132、情報の裏取り
ちょっとだけ遅刻です、すんません!!
孤児院の地下から地上に戻ると、メルツェナさんの人形が待っていた。
「どうしたのかな? 何かあった?」
木の人形は特に反応を示さずに、持っている羊皮紙をあたしに差し出す。それを受け取ると、人形はすぐに回れ右をして走っていった。
「これを届けに来ただけ?」
受け取った羊皮紙を広げてみると、どうやらメルツェナさん宛ての命令書のようだ。
あたしが見ていいのかな? でも持ってきたってことは見てもいいってことだよね?
「モカ様、何が書かれているのですか?」
「今見る」
あたしは命令書に目を落として、書かれている文字を追っていく。
「………はぁ? 何これ?」
「何か問題が?」
「王都に魔獣の大群が迫ってるって」
「大群、ですか?」
「そう。ワイズマン・エイプがメインで、他の魔獣もたくさんいるって。数は2万以上。王都にいる冒険者全員に緊急招集命令が下ったって」
あたしの言葉が信じられないのか、ミーナさんは目を見開いて私の持っている羊皮紙に視線を落とす。
「に、2万ですか!? そんなことが……ど、どうするのですか!?」
「メルツェナさんは、カティナちゃんの救出を優先しろって言ってるけど……」
2万を超える魔獣の相手をするだけなら、王都の冒険者だけで足りるのかな? あ、そっか。いざとなればあのユリシュさんがいるから、そこまで問題だと思ってないのかな?
考えてみれば、メルツェナさんはAランクで1人でそれなりに戦えるし、王国騎士団もいるんだよね。メリナも、あの言動とかが絡まなければちゃんと強いんだし……うん、そうだね。
「メルツェナさんの言う通り、カティナちゃんの救出を優先しよう。多分だけど、このタイミングで魔獣が王都に向かってくるのは、デルガミドとかいう奴の持つ『支配鍵』のせいだと思う」
「支配された魔獣が王都を襲う、と? 先ほどの手帳に挟まっていた命令書の、支配下にある魔獣全てに王都を襲わせる、という1文ですか」
「うん。だから、あたしたちはデルガミドが持つ『支配鍵』か、支配された魔獣の親玉に刺さっている『支配杭』を見つけて破壊した方がいい」
「破壊すれば止まるのですか?」
「双頭蛇の時はそうだったね。多分だけど『支配杭』を破壊すればその支配下にある魔獣たちの支配も終わるんだと思う」
「であれば、そちらを最優先にした方がよろしいでしょう」
「じゃあ、それで。例の地底湖を探して、デルガミドを止めよう」
「他に手掛かりがあれば良いのですが……」
「途中で侯爵さんのとこ寄ってみる? 新しい情報があるかも」
「そうですね。地底湖に関する情報も、侯爵様であればご存知かもしれません」
そうと決まれば、早速行動だ。
あたしたちは近くにいた騎士に、カティナちゃんの救出に向かうこと、王都に魔獣が迫っていることを告げて、侯爵さんがいる指揮本部へと向かった。
指揮本部の簡易テント周辺は、まさに混乱の渦中にあった。
元々はカティナちゃんの捜索と『9つの骸』の捜査のために立ち上げられたのだが、現在はそれに加えて王都に押し寄せる魔獣の対処に関する情報まで入ってきたため、誰もが慌ただしく動き回っている。
情報が錯綜し、どの組織がどの問題に対処するのか、優先順位はどうなるのか、など、パニックに陥っていた。
「すいませーん、侯爵さんってどこにいますか?」
だと言うのに、そんな指揮本部に呑気な声が響く。
もちろんあたしだ。
というか、どうしてみんながそんなに慌てふためいているのかが分からないんだよね。
冒険者もいるし、騎士団もいる。何よりユリシュさんがいる。
あ、でも、ユリシュさんに任せたら王都が瓦礫の山になる可能性があるんだっけ? グレイグさんがそんな事を言ってた気がする。
「あのー、すいませーん」
「モ、モカ様、このような状況ですから、誰も話を聞いてくれないと思いますよ?」
「それもそっか。じゃあ、勝手に侯爵さん探そうか」
「は、はぁ……」
「ん、どうしたの?」
「いえ、どうしてそんなに落ち着いておられるのか、不思議でして……」
「え、だって、魔法使いなら2万の魔獣なんて簡単じゃないの? それこそ空を飛びながら魔法で爆撃すればそれで終わりじゃん」
自分で言っていて、確かにその戦略ならばいくら魔獣の数が多かろうとそこまで問題じゃない気がしてきた。
「……モカ様」
あれ、何だかミーナさんが呆れているな。何か変なこと言ったのかな?
「それが出来れば、ここまで慌てることはありません」
「出来ないの?」
「出来る出来ないで言えば出来ます。ですが、世界協定で飛行魔法の戦略的使用は禁止されております。もし使用すれば世界的な信用を失い、侵略者としての誹りを受けることになりますので」
うわぁ、世知辛い世の中だなぁ……でも、まぁ……そうか。そんなことが罷り通れば世界中は火の海になっちゃいそうだもんね。
「そうなんだ。じゃあ、早くデルガミドを探して『支配鍵』を破壊しないといけないね」
「………」
ミーナさんが無言であたしを見つめてくる。
え、な、何? またおかしなこと言った?
「ど、どうしたの?」
「いえ、どうしてそのように自然体でいられるのか、不思議でして……」
「まぁ、色んな修羅場を潜ってきたからね……」
思い返して見れば、BLOでもこの手のイベントはたくさんあった。突発レイドやイベント、それからユニーククエストなどなど。
1番酷かったのはやっぱりあのトラウマ製造突発レイドだろう。
あれに比べれば今回の魔獣の大群なんて可愛いものだ。
「そ、それより侯爵さんを探そ!」
あたしはこれ以上ミーナさんに色々と突っ込まれる前に歩き出す。
とはいえ簡易テント内はそこまで広くないから、すぐに1周できてしまう。そして、ここに侯爵さんはいない。
どこに行ったのかとテントを出て、別の簡易テントへ入っていく。
2つ目、3つ目と空振りに終わり、4つ目のテントに向かおうとすると、幸運なことに4つ目のテントから侯爵さんが出てきたところだった。
「侯爵さん!」
あたしが声を掛けて駆け寄ると、侯爵さんが険しい顔から取り繕った笑顔に変わる。
「モカ嬢か。孤児院の方はどうだった? カティナは?」
「ごめんなさい。カティナちゃんはいませんでした」
あたしは孤児院での出来事を包み隠さずに話すことにした。
神妙な面持ちで話を聞く侯爵さんは、どんどん難しい表情になっていく。
「そうか……王都のどこかに魔獣が……だが、モカ嬢の推測は正しいと思う。地下であればかなり広い空間を確保出来るだろうし、過去に造られた人工地底湖の話も聞いたことがある。地下水路のさらに下に造られたから、魔獣の気配も声も地上には届かないだろう。何よりも……」
侯爵さんは小難しい表情で眉間に皺を寄せている。
「派閥の貴族に裏切り者がいたのだ。尋問の結果、王都のどこかで魔獣を飼育して、クーデターを起こそうとしていたことが分かった。孤児院の運営と管理を任せていた奴だったんだが……モカ嬢から孤児院の話が出たからもしやと思って問い正してみれば、埃が出るわ出るわで呆れてしまったくらいだ。おっと、話が逸れたな。その貴族によると、孤児院の地下にいた子供たちの中で魔力量の高い者は魔獣の餌にされていたようだ。残念ながら場所までは知らなかったようだが、王都の地下に子供たちを運ぶように命令されたらしい」
おぉ、やっぱり王都の地下だったね。と言うことはカティナちゃんもそこに連れて行かれたはずだ。
「侯爵さん、あたしたちはこれからその地下を探してみます。地底湖への入り口とか分かりますか?」
「いや、申し訳ないが俺も話に聞いただけでその全貌は知らないのだ。だが、子供の受け渡しは必ず平民街の外れにある地下水路の管理棟で行われていたと、裏切り者の貴族が話した。そこから入れば、地底湖への道があるのだろう」
「分かりました。まずはそこから調べてみます!」
「あぁ、頼んだぞ。俺はここで魔獣討伐の指揮を執るから手助けが出来なくなる」
「じゃあ、こっちも可能な限り早く片付けます! そうすれば大体の問題が解決すると思うので!」
「期待して良いのか?」
侯爵さんは、何故かあたしじゃなくて、私の隣にいるミーナさんを見てそう聞いた。そんなミーナさんはあたしを一瞥して、力強く頷く。
「もちろんです、侯爵様」
「そうか。では、カティナの事を頼む。あいつは俺の宝だ。決して失いたくない」
「任せてください侯爵さん! カティナちゃんは強い子なので、きっとまだ頑張っていますよ」
「そうだといいが……いや、悪い方に考えるのは止めよう。モカ嬢、頼んだぞ」
「はい!」
侯爵さんは1度、しっかりと頷いてそのまま早歩きで違うテントへと向かっていった。
その後ろをぞろぞろと兵士や執事さんたちが付いていくのを見て、あたしとミーナさんは視線を合わせる。
「それじゃ、行こうか」
「はい、まずは平民街の外れにある地下水路の管理棟ですね」
ここからは時間との勝負だ。
制限時間が分からないけど、とにかく最短最速、一直線で終わらせなければ
情報の確度が上がりました。
魔獣は王都の地下にいます。
ちなみに、飛行魔法が禁止されているのは、過去にモカが言った戦法で戦争の在り方が変わってしまったからです。
国際条約にて飛行魔法の戦略的使用と通常飛行魔法の各種制限が世界的に決定され、飛行禁止の設定や飛行高度の制限など数多くの制限が設けられました。
例外は1つもなく、国家存亡の危機であっても、救援や救助のためであっても、禁止は禁止です。
もちろんこれはAランクオーバーであっても例外ではないので、ユリシュさんは転移魔法を使います。
また、飛行魔法を専門で監視する国際機関もあります。
ちなみに、飛行が完全に禁止というわけではありません。




