙な事にその全てが通常の魔獣とは違った様相なのだ。例えるなら……そう……何かに操られ、自我がない、という感じか?」
あぁ、やっぱりそうだ。
「それはきっと『支配鍵』の効果で操られた魔獣だね。『支配鍵』の持ち主はデルガミドって奴で、そいつはミーナさんがやっつけたはず。魔獣を支配する『支配鍵』もミーナさんが壊したんだけど……」
そう。
ずっと気になっていたことが、これだ。
ミーナさんが『支配鍵』を破壊したのにも関わらず、キングは支配から解放されなかった。いや、破壊された直後に動きが止まったんだけど、その直後に天井へ向けてビームを放った。
「つまり……そのデルガミドとやらが使っていた『支配鍵』を破壊するだけでは止まらない、と?」
「恐らくは。多分、キングの方に突き刺さった『支配杭』の方を何とかしないとダメなんだと思う」
今思えば、あたしが西の山でワイバーンと双頭蛇を解放してあげられたのは『支配杭』を破壊したからだ。
リモコンを壊してもテレビはつきっぱなし、ってことね。
だからリモコンたる『支配杭』を破壊しても、テレビである魔獣たちは支配されたまま、ってことだ。
「して、そのキングとやらは?」
あぁ、そうだった。
「少し前に、白い光が立ち上ったと思うんだけど、見た?」
「あぁ、見ている。地下からいきなりだったから被害がすごいことになっている。今分かっている範囲で死者が約70名、負傷者が約160名だ」
あのビームでそれだけの被害が出たの? くそ! あたしが様子見してたからだ。あの時、なりふり構わずに攻撃して止めていれば、あの攻撃を防げたかもしれない。
くそ……あの時、グリザークのダンジョンであたしは自重しないって誓ったはずなのに!
首から下げた巾着袋を握りしめる。
その中にある白金貨の重みがズンッとのしかかるような気がした。
強くなるって……自重しないって決めたのに……あたしは!
いや、ダメだ。
今は冷静にならないと。
これ以上の被害を容認しちゃダメ。
これから誰1人犠牲にしないように、全力で立ち回れ、あたし!
「……その光が、キングが地底湖から地上に向けて放った光線なの。で、キングは自分が開けたその風穴から地上に出ようとしてる」
「な、なんだと!?」
驚愕に顔を歪めた侯爵さんに、あたしはとりあえずやるべきことを思い出させる。
「詳しい話は後で! まずは住民の避難を優先して! キングが地上に出たらきっと王都はタダじゃ済まないよ!」
「そ、そうだな! その通りだ! おい、誰か!」
侯爵さんが手近な兵士に声をかけると、手の空いている兵士たちを集めて、その風穴の調査と見張りに向かわせた。
「俺は陛下にこの件を報告する。可能な限り王都の住民を王城に受け入れてもらえるように上奏するが……期待はするな」
「ん、分かった。じゃああたしはキングの対処に――」
話すべき事はもうないと思ったあたしは、そのままキングの開けた風穴に向かおうとする。
「待て! キングが出てくるまで、時間の猶予はどれほどある!?」
「え? うーん……天井にまで辿り着けないから登ってこられないパターンと、どうにか登ってくるパターンがあるけど、きっとあいつは登ってくる。でも、そんなに早くはないと思う。あの地底湖から地上に出るまではそれなりに距離があると思うから……うーん……30分くらい?」
正確な時間どころかアバウトな時間も正直な話、よく分からない。あのキングなら力技で何とかしそうな気もするけど、登ってこられない可能性だってある。
「30分か……全住民の避難には間に合わんか……」
侯爵さんは悔しそうに表情を歪め、苦痛に唇を噛む。
でも、今の言い方だと……
「……全員を助けないつもり?」
「助けられるなら助けている! だが、状況が状況な上に、王城を解放するかどうかを決めるのは我が王だ! 住民を受け入れると決めたところで、実際に避難が始まれば混乱が起きる! そうなれば全員を救うことなど出来ぬ!」
「じゃあ早く動いて! あたしがキングの相手をして何とか時間を稼ぐから!」
「待て! それよりも王都周辺で戦っている冒険者たちの応援に行ってほしい!」
「はぁ!? キングがすぐそこまで来てるのに!?」
侯爵さんが何を言い出すかと思えば、そんなこと!?
「王都全周に配置された冒険者たちは、今王都にいるAランク冒険者の指揮で何とか耐えているが、魔獣の数が多すぎるんだ。どこか1箇所でも突破されれば、住民の避難など出来ない! 人手が足りない上に、全ての冒険者と王都警備隊、騎士団までもが出払っている! 避難誘導が出来るのは残された我々と残った騎士団だけなのだ!」
しかも、魔獣はまだ増えているらしい。
どれだけの魔獣を支配下に入れてたのよ、あのキングは!?
「……あれ?」
そんな事を思って、ようやく気付く。
本当ならもっと早く気付いているべきだったのに……やっぱり焦っちゃダメだね。もっと冷静にならなくちゃ……
「西の森で……」
「? どうした?」
「西の森で双頭蛇と戦った時。双頭蛇の頭に刺さっていた杭を破壊したら、そこから伸びていた糸みたいなのが全部消えたの」
「……それは……つまり?」
「ワイズマン・エイプキングに刺さっている『支配杭』を何とか出来れば、王都を襲っている魔獣たちを鎮静化出来るかも!」
あの時も、双頭蛇を助けたら、森が静かになったんだから、きっと今回もそうだ。それにキングに刺さっている『支配杭』の場所もある程度は判明している。
あとは……
「あのデカブツに、あたしが何とかして勝たないといけないね……」
そう言葉にすると、侯爵さんを始め、周囲にいた人たちが不安そうに顔を見合わせる。
「出来るのか?」
そう言われると、あたしにはこう答えることしか出来ない。
「出来る出来ないじゃない……断じてやる! それだけよ!」
「信じていいのか?」
怪訝そうな表情の侯爵さんに、あたしはサムズアップする。
「お姉さんに、任せなさいっ!」
周りの人たちは「本当に任せて大丈夫なのか?」と、言葉にはしていないけど、全員の顔がそう言っていた。
失礼しちゃうよ、全く!
「分かった……では、俺も腹をくくるとしよう。必ず、全ての住民を王城に匿えるように王を説得する! 必ずだ! だからお前も、絶対にやり通せよ」
「もちろん!」
ようやくカティナちゃんと侯爵さんが再会です。
長かった……
あと、こういった誘拐騒ぎがあると、必ず保護された人物には魔法的な捜査が入ります。
洗脳や人格の埋め込みなどによって、より大きな事件が起きる可能性があるので、貴族たちは必要以上にこの操作を行います。
侯爵さんも愛娘を疑いたくないけど、さらに悪い事が起こらないように、捜査を行う事に渋々ながらも了承しています。




