133、地下水路へ
1章と2章の終わりに人物紹介を追加しました。
3章も終わりに人物紹介入れます。
平民街の外れにある地下水路の管理棟は、それなりに立派な建物だった。
道中でミーナさんが知っている情報を聞いたけど、地下水路の管理は10年ほど前に民営化されているらしく、現在では2つの商会が持ち回りで運営しているとか。
「じゃあ、その2つの商会も隠れ蓑だったってわけだね」
「そう考えるのが妥当かと」
管理棟は3階建てで、城壁に張り付くように建てられている。
入り口には関係者以外立ち入り禁止と書かれた札が掛けられてはいるが、扉には鍵が掛けられておらず、建物の中に人の気配はない。
念の為、アレク爺さんから譲り受けた風鈴を使って、罠の確認をしてみたが、特に反応はなかった。
建物内に入ると、ひんやりとした空気に混じって下水の臭いが鼻につく。
「地下水路への入り口ってどこにあるのかな?」
広さ的には一般的な一軒家ほどの広さなのだが、細かく部屋が分かれていて、見回るのが面倒だ。
「地下へ行くのですから、一階のどこかにあるのではないでしょうか?」
そりゃそうだ。地下へ行くのに上に上がるはずもないよね。
と言うわけであたしたちは手分けして地下への入り口を探し始めたのだが、それはいとも簡単に見つかった。
「モカ様、ありました」
ミーナさんの元へ向かい、部屋に入ると、部屋の中央に直径2メートルほどの穴が空いていて、梯子が掛けられているのが見える。
臭いはそこから来ているようで、ここが入り口で間違いない。
「これで間違いないよね?」
「ご丁寧に案内板まで出ておりますので、間違いないかと」
ミーナさんが指差す方を見ると、看板に「地下水路管理通路入り口。水路点検前には点検リストの確認と、前回点検記録の確認をしましょう」と書かれていた。
「あー、うん。間違いないね。それじゃあ、念のため、暗視付与の風鈴を使っておくよ」
風鈴を使って、また変な視界になったところで、あたしたちはその梯子を降りていった。
約20メートルほどの縦穴を降りきると、ようやく地下水路である。
しかも地下水路には松明が灯されていた。
「これは当たりかな?」
「そのようですね。このような状況で地下水路の点検を行うはずはありませんからね」
「じゃあ、この松明を追ってみよう」
あたしたちは松明を辿って地下水路を歩いていく。
道中に特に怪しい者や魔獣が襲ってくるようなこともなく、入り組んだ点検路を松明に沿って進んでいくと、ドーム状の空間に出た。
ここは一時的に汚水を巨大な溜桝に溜める場所のようで、何本もの水路が溜桝に繋がっている。
溜桝の中を覗くと、中には何百匹もの蠢く粘性の塊がいた。
「スライムによる汚水処理ですね」
ミーナさんの言葉に、あたしはお風呂場にいたあのスライムを思い出す。
ドクターフィッシュ的な感じだと思っていたけど、それ以外にも使い道があったんだね。
「スライムは基本的に何でも捕食しますからね。王城のトイレにもいますよ」
汚水でも汚物でも何でも捕食して分解してくれると言うのだから、まさに夢のような生物だね。
スライムに全身を入れたら美容に良さそうだけど……今の話を聞いたら入りたくはないよね。
「ここでスライムによって浄化された水がそこの排水路を通って王都の外にある川に流され、南のドーラ湖へと合流します」
ドーラ湖って言えば、ユリシュさんのせいで出来た人工湖だっけ? こんなところで繋がるとは、世界も狭いものだ。
「松明はここで終わっていますね」
「うん、きっとこの空間に別の入り口があるんだと思う」
このドーム状の空間に、そのようなものがあるようには見えない。
それもそうか。
そう簡単に見つかるようなヘマはしない。
でもそこは大丈夫。あたしにはアレク爺さんから貰った風鈴があるからね。本当にすごいものを貰ってしまったよ。
「それじゃ、風鈴を鳴らすよ」
「はい、お願いします」
あたしはアイテムボックスから風鈴を取り出して掲げた。
チリリーン、と涼やかな音色が地下水路に反響し、あたしたちを導いてくれる。
音は溜桝を飛び越えて、あたしたちの反対側にある王都の外へと向かう排水路の方へと導いてくれた。
溜桝がかなり巨大なので、反対側まで回り込むのには少し時間が掛かってしまったが、音はきちんとあたしたちを待っていてくれる。
どういう原理なのだろうか?
音の導きに従うと、排水路を少しだけ奥へ行き、音はそこで止まった。
特に何かがある訳でもなく、目の前にはただの壁があるだけだ。風が吹いているとか、継ぎ目があるとか、そういう手掛かりもないのだが、確かに音はそこで止まったのだから、ここに隠し扉に類するものがあるのは間違いない。
「それじゃあ、開錠の風鈴を使うね」
持っていた隠し扉発見の風鈴をしまい、開錠の風鈴を取り出して鳴らす。
再びチリリーンと清涼な音が響くと、足元からガコッと音がした。
「壁ではなく、足元でしたか」
「あたしも同じことを思ったよ。これ、床の石畳が外れるのかな?」
しゃがみ込んで床を確認すると、2枚の石畳が微かに浮いているのが見える。
試しに石畳を持ち上げてみるけど、びくともしない。
そこまで重いようには見えないんだけど、これも魔法的な何かかな?
「仕方ありません、一思いにやってしまいましょう」
ミーナさんがあたしを立ち上がらせて、庇うようにあたしを後ろに下がらせる。
そして、地面に向かって構えた。
「少し手荒ですが……行きます!」
瓦割りのような、というかまんま瓦割りの体勢だ。そのままミーナさんは鋭く息を吐いて拳を振り下ろす。
凄まじい破砕音と共に床の石畳が粉々に砕け散る。
その厚みは10センチくらいはあっただろうに、発泡スチロールのようにあっさりと砕けたのだから、ミーナさんの力量は相当なものだろう。
「さらに地下へと続く梯子のようですね」
深い穴を覗き込んだミーナさんは、躊躇いもせずに梯子に足をかけて降りていこうとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
あたしは慌ててミーナさんを止めて、風鈴をしまって罠解除の風鈴を取り出して鳴らす。
「罠があるかもしれないから」
あたしがそう言うと、ミーナさんは恥ずかしそうにあたしから視線を逸らした。
ミーナさんってば、あたしよりも直情的かもね。それかすごい……おっと、これ以上は言うまい。
「こほん。では参りましょう」
気まずそうに咳払いをしたミーナさんが改めて梯子に足をかけて、降りていく。
まだ暗視付与が続いているから、視界に問題はない。
あたしも続いて梯子を降りていく。
地上から地下水路に降りるまでの距離の倍ほどの長さがあったけど、梯子を降りるたびにどんどん温度が下がっているのが分かる。
それと同時に、地下水路内で匂ってきた嫌な臭いは薄れていき、代わりにもっと酷い臭いが鼻につく。
「獣臭に混じって、血の臭いがありますね」
「間違いないね……この先が魔獣の飼育場だ」
カツカツとあたしたちは梯子を降りていく。やがて終わりが見えてくると、そこは異様な空間だった。
あまりにも広大な空間は確かに地底湖だ。
しかし、地下だというのに淡くぼんやりとした光に満ちていて、それが地底湖の壁や地面に埋め込まれた魔石の光だと気付くのに少し時間が掛かった。
あたしたちが降りたのは、そんな広大な空間の側面。柵も命綱もない、ただ壁を削って作られただけの石の階段である。
そして、地底湖の中央には小さな島があり、そこには巨大な黒い塊とそれを囲むように光る大きな魔法陣、そして、その側にいる小さな影があった。
遠目からではしっかりとは見えないが、あれが地下で飼育されていた魔獣で間違いないだろう。
「モカ様」
「うん、慎重に行こう」
そして、ゆっくりと石階段を降り始めた。
ついに地底湖に到着。
そして、中央の島にいる謎の黒い塊とは一体!?




