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137、ミーナ

予定より早く帰ってこられたので手動投稿!

明日(10/2)は確実に残業なので、予約投稿です。

「そういえば……ミーナさんって戦える人?」


 いきなり飛び出して、危険な目に遭ったモカ様が一息で私の元へ戻ってくると、そう尋ねてきました。

 戦えるかどうか。

 流石にあの魔獣ほどの膂力を出すことは出来ませんが、それでも人族はもちろん、他の亜人種を圧倒できるほどの力を私たち鬼人族は内包しております。

 そして私たちのトレードマークにして、鬼人族の強さの象徴でもあるこの角。

 これは鬼人族の強大な力を制御するための装置です。

 私たちが力を発揮するためには、体内の魔力だけでは足りません。そこで、この角が周囲の魔力を吸収し、使いやすいように加工して体内に取り込んでくれるのです。

 つまり、何が言いたいかと言いますと。 


「鬼人族に戦えない者はおりません」


 この一言に尽きます。

 私たち鬼人族は、その長い歴史のほとんどを戦っていました。

 他種族との戦争、種族同士の戦争、人族の国との戦争。数え出せばキリが無いほどに戦いに明け暮れた種族だと言えるでしょう。

 しかしながら、それはもう過去の話で、今は割と平穏に暮らしているはずですが。

 そのため、戦闘を求める鬼人族たちは冒険者や傭兵、用心棒などで重宝されているとか何とか。

 かく言う私も、そういういざこざが恋しくて後宮付きの侍従として王族の護衛などを行なっておりますが、これが間違いでした。

 王族だから暗殺や襲撃が日常的にあるのだと思っておりましたが、そのような問題は私たちの元に届く前に鎮圧されてしまうのです。

 つまり、何が言いたいかと言いますと。

 常にお預けされてストレスが溜まりまくっているのです。

 もしお許しをいただけるのならば、私はこの鬱憤を全て吐き出したいのです。


「じゃあ大丈夫だね。デルガミドは障壁に守られてるから、まずはそれを何とかしてね」


 その点、モカ様は理想的ですね。

 王族のように他の護衛がいるわけでもなく、本人は不思議がっていますが、厄介事が次々に舞い込んできます。

 しかも、モカ様は嬉々としてそれに首を突っ込んでいるようにも思えます。

 あれは最早、天性の才能と言っても過言ではありませんね。

 なので、モカ様と一緒にいると退屈しませんし、大きなストレスも溜まりません。久しぶりにぐっすりと寝られるようになったのですから感謝しかありません。

 それだけでも仕えるに値する主だとも思います。


「分かりました」


 どうやらモカ様はあの巨大な魔獣の相手をするようですね。

 あれに人の身で挑めるのでしょうか? いえ、モカ様なら問題ないでしょう。

 であれば、私は私の仕事をしっかりとこなしたいと思います


「それじゃ、とっとと片付けてカティナちゃんを助けよう」


「えぇ、そうしましょう」


 私はメイド服からガントレットを取り出し、装着します。

 このガントレットとは長い付き合いですね。

 鬼人族は種族的に体が頑丈ですので、人族のように中遠距離での魔法戦、と言うよりも超近距離による肉弾戦の方が得意です。そのため、鬼人族は身体強化魔法と格闘魔法のスペシャリストとも呼ばれます。

 なので、基本的に装備はガントレットやブーツが多いですね。

 私は蹴るよりも殴る方が好きですので、ガントレットを好んでいます。

 このガントレットは、堅牢なベヒーモスの背骨と、魔力伝導率の高い海桜水結晶を使って作られた物で、落ち着いた深い鈍色の無骨な造りとなっています。

 特に特殊な力はありませんが、私の全力にきちんと付いてこられますので、良き相棒ですね。

 手を開いたり閉じたりして馴染み方を確認すると、そのまま戦闘態勢を取ります。するとモカ様も武器を構えました。

 モカ様に会うまでは見たこともない武器ですが、どうやら剣の一種らしいです。

 これが片付いて落ち着いたら色々と聞いてみましょう。


「それじゃ、行くよ!」


 モカ様がグッと沈み込み、弾かれたように跳躍します。

 私もそれを合わせて踏み込み、デルガミドを目指しました。

 モカ様は魔獣とデルガミドの間に割り込んで魔獣を私たちから引き離すように動き、私もそれを邪魔しないようにモカ様とデルガミドの間に入り、挨拶代わりの右ストレートをデルガミドへとぶつけます。

 しかし、ガントレットはデルガミドの顔面に届く前にガキンと弾かれ、滑ってしまいました。


「これがモカ様の言っていた障壁ですか」


 確かにドーム状にデルガミドの周囲に展開されているようですね。


「鬼人族がメイドとは珍しいな」


「後宮付き侍従のミーナと申します」


「ほぅ。ならば我が弟の寝所で、その体力を充分に活かしたのか?」


 表情からは感じ取れませんが、どうやら私を怒らせたいようですね。


「陛下は弩級の愛妻家ですので、誰がどう誘惑しても無駄なのです。私も王妃様から毎日毎日愚痴を聞いております。なので早いこと終わらせて、後妻候補を見つけなくてはなりません」


 しかし、そのような煽り文句など、王宮で働く身には何一つ意味を成しません。もっと酷い煽り文句が飛び交うのが日常の世界ですので。

 それに、早く終わらせたいのは正直な気持ちです。

 そのためには、この障壁を何とかしなくてはいけませんね。


「その障壁、魔法によるものですか?」


「ネタバラシを自分からする奇術師がどこにいると思う?」


 そうですよね。

 ですが魔法による障壁であれば、術者の魔力や魔石の魔力などの魔力の流れがあるはずです。

 私たち鬼人族に、その魔力の流れを感じ取る力はありませんが、モカ様の斬撃や私の拳を受け止めても傷一つないのであれば、かなり高位の防御魔法である可能性があります。

 ともすれば、魔力消費量も高く、長時間の維持には向かないはずです。


「では、壊れるまで殴るだけですね」


 私は再び拳を構え、右に左に動きながら障壁を殴ります。

 ガントレットのおかげで拳にダメージはきませんが、それは障壁も同じようです。

 幾ら殴ったところで障壁は揺らぎもせず、ガントレットが表面を滑るだけ。

 足に力を入れ、渾身の力で殴っても意味がありません。

 そして厄介なことに、デルガミドに魔力を消費している様子が見受けられないのです。


「どうした? 壊れるまで殴るのではなかったのか?」


 その場から一歩も動いていないデルガミドが遂に杖を構えました。

 それもそうですね。

 普通の戦いならば攻撃は最大の防御だと言えますが、最大の防御を行なっているのは私ではなくデルガミドの方です。


「障壁を破らなければ、私は止められないぞ?」


 黒い鍵のような杖の先端が私に向けられた途端、そこから黒い雷が放たれました。見たことのない攻撃魔法です。

 ですが問題ありません。

 ノーリスクのヒットアンドアウェイではなく、ハイリスクの近接格闘(インファイト)を選んだ鬼人族の歴史は伊達では無いことをお見せしましょう。


「破ッ!」


 拳を捻りながら打ち出して黒雷を殴りつけると、弾かれたように雷が爆ぜます。

 これこそが鬼人族が編み出した対魔法用近接格闘術『乱破』です


「素手で魔法を破壊したのか? いや、そのガントレットが魔道具か」


 デルガミドは勘違いをしているようですが、原理はとても簡単です。

 魔法を構成する魔力を乱す魔力を拳に纏わせるだけ。

 魔力が魔法に触れると、そのまま魔法の構成を乱して破壊する。たったそれだけなのです。

 ですが、いくつもの欠点があります。

 例えば有効距離が短かったり、障壁や魔法陣など、時間が経って構成が固定されてしまったものには使えなかったり。

 使い勝手は良いですが、万能ではありません。

 しかしこうなってしまうと、いわゆる千日手というやつです。

 どちらも決め手に欠けてしまい、勝敗は決しませんね。


「ですが、前言撤回は致しません。ただひたすらに――」


 私は再び拳を構える。


「――壊れるまで殴り続けるだけですッ!」


 ガキン、とまたガントレットが弾かれ滑った。

ミーナさんの種族である鬼人族ですが、角の数で性別が分かります。

1本が男性、2本が女性です。

皮膚から生える形ですので、一応は感覚器という扱いになります。

ごく稀に角無しや、3本角が生まれてきますが、だからと言って迫害したりはしません。

ただ角なしはエネルギーを上手に利用出来ないので、体の成長が遅かったり、強靭な肉体能力を持てません。同時に短命でもあります。

ちなみに、鬼人族は人族に近い見た目をしていますが、亜人の中でもトップクラスの戦闘力を誇ります。

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