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116、王宮図書館

 モンドギルマスとの追加報告は、散々な結果となった。

 あの後、30分ほど放心状態だったギルマスが我に返るまでの間、執務室のルームツアーのようなことをして時間を潰していたのだが、ようやく放心状態から回復したギルマスに詰め寄られ、なぜかお説教が始まってしまったのである。

「お前には常識が足りない」だの「こんなことになるなら事前に相談しろ」だの、好き勝手に言いまくってきたせいで、あたしの堪忍袋の緒が切れる寸前。

 メルツェナさんとミーナさんがなんとか抑えてくれてからことなきを得たけど、最終的には「ギルドからお目付け役を出す! 何かヤバいことをしでかす前に、必ずそいつに可否を問え!」と言われ、数日中にギルドからお目付け役が派遣されるらしい。

 それが終わって、あたしたちは王城へ向かったんだけど……


「なんであたしばっかり怒られなきゃいけないのよ……」


 ぷりぷり怒りながら、あたしは王城の正門前で入城の手続きが終わるのを待っている。

 メリナが王様から褒美としてもらったあたしの王城への入城許可証はまだ貰っていないから、ミーナさんが代わりに手続きをしてくれているんだけど、どうやら城で起きた一連の事件は既に噂になっているようで、担当してくれた騎士の人から腫れ物を扱うような空気をヒシヒシと感じた。


「まぁ、自業自得ってやつね。あんた、自分が何をしたのか、本当に理解してる? あり得ないことばっかやってるんだからね?」


 メルツェナさんは退屈そうに待合室の椅子に背を預けて頭の後ろで手を組む。


「非常識が服着て歩いてるのがあんたでしょ? そりゃギルマスの胃に穴が開いてもおかしくないわよ……あーあ、お目付け役になる子が可哀想だわ」


 他人事だと思いやがって……いや、実際に他人事だからなぁ。はぁ、もう憂鬱だな……どんな人が来るんだろ? 変な人じゃなきゃいいなぁ……あれ? お目付け役って王都にいる時だけだよね? まさか旅に着いてくるとかないよね? だったら本当に面倒だなぁ。

 なんて思っていると、手続きを終えたミーナさんが戻ってきた。


「お待たせしました。許可証を発行していただけましたので、早速参りましょう」


 丸まった羊皮紙を手にしたミーナさんに先導される形で、あたしたちは王城を進んでいく。

 途中、先日の事件に巻き込まれたであろう貴族たちに声を掛けられたり、受付の騎士から情報を得たのかメリナが突っかかってきたりと騒がしかったけど、目当ての王宮図書館へと辿り着くことが出来た。


「えぁ~……すっごいなぁ……」


 感嘆の言葉のレパートリーが少なすぎて恥ずかしくなってくるけど、それも仕方ないと思えるくらいに荘厳な建物が目の前にあった。

 王宮図書館は王城の敷地内にあるのだが、城とは離れた独立棟である。

 ダークグレーのレンガ造りで、苔むしていたり風化していたりするわけでもなく、つい最近建てられましたと言われても不思議ではない綺麗さが不思議だ。


「図書館だけでなく、王城の一部の棟には保存の魔法が掛けられています。確かこの図書館は王城の建設と同時に建てられたはずなので、王国の歴史の全てが集約されていると言っても過言ではございません」


 ミーナさんの解説を聞きながら中へ入ると、まずは受付エントランスが見えてくる。

 どうやら図書館には専用の管理人と司書さんが常駐しているようで、受付でミーナさんが経緯を説明すると、すんなりと中へ入ることが出来た。


「おぉ! 本がたくさんだ!」


 深呼吸すると古本特有の香りが鼻をくすぐる。

 王宮図書館の蔵書数は約1200万件。

 どうしてこんなに多いのかと言えば、コルベス王国が納本制度を採用しているからだ。それによって新しい論文や魔法の研究資料などが必ず納められるため、ここにくれば知りたいものが知りたいだけ出てくる、とまで言われているのだから驚きだ。

 王国建国以来、知のインフラとして国を支えてきた陰の立役者にして縁の下の力持ちたるこの王宮図書館は、積み重ねられた先人たちの知識によって成り立つ、言わば智慧の宝物庫である。


「それではモカ様、お探しの資料はどのようなものでしょうか?」


 その圧倒的な蔵書数と棚の数に圧倒されていたあたしに、ミーナさんが声を掛けてくれた。

 そうだった、感動している場合じゃないんだ!


「えっと、天剣、神剣に関する記述があるのを探して欲しいです。特に天剣の方を重点的に探してくれると嬉しいです」


「畏まりました。剣に関する記述は……そう多くはないと思いますが……それでも膨大な量になると思います」


「が、頑張ります」


 こうして王宮図書館での調べ物が始まったのだが……


「だぁーっ! 全然見つかんないじゃん!」


 かれこれ4時間もの間、剣に関する記述のある本を見つけては読み漁っていたものの、これといってめぼしい記述を見つけられずにいた。

 魔法でキーワード検索のようなものをしてくれた司書さんには悪いけど、その魔法の精度が悪すぎる。


「神剣を指定したのに、神剣と神と剣の3つを検索しちゃうんだから、それだけで3倍の本を調べることになっちゃうんだから、無駄だよね」


「あんた、司書の前で言うんじゃないわよ、それ。そもそもこのご時世に剣についての情報を知りたがる奴なんてあんたくらいなもんなんだから、そっちの整備は後回しになっているに決まってるじゃない」


 グチグチと文句を言う割に、木の人形を動員して本を運んでくれたり、本の内容を精査してくれているメルツェナさんには感謝しかないね。

 ミーナさんも愚痴をこぼしたりはしないが、集中力が切れてきたようで、控え目な欠伸の回数が増えてきていた。

 そんなあたしたちの座る丸いテーブルには本の塔が何十本も立っているが、その中で成果があったのはたったの2冊だけ。

 正確に数えていないけど、3人で数百の本を流し読みしてきたと思う。中には創作小説みたいなものもあって、読み終わるまで分からなくて紛らわしかったね。

 そう考えると、この物語はフィクションです、実際の団体、人物、思想などとは関係ありません。っていう記述って必要なんだな、って心の底から思ったよ。

 そんな中で見つけた2冊の本は、200年前の旅人の手記の写しと、500年前にドワーフ王国で開催された鍛冶奉納祭での事件について、である。

 特に、旅人の手記の写しはとても興味深い内容が書かれていた。


「旅の途中で立ち寄った剣の聖地にて、当代の神剣使いと手合わせをしてもらった。私もそれなりに強いと思っていたが、彼の御仁は別格だった。果物ナイフで剣士100人を同時に相手取り、その場から1歩も動かずに勝ってみせたのだ」


 手記の一文を読み上げてみる。

 とても面白い。200年前には普通に剣士がいて、剣の聖地っていうのがあって、神剣使いがいたのだ。

 しかも、そのレベルは凄まじい。

 1歩も動かずに100人を相手取り、果物ナイフで立ち回るなんて、きっとBLOで【剣神】の称号を持っていた頃にも出来ないと思う。

 動けるなら問題ないと思うけど、1歩も動かないとかあり得ない。

 レベルが違いすぎて乾いた笑いが溢れてくる。

 そんな高みがあって、そこに辿り着いた人がいて……そして、きっと、剣神はそれよりも上にいる。

 あたしが目指す頂きは、まだまだ遠いのだと痛感した。

 だが、問題はもう一冊の方。

 ドワーフ王国で起きた事件に関する報告書だ。

 そこには500年前、当時のコルベス王が国賓として招かれた奉納祭で剣神が降臨した、と書かれていた。 

図書館での調べ物!

200年前は普通に剣士がいました。

魔法一強の時代となったのは約150年前なので、それ以前の時代では剣士もデカい顔して歩いていたのですが、3大魔法革新によって情勢は一気にひっくり返ったというわけです。

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