100、ドレス、どれにする?
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「どうしてこうなった……」
あたしは今、王都の一等地にでかでかと店を構える服屋で、ユリシュさんとメルツェナさんの着せ替え人形と化している。
そもそも、どうしてユリシュさんまで一緒に来ているのかと言えば、ギルドの廊下でばったり出くわしてしまった後、事の顛末をメルツェナさんから聞いたからだ。そしてそのまま「面白そうだね、私も一緒に行って良いかな?」と有無を言わせずに付いてきた。
モンドギルマスとの話し合いは良いの? と尋ねれば、ユリシュさんが「私から連絡をしておこう。今はこっちの方がおもしろーー重要な案件だからね」とか抜かしやがった。
後はユリシュさんが「王都で1番のお店を紹介しよう」とか言って、この店に連れてこられたってわけ。
貴族街から程近い一等地にあるこの店は『アルドラ服飾店』という創業100年を迎えた老舗で、貴族御用達の名店でもある。
抱える職人数は国内トップ、それを束ねるオーナーにしてデザイナーのアースラー・アルドラは、奇抜な発想をそのまま形にするだけでなく、それを流行にまで昇華させる腕を持つ、ファッションの天才であった。
ただ、そんな奇才が只人であるはずがない。
「あらやだぁ!? モカっち、すっごい似合ってるわ! あ〜ん! もうこのままお持ち帰りして、剥製にして玄関に飾っておきた〜い!」
身長2メートル、筋骨隆々、こってこての地雷系メイク、そのメイクで隠しきれない青髭、原宿を歩くゴスロリ少女も裸足で逃げ出すほどに精巧に作り込まれたクラシカルな雰囲気のロリータファッション、そして何より、この言葉である。
そう、アースラー・アルドラはヤバい奴なのである。
「ほら小娘、ちゃんと背筋を伸ばしなさい! せっかくのドレスが台無しじゃないの!」
そんなアースラーさんに、誰も偏見の目を向けていない。もうこれが日常として浸透している証なのだろうが、こんなものが日常生活の範囲にいるなんて怖すぎるよ。
メルツェナさんがあたしの背中をグイッと押して背筋を無理やり伸ばすと、今度はユリシュさんが首を傾げた。
「メルツェナ? モカちゃんにはコルセットドレスよりも、マーメイドドレスの方が似合うと思うよ」
「あらぁ〜? ユリっちもそう思う!? あたちもそうじゃないかって思ってたのよ! でも、メルっちの選んだドレスも捨てがたいわねぇ〜。あぁ〜ん、本当に困っちゃうわ〜ん」
頬に手を当てて体をくねくねさせながら、鼻息を荒くする化け物を見た事がある? あたしの目の前にいるんだよね。身の毛もよだつって、このことを言うんだね。知りたく無かったよ。
「マスター、アースラー様。こればかりは譲れません! この小娘は、豊満な私と比べると見劣りしますが、体付きはしなやかなので、絶対にコルセットドレスです!」
もう良いかな、帰っても。
なんて言おうものなら、あたしに明日は無いような気がしてくるから怖いんだよなぁ……はぁ、早く終わってくれないかな。
「おや、メルツェナ。その考えで言うならば、ボディラインをしっかりと見せつけるマーメイドドレスの方が良いと言うことになるよ?」
師弟でバチバチにやり合っている中、アースラーさんはそんな事に気を取られずに、ずっとあたしを見つめている。表情は笑っているのに、目がそうではない。
なんと言うか、蛇に睨まれた蛙か、ライオンにロックオンされたインパラか、まぁどれにせよ、動いたらヤラれる! みたいな緊張感がある。
「ねぇ2人とも? モカっちに合うの、あたち見つけちゃったわ……」
それだけ言い残して、アースラーさんは店の奥に引っ込んだ。
嫌な予感がしてきた……冗談でも何でもなく、本当に嫌な予感がする。
そしてアースラーさんが戻ってきた時、その手に持っていたのは、3枚の貝殻と極細の糸だった。
「本当の美と言うのはね、内面から溢れ出すものなのよ〜んっ!」
貝殻ビキニだった。
それは想像してなかったけど、どうしてそれでイケると思ったんだろうか?
この場で頼れるのはもうグレイグさんたちしかいない! そう思って、店に入ってから一言も発していない男たちにSOSのアイコンタクトを送ろうとしたが、男どもは店の隅っこで別の店員さんと談笑していた。
「グレイグ様の好みを婚約者様に押し付けるのは如何なものかと思いますがね」
「でも、好きな相手には好きな格好をしていて欲しいんだよなぁ」
「しかし服飾と言うのは自由なもの。相手の自由も愛してこそ、ではないでしょうか?」
なんか深い話をしているみたいだけど、今グレイグさんが手にしているのは牛柄ビキニなんだよね……はぁ、これだから男って生き物は。
いつだって信じられるのは自分だけ、ってわけね……あぁ、もう! こうなったら変なのを着せられる前に、あたしの着たいって思うようなドレスを見つけなきゃ!
ドレスと言えば、馴染みがあるのはウェディングドレスくらいだけど、ストリーマーをしているとゲーム内に出てくる沢山の衣装を見る機会がある。
色んなゲームをクリアした後の雑談配信で、このゲームの衣装であたしに合うのはどれか、みたいな配信をする事があったんだけど、その中でトップクラスに気に入っていた衣装があったんだよね。
「ねぇ、アースラーさん、ペンと紙ってある?」
「? もちろんあるわよ? 何する気?」
「あたしの着たいドレスのイメージを書くから、それに近いものとかがあれば、それが着てみたいの」
あたしがそう言うと、アースラーさんはにんまりと凄みのある笑みを浮かべて、コッコッ、と口を鳴らして指をクルクルと動かした。その合図で店の奥から店員が紙とペンを持って急いで出てくる。
その様子を見ていれば、あぁ、この人は本当にトップデザイナーなんだなぁ、なんて思った。きっと、思いついたデザインをすぐに形に出来るように普段から準備されているのだろう。
「じゃあ描いてみて。一体どんなデザインのドレスが着たいのか、あたちにお・し・え・て?」
ばちこん、と圧のあるウインクをかまし、アースラーさんがあたしを引っ張って、手近な机に案内してくれると、そのまま店員から紙とペンを受け取って、机の上に広げる。
「あたちの可愛い可愛い子供たちの中に、モカっちの伴侶となる子がいたら嬉しいわね〜ん」
色々とリズムを崩されるので、アースラーさんの相手はしないようにしよう。
あたしはペンを手に取り、思い出す。
あれは確か、昔のゲームをフルリメイクにしてフルダイブVRゲームにした作品だ。伝説的なエージェントになって様々なミッションをこなし、最終的には世界的犯罪シンジケートを倒す、というのが大まかな流れなんだけど、そのラスボスの右腕として度々プレイヤーと対峙する美女がいる。
敵だと思っていたら実は味方……ではなく第三国のスパイ、かと思えば実は世界を裏から動かす秘密結社の一員だった、とかいう設定盛り盛りのキャラクターだ。
ファン人気がとにかく凄いんだけど、その理由の1つが登場する度に衣装が変わっているというのがある。しかもその衣装には開発陣の性癖がこれでもかと詰め込まれていて、制服、スーツ、メイド、執事、スク水、ビキニ、浴衣、アオザイ、サンタ、着ぐるみ、修道服、看護師、バニーガール、裸ワイシャツ……とにかく欲望のままに着せたいものを着せた、と言わんばかりのラインナップがあり、さらにDLCで衣装が追加されるとか言う優遇っぷり。
中でも人気が高かったのは、チャイナドレスである。
普通のチャイナドレスとは違って、トップスとスカートで上下に別れているタイプで、しかもスカート部はショートとロングの2パターンが用意されていた。しかもチャイナドレスの特徴であるスリットも下のスカート部分で表現されていて、そこからチラッと見える足にも素足と編みタイツの2パターンが用意されている。
そして印象的なのは、まるで雲をそのまま使ったかのようにふわふわなファーショールだろうか。
全体的な配色は黒と赤、所々に金があって、少しばかり悪役チックなイメージが先立ちそうなものだが、このファーショールのおかげで高貴な令嬢然とするのだから不思議なものだ。
開発者のインタビュー記事で見た三面図と、ゲームの映像を思い出しながら、キャンパスにその衣装を描き進めていると、あたしの横で真剣な表情のアースラーさんが深い溜息を吐いた。
祝・100話!
みなさんのおかげで100話目です!
これからもモカちゃんの物語は続いていきますので、楽しみにしていてください!
とりあえず、俺はモカのチャイナ服が見てみたい!
君は何が見たい!?




