12、交易都市を目指す
レモーネの住む村から北を目指す事にした。
北には交易都市が、南には王都があるらしいけど、村の人たちからは北の交易都市の方が近いし、隣国からの情報や品物が集まるからオススメだと言われていたからね。
考えて見れば、今のあたしには情報が圧倒的に足りていない。
この世界の常識やマナー、地理、社会情勢、何よりも天剣に関する情報がないんだから、まずは交易都市で色々と情報を集めた方がいい。
それに、交易都市には冒険者ギルドがあって、世界を旅するなら冒険者になっておいた方が良いとも言われた。
「だから交易都市を目指しているわけだけど……大変だね」
村を旅立ってから今日で10日目。
村の人からは、歩きなら15日くらいで交易都市に着くって聞いたけど、途中に村が1つもないとは聞いていなかった。
今、あたしはキャンプの設営を終えて、焚き火で肉を焼いているところだ。
食料問題はアイテムボックスのおかげで心配はしていない。時間も止まっているみたいだしね。
レモーネたちから野菜や果物やパンをたくさん貰ったから困る事はないけど、1番の問題は睡眠なんだよ。
「魔獣避けの香を貰ったは良いけど、近付いて来ないってだけで狙われている事には変わりないんだよね……」
動物は火を恐れるって良く言うけど、魔獣はそうじゃないみたい。興味本位で近付いてくる。
火の側には人間がいるっていうのを知っているんだろうなぁ……おかげでこの10日間は熟睡が出来ていない。だからと言って夜も歩くと言うのは体力的にも精神的にもキツイ。
「あぁ、お風呂に入りたい……ふかふかのベッドでゴロゴロしたい……」
なんて言って見るけど、それはあと5日も辛抱しないといけない。
とは言え、1番しんどい森林部はそろそろ抜けられそうだ。ここからはちょっとだけ楽になりそうで安心出来る。
「にしてもレモーネの村って、辺鄙な場所にあったんだなぁ……」
今日までに歩いてきた道のりを考えれば、確かに山の中に村を作ろうとは思わないよね。少しでも危険の少ない平野部に作りたいと思うのが普通だけど……あの村、訳ありだったのかな?
「そんな風には見えなかったよね……行商人も頻繁に来てたし」
パチパチと爆ぜる焚き火を見つめながらも肉の様子を確認する。
今日は久しぶりにイノシシ肉だ。
独特の臭みも香草を塗りたくってできる限り美味しくなるようにしたから良いけど、村の人たちは塩だけで食べてたもんなぁ。
「現代人が異世界転生とか転移とかする漫画やアニメで、ご飯ものが強い理由が何となく分かった気がする。あたしもジャム作った時は英雄みたいに騒がれたし……」
木串に刺さったイノシシ肉からは肉汁が滴り落ち、表面は少しばかり焦げているが、良い感じに焼けたようだね。
そう言えば、村の人たちから貰った旅の荷物セットはまぁ、本当に簡単な荷物だった。
大きな布と10本のペグ、魔獣の毛皮で作った敷物と毛布、木製のスプーンとフォーク、木串、水筒、魔獣避けの香が20日分とそれを入れるカンテラ。
これだけなんだよね。
別に文句を言いたい訳じゃないよ?
テントはいわゆるワンポールテントというやつで、適当な木の棒を探す必要があるけど大した労力じゃない。
焚き火用の枝や木を探す時に一緒に丁度良い長さの木を探せば良い。長いけどアイテムボックスに入れたら関係ないしね。
敷物や毛布も獣臭さはあるけど、冷え込む朝晩には重宝しているし、カトラリーと水筒もレモーネの家で使っていたものをそのままくれたから問題無い。
唯一の欠点は火起こしだったんだよ……考えてみれば、あたしはこの世界に来て火を起こした事はない。
その理由は、この世界の人が魔法を使えるから。
石をぶつけたり、木を擦ったり、そんな事をしなくても、魔法1つで簡単に火が作れる世界だからこそ、火起こしという考えに至らなかったんだよね。
「おかげで初日は苦労したなぁ……」
スマホでもあれば火打石に適した石をすぐに見つけられただろうけど、とにかく片っ端から石を拾ってカンカンと叩きつけては割れて、叩きつけては割れてを繰り返して、ようやくどんな石が適しているのかが分かって、火花が散った時はあまりの感動で思わずガッツポーズをしてしまった。
「まぁ、これも旅の醍醐味だと思わないとね……」
肉とリナンを食べ終わると、ぼけーっと焚き火を眺める。
旅で何が1番辛いかと言えば、人と話せない事だよね。
「1人がこんなに寂しいとは思わなかったなぁ……」
思い返せば、剣神に負けて炎上した時も誰かしらが心配してくれて、話を聞いてくれて、1人にはならなかったけど今はそうじゃない。
プロレスしたりコントしたりするストリーマー仲間もいないし、暖かいコメントをしてくれたり突っ込んでくれたりするファンもいない。
「あぁ……配信したい……みんなに会いたい……」
塩ラーメン食べて海水飲んどけって言われたい。
爪の垢を煎じて飲めって言われたい。
やばくねーよって一緒にやりたい。
全部が恋しい。
目が熱くなってきた。泣きたいわけじゃないけど、夜はどうしてもそう言うことを考えちゃうな。
「……寝よ」
魔物避けの香をカンテラに追加して、あたしはテントに潜り込んだ。
その日はス○グラでみんなとギャングを組んで、破茶滅茶な事をした時の事を夢に見た。
楽しい夢を見たおかげか、目覚めは最高の気分だ。
「久しぶりに熟睡できた気がする」
朝のコーヒーも、シリアルも、フルーツたっぷりのヨーグルトも、焼きたての食パンも無いけれど、どうしてか充実した朝だね。
テントから出て大きく伸びをして、空を見上げた。
空には雲1つなく、青い空がずっと広がっている。
「よし、今日も頑張りますか!」
村の人から貰った黒パンをリナンのジャムと一緒に食べてお腹を満たすと、すぐに撤収を始めるが、これはすぐに終わる。
テントはペグを抜き、布と敷物、毛布を畳み、棒と一緒にアイテムボックスに入れるだけ。
あとはカンテラの香と、焚き火がちゃんと消えている事を確認すれば終わりだ。
どうやら焚き火跡はそのままに残しておくものらしい。
多分だけど、休憩場所を探す手間を省くためだと思う。
これまでに使わせて貰った焚き火跡の近くには、食べられる果物があったり、川が近かったりとかなり便利な場所だった。
「休憩するならここだよ、って目印なんだよね、きっと」
先人の知恵……というよりマナーなのかな? おかげで助かりました。
「忘れ物は、無いよね。よし、行こう」
目的の交易都市まではあと4日。
うぅ~ん、このままじゃあたし勝てない……
あたしはモカ
BLOで【剣神】になったはいいものの、この敵としての剣神さんに勝てない……
斬り上げも食らってしまう
突き技も食らってしまう
あたしには才能がないのかなぁ
エナドリでも飲んで、落ち着こうっと
……ぷぅ
モカだぷぅ
オイラはモカだぷぅ
この構文は、絶対に後世に残すべき偉大な構文だと思います。




