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126、灯台下暗し

 虚空に手を突っ込んでガサゴソ探している姿は、側から見れば間抜けに見えるんだろうけど、いまのあたしは青色の猫型ロボットの気分だ。


「モカ様? 何をなさっているので?」


「ん? ちょっと待って、確か……あ、これだ!」


 目当ての物を見つけたあたしはそれを掴んで一気に引っ張り出す。

 その手には、銀色のジュエリーボックスのような箱がある。

 まさかダンジョンや遺跡じゃなくて、こんなところで役立つ日が来るとはね。


「モカ様、それは?」


「グリザークでお世話になったお爺さんにもらったの」


 そう、あたしが取り出したのは、グリザークで出会ったアレク爺さんから餞別として貰った魔道具だ。

 箱を開けると、中にはガラスで出来た4つの風鈴が収められている。

 確か赤が隠し扉の発見で、青が開錠、黄色が罠解除、緑が暗視付与、だったかな?

 とりあえず赤色のリボンが巻かれた風鈴を取り出す。


「これを鳴らせば隠し扉が見つかるらしいんだけど……」


「まさか、看破の魔道具ですか?」


「らしいよ? まだ使ったことがないからどうなるか分からないけど……ちょっと使ってみるね」


 あたしは風鈴をかざして、振ってみる。

 チリリーン、と涼やかな音色はどこか懐かしさを感じさせてくれた。

 あぁ、スイカと麦茶が欲しくなる音だね。

 すると、その涼やかな音は何度も反響を繰り返すようにあちこちに鳴り響き、やがて、あたしたちを招くように音が鳴る。


「音が、導いてる?」


「そのようですね。このような魔道具は初めて見ました」


「王宮にあるのは違うの?」


「はい、王宮にあるのは種です」


 ……は? 種? 種なんてどうやって使うんだろう?


「それ、どうやって使うの?」


「床に置いて魔力を与えると勝手に育ち、その蔓で看破するものを探します。見つけたら勝手に隠蔽魔法や認識阻害などの魔法を破壊して、役目を終えたと思ったら勝手に枯れます」


 へ、へぇ……すごいな、それ。でも魔道具なの、それ。魔法生物ってやつじゃない? でも枯れちゃったらもう使えないんじゃないのかな? と思ったけど、どうやら枯れた後の花からはまた種が採取できるようで、何度も使えるらしい。

 そんな話を聞きながら、あたしたちは音の鳴る方へと歩く。

 リンリンと鳴る音は、あたしたちが近づくと、また遠のいてしまう。

 そうやって追いかけっこを続けていくと、どうやら音は屋上ではなく1階部分に向かっているのが分かる。


「屋上ではなく、1階なんだね……」


「ですが、どこにもそのような痕跡はありませんでしたよ」


「まだあたしたちが探していないところでもあるのかな?」


 あたしとミーナさんは音の後を追って屋上から飛び降りた。すると、音はまたリンリンとあたしたちを呼び続ける。そして、ある場所で音が止まった。


「これって、孤児院の敷地に入るアーチ、だよね?」


「えぇ、そうです。ですが、このアーチに隠し扉や入り口になるようなスペースなどあるようには見えませんが……」


 ミーナさんの言う通り、2本の柱とそれを繋ぐアーチ部分に、そんなものがあるとは思えない。

 と言うことは、このアーチそのものが入り口だということだ。

 多分、合言葉とか、特定の魔力とか、そう言うのに反応して別の入り口に通じるようになるのだろう。


「じゃあ、次はこっちの出番だね」


 あたしは赤いリボンの風鈴をしまって、今度は青のリボンが巻かれた風鈴を取り出して鳴らしてあげた。

 すると、アーチ越しに見える風景が波紋のように揺れだす。


「わぁ……これは……すごい……」


 揺れる風景が薄い透明な膜のような物に変わっていく様子は、雑なアハ体験のようにも見える。


「アーチそのものが別空間を繋ぐ扉型の魔道具だった、と言うわけですか……すごいですね」


 ミーナさんは驚いた表情で、アーチに貼られた透明な膜に手を触れた。

 特に抵抗もなく手が膜をすり抜けて入っていくのを見て、慌ててあたしはミーナさんの腕を掴んで引き抜く。


「何やってるんですか! 罠があったり、いきなり引き摺り込まれたらどうするんですか!?」


「申し訳ありません、モカ様。迂闊でした」


 本当にしょんぼりした顔で頭を下げるミーナさん。

 でも気持ちは分かるよ。こんな状況じゃなかったら、興味本位であたしもそうしてたと思うし。


「念の為、罠解除と暗視付与を使いますね」


 青の風鈴をしまって、黄色と緑の風鈴を取り出してそれぞれ鳴らす。黄色の風鈴は音が鳴ったけど、それだけで特に変化がない。良かった、罠はなさそうだ。そして緑の風鈴を鳴らすと、視界に変化がある。


「これが暗視付与か……変な感じ」


「そうですね……ここが明るいからそう見えるだけでしょうか?」


 この視界をどう表現して良いのか……映画とかゲームで良くある暗視の緑色の画面ではなく、写真の色調を知らずに弄ってしまっておかしくなったときのような感じ、で分かるかな?

 とにかくめちゃくちゃ見づらいんだよ、これ。

 暗いところに行けば普通に見えるようになるのかな?


「よし、じゃあ行きましょう」


「はい、殿はお任せを」


 そして、あたしたちはアーチの中へと足を踏み入れた。



 石造りのアーチを抜けるとそこは雪国……ではなく、ひんやりとした真っ暗な地下空間だった。

 さらに地下へと続く階段があるから、ここはエントランスのような場所なのだろう。後ろを振り向くと、陽の光が差し込んでいるから、きっとここで間違いないはずだ。

 それにしても、空気が澱んでいる。

 鼻につくのは吐き気を催すようなすえた臭いだ。

 糞尿や吐瀉物、そこに混じる血と死臭。

 それらが澱んだ空気の中で壁や地面に染み込んでいるのだろう。

 一体、いつからここが使われていたのかは分からないけど、その歴史も今日限りだ。

 ここを利用していた奴らは全員、今日で現世とお別れしてもらい、地獄の底で閻魔様に土下座させてやる。


「モカ様、こちらへ」


 ギリギリと握る拳の力を緩めて、あたしはミーナさんの元へ向かう。

 そこは、エントランスのすぐ隣に作られた休憩所のような小部屋だった。

 汚い椅子とテーブル、ボロボロになったベッドと毛布があるから、ここで待機してたのだろう。

 小部屋には棚が2つあり、書類が乱雑に投げ込まれていた。

 あたしとミーナさんで手分けしてその書類を見ていくと、それが入出荷の記録簿であることが判明した。

 こう言うのはメルツェナさんとか侯爵さんに丸投げしちゃおう。


「ミーナさん、これはこのままにして、奥に進もう」


「分かりました。人の気配が無いので、いるとしたらさらに下の空間ですね」


「うん、だからここからは本当に慎重に行くよ」


 あたしたちはその小部屋を後にして、更に地下へと続く階段を降りていく。

 ミーナさんはあたしの後ろに付いて背後を警戒している。

 そして、大して長くもない階段を降りると、分厚い鉄の扉が見えてきた。


「1本道だったけど、他に横穴とかなかったよね?」


「はい、見ておりません。ここが終点で間違いありません」


「それじゃあ、行くよ」


 あたしは鉄扉に手を掛けて、ゆっくりと押し開ける。

 ズズズっと重厚な音と共にゆっくり扉が開くと、その地下空間に閉じ込められていた空気が一気に出口へと向かって殺到してくる。

 エントランスで嗅いだ臭いの大元であるその臭いは、思わず顔を顰めて呼吸を止めるほどのものだった。

 先ほどよりも濃密な悪臭には、腐臭のようなものまで混ざっており、どれほど劣悪な環境だったのかは想像に難くない。


「っぐ……花纏風来『春の嵐《フローレンス・ストーム》』!」


 この臭いを何とかしようと、あたしは圧縮詠唱で風魔法を使う。

 それによって、花弁が渦巻く嵐がこの地下空間を駆け抜け、この澱んだ空気を一掃する。

 そして、改めてこの空間を見渡す。


「ここだ……」


 カティナちゃんの見たものを追体験した時に見た地下空間が広がっていた。

ようやく例の地下空間へと到着。

この孤児院、モカの推測通り元々は教会でした。しかもコルベス王国の国教ではなく、他の宗教の教会です。

その宗教は人間至上主義を掲げており、亜人排斥を謳っていましたが、受け入れられてはいませんでした。

ですが、まぁ、色々と表沙汰にできない様なことばかりしていたのが明るみに出てまい、コルベス王国から撤退した、という歴史があります。

ただ、その出来事は100年前のことなので、知らない世代が多く、廃墟になっているなら孤児院にしちゃえ、ということで、改修して孤児院になりました。

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