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102、誕生祭、開催

3章、王都動乱編、始まります!

 煌びやかで、豪奢で、贅沢の限りを尽くした大夜会会場に、王国随一の楽団が奏でるファンファーレが鳴り響く。

 それは、この夜会の主にして本日の主役である人物――このコルベス王国の王であるアンブリシア・メトンディール=オブラティアン・コルベスの登場を意味する。


「国王陛下、ご入来!」


 会場の大扉の脇で待機していた近衛騎士の声と共に、豪華な意匠の大扉がゆっくりと左右に開け放たれた。

 それまでは少しばかり落ち着いた歓談の場であった会場と貴族たちに、心地の良い緊張感が走るのが目に見えて分かる。

 会場の左右に分かれ、綺麗に整列する貴族たちは今日の主役である王へと視線を送り、そして――


「なッ!?」


 その場にいた全員が、1人の例外も無く、絶句した。

 貴族たちの視線は王ではなく、王の右側。

 いつもであれば、慎ましく夫の手を取り、優雅でたおやかな笑みを浮かべた王妃がいるはずなのだが、今日だけは違う。


「……だ、誰だ? あの、び、美少女、は……!」


 王が掲げた右手に手を置き歩くのは、見慣れない、しかし目を疑いたくなるほどの美少女。

 見慣れないドレスをその身に纏い、凛とした顔立ちと堂々とした態度から、参列者たちの頭には様々な考えが浮かび上がる。


「……お、王妃様では、ない?」


「へ、陛下が、あのような若い娘を直々にエスコートされることなど、これが初めてでは無いのか!?」


「まさか、後妻を迎えたとでも言うのか!?」


 会場に蜂の巣を突いたような、どよめきと囁き声が広がる。

 しかし、王も少女もそんな事にはお構い無しに堂々とレッドカーペットを歩いていった。

 黒と赤を基調としたドレスは彼女の身体のラインにしっかりとフィットし、歩くたびに深いスリットからは目が覚めるほどにしなやかな白い脚が覗く。

 男たちはその脚と、スレンダーな肢体に目を奪われ、女たちはそのドレスの高貴さに目を奪われる。

 その場にいた者の脳内は、1つの疑問で埋め尽くされていた。


(((((……だ、誰なんだ、あの美少女は!?)))))


 王と少女が会場の奥、王のために用意された座に辿り着くと、少女は玉座の傍に控え、王はどっしりとそこへ座る。

 会場は、音が消えたように静まり返っており、衣擦れの音ですら騒音のようにさえ思えてしまう。

 そんな中で、玉座の肘掛けに腕を乗せて頬杖を付いた王が一言、こう言った。


「これより、我が騎士メリナ・サンメイルと、この者、冒険者モカとの決闘を行う!」


 どよめきがさらに大きくなり伝播し、会場に混乱が広がっていくと、王はたまらず小さく溜息を吐くと、ジロッと自身の横に控える美少女――異国のドレスを身に纏い、明らかに面倒臭そうな仏頂面をしている冒険者を睨み付ける。


「頼むから、会場をめちゃくちゃにしてくれるなよ?」


「それは……あたしじゃなくて、あっちに言ってくださいよ……」


 王が少女の視線の先に瞳を向けると、護衛騎士としての鎧を纏った流麗な美女が、激しい怒りの滲んだ表情で少女を睨みつけているのが見えた。


「はぁ……全く。どうしてこうなったのだ……」


 王がポツリと呟いたぼやきに、少女は肩を竦める。


「それはあたしのセリフですよ……」


 こうして、怒涛の誕生祭が幕を開けた。



 事の発端は、この誕生祭の日から3日前に戻る。

 つまり、あたしたちがアースラーさんの店に行った次の日だね。

 その日は、久しぶりに休もうと思ったから、朝から宿のベッドでゴロゴロしながらステ振りをして、お風呂入って、美味しいご飯を食べて、王都を散歩して……っていう休日を過ごしていたんだけど、雲行きが怪しくなったのは、あたしが食材や日用品、その他諸々の買い物をした直後のこと。


「毎度あり! 次来た時にでも、感想を聞かせておくれよ!」


 宿のお姉さんに教えてもらった美容品店のおばちゃんの気持ちいい見送りの声を聞きながら店を出ると、店の前には見覚えのある馬車が停まっていた。

 言わずもがな、キャリオーク子爵の馬車だ。


「探したぞ、モカ!」


 馬車の窓から顔を覗かせたキャリオーク子爵はチョイチョイと手招きをしてくる。

 こんな人混みのど真ん中で、衆人環視の目がある中で止めてくれないかな? かなり恥ずかしいんだけど。


「ほら、受け取れ」


 そう言って渡されたのは純白の封筒。表には何も書かれておらず、裏返せば、真紅の封蝋が目に入った。

 封蝋には王冠と、王冠を守るように羽を広げる龍の姿が見える。恐らく王家の紋章だろう。


「陛下より頂いた招待状だ。当日は俺が迎えに行くから宿で待っていろ。そうだな、昼過ぎには迎えに行こう」


「はぁ……それは良いですけど……」


「ん? どうした? 体調でも悪いのか? うむ、分かる、分かるぞ。俺だって腹が痛い! 陛下からお前に会ってみたいと言われた日から今に至るまで、ずっと痛いのだ。そうだ、後で俺が愛用している胃薬を届けよう。6本腕の熊の魔獣の肝から作られた薬なのだが、これがまたよく効く! 遠慮するな、受け取ってくれ!」


 勝手に話を続ける子爵はどうでも良いんだけど、問題はその後ろからねっとりとした目であたしを睨め付ける綺麗な女の人の方なんだよね。だ、誰?


「ん? どうした? お、そうかそうか! 済まないな、このお方が気になるか! ごほん! えー、では紹介しよう! このお方は陛下の護衛騎士にして王国騎士団団長のメリナ・サンメイル殿だ! 今日は陛下が興味を示された冒険者がどの様な人物なのかを一目見たいと言うので、ご一緒頂いたと言うわけだ! それで? どうでしょう、メリナ殿! このモカは我がグリザークを盛り立ててくれた英雄なのです!」


 紹介をされたメリナさんは、ジロッと冷たい視線を子爵に向けると、ふんと鼻を鳴らした。


「貴殿に名を呼ぶ事を許した覚えは無いぞ、子爵」


 開口一番の言葉とは思えないくらいの傲慢さを含んだ声音に、あたしは思わず絶句する。

 な、なに、この人……感じ悪いなぁ。


「そして下賎な冒険者。貴様のような輩が我が王の興味を引くとは思えないが……噂によればこのご時世に剣などという時代遅れな武器を使う野蛮人だとか?」


 はい、あたし、こいつ、嫌い。

 初対面の挨拶も無しに一方的にあたしをディスってくる奴なんて、ストリーマーをやっていた時のアンチですらいなかったって言うのに……なんなのよ、このクソ女は!

 まぁ、あたしは出来た大人だし? 事務所でアンガーマネジメントの研修も受けてるし? ここは余裕のある女性として対応してやろうじゃない。


「初めまして、モカと言います。Cランク冒険者として活動してます。剣士についての偏見は、あたしがその実力で無くしていきたいと思っています」


 他所行きの……詰まるところ、案件配信やイベントとかで使う愛想の良い配信者顔でそう答える。


「ふん、棒切れを振って何になると言うのだ。馬鹿も休み休み言え。野蛮な冒険者と言うのはユーモアのセンスすら無いのか?」


 ………ふぅ、落ち着けあたし。大きく深呼吸をして6秒数えろ。1、2、3……


「所詮は近づいて斬るしか能の無い雑魚であろう? そんな無能がまだこの世にいたとはな。あぁなるほど。だから陛下は貴様のような者に興味を示されたのか。世にも珍しい野蛮人を見る機会など、そうそう無いからな」


 ふぅッ! ふぅッ! お、おお、落ち着、落ち着けあたし! もう一度6秒を数え直せ! 1、2、3……


「鉄の塊を振って強くなれるのであれば今頃、私は剣の神にでもなっているぞ?」


 その言葉と共に、あたしの堪忍袋の緒が引き千切れる。

 アイテムボックスにしまっていたはずの【理切】が手にあり、鞘から抜き放たれた切先がメリナとかいうクソ女の鼻先に突きつけられていた。

 そのあまりにも速すぎた抜刀に、その場にいた誰もが反応できず、メリナはこめかみに青筋を浮かべる。


「これは何の真似だ、野蛮人」


「表に出ろ、クソ女。あたしがその傲慢の鼻をへし折ってやるよ……」


 あたしを馬鹿にするのはいい。

 でも、あたしの剣を馬鹿にするのだけは許さない。

 剣神としての矜持を舐めるのも許せない。

 だからあたしは、このクソ女に教えてやる事にした。

 お前が馬鹿にする剣が、世界最強なのだということを。

 誕生祭が始まりましたが、時は少し遡ります。

 新キャラ、メリナさんの登場です。

 めちゃくちゃいけ好かない人ですが、王の騎士になれるのは、王国最強の魔法使いだけです。

 ただし、ここで言う最強というのは貴族やそれに連なる者たちの中で、という意味です。なので、冒険者の中にはメリナさんより強い人はいます。

 ちなみに、メリナさんが冒険者であればそのランクは文句無しにAランクとなります。

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