103、中天を彩る
場所を移して、冒険者ギルドの裏手にある修練場。
あたしにはあんまり良い思い出が無い場所だ。
時刻は昼を大幅に過ぎて、15時ほど。だからか、この修練場にいる人数はかなり少ない。
ほとんどは依頼などで出払っているので、ここにいるのは下位ランクの冒険者たちか、その教練を担当しているギルド職員くらいだ。
そんな中では、どうしてもあたしたちは浮いて見える。
しかも、あたしはこの修練場でやらかしているから顔が知られていて、野次馬たちが何だ何だ、と集まってきていた。
「では、ルールを決めるぞ。なに、簡単だ。相手をコテンパンに叩きのめした方の勝ちだ」
「それでいいよ」
修練場の中央で向かい合うあたしとメリナ。
その距離はだいたい20メートルほど。
「距離はこれでいいか? あまり遠すぎると一方的な虐めになってしまうからな」
「じゃあ、この距離で負けても文句は言わないよね」
「ようやくユーモアが理解出来るようになったのか?」
「今のをユーモアだと思うなんて、あんたのセンスが低俗なんじゃない?」
「弱い奴ほど良く吠えるとは良く言ったものだ。先人の見識には恐れ入るな」
「先人に教えてもらわなかったの? 能ある鷹は爪を隠す、って」
「自分を鷹だとでも? せいぜい雛鳥が良いところではないか?」
いつまでも続けられそうな言葉での戦いはここまでにしておこう。
なにせあたしは出来る大人の女だからね。
「合図は?」
あたしが腰だめに【理切】を構えてそう尋ねる。
「必要あるまい」
メリナは首元で淡く輝く白銀の宝玉に手を触れる。その瞬間、まるで魔法少女の変身バンクのようにメリナの体を光が包み込む。
「我が『極光』の錆となれ!」
光が収まると、そこには白銀の鎧を身に纏った流麗な姿のメリナがいた。
その手には同じく白銀の杖が握られている。
メリナが杖を構えると、その背後に同色の光の球が7つも出現した。
「では行くぞ!」
メリナがそう言った瞬間だった。
あたしはあらゆるスキルを総動員して【剣神】として全盛期だった頃に迫るほどの速度で肉薄し、抜刀。
驚愕に表情を歪ませているメリナを、そのまま斬り上げた。
あまりにも完璧な殺気、完璧な間合い、完璧な剣筋。
1ミリのブレなく振るわれた刀身がピタリと振り抜かれた瞬間、メリナは本当に斬られた、と錯覚して気絶した。
どさり、と綺麗に後ろに倒れたメリナは白目を剥き、股間からはチョロチョロと失禁し、修練場の地面を濡らしていく。
「……ふん、情けない」
振り抜いたままの態勢でそう吐き捨てて、あたしは【理切】を静かに納刀する。
「ねぇ、キャリオーク子爵? これってあたしの勝ちよね?」
修練場の端で、あたしたちの立ち合いを見守っていた子爵は恐怖の張り付いた顔のまま赤べこのように首を縦に振り続けていた。
「あっそ。じゃあ、あたし、もう行きますね。当日の迎え、よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ……わ、分かっ……分かりました……」
あたしが修練場を後にしてから1時間後に目を覚ましたメリナは、その屈辱的な負け方を子爵と野次馬をしていた冒険者たちから聞いたようで、恥辱と憤怒を混ぜ合わせた表情で逃げるように帰った、という話を聞いて、ちょっとだけ胸が空いたような気がした。
と言うような事があったから、あたしの目の前で杖を構えるメリナは、あたしのことを目の敵にしているんだと思う。
あたしとメリナが向かい合っているのは、夜会の会場の中央。
王様の1言によって始まってしまった決闘を見届けようと、貴族たちは少し距離を取って円形に広がっている。
夜会の会場で決闘を行う都合上、そんなに大きく動けないが、それは相手も同じだろう。
「人がいるから全力を出せない、なんていう言い訳はさせない」
なんて事を思っていたら、メリナが指を鳴らした。
すると、彼女の部下であろう騎士たちが4人、あたしたちを囲むように現れ、杖の石突を地面に打ち据える。
すると、その杖を起点として透明度の高い群青色の光のドームが完成した。
大きさ的は直径で20メートルほどだろうか。先日のギルドの修練場で対峙した時とほとんど同じなのだが、対峙する距離はあの時よりも短い。
「結界を張らせてもらった。これで私も貴様も全力で遊べるぞ?」
「いいの?」
「何がだ?」
「また無様に負けちゃうけど」
軽く煽ったつもりだったが、メリナの顔が憤怒で赤く染まった。
「殺すッ!」
アイテムボックスから【理切】を取り出して、構える。
チャイナドレスで戦った経験は無いけど、大丈夫かな? これ、パンツ見えちゃわない?
「やってみなよ」
今回も同じように勝てば良い。
最短で最速で一直線に、その首を刎ねるように動けば良いだけだ。
と思っていたのだが、そこは流石と言うべきか、ちゃんとメリナは失敗から学んでいた。
メリナの重心が数ミリだけ落ちたのを合図に、スキルを駆使して跳躍する。
神速の抜刀をもって、この決闘を終わらせるつもりだったのだが、それは叶わなかった。
「――かかったな?」
相棒を抜刀し、その首を狙った瞬間、その刀身がメリナの首筋のすぐ手前でガッチリと固定される。
何が起きたのか? その答えは明確で、【理切】の刀身に白銀の四角形が幾つも貼り付いていたのだ。
「何、これ?」
「設置型の捕縛魔法だ。お前が開幕に我が首を狙うことなどお見通し。故に罠を仕掛けさせてもらった」
この設置型の捕縛魔法は使い勝手こそ悪いがその分、捕らえれば簡単には抜け出せない。その結果、動きの止まったあたしの腕と足にも同様の魔法が発動され、ガッチリと捕まってしまった。
それを見て勝ち誇ったように笑ったメリナは大きく後方に跳んで距離を取ると、杖を構える。
「我が『極光』の錆となるが良い!」
彼女の背後に出現した白銀の光の球から一斉掃射される光弾が、あたし目掛けて殺到する。
「っげ! やばっ!? 逆巻け花風! 『花弁の風楯』!」
あたしは咄嗟に圧縮詠唱による防御魔法を展開する。
風魔法は防御にも有用な魔法が多くて本当に助かるよ。
しかし、その最中にもメリナは魔法の手を緩めたりはせず、さらなる大技の準備を始めた。
「こんな野蛮人相手にこれを使うとは思いもしなかったぞ!」
彼女が構えた杖の先に、光が収束されていく。
それはサッカーボール大のサイズから徐々に巨大化していき、身の丈ほどのサイズにまで成長した。
「受けるが良い、我が極光を! 『中天彩る破滅の極光』!」
メリナが杖を掲げ、巨大化した光球に向けて振り下ろすと、キンッ、と何かが弾ける音がしてその数瞬の後、光球が弾けるように割れ、極太のレーザーのような砲撃魔法が放たれる。
しかし、それと同時にあたしも動く。
「これは流石に斬らせて貰うよ! モカ式自在拳闘術・魔法破壊掌!」
自分を縛る設置型捕縛魔法を破壊し、迫り来る極光を前に【理切】を上段に構えた。
「斬れるものなら、斬ってみろ!」
「いざ――」
7色の尾を引く破滅の光を真正面に据え、あたしの心は凪いでいた。
斬るべき場所はただ1つ。
魔法の中心だ。
そこを寸分違わぬ精度で切り伏せる事で、魔法を両断する!
「――参るッ!」
利き腕たる右も、添えている左も、一切のブレもなく上から下へと振り下ろされる。
余計な力などあるはずがない。
剣士であってもなくても、剣を知っていても知らなくても、それは惚れ惚れするような美しい所作でしか無かった。
故に、その刀身は鮮やかな青の残光を残すだけ。
たったそれだけで極光は真っ二つに斬り伏せられ、左右の結界にぶつかり、巨大な爆発を引き起こした。
メリナさんの必殺技は、まぁ、お分かりだと思いますが、あの人の技から着想を得ています。
良いよね、バスターとかブレイカーって!
特に2期の最後、3人揃ってのトリプルブレイカーを撃つまでの1連の流れなんて、大興奮です。




