118、カティナちゃんとデート
カティナちゃんは、一言で言えば天真爛漫だ。
国宝級に可愛いビスクドールのように細部まで美しく、天使のように可憐で、何よりも大人のお姉さんになろうと背伸びしている姿が堪らなく可愛い。
日の光を受けてキラキラと揺れる長髪は肩あたりで切り揃えられていて、カティナちゃんが動くたびにサラサラと絹のように流れる。
着ているお洋服は侯爵家の令嬢にしてはどこか質素な物だが、それは活動的なカティナちゃんには合っていて、スポーティーなイメージも見えてくるのだから、そもそものスペックの高さに驚く他ない。
そんなカティナちゃんは、王都の街並みを物珍しそうにキョロキョロと眺めては、手を繋いだあたしを引っ張って「これはなんですの?」とか「ここはどういうお店ですの?」とか、とにかく目に映る全てが新鮮で珍しいらしく、何でも質問してくる。
あの侯爵さんなら、カティナちゃんを家の敷地の外に出したがらないだろうから、やっぱり新鮮な気分なんだろうか。
おかげで、たった10メートルを進むのに、1時間も掛かってしまった。
よく文句の1つも言わずについて来てくれるなぁ、と後ろを振り返ると、メルツェナさんとミーナさんは、すぐ後ろのカフェテラスで呑気にお茶とケーキを食べていた。
「私たちまで同じように動く必要ないもの。それに、侯爵様から別途、護衛依頼を受けてるから、私らのことは気にしなくて良いわよ。あんたはお嬢様の気の済むまでおもちゃに徹していればいいのよ」
「今回、我々はカティナ様の邪魔をせずに見守るだけ、とお約束しておりますので……」
くそ、ミーナさんまでそっち側に行ってしまうとは! ちょっとは信じてたのに!
良いもん! あたしはこの可愛らしいお嬢様とのデートを楽しんじゃうもんね!
「モカお姉様! 見てください! このお店、可愛らしいエプロンが売っておりますわ!」
腕を引かれたあたしが視線をカティナちゃんの方へ向けると、驚くべきことにそのお店はあたしが黒猫印のリボンを買ったお店だった。
「おやまぁ、いつぞやのお嬢さんじゃないかい。本当にまた来てくれたんだねぇ」
「おばあちゃん、お久しぶりです! ほら、おばあちゃんのリボン、ずっと愛用してます!」
あたしは後ろを向いてハーフアップにした髪に結ばれたリボンを見せる。
この世界の黒猫印のリボンには何の能力もないけれど、それでもあたしの大事なものの1つになっていた。
「おやまぁ、ありがとうねぇ。こんな婆の作ったものなんて、今の若い子には合わないだろうに……」
「そんなことないですよ! あたしは大好きなんで! あ、そうだ! おばあちゃん、あたしエプロンが欲しいんですよ! で、どうせ買うならおばあちゃんから買いたいと思っていて……これ、買ってもいいですか?」
カティナちゃんそっちのけで、あたしはおばあちゃんに会えた喜びで上がったテンションのまま、露店の机の上にあるエプロンを手に取る。
エプロンは淡い空色をしていて、裾辺りに雲の刺繍がされている。
とても可愛らしいエプロンだ。おばあちゃんのお店にはこういう可愛らしくて手作り感溢れる暖かな品物しかないから大好きなんだよね!
「あ、モカお姉様! それは私が先に見つけたんですのよ!」
「え!? カティナちゃん、エプロンなんている? 料理なんかしないでしょ!? するの?」
「私だってお父様やお母様のためにお料理をする時がありますわ! 得意料理はオムレツですのよ!」
えへん、と胸を張るカティナちゃんの可愛さは異常だった。
カメラ、カメラはどこだ! この際スクショでもいい! おい運営! スクショ機能の実装はまだか! くそ、どうしてこの世界にカメラがないのよ……お願いだから、誰か発明してくれ、今すぐに! そしたら言い値で買うから!
あたしの願いも虚しく、カティナちゃんの可愛いドヤ顔タイムは写真に残せないままに終わってしまった。
「そうかいそうかい、じゃあそんなお利口さんのお嬢さんには、婆からプレゼントしてあげるよ」
そう言うとおばあちゃんは机の下からもう1つのエプロンを取り出して広げて見せてくれた。
今あたしが見ていたものの色違いで、淡いクリーム色にオレンジの雲の刺繍がされている。
お昼と夕方で対になっているんだ……おしゃれだなぁ。
「おばあちゃん、2つでいくら?」
流石にこれをタダで貰うわけにはいかない。
ここでカティナが、ねだれば何でもタダで手に入る、なんて勘違いして覚える可能性もゼロじゃないからね。あの侯爵さんのことだから、そういう教育ももちろんしているんだろうけど、人生の先輩としては見過ごせないね。
「いや、良いんだよ。こんな婆の趣味の店に来てくれたんだ。そのお礼さね」
「ううん、ダメ! あたしはおばあちゃんのファンだから、もっと長く続けて欲しいからお金を落とすの! 本当ならお店のものを全部買い占めたいけど、それだとおばあちゃんの作ったこの可愛くて素敵な品物が色んな人の手に渡らないでしょう? だからあたしは買い占めるのを我慢して、こうやって定価を払って応援するの!」
有無を言わせないあたしの早口に、おばあちゃんはクスクスと笑いをこぼす。
「あなたは本当に不思議なお嬢ちゃんだねぇ……そんなに言うなら、甘えようかね」
「うん、そうして! じゃあこれ、お金!」
あたしはアイテムボックスからお金を取り出してお婆ちゃんに手渡す。
「ありがとうね……じゃあお釣りで銀貨1枚だよ」
「うん、ありがと! じゃあ、カティナちゃん、これ、あたしからプレゼントね」
あたしとお婆ちゃんのやり取りに入れずに不貞腐れていたカティナちゃんに、受け取ったエプロンを渡してあげる。ちなみにカティナちゃんのは先に見ていた青い方のエプロンだ。
「よろしいんですの?」
「もちろん。今日のお礼だよ」
「ありがとうございますわ、モカお姉様!」
うんうん、可愛い女の子にプレゼントを渡した時にしか見れないこの笑顔でしか取れない栄養ってあるよね。
知らず知らずのうちに口角が緩みきっていたあたしの顔はきっとだらしないだろう。でも良いんだ、カティナちゃんの笑顔が見れればそれで。
「では、お礼に私もモカ様に手料理をご馳走しますわ!」
「楽しみにしてるね」
「はいっ! それから店主のお婆様、お騒がせいたしましたわ。このエプロン、大事に使います!」
「あぁ、そう言ってくれると婆は嬉しいねぇ。ちゃんとお父さんとお母さんの言うことを聞いて、良い子にしているんだよ? 良い子にしていれば、きっと神様がご褒美をくれるからね」
「はい! でも、ご褒美はもう貰ったんですの! これからモカお姉様と一緒に新しいドレスを買いに行くんですのよ!」
「ほぁ、そうかい。それは楽しみだねぇ」
「えぇ。だから名残惜しいですけれど、そろそろ行かなくてはなりませんの……」
しょんぼりしたカティナちゃんもこれまた可愛いね。
肩を竦めて項垂れるカティナちゃんだったが、パッと気持ちを切り替えたのか、勢いよく顔を上げた。
「ではお婆様、今度はお父様と一緒に来ますわね!」
「あぁ、待っているよ。剣士のお嬢ちゃんもいつでも遊びにおいで」
「はい、ありがとうございます。それでは……」
あたしとカティナちゃんは名残惜しいけど、色違いのお揃いエプロンを手に、お婆ちゃんの露店を後にした。
その様子を興味深そうに眺めていたミーナさんと、笑いが堪えられずにひーひー言っているメルツェナさんは、ようやく立ち上がって、あたしたちの後を追うように王都の雑踏の中へと歩を進める。
「ミーナ、気付いているわよね?」
「メルツェナ様こそ、お気付きですね?」
2人の視線が、あたしたちの後ろを一定の距離を保ってついてくる不審な男たちに固定されていた。
カティナちゃんマジ天使!
ちなみに、カティナちゃんのお母さんである侯爵夫人はボン!! キュ! ボン!! の超絶ナイスバディなので、10年後には恐るべき美女に成長します!
さらに言うと、侯爵譲りの運動センスも引き継いでいるので、しなやかなで無駄のないスタイルになります。
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