138、違和感の秘密
予約投稿です。
上手くいっていることを祈ります。
千日手は変わらず、私の拳はデルガミドの障壁を突破出来ません。
しかしそれはデルガミドも同じです。
彼の放つ魔法は私の『乱破』によって破壊され、決定打とはなりません。
しかし1つだけ気付いたことがあります。
「その障壁、魔法によるものではありませんね?」
初めはデルガミド本人か、魔石などによる魔力で構成された障壁だと思っていたのですが、デルガミドは多くの魔法を放っているのに魔力回復薬を飲む素振りすら見せません。魔力容量が桁外れなのかとも思いましたが、消費魔力を計算して魔法を使っているようにも思えません。
ましてや外付けの魔力タンクである魔石なども見当たりませんから、十中八九、デルガミド本人の魔力や魔石によって構成される障壁ではないことが分かります。
となれば、考えられる可能性はかなり絞られますが、その可能性の1つを私は見たことがあります。
「物理的にも魔法的にも、ほとんどの攻撃に対して高い防御性能を誇る障壁で、そこまで堅牢な障壁を展開する魔獣を知っています」
それは陛下の誕生祭での事です。
このデルガミドがゲートルと手を組んでいたのであれば、ゲートルの研究にも関わっていたということです。
つまり、彼の老人が自身に施した魔獣の皮膚移植を、デルガミドも自身に対して施している可能性があるということです。いえ、可能性がある、ではなく確定でしょう。
「斬撃、殴打、刺突、魔法的攻撃にも対応し、堅牢にして強固。そこから思い浮かぶ魔獣は3種類います」
障壁を殴る手は止めず、私の発言によってデルガミドがどう表情を崩すのかをつぶさに観察します。
ですが、デルガミドは私の言葉に表情を変えることはしませんでしたが、切長な瞳が微かに細められたのを見逃しません。
「海の賢老と呼ばれる千年亀、歩く天災と呼ばれる陸山龍、そして、恐らくはこれが1番可能性として高いと思いますが……」
私は障壁を殴る拳を止め、一度大きく距離を取る。
「フローレンス王国の北に位置する龍鳴山を統べる黒き暴風……黒龍です」
「ほぅ、そこまで気付くか」
「ゲートルと手を組んでいた、と聞いた時点でこの可能性に気付くべきでした」
「しかし、それが分かったとしても、黒龍の障壁を破ることなど出来ないぞ?」
デルガミドの顔に、初めて見る表情が浮かびます。
それは優越感のようにも見えますが、どうにも違和感を拭えません。
「私は、私の成すべきことをするだけです」
障壁の謎が解けたとは言え、それを突破する方法はまだ見つかっていません。
数多くの龍種の中でも色を冠する龍は別格だという話を聞いた事がありますが、倒せないわけではないはずです。
現に龍殺しを行える者がいるので、少なくともこの障壁を突破することはできるはずです。
「やれるかな?」
デルガミドの口元が薄く歪みました。
狙ったわけではありませんが、その瞬間に私は力強く踏み込み、拳を振り抜きます。
「破ッ!」
ですが、やはり障壁に阻まれて拳が滑ります。
「ずっと不思議に思っていたのです」
それでも私は殴るのをやめません。
前より速く、今より速く、拳を引いては殴り続けます。
「この障壁に攻撃を加えると、どうして拳が滑るのか」
変な打ち方をすれば、拳が滑るのは分かります。
打ち込む角度や速度が甘ければ力を一点に集中させる事ができずに逸れますが、私がそんな素人のような戦い方をするわけがありません。それはモカ様も同じです。
刃筋を立て、この障壁を切り裂かんと一刀を振るったはずです。その証拠に、モカ様の攻撃は弾かれているのです。そしてそのまま振り切った際には滑っていました。
それらを踏まえた上で、私は1つの結論に至りました。
「障壁は攻撃する度に破壊され、その瞬間に新しい障壁が張り直されているのではありませんか? そして、その速度があまりにも速く、目には見えず、様々な方向から張り直されているので、それに引きずられるように滑っているのではありませんか?」
龍種が持つ障壁は魔法ではなく、種族的な能力であると既に証明されています。
それはつまり。
「あなたは……自身に龍種の皮膚を移植するだけではなく、中身そのものを龍種へと置き換えたのですか」
いえ、そのようなことはありえないと思います。
そんなことをして人が生きられるはずがありません。
龍種は無尽蔵に魔力を吸収し続け、極限環境下であっても生存を可能にしています。ですが、それは龍種が無限にも等しい魔力容量を有しているから可能であって、人族にそれが成せるとは到底思えません。
「看破したのは素直に賞賛を送るが、その答えだけではまだ足りないな」
「どうしてそれで生きていられるのです!?」
私の拳は止まります。
あまりにも馬鹿げた事が目の前で起きているのですから当然です。自分の体を龍種に置き換え、生きていられるはずがありません。
全ての生物は、そのように作られていないのですから。
「どうして、か。その理由は簡単だ。私が移植したのは、龍種だけではないからだ!」
初めてデルガミドが歯を剥き出しにして吠えました。
そして、纏っていたマントを外し、上着のボタンを外し、ガバッと胸と腹を見せつけてきます。
「なッ……」
思わず私は絶句しました。
デルガミドの胸には、人の頭蓋骨が埋め込まれていたのです。
身体は黒い鱗にびっしりと覆われ、腹には大きな手術痕が見て取れますが、それよりもその頭蓋骨が異様に見えるのです。
「これは私の母だ」
デルガミドが頭蓋骨に触れ、優しげな手つきで撫でる。
「知っているか? 死者の骨は立派な魔道具になることを」
何を言っているのか、理解が追いつきません。
「我が『9つの骸』のメンバーには、杖が与えられる。黒く、歪な杖だ」
それは見たことがありますね。
確か、カティナ様が攫われる直前に絡んできた2人組の男が持っていましたね。ではあれが組織の所属を表していたのですね。
「特に、子供の骨というのは最上の触媒だ。絶望を知らず、闇を知らず、痛みも苦しみも知らない無垢な子供ほど、素晴らしい触媒となる」
何が言いたいのか、分かりたくもないのに分かってしまうのが腹立たしいです。
「勘違いをしないで欲しいのだが、杖を作るために子供を殺したりはしていない。あくまでアレの餌となり、食べ残しの残骸を有効活用しているだけだ」
「人の所業ではありませんね。あなたには心が無いのですか?」
「あるとも。だからきちんと再利用しているのだ」
デルガミドの言動に、違和感を覚えます。
言っていることが一貫していないのです。
母に言われたから王になる? そんなフワッとした理由でここまでするでしょうか? 自分で望んだわけではないのに、自分を改造してまで力を得て、子供たちを犠牲にするなど……思考がまとまっていないように思えます。
「この母もそうだ。母の骨は魔力を溜め込む器として優秀だ。龍種が無尽蔵に取り込む魔力を私の魔力へと変換して貯蔵する。そして貯蔵した魔力は龍の内臓を稼働させる燃料となる。まさに永久機関だ。これがある限り、私は老いず、死なず、永久的に生きることが出来る! そして俺様は、新たな王として君臨するのだ! 女も金も、全てを手に入れ、僕は自由になる! 俺を虐げてきたクズどもに思い知らせてやるんだ!」
遂に一人称までもが定まらず、大きく見開かれた瞳が別の生物のようにギョロギョロと蠢く。
「狂っている……それはもう人の所業ではありません」
「知っているとも。私はもう人ではないのだ。だが、それでいい」
デルガミドが半脱ぎの上着を全て脱ぎ捨てました。
そして私はようやくデルガミドの違和感の正体を知ったのです。
「……これは、生命に対する冒涜です」
胸の頭蓋骨だけではなかったのです。
両肩と両腕。
そこには魔獣の皮膚ではなく、人の顔が張り付いていたのです。
苦悩に歪む顔、怒りに燃える顔、悲しみに濡れる顔、邪悪な笑みを浮かべる顔。
異なる4つの顔が、デルガミドの皮膚として融合していました。
「私は、私のために死んでいった者たちに対する王でなければならないのだ!」
血走った瞳に射抜かれ、私は思わず1歩、後ずさってしまったのです。
デルガミドさんの秘密が遂に明らかに。
もうデルガミドさんは人ではありません。
言わば人工的に作り出された人型キメラです。
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