142、腹が減っては何とやら
カティナちゃんから友達を紹介してもらった。
「デメティアン・ハルピュイアのアルカー」
「ル、ルーギリアン・ディアの、ジャスミン……です」
「冒険者のモカです。カティナちゃんを助けに来たんだけど、2人のこともちゃんと助けてあげるからね」
鹿の女の子と鳥の女の子は、カティナちゃんよりも幼く見える。
6、7歳くらいかな?
「2人とも、私と一緒にここに連れてこられたの。でも、捕まっていた場所は違うみたいで……」
カティナちゃんが捕まっていたのは孤児院の地下だったけど、それ以外にも監禁場所があったのか……相当根深い問題かも知れないね。
「そっか。間に合って良かったよ……それで……ミーナさん、どうしたの?」
「私たちを助けに来てくれた時、すごい疲れていたから、モカお姉様が来るまで休んでいようって言ったら……そのまま座り込んじゃって」
檻にもたれ掛かって項垂れるように寝ているミーナさんのメイド服はもうボロボロだ。背中と脇腹に大きな穴も開いている。
「なるほどね……頑張ってくれたんだ……でも、ちょっと状況が状況だから、早いとこ脱出しないとマズイんだよね」
ミーナさんに歩み寄り、しゃがんで肩を揺すってみるけど、反応はない。
胸が上下に動いているから死んでいるわけではないんだろうけど……どうしようかな? 流石に全員を担いでこの地底湖から脱出できるか分からないんだよね。
「お姉様?」
「あー、ごめん、ちょっと待って。今、どうするか考えてるから……」
ちょっと冷たい言い方になっちゃったけど、こればかりはしょうがない。状況は刻一刻と変わるし、壁に張り付いて外に出ようとしているキングにも注意を払わないといけない。
うーん、どうするべきかな? あたしのスキルで使えそうなのは……子供たちを抱っこして『天躯』であたしたちが入ってきた入り口まで跳ぶ? そう言えば人を抱えて『天躯』を使ったことないけどイケるのかな?
「うーん……選択肢が少なすぎる」
「ねー、モカー?」
いや、それとも魔法で何とかする?
でもあたしが使える魔法ってほとんどが戦闘用なんだよね……移動系も自分にしか効果ないからなぁ……こんなことなら水上歩行とか移動系の魔法の習得もしておけば良かったな。
「ミーナさんが起きていてくれたらもう少し……」
「モカー?」
今からでも残ってるポイントを……あぁ、ダメだ。グレーアウトしてるBLO時代の魔法やスキルはあたしがソロで戦闘主体だったから使えそうなのがないや……あ、いや、1つだけある。
「おりゃー」
「うひゃい!?」
あたしが思考に没頭していると、アルカちゃんがあたしに飛びついてきた。
痩せ細った体と翼だけど、子供特有の体温の高さがはっきりと伝わってくる。
「びっっくりしたぁ……どうしたの、アルカちゃん」
「ねー、モカー。水と食べ物あるー?」
「……あるけど?」
「ちょーだーい」
言われるがままに、あたしはアイテムボックスから朝食用に買い溜めしておいたヤギのミルクとリナンのジャムを取り出す。
流石に碌な食事を取っていない子供たちに消化の悪そうなものは出せないからね。
あたしが取り出したミルクの瓶とジャムの小瓶を引ったくったアルカちゃんは、一瞬でその中身を消すように飲んで食べ切った。
「まだ足りないー。モカー、お肉あるー?」
「あ、あるけど……」
「じゃあ、それもー」
「ちょ、ちょっと待って!? 体が弱ってるのに消化に悪いものはダメ!」
「えー? でも、そうしないと、アルカ、飛べないー」
「……ん??」
「だーかーらー、力でないと、アルカ飛べないのー」
と、飛ぶ? あ、いや、そう言うことか。
「ア、アルカちゃん、飛べるの?」
「飛べるー。でも、お腹空いて力でないー」
そんなどこぞのあんぱんのヒーローみたいなこと言われても……でもそうだよね。鳥の獣人なんだったら飛んで逃げられるのか。
「ね、アルカちゃん? 頑張ればカティナちゃんかジャスミンちゃんを抱えて飛べる?」
「お腹いっぱいなら2人とも運べるー」
その言葉が聞きたかった! それならカティナちゃんとジャスミンちゃんを運んでもらって、あたしがミーナさんを運べば何とかなりそうだね!
「分かった! ちょっとだけ待ってもらえる? ついでに、カティナちゃんとジャスミンちゃんにもこれ、あげてね。あとこれはアルカちゃんのおかわりね」
あたしは追加でミルクとジャムの小瓶を取り出してアルカちゃんに渡す。
「分かったー。ねー、カティナー、ジャスミンー、これ食べよー」
マイペースで感情の起伏があんまりない子だと思っていたけど、羽がぴょこぴょこ機嫌良さそうに揺れているから大丈夫かな。
さ、そんなことするような状況じゃないけど、ご飯作りますか。
「といっても基本的にお肉系は消化が悪いんだよなぁ」
いきなり重い食事をすると胃が受け付けなくて嘔吐したりお腹を下す場合もある。
酷い時には急激な栄養摂取によって体に不調が出る場合があるから、できることなら、重湯とか、ドロドロに煮込んだ流動食っぽいものの方が良いんだけど……どうしようかな? アイテムボックスにあるのは自分のお昼ご飯用に作ったハンバーガーくらいしかないんだよなぁ。
「あ、いや待てよ? ハンバーガーとミルクがあるなら、ミルク粥みたいなのが作れるか?」
そうと決まれば早速料理に取り掛かろう。
流石にこの掘立小屋にキッチンは無いから、床の木材を【理切】で四角に切り取って下の土を露出させる。
そこに切り取った木材と手持ちの枯れ木を入れて魔法で火をつけると、調理道具を取り出す。
鍋をセットしてそこへ残っているヤギのミルクを入れて、少し水で薄める。
ミルクが沸くまでの間に、ハンバーガーを出して細かく刻んでいく。これはカティナちゃんとジャスミンちゃん用で、アルカちゃんには食べ応えがあるようにパティを大きめに切っておく。
これだけじゃ足りないって言い出すかも知れないけど、その時は残っているあたしのご飯を上げれば良いだけだ。
「ねー、モカー、まだー?」
3人にあげたジャムはもう無くなったようで、次のご飯の催促にきたアルカちゃんは、鍋の中を覗き込んで首を傾げる。
「もう少しだから良い子で待っててね」
「分かったー」
時間も無いから、少し沸いた辺りで細かくしたハンバーガーをミルクへ入れて少し煮込む。
とろみがついてきたら完成だ。
木の器によそってみんなに渡してあげると、アルカちゃんが真っ先に食べ始める。鋭い爪で器用にスプーンを持って食べているのだが、その速度は一瞬だ。
「おかわりー」
「はいはい」
一応、4人分を作ってあるからおかわりはできるけど……カティナちゃんとジャスミンちゃんの食はあまり進んでいないようだ。
やっぱり重かったかな?
なんて思っていると、カティナちゃんもジャスミンちゃんも、少しだけ食べた粥の器をアルカちゃんに差し出した。
「アルカ、私、あんまりお腹が空いていないから、これも食べていいわよ」
「わ、私も……アルカちゃん、どうぞ」
「いいのー? やったー」
どうやらさっきの話を聞いて、アルカちゃんのお腹を満たすことを優先してくれたみたいだ。
本当は遠慮なんてさせたくないんだけど、今は状況が状況だ。
これが終わったら、あたしが腕によりをかけてジャンクフードパーティーを開催してあげよう。
「ねー、モカー? もっとお肉ほしー」
「え!? まだ食べるの!?」
くっ、仕方ない。あたしの夜食用のステーキサンドを……いや、ダメだ。こんな消化に悪いものは……
「だめー?」
そんな、昔のCMのチワワみたいに潤んだ瞳を向けられても……あぁ、くそ!
「……はい、どうぞ」
うるうるした視線に負けたあたしは、アイテムボックスからステーキサンドを取り出して、渋々ながらもアルカちゃんに渡した。
それはそれはとても幸せそうな顔をして、あたしの夜食にかぶりついたアルカちゃんを見て、ようやくあたしは肩から力が抜けたのを感じた。
きちんとした食事を与えられなかった子供にステーキサンド!? と思うかも知れませんが、アルカちゃんは種族柄、胃が強いです。
ただ乳糖不耐性も持ち合わせていますが、そこは水で薄めてあるので大丈夫ということにしてください!




